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第1章
3節 光明
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私は遠目に大男の様子を窺う。完全に気絶しているが、一応生きてはいるようだ。
下手をすると首から上が飛んでいったのではないか、と思うほどの衝撃だったので、無事(ではないかもしれないが)だったことにホっとする。
ちなみに、その一撃を放った当の本人は……どことなく一仕事終えたような表情で、爽やかに微笑んでいた。
「はふぅ……すっきりした」
「『すっきりした』……じゃねーよ! なに盛大にブッ飛ばしてんだ!」
「オレらが我慢してたのが台なしじゃねーか!」
結局巻き込まれた周囲の客が、口々に女性に文句をぶつける。中には料理の皿や中身の入った杯を持ったまま抗議している人もいた。
そういえば、壊れたテーブルの付近に料理や食器は落ちていなかった気がする。いつの間にかそれらを手に各自避難していたらしい。さすが腕利きの冒険者、と変な所で感心する。
「いやー、うちを壊すとか言うから、ついカっとなって」
「だからってお前が壊してどうする!?」
「店は壊してないよ。テーブルとイスだけだよ」
「店の備品だろうが!?」
彼女は次々浴びせられる指摘にも大して動じず、柔らかく笑って弁明(?)するだけだった。
そんなやり取りを見ながら、けれど私の頭に浮かんでいたのは、数秒前の彼女の躍動だ。
相手に気取らせない自然な動き。
一撃で的確に急所を打つ技術。
そして目で追えない(少なくとも私には)ほど素早く、あの巨体を軽々と吹き飛ばしてしまう、凄まじい威力の足技。
私でも、この一部始終を見ただけで分かる。
あの女性が、並みの戦士とは比較にならない、卓越した技量の持ち主だということを。
あるいはそれは、この場に居合わせる冒険者たちの誰よりも――
「(――彼女なら……!)」
目の前で繰り広げられた一連の鮮烈さは、迷い悩む私に対して差し出された、一筋の光明のようにさえ思えた。
倒された大男のほうは、ちょっと気の毒な気がしたけれど……
「ろくな目に合わなかったろう」
「わっ!?」
背後から急に聞こえたその声に、小さく飛び上がる。
声の主は、それまで静観していたお店のマスターだった。
「腕はいいが揉め事が絶えなくてな。大抵一人で仕事をしている」
マスターの簡潔な紹介は、私から彼女への熱視線を察してだろうか。
揉め事が絶えないというのは気になるが、今はそれを越える興味に惹かれている。それに誰とも組まずに行動してるのなら、私にとってはむしろ好都合だ。
説明は今ので終わりらしい。彼は次いで、彼女に向かって声をかける。
「修理代はお前の稼ぎから引かせてもらう」
「えー……わたし、一応うちを守ったつもりなんだけど。最初に暴れようとしてた人から貰えばいいでしょ?」
「そのうえで払えと言ってる」
どうやら、倒れた大男からもしっかり徴収するつもりだったようだ。
「がめつい」
「誰のせいだ?」
お互いに、少し呆れたように文句を言い合う二人。
けれど、なぜだろう。それでも、仲が悪いようには見えなかった。
「まあいいや。なんか疲れたし、もう寝る」
「さっきまで寝てただろう」
「途中で起こされて消化不良。だから寝直してくるね。おやすみ、とーさん」
とーさん…………お父さん? ――親子?
ああ、だからお互いに遠慮がなくて、仲が良いように見えたのかな……でも、親子にしては年齢が……?
そんなことをぼんやり考えているうちに、女性は既に広間の奥にある階段を昇り、上階へ姿を消してしまう寸前だった。
「! 待ってください!」
私は半ば反射的に駆けだしていた。
あれだけの実力を持ち、一人で行動していて、しかも同性(異性と旅を共にするのはまだ抵抗があった)。少なくとも現状、彼女以上の適任はいないように思える。
先刻の衝撃に突き動かされた私は、その勢いに押されるように彼女を追いかけ、階段を駆け上がった。
下手をすると首から上が飛んでいったのではないか、と思うほどの衝撃だったので、無事(ではないかもしれないが)だったことにホっとする。
ちなみに、その一撃を放った当の本人は……どことなく一仕事終えたような表情で、爽やかに微笑んでいた。
「はふぅ……すっきりした」
「『すっきりした』……じゃねーよ! なに盛大にブッ飛ばしてんだ!」
「オレらが我慢してたのが台なしじゃねーか!」
結局巻き込まれた周囲の客が、口々に女性に文句をぶつける。中には料理の皿や中身の入った杯を持ったまま抗議している人もいた。
そういえば、壊れたテーブルの付近に料理や食器は落ちていなかった気がする。いつの間にかそれらを手に各自避難していたらしい。さすが腕利きの冒険者、と変な所で感心する。
「いやー、うちを壊すとか言うから、ついカっとなって」
「だからってお前が壊してどうする!?」
「店は壊してないよ。テーブルとイスだけだよ」
「店の備品だろうが!?」
彼女は次々浴びせられる指摘にも大して動じず、柔らかく笑って弁明(?)するだけだった。
そんなやり取りを見ながら、けれど私の頭に浮かんでいたのは、数秒前の彼女の躍動だ。
相手に気取らせない自然な動き。
一撃で的確に急所を打つ技術。
そして目で追えない(少なくとも私には)ほど素早く、あの巨体を軽々と吹き飛ばしてしまう、凄まじい威力の足技。
私でも、この一部始終を見ただけで分かる。
あの女性が、並みの戦士とは比較にならない、卓越した技量の持ち主だということを。
あるいはそれは、この場に居合わせる冒険者たちの誰よりも――
「(――彼女なら……!)」
目の前で繰り広げられた一連の鮮烈さは、迷い悩む私に対して差し出された、一筋の光明のようにさえ思えた。
倒された大男のほうは、ちょっと気の毒な気がしたけれど……
「ろくな目に合わなかったろう」
「わっ!?」
背後から急に聞こえたその声に、小さく飛び上がる。
声の主は、それまで静観していたお店のマスターだった。
「腕はいいが揉め事が絶えなくてな。大抵一人で仕事をしている」
マスターの簡潔な紹介は、私から彼女への熱視線を察してだろうか。
揉め事が絶えないというのは気になるが、今はそれを越える興味に惹かれている。それに誰とも組まずに行動してるのなら、私にとってはむしろ好都合だ。
説明は今ので終わりらしい。彼は次いで、彼女に向かって声をかける。
「修理代はお前の稼ぎから引かせてもらう」
「えー……わたし、一応うちを守ったつもりなんだけど。最初に暴れようとしてた人から貰えばいいでしょ?」
「そのうえで払えと言ってる」
どうやら、倒れた大男からもしっかり徴収するつもりだったようだ。
「がめつい」
「誰のせいだ?」
お互いに、少し呆れたように文句を言い合う二人。
けれど、なぜだろう。それでも、仲が悪いようには見えなかった。
「まあいいや。なんか疲れたし、もう寝る」
「さっきまで寝てただろう」
「途中で起こされて消化不良。だから寝直してくるね。おやすみ、とーさん」
とーさん…………お父さん? ――親子?
ああ、だからお互いに遠慮がなくて、仲が良いように見えたのかな……でも、親子にしては年齢が……?
そんなことをぼんやり考えているうちに、女性は既に広間の奥にある階段を昇り、上階へ姿を消してしまう寸前だった。
「! 待ってください!」
私は半ば反射的に駆けだしていた。
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先刻の衝撃に突き動かされた私は、その勢いに押されるように彼女を追いかけ、階段を駆け上がった。
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