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第1章
21節 アレニエの依頼①
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「アレニエさん!? なに考えてるんですか!?」
勇者の旅を妨害するなんて、そんなことをすればどれだけの罪に問われるか……!
「いや、妨害って言っても足止めくらいのつもりだよ? 急いでるのにこの人たちのせいで出発遅れたんだし、ちょっとくらい時間稼いでもらおうかと思って。あんまり遅れるとマズいでしょ?」
「それは……そうなんですが……」
彼女の言い分も分からなくないが、さすがに方法が乱暴すぎる気が……
そして当然ながら、男たちからも非難の声が上がる。
「ふざけんな!? できるかそんなこと!」
「よりにもよって勇者の旅を妨害しろだと!?」
「下手すりゃ極刑だぞ!」
彼らの反駁はもっともだと思う。
改めて言うが、勇者が魔王を討ち取れなければ、増え続ける魔物にいずれ世界中が呑み込まれてしまう。
魔王討伐の旅は世界中の人々の希望であり、それを妨害するというのは極端な話、人類全体への背信行為と取られる可能性さえある。
「ふむ……意図を聞かせてもらえるか?」
突拍子もない提案を冷静に問い質してきたのは、フードの男だった。
アレニエさんはそれに一つ頷き、説明を始める。
「実は……勇者の命が狙われてる――……かもしれない、って情報があってね」
「――!?」
アレニエさん、その話は……!
焦る私に、彼女はわずかに目配せしてから説明を続ける。
「犯人は、勇者がやって来るのを待ち伏せして襲うつもりだとかなんとか。わたしたちは実際その現場に向かって真偽を確認、本当に犯人がいたら撃退。っていう依頼を受けて、現地に向かうところだったんだけど……」
情報が真実だった場合の最悪は、もちろん勇者の死だ。
それを阻止する依頼を受けた私たちが、勇者一行に先んじるため足早に王都を出立……した直後、目の前の彼らに襲撃され、足を止められた。
だから責任を取れ。遅れをカバーするために今度は貴方たちが勇者の足止めをしろ。具体的には騒ぎを起こして注目を引け。要約すると、そういう話だった。
待ち伏せしているのが魔族だと明かさないのは、「なにを根拠に?」、と追及されないためだろう。情報源を求められれば〈流視〉についても話さざるを得なくなる。一応、肝心な所はぼかしてくれている。
それでも私はハラハラしながら成り行きを見守っていた。怪しまれて踏み込んだ質問をされた場合、どう答えれば――
「勇者の命を狙う者か。無い話ではないな」
無い話ではないんですか。
「〈選定の儀〉の結果に不満を抱き、守護者、あるいは勇者本人に刺客を差し向ける貴族などもいるらしい。大方その類だろう。勇者は半ば政争の道具にされているそうだからな」
「多分そんなとこ。まあ、実際行って確かめてみないとなんだけど」
当代の勇者が死した場合、神剣が次の使い手を選び出す……という話は、ごく少数ではあるが(もちろん少ないに越したことはないのだが)、記録に残されていた。
ただしそれが見つかるまでの間、人々は神剣を欠いた状態で魔物の侵略に耐えなければならない。前回――と言っても数百年前だが――勇者を失った際には、先述の通りこの国の王都も戦火に飲まれ、生きた聖典である神官にまで犠牲が出ている。
にもかかわらず、目先の欲望で自らの息のかかった勇者を擁立しようとする者も、少なくないのだと。
「なるほど。急いでいるのはそういう訳か」
「そ。少なくとも、勇者よりは先に現場に行かなきゃいけないからね」
特に怪しまれる様子もなく自然に受け答えするアレニエさん。なんですかその演技力。
「勇者の滞在場所付近で騒ぎを起こす……つまり、困っている民草を見過ごせないだろう良心を逆手にとるわけだな?」
「そうそう。誰かが困ってるって噂を聞けば、多分事態を解決するために動くと思うんだよね。〝善良な勇者さま〟なら」
つまり、「助けなければ善良ではない」と言っているのだ、彼女らは(そしてそれは、最善の女神の剣としては由々しき評価になってしまう)。
「フっ……なかなか悪知恵が働くな」
「ふふ、あくまで依頼の、人助けのためだよ?」
「ほう、人助け。そうだな。ああ。なにも間違っていない」
「そうだよー。なんにもやましいことなんてないよ」
「クックック……」
「ふふふふ」
……あの、アレニエさん。演技、ですよね? なんだかいつもの笑顔にものすごい裏があるように見えてきたんですが……
しかし今の説明だけでは納得がいかなかったのか、他の男たちはなおも彼女に不満をぶつける。
「そんなあやふやな情報だけで危ねぇ橋渡らせようってのか!?」
「そもそもどこから聞いた話だよ!」
「出処なんて知らないよ? わたしたち、依頼を受けただけだし」
「裏ぐらい取っとけ!」
それ、私も貴方たちに対して思いましたが。
とはいえ、発言自体は正論だと思う。確証もなしに危険を冒すのは難しい。確証があっても難しい。
が……
「やってくれるならさっきの報酬に加えて、一人金貨一枚あげるよ。こっちは成功報酬ね」
「「「……!?」」」
彼女が提示した追加の報酬額に、男たちの目の色が変わる。
「わたしたちが無事に依頼を達成できたら、あなたたちにも今言った金額を払うよ。あ、口止め料も込みってことで、よろしく。勇者が先に来ちゃった場合は、依頼は失敗ってことで、報酬は無しね」
「ほほう、内容の割には破格だな」
「前金だけでも結構貰ったからね。あと、それだけ急いでるって思ってくれていいよ」
実際、捕まれば極刑の可能性もあるとはいえ、別に勇者自身を襲えというわけではない。騒ぎを起こして足止めできればいいのだし、その後は勇者が現れる前に逃げてしまえばいい。確かに、難度に比べれば報酬は破格だ。
「あー……」
「えーと……」
途端に語調に迷いが生じる男たち。分かりやすいほど現金だ。
「ほ、本当に、足止めするだけでそんなに貰えるのか?」
「うん。まあ成功報酬に関しては、わたしたちが無事に帰れたら、だけどね。もし帰って来れなかったら、そっちは諦めてもらうしかないかな」
「「「…………」」」
男たちは黙考している。報酬と、それに付随するリスクとの間で揺れているのだろう。
「よし、受けよう」
真っ先に声を上げたのは、当初から興味を示していたフードの男だった。
「オレはどのみち受けるつもりだったのでな。そのうえ追加の報酬まであるなら、断る理由も特にない」
「俺もやるぜ。この怪我が治るまでは退屈だからな」
続いて賛同の意を示したのはジャイールさんだった。これには私が堪らず抗議する。
「なに言ってるんですか! 激しく体を動かさないようにって言ったでしょう!」
「心配すんなよ嬢ちゃん。無理はしねえさ。仮に戦うことになっても、冒険出たてのひよっこの相手なんざ、激しい運動のうちに入らねえよ」
「戦い自体控えてください!」
たしなめてはみたものの、それを素直に聞く気は欠片もなさそうだった。さっきは少し関心させられたけど、この人ただ戦うのが好きなだけなんじゃ……
迷っていた他の面々にとって、彼らの言葉は渡りに船だ。
結局、全員がアレニエさんの依頼を受諾し、縄を解かれて自由の身となる。
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「いや、妨害って言っても足止めくらいのつもりだよ? 急いでるのにこの人たちのせいで出発遅れたんだし、ちょっとくらい時間稼いでもらおうかと思って。あんまり遅れるとマズいでしょ?」
「それは……そうなんですが……」
彼女の言い分も分からなくないが、さすがに方法が乱暴すぎる気が……
そして当然ながら、男たちからも非難の声が上がる。
「ふざけんな!? できるかそんなこと!」
「よりにもよって勇者の旅を妨害しろだと!?」
「下手すりゃ極刑だぞ!」
彼らの反駁はもっともだと思う。
改めて言うが、勇者が魔王を討ち取れなければ、増え続ける魔物にいずれ世界中が呑み込まれてしまう。
魔王討伐の旅は世界中の人々の希望であり、それを妨害するというのは極端な話、人類全体への背信行為と取られる可能性さえある。
「ふむ……意図を聞かせてもらえるか?」
突拍子もない提案を冷静に問い質してきたのは、フードの男だった。
アレニエさんはそれに一つ頷き、説明を始める。
「実は……勇者の命が狙われてる――……かもしれない、って情報があってね」
「――!?」
アレニエさん、その話は……!
焦る私に、彼女はわずかに目配せしてから説明を続ける。
「犯人は、勇者がやって来るのを待ち伏せして襲うつもりだとかなんとか。わたしたちは実際その現場に向かって真偽を確認、本当に犯人がいたら撃退。っていう依頼を受けて、現地に向かうところだったんだけど……」
情報が真実だった場合の最悪は、もちろん勇者の死だ。
それを阻止する依頼を受けた私たちが、勇者一行に先んじるため足早に王都を出立……した直後、目の前の彼らに襲撃され、足を止められた。
だから責任を取れ。遅れをカバーするために今度は貴方たちが勇者の足止めをしろ。具体的には騒ぎを起こして注目を引け。要約すると、そういう話だった。
待ち伏せしているのが魔族だと明かさないのは、「なにを根拠に?」、と追及されないためだろう。情報源を求められれば〈流視〉についても話さざるを得なくなる。一応、肝心な所はぼかしてくれている。
それでも私はハラハラしながら成り行きを見守っていた。怪しまれて踏み込んだ質問をされた場合、どう答えれば――
「勇者の命を狙う者か。無い話ではないな」
無い話ではないんですか。
「〈選定の儀〉の結果に不満を抱き、守護者、あるいは勇者本人に刺客を差し向ける貴族などもいるらしい。大方その類だろう。勇者は半ば政争の道具にされているそうだからな」
「多分そんなとこ。まあ、実際行って確かめてみないとなんだけど」
当代の勇者が死した場合、神剣が次の使い手を選び出す……という話は、ごく少数ではあるが(もちろん少ないに越したことはないのだが)、記録に残されていた。
ただしそれが見つかるまでの間、人々は神剣を欠いた状態で魔物の侵略に耐えなければならない。前回――と言っても数百年前だが――勇者を失った際には、先述の通りこの国の王都も戦火に飲まれ、生きた聖典である神官にまで犠牲が出ている。
にもかかわらず、目先の欲望で自らの息のかかった勇者を擁立しようとする者も、少なくないのだと。
「なるほど。急いでいるのはそういう訳か」
「そ。少なくとも、勇者よりは先に現場に行かなきゃいけないからね」
特に怪しまれる様子もなく自然に受け答えするアレニエさん。なんですかその演技力。
「勇者の滞在場所付近で騒ぎを起こす……つまり、困っている民草を見過ごせないだろう良心を逆手にとるわけだな?」
「そうそう。誰かが困ってるって噂を聞けば、多分事態を解決するために動くと思うんだよね。〝善良な勇者さま〟なら」
つまり、「助けなければ善良ではない」と言っているのだ、彼女らは(そしてそれは、最善の女神の剣としては由々しき評価になってしまう)。
「フっ……なかなか悪知恵が働くな」
「ふふ、あくまで依頼の、人助けのためだよ?」
「ほう、人助け。そうだな。ああ。なにも間違っていない」
「そうだよー。なんにもやましいことなんてないよ」
「クックック……」
「ふふふふ」
……あの、アレニエさん。演技、ですよね? なんだかいつもの笑顔にものすごい裏があるように見えてきたんですが……
しかし今の説明だけでは納得がいかなかったのか、他の男たちはなおも彼女に不満をぶつける。
「そんなあやふやな情報だけで危ねぇ橋渡らせようってのか!?」
「そもそもどこから聞いた話だよ!」
「出処なんて知らないよ? わたしたち、依頼を受けただけだし」
「裏ぐらい取っとけ!」
それ、私も貴方たちに対して思いましたが。
とはいえ、発言自体は正論だと思う。確証もなしに危険を冒すのは難しい。確証があっても難しい。
が……
「やってくれるならさっきの報酬に加えて、一人金貨一枚あげるよ。こっちは成功報酬ね」
「「「……!?」」」
彼女が提示した追加の報酬額に、男たちの目の色が変わる。
「わたしたちが無事に依頼を達成できたら、あなたたちにも今言った金額を払うよ。あ、口止め料も込みってことで、よろしく。勇者が先に来ちゃった場合は、依頼は失敗ってことで、報酬は無しね」
「ほほう、内容の割には破格だな」
「前金だけでも結構貰ったからね。あと、それだけ急いでるって思ってくれていいよ」
実際、捕まれば極刑の可能性もあるとはいえ、別に勇者自身を襲えというわけではない。騒ぎを起こして足止めできればいいのだし、その後は勇者が現れる前に逃げてしまえばいい。確かに、難度に比べれば報酬は破格だ。
「あー……」
「えーと……」
途端に語調に迷いが生じる男たち。分かりやすいほど現金だ。
「ほ、本当に、足止めするだけでそんなに貰えるのか?」
「うん。まあ成功報酬に関しては、わたしたちが無事に帰れたら、だけどね。もし帰って来れなかったら、そっちは諦めてもらうしかないかな」
「「「…………」」」
男たちは黙考している。報酬と、それに付随するリスクとの間で揺れているのだろう。
「よし、受けよう」
真っ先に声を上げたのは、当初から興味を示していたフードの男だった。
「オレはどのみち受けるつもりだったのでな。そのうえ追加の報酬まであるなら、断る理由も特にない」
「俺もやるぜ。この怪我が治るまでは退屈だからな」
続いて賛同の意を示したのはジャイールさんだった。これには私が堪らず抗議する。
「なに言ってるんですか! 激しく体を動かさないようにって言ったでしょう!」
「心配すんなよ嬢ちゃん。無理はしねえさ。仮に戦うことになっても、冒険出たてのひよっこの相手なんざ、激しい運動のうちに入らねえよ」
「戦い自体控えてください!」
たしなめてはみたものの、それを素直に聞く気は欠片もなさそうだった。さっきは少し関心させられたけど、この人ただ戦うのが好きなだけなんじゃ……
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