[完結]勇者の旅の裏側で

八月森

文字の大きさ
25 / 144
第1章

幕間2 ある盗賊の受難

しおりを挟む
 下層へトンボ返りした俺は、まずは借りた馬を馬屋に返した(無事に生かして返却したので賃料だけで済んだ)。
 そしてあまり人目は引かないよう静かに、しかし急ぎ足で、〈剣の継承亭〉へ真っ直ぐ向かう。

〈黒腕〉を尾行した際に場所は突き止めていた(そもそもいろんな意味で有名だったが)ため、迷うことはなかった。店まで辿り着き、多少乱暴に扉を開けると、来客を告げる鐘が大きく鳴り響く。

 まだ夕刻前なのもあり、客の入りはまばらだった。幾人か入り口に目を向けるのもいたが、構わず正面のカウンターに向かい、そこに立つ店主と思しき男に声を掛ける。

「あんたが、ここのマスターか」

「ああ」

「あんたに話がある。俺は――」

 以前あんたの娘に痛い目に合わされたので報復しようとしたが返り討ちに遭った男だ――とは言い辛いので、通りすがりに言伝ことづてを頼まれた冒険者という体で話を切り出そうと、懐から例の短剣を――

「……なあ、お前、今朝アレニエと神官の嬢ちゃんを付け回してたっていう北地区のヤツじゃねえか?」

「(――!?)」

 しかしカウンター席に座っていた一人、剣士風の男(この時間から既に杯を片手にしていた)が話を遮り、こちらに問うてくる。

「あぁ、確かに聞いていた風貌に似ておるな。少なくともここいらでは見ない顔だ」

「わざわざ尾行していた相手の家に足を踏み入れるとは、どういうつもりですか?」

 腰に剣を提げたドワーフの男(髭のせいで年齢は分からない)と、手足に防具を填めたエルフの女(こっちはもっと分からない)が、各々静かに退路を塞ぐように近づいてくる。
 周りの客も席を立ちこそしないものの、抜け目なくこちらに視線を寄越していた。俺が不審な動きをすればすぐにでも反応してくるのだろう。

「……」

 目の前の店主はなにも言わない。睨みつけてくるわけでもない。
 しかし全身からほとばしる異様な威圧感が、こちらをこころよく歓迎はしていないことを、雄弁に物語っていた。

「(……なにが『上手くぼかして』だ……もうバレっバレじゃねーか!)」

 下手な嘘は逆効果と即座に悟り(そしてこの空気に耐えられなくなり)、俺は例の短剣をやけくそ気味にカウンターに叩きつけた。

「……あんたの娘からこいつを預かってきた! 話を聞いてくれ……!」

 それが、功を奏したのだろう。
 ひとまず周囲からの追及は止まり、こちらの処遇は先延ばしにされた。
 俺は全てを正直に打ち明けた。結局、「以前痛い目に合わされたので報復しようとしたが返り討ちに遭った」のも話さざるを得なかった。

「……それは済まなかったな」

 意外にも、過去の件については謝罪されてしまった。

「だが、今の話は捨ておけん」

 だよな。
 再び発される威圧感と共に、店主は周囲の客に呼び掛けていく。

「ロイファー。依頼に来た冒険者の特定と、その後の足取りを調べてくれ。通行証はこちらで用意する」

 テーブル席に座っていた男(俺と似たような風体なので同業者かもしれない)が返事をしながら立ち上がる。

「あいよ。マスターからの依頼ってことでいいんだな?」

「ああ。時間が惜しい。報酬の相談は後でする」

「了解」

 次いでマスターは、先刻俺に詰め寄ってきたドワーフとエルフに顔を向ける。

「ライセン。フェリーレ。報復に備えて周囲の警戒を頼む。何もなければそれでいい」

「おう」「分かりました」

「それから――……」

 店主は手際よく店の客連中に指示を出していく。
 受けた指示に多少面倒そうに返す者もいるが、誰も否とは言わない。夕暮れの食事時に弛緩しかんしていた店内の空気が、活気づいていく。

「(うちとは随分違うな……)」

 それをかすかに眩しく感じるのは、あの世間知らずな神官の嬢ちゃんに当てられたせいかもしれない――
 そこで、はたと気づく。と同時に、そろりと背を向ける。――この隙に、逃げられるんじゃないか?

「……それじゃ、俺はこれで……」

 ガっ

 しかし案の定見逃してはもらえず、マスターにカウンター越しに肩を掴まれ、動きを止められる。
 握り潰されそうな握力に加え、腕一本でこちらの重心を巧みに狂わされ、その場から抜け出すことも叶わない。

「――お前にも手伝ってもらう。まずはロイファーと共に〈赤錆びた短剣亭〉での聞き込みだ」

 口調は平坦だが、そこには有無を言わせぬ圧力と、言外に聞こえる声があった。――『娘に手を出した輩をただでは帰さん』。
 それを背後に聞きながら俺は、罪人として騎士団に突き出されるのと、このままここでこき使われるのとでは、どちらがマシなのか。しばし真剣に悩んだ。

 ……親子揃っておっかねーな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界ランドへようこそ

来栖とむ
ファンタジー
都内から車で1時間半。奥多摩の山中に突如現れた、話題の新名所――「奥多摩異世界ランド」。 中世ヨーロッパ風の街並みと、ダンジョンや魔王城を完全再現した異世界体験型レジャーパークだ。 26歳・無職の佐伯雄一は、ここで“冒険者A”のバイトを始める。 勇者を導くNPC役として、剣を振るい、魔物に襲われ、時にはイベントを盛り上げる毎日。 同僚には、美人なギルド受付のサーミャ、エルフの弓使いフラーラ、ポンコツ騎士メリーナなど、魅力的な“登場人物”が勢ぞろい。 ――しかしある日、「魔王が逃げた」という衝撃の知らせが入る。 「体格が似てるから」という理由で、雄一は急遽、魔王役の代役を任されることに。 だが、演技を終えた後、案内された扉の先にあったのは……本物の異世界だった! 経営者は魔族、同僚はガチの魔物。 魔王城で始まる、まさかの「異世界勤務」生活! やがて魔王の後継問題に巻き込まれ、スタンピードも発生(?)の裏で、フラーラとの恋が動き出す――。 笑えて、トキメいて、ちょっと泣ける。 現代×異世界×職場コメディ、開園!

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...