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第2章
2章エピローグ あなたがいれば
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暗い夜道を、法術の明かりを頼りに二人で歩いていく。
わたしとリュイスちゃんはさっきまでいた森を抜け、街道を沿って進み、最寄りの人里に辿り着くべく歩を進めていた。
あの後、リュイスちゃんに魔力を封じてもらってから、わたしたちはすぐにその場を移動した。
あのまま留まれば、そのうちアルムちゃんたちが騒ぎを聞きつけてこちらにやって来ていただろうし、そうなれば何が起きたか説明するのも面ど……コホン。いろいろ説明できないことも多くて一苦労だからだ。
「今頃は、砦の残骸見つけて首を傾げてるかもね」
「わけが分からないでしょうね。正直、私もなにが起きてたのかちゃんと把握できていません」
そういえばちゃんとした説明もないままに連れ回してしまった気がする。
「結局、勇者さまを暗殺しようとしていた犯人が、たまたま砦を訪れた魔将に命を奪われた、ということでしょうか?」
「たまたまじゃなかったみたいだよ。ほら、例の『死の匂いを感じ取れる』っていう魔将が裏で手を回してたらしいし」
「悪魔の――いえ、悪神の加護、ですか」
一般的に悪魔と呼ばれるものは、実は悪神という神々の一柱で、善神と同じように加護を授けることもあるとか。このあたりの知識は以前出会った魔将――イフから得たもので、人間社会の中では失われた知識らしい。
「その加護の持ち主を倒さない限り、この旅は終わらないんでしょうか」
「どうだろね。石の魔将と戦う前にも言ったけど、魔王を倒すまでずっと続くかもしれないよ?」
「本当にそうだとしたら……やっぱり、途方もない道のりに思えますね……」
「でもまぁ、ある意味ゴールははっきり見えてるわけだし、地道に進めばいつかは終わるよ。それに……」
「それに?」
「少なくともこの依頼が終わるまでは、リュイスちゃんとの二人旅をたっぷり楽しめるってことだしね」
「え……う……?」
にっこりと笑顔で告げるわたしと対照的に、リュイスちゃんは真っ赤になった顔を伏せて黙り込んでしまう。何を想像したんだろう。かわいい。
「そ、それはともかく」
気を取り直したリュイスちゃんがコホンとかわいく咳払いする。
「とりあえず泊まれる場所を探すのはいいんですが……その後はどうしましょう。まだ〈流視〉には何も見えていないので、行き先の指針がないんですよね……」
「ひとまずはアルムちゃんたちの噂拾いながら、つかず離れずで旅するしかないかな。何かあったら助けに入れるだろうし、〈流視〉に何か見えたらそっちに行けばいいしね」
「なるほど……分かりました」
「まぁ、まだ何も見えないのはかえって良かったかも。ここまで急いでばかりだったし、少しくらいゆっくり旅してもいいと思うよ」
わたしの言葉に、隣を歩く彼女も頷く。
「そうですね。剣の修理もしなきゃいけませんものね」
「…………そうだった」
その場にしゃがみ込み、ズーンと落ち込む。
「ア、アレニエさん?」
急に立ち止まって落ち込むわたしに驚き、リュイスちゃんが慌てて振り向く。
「ごめん、大丈夫。思い出して少し気が重くなっただけ」
「……その、こう言ってはなんですけど、意外ですね。一番に気にかけてると思ったんですが」
「ちょっと現実から目を逸らしてました」
目を逸らしても剣が直ってくれるわけじゃないのだけど。
「うー……わたしの〈弧閃〉……せっかくとーさんに貰って大事にしてたのになぁ……」
折れた愛剣を手に唸っていると、見かねたリュイスちゃんが落ち着かせるように頭をよしよしと撫でてくれる。心地いい。
「どこか大きな街に行けば、鍛冶師の方に打ち直してもらえるでしょうか」
「それなんだけどさ」
立ち上がりつつ〈弧閃〉を鞘にしまい、リュイスちゃんに顔を向ける。
「実は鍛冶師についてはちょっとあてがあるんだ。この剣を打ったのは、うちの常連のライセンていうドワーフなんだけど、そのライセンの師匠が、ここから北東に進んだ村に住んでるらしくてね。だから、できればまずそこに立ち寄りたいんだけど……いいかな」
少しだけ控えめに、彼女の顔を覗き込むように見る。
「もちろん。お供します」
彼女はそう言って柔らかく微笑んでくれる。よかった。
「一応〈ローク〉があるから戦えなくはないし、しばらくなんとかなるとは思うんだけど……使い慣れた武器がないと不安だし、なんとなく落ち着かないからさ。できるだけ早く直したいんだよね。ほんとは折れた切っ先も回収したかったけど……あの残骸から掘り起こすのは無理そうだし、そんな時間もなかったし」
「勇者さまがいつ来るかも分かりませんでしたしね。できればあの中の遺体も浄化して埋葬したかったんですが……」
見ず知らずの暗殺者にまでそうしてあげたいなんて、相変わらずリュイスちゃんは優しい。言っても本人は否定するだろうけど。
「アニエスちゃんだっけ。あの子も一緒にいるなら、穢れに気づいて浄化だけはしてくれるんじゃないかな」
瓦礫を掘り出して埋葬までは難しいと思うけど。
「そう、でしょうか。……そうかもしれませんね」
「でしょ? だから、わたしたちはその間に先に進もう」
「はい」
再び並んで歩き出しながら、二人で取り留めもない話を続ける。
「アニエスちゃんといえば、あの魔術師くん無事かな」
「あぁ……怒ってましたね、彼女」
「即座に処刑しようとしてたもんね。容赦なさすぎてびっくりしたよ」
「アニエスさんは、とても真面目な方ですから。アスタリアの神官として、神剣や勇者というものに敬意を持っていましたし、自身が守護者に選ばれたことも誇りに思っていたようなので、それらを踏みにじられたのが許せなかったのではないでしょうか」
「さっきまでの仲間を始末しようとするほど?」
「あ、あはは……彼女はちょっと、その、激しい性格の方なので……」
まぁ、頭に血が上りやすそうではあったけど。
「そういえば、リュイスちゃんとはどんな関係なのかな。なんか苦手そうにしてた気もするけど」
「……関係、と言えるほどの関係性はないはずなんですが……なぜか、目の敵にされているというか……」
「なにそれ。いじめられてるとか?」
「いえ、他の方のように表立ってそういうことをしてくるわけではないんです。ただ、私が知識や礼儀で至らぬ点があった場合に公衆の面前で厳しく指摘されたり――」
「うん」
「弟子の私が不甲斐ない姿を見せれば師であるクラルテ司祭に迷惑がかかると諭されたり――」
「うんうん。……うん?」
「それから、クラルテ司祭と私が一緒にいると、なぜかきつい目つきで睨まれたりしていて……」
「…………えーと、それってさ、ひょっとして――」
「……え?――」
「――」
「――」
その後もわたしたちは、二人で他愛もない話を続けながら歩いていく。
不安はある。
折れた〈弧閃〉や逃がした石の魔将はもちろん、新たな魔将や、再び勇者一行の命を狙う人間など、まだ見ぬ困難がわたしたちを待ち構えているかもしれない。
けれど、彼女が一緒であれば。
彼女が傍で支えてくれるなら、何が待ち受けていようと乗り越えられる。
共に過ごすほどそう思える得難い友人に笑顔を向けながら、わたしたちは暗い夜道を賑やかに進んでいった。
2章 終
わたしとリュイスちゃんはさっきまでいた森を抜け、街道を沿って進み、最寄りの人里に辿り着くべく歩を進めていた。
あの後、リュイスちゃんに魔力を封じてもらってから、わたしたちはすぐにその場を移動した。
あのまま留まれば、そのうちアルムちゃんたちが騒ぎを聞きつけてこちらにやって来ていただろうし、そうなれば何が起きたか説明するのも面ど……コホン。いろいろ説明できないことも多くて一苦労だからだ。
「今頃は、砦の残骸見つけて首を傾げてるかもね」
「わけが分からないでしょうね。正直、私もなにが起きてたのかちゃんと把握できていません」
そういえばちゃんとした説明もないままに連れ回してしまった気がする。
「結局、勇者さまを暗殺しようとしていた犯人が、たまたま砦を訪れた魔将に命を奪われた、ということでしょうか?」
「たまたまじゃなかったみたいだよ。ほら、例の『死の匂いを感じ取れる』っていう魔将が裏で手を回してたらしいし」
「悪魔の――いえ、悪神の加護、ですか」
一般的に悪魔と呼ばれるものは、実は悪神という神々の一柱で、善神と同じように加護を授けることもあるとか。このあたりの知識は以前出会った魔将――イフから得たもので、人間社会の中では失われた知識らしい。
「その加護の持ち主を倒さない限り、この旅は終わらないんでしょうか」
「どうだろね。石の魔将と戦う前にも言ったけど、魔王を倒すまでずっと続くかもしれないよ?」
「本当にそうだとしたら……やっぱり、途方もない道のりに思えますね……」
「でもまぁ、ある意味ゴールははっきり見えてるわけだし、地道に進めばいつかは終わるよ。それに……」
「それに?」
「少なくともこの依頼が終わるまでは、リュイスちゃんとの二人旅をたっぷり楽しめるってことだしね」
「え……う……?」
にっこりと笑顔で告げるわたしと対照的に、リュイスちゃんは真っ赤になった顔を伏せて黙り込んでしまう。何を想像したんだろう。かわいい。
「そ、それはともかく」
気を取り直したリュイスちゃんがコホンとかわいく咳払いする。
「とりあえず泊まれる場所を探すのはいいんですが……その後はどうしましょう。まだ〈流視〉には何も見えていないので、行き先の指針がないんですよね……」
「ひとまずはアルムちゃんたちの噂拾いながら、つかず離れずで旅するしかないかな。何かあったら助けに入れるだろうし、〈流視〉に何か見えたらそっちに行けばいいしね」
「なるほど……分かりました」
「まぁ、まだ何も見えないのはかえって良かったかも。ここまで急いでばかりだったし、少しくらいゆっくり旅してもいいと思うよ」
わたしの言葉に、隣を歩く彼女も頷く。
「そうですね。剣の修理もしなきゃいけませんものね」
「…………そうだった」
その場にしゃがみ込み、ズーンと落ち込む。
「ア、アレニエさん?」
急に立ち止まって落ち込むわたしに驚き、リュイスちゃんが慌てて振り向く。
「ごめん、大丈夫。思い出して少し気が重くなっただけ」
「……その、こう言ってはなんですけど、意外ですね。一番に気にかけてると思ったんですが」
「ちょっと現実から目を逸らしてました」
目を逸らしても剣が直ってくれるわけじゃないのだけど。
「うー……わたしの〈弧閃〉……せっかくとーさんに貰って大事にしてたのになぁ……」
折れた愛剣を手に唸っていると、見かねたリュイスちゃんが落ち着かせるように頭をよしよしと撫でてくれる。心地いい。
「どこか大きな街に行けば、鍛冶師の方に打ち直してもらえるでしょうか」
「それなんだけどさ」
立ち上がりつつ〈弧閃〉を鞘にしまい、リュイスちゃんに顔を向ける。
「実は鍛冶師についてはちょっとあてがあるんだ。この剣を打ったのは、うちの常連のライセンていうドワーフなんだけど、そのライセンの師匠が、ここから北東に進んだ村に住んでるらしくてね。だから、できればまずそこに立ち寄りたいんだけど……いいかな」
少しだけ控えめに、彼女の顔を覗き込むように見る。
「もちろん。お供します」
彼女はそう言って柔らかく微笑んでくれる。よかった。
「一応〈ローク〉があるから戦えなくはないし、しばらくなんとかなるとは思うんだけど……使い慣れた武器がないと不安だし、なんとなく落ち着かないからさ。できるだけ早く直したいんだよね。ほんとは折れた切っ先も回収したかったけど……あの残骸から掘り起こすのは無理そうだし、そんな時間もなかったし」
「勇者さまがいつ来るかも分かりませんでしたしね。できればあの中の遺体も浄化して埋葬したかったんですが……」
見ず知らずの暗殺者にまでそうしてあげたいなんて、相変わらずリュイスちゃんは優しい。言っても本人は否定するだろうけど。
「アニエスちゃんだっけ。あの子も一緒にいるなら、穢れに気づいて浄化だけはしてくれるんじゃないかな」
瓦礫を掘り出して埋葬までは難しいと思うけど。
「そう、でしょうか。……そうかもしれませんね」
「でしょ? だから、わたしたちはその間に先に進もう」
「はい」
再び並んで歩き出しながら、二人で取り留めもない話を続ける。
「アニエスちゃんといえば、あの魔術師くん無事かな」
「あぁ……怒ってましたね、彼女」
「即座に処刑しようとしてたもんね。容赦なさすぎてびっくりしたよ」
「アニエスさんは、とても真面目な方ですから。アスタリアの神官として、神剣や勇者というものに敬意を持っていましたし、自身が守護者に選ばれたことも誇りに思っていたようなので、それらを踏みにじられたのが許せなかったのではないでしょうか」
「さっきまでの仲間を始末しようとするほど?」
「あ、あはは……彼女はちょっと、その、激しい性格の方なので……」
まぁ、頭に血が上りやすそうではあったけど。
「そういえば、リュイスちゃんとはどんな関係なのかな。なんか苦手そうにしてた気もするけど」
「……関係、と言えるほどの関係性はないはずなんですが……なぜか、目の敵にされているというか……」
「なにそれ。いじめられてるとか?」
「いえ、他の方のように表立ってそういうことをしてくるわけではないんです。ただ、私が知識や礼儀で至らぬ点があった場合に公衆の面前で厳しく指摘されたり――」
「うん」
「弟子の私が不甲斐ない姿を見せれば師であるクラルテ司祭に迷惑がかかると諭されたり――」
「うんうん。……うん?」
「それから、クラルテ司祭と私が一緒にいると、なぜかきつい目つきで睨まれたりしていて……」
「…………えーと、それってさ、ひょっとして――」
「……え?――」
「――」
「――」
その後もわたしたちは、二人で他愛もない話を続けながら歩いていく。
不安はある。
折れた〈弧閃〉や逃がした石の魔将はもちろん、新たな魔将や、再び勇者一行の命を狙う人間など、まだ見ぬ困難がわたしたちを待ち構えているかもしれない。
けれど、彼女が一緒であれば。
彼女が傍で支えてくれるなら、何が待ち受けていようと乗り越えられる。
共に過ごすほどそう思える得難い友人に笑顔を向けながら、わたしたちは暗い夜道を賑やかに進んでいった。
2章 終
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