63 / 144
第1章
回想1 平穏と崩壊
しおりを挟む
「――勇者は無事にみんなの元に帰り、大層感謝されました。そして一緒に国を創り、最初の王様になった勇者は、その後も人々を見守りながら平和に暮らしたのでした――」
幼いわたしの耳に、いつものように絵本を読み聞かせてくれるかーさんの声が聞こえる。
わたしと同じくあちこちが跳ねた癖毛に、けれどわたしとは違う緋色の長髪。絵本に向けた穏やかな瞳は、髪と同じ緋色に輝いている。
これは多分、死ぬ前にわたしが見ている夢。わたしが〈剣帝〉に拾われる何年も前の、かーさんと二人で暮らしていた頃の記憶だ。
……って、ずいぶん昔を思い出してるなぁ、わたし。
――――
リメース・リエス。
ルスト・フェル・ゼルトナー。
それが、わたしの両親の名前だった。
リメース――かーさんは、魔具を作成する魔族の職人。その手が生み出す魔具は、人間はもちろん、ドワーフなどが造る物よりも高い品質で、他の魔族はもちろん、実際に被害に遭う人間たちにも噂が広がっていた。
噂を聞きつけた一人が、ルスト――わたしの本当のとーさん。魔具の入手を目的に、魔物領に単身潜入した人間だった(なんか当時はトレジャーハンターとか名乗ってたらしい)。
しかし、他の魔族に侵入の痕跡を発見・追跡されたとーさんは、逃走の末、求めていた当の職人の工房に、そうとは知らず身を隠す。
工房にはもちろん工房主、つまりかーさんがいた。内と外を魔族に挟まれ、進退窮まったとーさんは、それでも最後まで足掻こうと、目の前の女魔族に刃を向けた――
――――
かーさんは、生まれつき『本能が極めて薄い』という、変わり者の魔族だった。
同族間に居場所を見い出せず、領土の僻地で一人、気まぐれに魔具を造るだけの日々を送っていたという。
だからだろうか。自宅に侵入し、今まさに襲い掛からんとしていたとーさんを見ても、かーさんは敵意一つ抱かず歓迎し、むしろ追っ手から匿った。
退屈だった日常の中に突如、それまでは話で聞いたことしかなかった〝人間〟が現れた。かーさんの胸に溢れたのは、希薄だったはずの魔族の本能……などではなく、抑えがたい知的好奇心だった。
生態、思想、社会、文化等々。思いついた疑問を欲求の赴くままとーさんに尋ね、隅々まで調べたと、かーさんは楽しそうに語っていた。今思うと意味深だ。
ちなみに『リエス』という姓は、とーさんの名を聞いたかーさんが興味を持ち、二人で相談してつけたものだそうだ。
(――「ルストフェルゼルトナ? 長い名前だねー」
――「違う。名前はルストだ」
――「? じゃあ、後ろのはなに?」)
魔族は基本的に名前だけで、姓という概念がないらしい。
とーさんのほうも、人間に敵意を抱かない奇妙な魔族と争う気になれず、助けられた恩も無視できず、なし崩し的にかーさんと行動を共にするようになり、その末に結婚した。
と言ってもとーさんは、わたしが物心つく前に、かーさんと――つまり魔族と通じてたとかいう理由で、同族であるはずの人間に罪人として処刑されたらしいが。
だからわたしは、本当のとーさんについてほとんどなにも知らない。知っているのはかーさんから聞いた話と、わたしの髪と瞳の色がとーさん譲りということくらいだ。
その後わたしたちは、とーさんの故郷の村、その外れに建てられた小さな小屋(もしもの時は頼るようにと準備してくれていたらしい)に居を移し、二人で生活していた。
――――
――わぁぁ……すごいねぇ、ゆうしゃ。
「ふふ。アレニエは本当にこの話が好きだよね。もう何回読んだか分かんないよ」
――うん! だってすごいもん、ゆうしゃ。わたしも、おっきくなったらゆうしゃになりたい!
「あー、それ無理なんだよね」
――えぇ! なんで!?
「だって、アレニエは半分魔族だもの。魔族は、勇者になれないよ」
――そんなぁ……ダメなの?
「うん、ダメ。それに勇者になったら、下手したらわたしのことも倒さなきゃいけなくなるよ?」
――なんで……? かーさん、なにもわるいことしてないよ?
「そうだけど、そういうものなの。わたしとルストはどっちも変わり者だったから良かったけど、魔族と人間は普通仲良くなれないからね。……それでも、なりたい?」
――…………かーさんをいじめるくらいなら、ならなくていい……
「……~~~~あぁ、もう! アレニエは可愛いなぁ!」
この後、揉みくちゃにされてキスされまくった。
かーさんはとーさんと結婚するまで、口づけという行為を知らなかった。姓と同じく、魔族にはそういう文化がなかったらしい。
だから恋仲になった当時、今まさに自分に口づけようとしていた相手にかーさんは、あろうことか正面から疑問をぶつけた。
(――「なんで口と口をつけるの?」
――「…………~~てめぇに〝好きだ〟って分からせるためだこの野郎!」)
顔を真っ赤にしながらとーさんが教えたそれを(そして恥ずかしがるとーさんの姿を)、かーさんはいたく気に入ったらしく、わたしに対しても事あるごとにしてくれる。
後に、村の友達のユーニちゃんに、「普通は大人の男女でするもの」と言われて驚いた覚えがあるが。
けれど、いつもそうやって好きを伝えてくれるかーさんが、わたしは大好きだった。
狭い村の、さらに外れで、人目を避けながら暮らしていても、この頃のわたしは、確かに幸せだった。
***
「――……そんなに、泣かないで、アレニエ……わたし、これでも十分、楽しかったんだから……」
これは…………かーさんが、死んだ日の記憶だ。
魔族でありながら敵対する人間と添い遂げ、失踪したかーさんは、同じ魔族から恥知らずの裏切り者として追われていた。
かーさんの造る魔具が人間側に流出するという危惧も、執拗に狙われる要因だったのだろう。
そしてとうとう、追っ手に発見された。
例のアスタリアの結界からは離れた土地だったのか(幼少時のわたしは、住んでいたのが地図上のどのあたりなのかも知らなかった)。あるいは、穢れの少ない魔族ばかりだったのか。
追っ手は結界に反発されることなく人間の領土に侵入し、わたしたちの住み処を襲った。
彼らにとっては唾棄すべき人間混じり。しかも戦う力もないわたしは、真っ先に標的にされたが……
(魔族としては)力の弱いかーさんは、それでも自身で造り出した魔具を駆使し、わたしを護りながら、追っ手を全滅させた。
――かーさんの命と、引き換えに。
――――
「……ずっと、ずっと、つまらないまま生きてきたわたしが、ルストに会って、人間のこと勉強して、結婚して、アレニエみたいな可愛い子供まで生まれて……しかも最期に、そのアレニエを護って、死ねるんだから。……すごく、すごく、楽しかった。ルストが言ってた〝幸せ〟って、こういう感じ、なのかな……」
――かー、さん……やだ、よ……しなない、で……
「……あー、でも……アレニエはこれから、もっと、もっと、成長するんだよね。それを見れないのは、ちょっと、残念、かな……」
――そう、そうだよ……わたし、もっと……これから、おっきく……だから……
「……これから、アレニエ一人で生きていくのは、大変、だと思う。多分、魔族も、人間も、半魔のアレニエを助けて、くれない……でも、アレニエには、〈クルィーク〉がついてる。それに中には、わたしやルストみたいな、変わり者、はみ出し者も、いるかもしれない……」
――かー……さん…………
「アレニエが、そんな誰かに出会えることを、願ってる。……笑って生きていけることを、願ってる」
***
埋葬(かーさんや追っ手の穢れは〈クルィーク〉が食べてくれた)を済ませ、護身用の短剣だけ持ち出したわたしは、村に助けを求めた。一人では、どう生きていけばいいのかも分からなかった。
この手で土に埋めても、まだかーさんが死んだことを呑み込めなかった。地に足のつかぬまま、それでもなんとか歩を進め、ようやく村に辿り着く。けれど……
そこでわたしに向けられたものは、恐怖、嫌悪、侮蔑、憎悪……様々な負の感情が混濁した住人たちの冷たい視線と、拒絶の言葉だけだった。
村の誰かが、かーさんと追っ手の戦いを目撃していたらしい。
かーさんが魔族であること、そして娘のわたしが半魔であることまで、すでに村中に知れ渡っていた。
……その目が、怖かった。
浴びせられる視線に身がすくんだ。
気持ち悪さに吐き気を催した。
そしてわたしは、自身に突き刺さる視線の雨の中に、つい先日にも遊んだばかりの友達が混じっているのを、見つけてしまう。
――……! ユーニちゃん……!
(びくっ……)
――ユーニ、ちゃん……?
「…………」
――……なん、で……なんで、ユーニちゃんまで、わたしをそんな目で見るの……? ……!
わたしは耐えきれなくなり、そのまま村を飛び出した。
……今思えば、仕方がなかったのかもしれない。
おそらく彼女は周囲の大人に、わたしが穢らわしい半魔だと、もう関わらないようにと、厳しく言い含められたのだろう。
幼い彼女が混乱し、怯えた瞳を向けてきたこと。それを責めるのは、筋違いかもしれない。
けれどその頃のわたしにとって、彼女からの拒絶は…………端的に言えば、絶望、だった。
同時に、思い知らされた。
この世界で半魔として生きることの現実。かーさんの危惧を。
たとえどれだけ表面を取り繕っても、一度でも正体を知られてしまえば、途端にあの目を向けられる。
魔族はもちろん、人間にも隠さなきゃいけない。
誰も信用できない。誰にも心を許せない。
***
なんの知識も技術も持たず一人で生き延びられたのは、左手の篭手、〈クルィーク〉のおかげだった。
半身から湧き出す穢れを常に食べ、それを体力や治癒力に換えてくれるため、少ない食事でも動き回ることができ、傷の治りは早く、病気に罹ることもなかった。
彷徨い、村から離れた森に辿りついたわたしは、そこで生活を始めた。草や木の実を食べ、獣を狩り、木の洞で夜露をしのいだ。
始めの頃は獣や魔物を警戒して眠ることもできなかったが、少しづつ、周囲に気を配りながら浅い眠りにつけるようになり、そのうちに、眠りながらでも反射的に体が動くようになった。この癖は今でも続いている。
森での生活に慣れ、徐々に行動範囲を広げたわたしは、街道に足を延ばし、道行く旅人から持ち物を奪うことを覚えた。特に馬車は実入りが良かった。
どうせみんな、わたしを助けてくれない。
頼んだって、譲ってもらえない。
――なら、力ずくで奪うしかない。
幼いわたしの耳に、いつものように絵本を読み聞かせてくれるかーさんの声が聞こえる。
わたしと同じくあちこちが跳ねた癖毛に、けれどわたしとは違う緋色の長髪。絵本に向けた穏やかな瞳は、髪と同じ緋色に輝いている。
これは多分、死ぬ前にわたしが見ている夢。わたしが〈剣帝〉に拾われる何年も前の、かーさんと二人で暮らしていた頃の記憶だ。
……って、ずいぶん昔を思い出してるなぁ、わたし。
――――
リメース・リエス。
ルスト・フェル・ゼルトナー。
それが、わたしの両親の名前だった。
リメース――かーさんは、魔具を作成する魔族の職人。その手が生み出す魔具は、人間はもちろん、ドワーフなどが造る物よりも高い品質で、他の魔族はもちろん、実際に被害に遭う人間たちにも噂が広がっていた。
噂を聞きつけた一人が、ルスト――わたしの本当のとーさん。魔具の入手を目的に、魔物領に単身潜入した人間だった(なんか当時はトレジャーハンターとか名乗ってたらしい)。
しかし、他の魔族に侵入の痕跡を発見・追跡されたとーさんは、逃走の末、求めていた当の職人の工房に、そうとは知らず身を隠す。
工房にはもちろん工房主、つまりかーさんがいた。内と外を魔族に挟まれ、進退窮まったとーさんは、それでも最後まで足掻こうと、目の前の女魔族に刃を向けた――
――――
かーさんは、生まれつき『本能が極めて薄い』という、変わり者の魔族だった。
同族間に居場所を見い出せず、領土の僻地で一人、気まぐれに魔具を造るだけの日々を送っていたという。
だからだろうか。自宅に侵入し、今まさに襲い掛からんとしていたとーさんを見ても、かーさんは敵意一つ抱かず歓迎し、むしろ追っ手から匿った。
退屈だった日常の中に突如、それまでは話で聞いたことしかなかった〝人間〟が現れた。かーさんの胸に溢れたのは、希薄だったはずの魔族の本能……などではなく、抑えがたい知的好奇心だった。
生態、思想、社会、文化等々。思いついた疑問を欲求の赴くままとーさんに尋ね、隅々まで調べたと、かーさんは楽しそうに語っていた。今思うと意味深だ。
ちなみに『リエス』という姓は、とーさんの名を聞いたかーさんが興味を持ち、二人で相談してつけたものだそうだ。
(――「ルストフェルゼルトナ? 長い名前だねー」
――「違う。名前はルストだ」
――「? じゃあ、後ろのはなに?」)
魔族は基本的に名前だけで、姓という概念がないらしい。
とーさんのほうも、人間に敵意を抱かない奇妙な魔族と争う気になれず、助けられた恩も無視できず、なし崩し的にかーさんと行動を共にするようになり、その末に結婚した。
と言ってもとーさんは、わたしが物心つく前に、かーさんと――つまり魔族と通じてたとかいう理由で、同族であるはずの人間に罪人として処刑されたらしいが。
だからわたしは、本当のとーさんについてほとんどなにも知らない。知っているのはかーさんから聞いた話と、わたしの髪と瞳の色がとーさん譲りということくらいだ。
その後わたしたちは、とーさんの故郷の村、その外れに建てられた小さな小屋(もしもの時は頼るようにと準備してくれていたらしい)に居を移し、二人で生活していた。
――――
――わぁぁ……すごいねぇ、ゆうしゃ。
「ふふ。アレニエは本当にこの話が好きだよね。もう何回読んだか分かんないよ」
――うん! だってすごいもん、ゆうしゃ。わたしも、おっきくなったらゆうしゃになりたい!
「あー、それ無理なんだよね」
――えぇ! なんで!?
「だって、アレニエは半分魔族だもの。魔族は、勇者になれないよ」
――そんなぁ……ダメなの?
「うん、ダメ。それに勇者になったら、下手したらわたしのことも倒さなきゃいけなくなるよ?」
――なんで……? かーさん、なにもわるいことしてないよ?
「そうだけど、そういうものなの。わたしとルストはどっちも変わり者だったから良かったけど、魔族と人間は普通仲良くなれないからね。……それでも、なりたい?」
――…………かーさんをいじめるくらいなら、ならなくていい……
「……~~~~あぁ、もう! アレニエは可愛いなぁ!」
この後、揉みくちゃにされてキスされまくった。
かーさんはとーさんと結婚するまで、口づけという行為を知らなかった。姓と同じく、魔族にはそういう文化がなかったらしい。
だから恋仲になった当時、今まさに自分に口づけようとしていた相手にかーさんは、あろうことか正面から疑問をぶつけた。
(――「なんで口と口をつけるの?」
――「…………~~てめぇに〝好きだ〟って分からせるためだこの野郎!」)
顔を真っ赤にしながらとーさんが教えたそれを(そして恥ずかしがるとーさんの姿を)、かーさんはいたく気に入ったらしく、わたしに対しても事あるごとにしてくれる。
後に、村の友達のユーニちゃんに、「普通は大人の男女でするもの」と言われて驚いた覚えがあるが。
けれど、いつもそうやって好きを伝えてくれるかーさんが、わたしは大好きだった。
狭い村の、さらに外れで、人目を避けながら暮らしていても、この頃のわたしは、確かに幸せだった。
***
「――……そんなに、泣かないで、アレニエ……わたし、これでも十分、楽しかったんだから……」
これは…………かーさんが、死んだ日の記憶だ。
魔族でありながら敵対する人間と添い遂げ、失踪したかーさんは、同じ魔族から恥知らずの裏切り者として追われていた。
かーさんの造る魔具が人間側に流出するという危惧も、執拗に狙われる要因だったのだろう。
そしてとうとう、追っ手に発見された。
例のアスタリアの結界からは離れた土地だったのか(幼少時のわたしは、住んでいたのが地図上のどのあたりなのかも知らなかった)。あるいは、穢れの少ない魔族ばかりだったのか。
追っ手は結界に反発されることなく人間の領土に侵入し、わたしたちの住み処を襲った。
彼らにとっては唾棄すべき人間混じり。しかも戦う力もないわたしは、真っ先に標的にされたが……
(魔族としては)力の弱いかーさんは、それでも自身で造り出した魔具を駆使し、わたしを護りながら、追っ手を全滅させた。
――かーさんの命と、引き換えに。
――――
「……ずっと、ずっと、つまらないまま生きてきたわたしが、ルストに会って、人間のこと勉強して、結婚して、アレニエみたいな可愛い子供まで生まれて……しかも最期に、そのアレニエを護って、死ねるんだから。……すごく、すごく、楽しかった。ルストが言ってた〝幸せ〟って、こういう感じ、なのかな……」
――かー、さん……やだ、よ……しなない、で……
「……あー、でも……アレニエはこれから、もっと、もっと、成長するんだよね。それを見れないのは、ちょっと、残念、かな……」
――そう、そうだよ……わたし、もっと……これから、おっきく……だから……
「……これから、アレニエ一人で生きていくのは、大変、だと思う。多分、魔族も、人間も、半魔のアレニエを助けて、くれない……でも、アレニエには、〈クルィーク〉がついてる。それに中には、わたしやルストみたいな、変わり者、はみ出し者も、いるかもしれない……」
――かー……さん…………
「アレニエが、そんな誰かに出会えることを、願ってる。……笑って生きていけることを、願ってる」
***
埋葬(かーさんや追っ手の穢れは〈クルィーク〉が食べてくれた)を済ませ、護身用の短剣だけ持ち出したわたしは、村に助けを求めた。一人では、どう生きていけばいいのかも分からなかった。
この手で土に埋めても、まだかーさんが死んだことを呑み込めなかった。地に足のつかぬまま、それでもなんとか歩を進め、ようやく村に辿り着く。けれど……
そこでわたしに向けられたものは、恐怖、嫌悪、侮蔑、憎悪……様々な負の感情が混濁した住人たちの冷たい視線と、拒絶の言葉だけだった。
村の誰かが、かーさんと追っ手の戦いを目撃していたらしい。
かーさんが魔族であること、そして娘のわたしが半魔であることまで、すでに村中に知れ渡っていた。
……その目が、怖かった。
浴びせられる視線に身がすくんだ。
気持ち悪さに吐き気を催した。
そしてわたしは、自身に突き刺さる視線の雨の中に、つい先日にも遊んだばかりの友達が混じっているのを、見つけてしまう。
――……! ユーニちゃん……!
(びくっ……)
――ユーニ、ちゃん……?
「…………」
――……なん、で……なんで、ユーニちゃんまで、わたしをそんな目で見るの……? ……!
わたしは耐えきれなくなり、そのまま村を飛び出した。
……今思えば、仕方がなかったのかもしれない。
おそらく彼女は周囲の大人に、わたしが穢らわしい半魔だと、もう関わらないようにと、厳しく言い含められたのだろう。
幼い彼女が混乱し、怯えた瞳を向けてきたこと。それを責めるのは、筋違いかもしれない。
けれどその頃のわたしにとって、彼女からの拒絶は…………端的に言えば、絶望、だった。
同時に、思い知らされた。
この世界で半魔として生きることの現実。かーさんの危惧を。
たとえどれだけ表面を取り繕っても、一度でも正体を知られてしまえば、途端にあの目を向けられる。
魔族はもちろん、人間にも隠さなきゃいけない。
誰も信用できない。誰にも心を許せない。
***
なんの知識も技術も持たず一人で生き延びられたのは、左手の篭手、〈クルィーク〉のおかげだった。
半身から湧き出す穢れを常に食べ、それを体力や治癒力に換えてくれるため、少ない食事でも動き回ることができ、傷の治りは早く、病気に罹ることもなかった。
彷徨い、村から離れた森に辿りついたわたしは、そこで生活を始めた。草や木の実を食べ、獣を狩り、木の洞で夜露をしのいだ。
始めの頃は獣や魔物を警戒して眠ることもできなかったが、少しづつ、周囲に気を配りながら浅い眠りにつけるようになり、そのうちに、眠りながらでも反射的に体が動くようになった。この癖は今でも続いている。
森での生活に慣れ、徐々に行動範囲を広げたわたしは、街道に足を延ばし、道行く旅人から持ち物を奪うことを覚えた。特に馬車は実入りが良かった。
どうせみんな、わたしを助けてくれない。
頼んだって、譲ってもらえない。
――なら、力ずくで奪うしかない。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界ランドへようこそ
来栖とむ
ファンタジー
都内から車で1時間半。奥多摩の山中に突如現れた、話題の新名所――「奥多摩異世界ランド」。
中世ヨーロッパ風の街並みと、ダンジョンや魔王城を完全再現した異世界体験型レジャーパークだ。
26歳・無職の佐伯雄一は、ここで“冒険者A”のバイトを始める。
勇者を導くNPC役として、剣を振るい、魔物に襲われ、時にはイベントを盛り上げる毎日。
同僚には、美人なギルド受付のサーミャ、エルフの弓使いフラーラ、ポンコツ騎士メリーナなど、魅力的な“登場人物”が勢ぞろい。
――しかしある日、「魔王が逃げた」という衝撃の知らせが入る。
「体格が似てるから」という理由で、雄一は急遽、魔王役の代役を任されることに。
だが、演技を終えた後、案内された扉の先にあったのは……本物の異世界だった!
経営者は魔族、同僚はガチの魔物。
魔王城で始まる、まさかの「異世界勤務」生活!
やがて魔王の後継問題に巻き込まれ、スタンピードも発生(?)の裏で、フラーラとの恋が動き出す――。
笑えて、トキメいて、ちょっと泣ける。
現代×異世界×職場コメディ、開園!
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる