デバフ婆ちゃんのお通りです

古里唯一

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ポムニット工房、人材募集始めました

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 提案したいことがあると、ヘイスから言われるなど想像もしていなかった。
一体どんな提案がくるというのだ…無理難題でなければ良いんだけど…。

「俺が提案したいのは2つです
1つ、ミール皿作成だけにこだわらず、鍛冶師を目指したいという若者を育成したい
簡単に言えば弟子になってくれる人材がほしいということです
2つ、ミール皿にうちの商品であるというマークを刻印させてほしい」

 ヘイスから提案された2つのことに目が点になった。

「シオンやリオンには自分がやりたいことをやってほしい
無理にこの工房を継がせるのは本望ではないので
雇用を機会にもう一度弟子を取り、剣の作り方やミール皿の作り方
色々なことを教えていきたいと思いまして…。
ミール皿にうちの商品であるというマークを刻印したいというのは
少しでもうちの工房が復活の兆しにあるとアピールしたいというか…
完全に私利私欲なことで…」

「不覚!!」

 唐突な私の叫びに双子がビクッ、ヘイスが瞬きして固まる。
驚かせてすまんと思ってる。そして本当に今まですまんと思ってる。

 そうだよ!なんで思いつかなかったんだよ私の大馬鹿者!
このミール皿はヘイスの英知の結晶といっても過言ではないほどの作品!
それをこの異世界でブランド化させないとか頭にボウフラ湧いてんにもほどがある!

「ブランド化だよブランド化!
ポムニット工房が作ってますよこれ!な印を入れることで
高品質と信用性を持たせて価値を上げなくてどうすんのよ!」

「そんな大層なものでは…」

「あるわ!あるんだわよ!
このミール皿を使って新商品を作りたい!起業したいと思う人がいたとして
"どこで作ってるのかわからない"より"ここで作ってます"ってのがわかった方が
大量発注に繋がるかもしれないでしょ!
起業した人の商品が爆売れしたら一躍ブランド名も知れ渡る!」

「(冒険者が溢れ返ってる分、噂が広まるのは早いからね!
ヘイスさんの腕の良さも伝わりやすいよ!)」

 そうだとも!
なにをおいてもそこを優先させるべきだったんだよ!
ヘイスの腕は良い!ヘイスの作る作品はどれも一流!
なまくら?オワコン?そんなもん役人が昔勝手に評価しただけだろ!
今を見ろ今。今現在NOW!そこを見せて回るべきだったんだよ…!

 知力補正してても考えをめぐらさなければ意味がない…。
持っているだけでは装備したことにならんのじゃ!
と、言ってる天の声のセリフに大いに共感した今日この頃――。

「刻印デザイン、どんなの考えてる?」

「簡素に “P” と鍛造ハンマーの意匠を──」

「却下。一瞬で量産模倣される…と言っても
複雑なものだと彫るのも大変か…」

「そうですね…ですがアキラさんの言うように
模倣されては困りますね…」

「もうシンプルにヘイス・ポムニットって意味で
HPで良いんじゃないかね?」

 羊皮紙にサラッとHPを書き記すと、ヘイスは何故か目を見開いていた。
それは近くで様子を見ていたフィルギャも同じだった。

「アキラさん…この独特な文字は…?」

「へ?普通にHPって書いただけなんだけど?」

「この文字は東の国…いや、北か南か西の国で使われているのでしょうか?」

 え……もしかして私の字、汚過ぎて読めない?
いつも丁寧に書いてるし、字のことで文句言われたりはしてないんだけど――あ。

「そうか。筆記体これだからか」

 今の若い子たちは筆記体習わないもんね。
私は祖父母が筆記体世代だし、ギリギリ教わってた世代だから書けるんだけどね。
 しかしこれは好機!この筆記体で書かれた文字をヘイスがマスターできれば唯一無二のロゴになるぞ!

「よしヘイス!この刻印を刻めるように練習してくれ!
複雑化させるならHayes.P!単調化ならH.Pで!
名前の後ろにハンマーのマーク入れても良いね!
そこはヘイスのやりたいようにしてくれて構わないよ!」

「わ、わかりました!
まずはこの独特な文字を刻めるようにします」

 異世界人にとっては独特な文字なんだなぁ…。
まあ、日本人にとっても異国の文字を目にした時は独特な文字だったに違いない。
それは逆もまた然りだ。

「商業ギルドに掲示してもらう
弟子求人案内の文面も決めちゃおうか」

「はい。お任せしても?」

 求人案内とか出したことないから文面どんなのにするか悩むが……現代風に書かせていただこう。

――ポムニット鍛冶工房 見習い、従業員募集――
鍛冶師として本気で腕を磨きたい人…2、3名。
製造仕上げ研磨作業員…2、3名。

業務内容:ミール皿製造、仕上げ研磨。
就業時間:週5日。1日6時間(うち休憩1)。完全週休2日制(土日)。
給与:時給-盾コイン8枚(試用期間1週-盾コイン6枚)/月末一括支給。
皆勤+勤務態度+品質評価で剣コインボーナス有り。
誓約:工房外での型持ち出し禁止(違反は麻痺呪い発動)。将来的に武器鍛造工程指導有り。
日払い希望者・短期冷やかし不可。
応募:商業ギルドで受付後、工房にて簡易面談。

「こんな感じでどうかな?」

「…“麻痺呪い”って正直に書くんですね」

「そりゃ正直に書いておかないと…
あとで聞いてないとか文句言われても困るし
試用期間中は勤務態度や仕事の丁寧さを見て
こちらでも採用するかどうかのチェックをしていこうね
弟子やミール皿製造については主にヘイスが見るとして
ミール皿の仕上げ工程を任せる人は私がチェックしても良いかな?」

 図々しくも私がそう言えば、ヘイスは嫌な顔一つせず頷いた。

「ミール皿の仕上げについてはアキラさんが指導した方が良いでしょう
実際に手にしてアクセサリーを作るのはアキラさんですから」

 無条件の信頼とも呼ぶべきヘイスの信頼に、なるべく答えよう。
私ができる範囲でな!そう思った今日この頃――パート2。



 ヘイスとの話し合いを終え、私は羊皮紙を手に商業ギルドへ向かっていた。
 求人案内を出すなんて、人生初の経験だ。しかも“麻痺呪い”なんて物騒な文言が並ぶ雇用契約書を持ち込むのだ。タルディちゃんがどんな顔をするか想像すると、ちょっと笑える。

「(この求人案内タルディちゃんに出したらきっと
何考えてるんですか!?って顔するんだろうな~)」

「(タルディちゃん胃痛に悩まされないといいね)」

 フィルギャと念話をしながら、少し軽い足取りでギルドの扉を開けると、タルディちゃんはすぐこちらに気づいたようで、可愛らしい笑顔を向けてきた。

「アキラさん!いらっしゃいませ
今日は納品ですか?」

「いや、今日は……求人案内のお願いに来たのさ」

「きゅ、求人……?
アキラさんが誰か雇うんですか?」

「まあね」

 羊皮紙を差し出すと、タルディちゃんの目がみるみる丸くなる。読み進めるにつれ、眉がピクリと動き、最後には目をぱちぱち瞬かせていた。

「“麻痺呪い発動”……え、これ本気ですか!?」

「本気本気。ヘイスが作った型を
勝手に持ち出されるわけにはいかないだろう?
工房の信用にも関わるからね。嘘は書けないよ」

「うーん……確かにーー
けどこれ、人集まりますかね?」

「来ればラッキーな気持ちでいるよ」

 にやりと笑う私に、タルディちゃんは苦笑を浮かべつつ、求人案内を丁寧に掲示板へ貼りに行った。

 タルディちゃんが求人案内を掲示板に貼るや否や、周囲にいた冒険者たちが「なんだこれ?」と群がってきていた。

 ギルド内に貼られる依頼書は大抵が無難な文面だ。それに比べ、この求人案内のインパクトは強烈だったのだろう。
なにせ麻痺呪い有りだからね…。

「週休二日制?なんだそれ?」

「時給制ってのは……働いた時間分だけもらえるってことか?
月末払い?そんなの聞いたことねえ!」

「“麻痺呪い”……おいこれ、本当にかかるのか?」

 うん。冒険者の反応を見てるだけでもう笑えてくる。そして不安になってくる。

 掲示板の周囲がざわついているのを窓際の長椅子に腰掛け一休みしていると、入口が開かれ小さな声が聞こえてきた。

「タルディお姉ちゃん!これ、持ってきた!」

 振り向けば、シオンとリオン、そして近所の子供たちと思わしきちびっ子たちがぞろぞろと入ってきていた。

「いらっしゃいませ
依頼品の納品ですね」

 タルディちゃんの言葉に頷き返事をするちびっ子たち。最初商業ギルドを訪れた時よりも人が少しは増え、多少なりとも賑やかになってきた光景を見ると頑張った自分と褒めたくなる。

 しかしこれは始まったばかりだ。
もっと循環させるためにも良い人材を見つけたい!

「わあ。すごい!」

 タルディちゃんの弾む声になんだと受付の方に目を向けると、はたっとタルディちゃんと目が合った。

「アキラさん!見てください!
みんながすごいの見つけて来てくれましたよ!」

「(すごいのってなんだろ?)」

「(化石とか?)」

 長椅子から立ち上がり受付の方に足を進めた。
双子は大きく手を振っていたが、面識のないちびっ子たちは誰?と首を傾げていた。

「見てください!」

 どれどれとちびっ子たちが持って来た籠の中を覗き込めば、四葉のクローバーや、きれいな羽根、珍しい色の小花が並んでいた。

「四葉のクローバーがこんなにある…だと…!?」

 驚くべきことにちびっ子たちが持って来た四葉のクローバーは6本!群生地でも見つけたのかと聞いてみたくなった。
それを一つ一つ確認しながら、確認のためちびっ子たちに声をかけた。

「この四葉のクローバー
探すの大変だったんじゃない?
それにこの小花も…どこまで行って見つけてきたの?」

 そう聞けば6人のちびっ子たちは私を取り囲み、内緒話の体勢をとった。

「あのね。11区画奥の教会」

「私たち毎日教会にお花つみに行くの」

「今日行ったら、たくさん四葉のクローバーあった」

「俺たちみんなで1本ずつ取って
あと羽根と花つんできた!」

「綺麗な鳥さんもいたんだよ」

「青い鳥さん!」

 6人とも分担しての説明をありがとう。
なるほど……理解したぜ。これ即ちドリュアスちゃんの仕業である。
 どうせあの子のことだから植物に働きかけて四葉のクローバー量産させたり、枯れ草に花を咲かせましょうしたんだろうな~……。
 good job!今度魅了が上がるピアスを作ってあげるからね。この調子で珍しい植物いっぱい生やしてくれたまえ。

「タルディちゃん
6人に剣コイン1枚ずつ渡してあげて」

「え!そんなに貰えるの!?」

「今回は特別ね
ただし、無駄遣いするんじゃないよ?
これだ!って思うものに使うようにね」

「やったー!剣コインだ!」

 子供たちが歓声を上げる。その様子は、私がガチャでレアを引き当てた時のあのテンションにそっくりーーいや、私かなりハイテンションで歓声に似た悲鳴上げてるな。

「素材を持ってきてくれたお礼にこれもあげるよ」

 肩掛けカバンの中から取り出しますは、完成したばかりのマクラメ編みペンダントホルダー。

「なにこれ?」

「ギルド証を首から下げられるペンダントホルダーさ
ポケットやバッグに入れるより失くしにくいでしょ?」

「すごーい!」

「どうやって入れるの!?」

 無邪気に笑うちびっ子たちを見て、タルディちゃんはゴクッと息を飲み込んでいた。
そんなタルディちゃんとバチっと目が合う。

「(ふっ…気づいたようだねタルディちゃん)」

「(もちろん気づきましたともアキラさん…!
これ…商業ギルドに卸していただけるんですか!?)」

「(欲しいんじゃろ?
これが欲しいんじゃろ?)」

「(欲しいです!是非商業ギルドに!)」

「(良かろう)」

 視線会話終了。ちびっ子たちにネックレスホルダーへの入れ方を教えてあげ、首にかけさせてみた。
後ろのストッパーで長さ調整できるようにしといたからお好みの長さでどうぞ。

「かっこいい!」

「私たち冒険者になったみたい!」

「おばあちゃんありがとう!」

「ありがとう!」

 良いってことよ。と呟く私の裏の顔は誰にもわかるまい。
そう…ちびっ子たちに最初にあげたこれは餌なのだ。
金を落としてくれる冒険者や大人を釣るためのな…。

「(…くくくっ…善意で渡したと思ったら大間違い
私は利にならないことはしない主義なのさ
精々ネックレスホルダーを見せびらかし
広告塔になってくれちびっ子たち!)」

「(……アキラって素直じゃないよね~)」
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