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第3章
12節 闘技大会開催
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闘技大会当日。
私とアレニエさんは武具や道具の点検を万全にしてから宿を出発した。
大通りは初めてこの街に来た時より大勢の人で溢れていた。それも当然だろう。いわば今日が祭りの本番だ。
人の流れに沿って街中を進み、闘技場に辿り着く。今日この街にいるほとんどの人が同じ目的の元に動いているだろう。受け付けは混雑し、人の列が渋滞を起こしていた。
やがて私たちの順番が回り、入場料を払い、中に入る。観客席は二階から先だ。階段を上り、一般用の通路に出たところで……
「ん?」
「お?」
見知った顔に、バッタリと出会う。
一般通路で出くわしたのは、以前の旅で関わりを持った二人の冒険者。見上げるような巨躯に大剣を背負った大男と、中肉中背の身体を灰色の衣服とフードで覆った男性の、二人組。
「ジャイールさんに、ヴィドさん?」
「よう、リュイスの嬢ちゃんに〈黒腕〉じゃねーか! 久しぶりだな!」
大男――ジャイールさんが、再会を祝して声を張り上げる。ちなみに〈黒腕〉とは、アレニエさんの二つ名だ。由来は、左腕の黒い篭手から……って、そのままですね、この呼び名。
「お久しぶりです、ジャイールさん。怪我の具合は……」
「ああ。あれからずいぶん経つからな。すっかりよくなったぜ」
彼はそう言って自身の首をポンと叩く。以前出会った際に重傷を負っていた箇所だが、本人が述べる通り快方に向かっているようだ。
「アレニエ嬢にリュイス嬢、息災のようだな」
ジャイールさんとは対照的に静かに口を開いたのは、ヴィドさん。彼の言葉に、アレニエさんが返答する。
「お互いにね。それにしてもあなたたち、こんなところまで一緒だなんて、相変わらず仲がいいねー」
「「いや、こいつとはただの腐れ縁だ」」
二人は同時に同じ語句で否定した後に、顔を見合わせてばつが悪そうな表情になる。やっぱり仲がいい気がする。
ジャイールさんは気を取り直してこちらに向き直り、質問してくる。
「こんなところにいるってことは、お前らも目当ては闘技大会か」
「うん。せっかく来たからね。帰った時の土産話になるかと思って」
「出場するのか?」
それは、なんらかの期待を込めたような声音だったが……
「ううん、観戦だけ。目立つの嫌いだからね」
「なんだ、出ねぇのか……」
目論みが外れたのか、ジャイールさんはあからさまに残念そうな声を出して黙り込む。
「そういうあなたたちは出場するの?」
「あー……初めはそのつもりでここまで来たんだけどな……パンフレット見たか? 俺は読めねぇから、こいつに読ませたんだが」
「うん、見た。何か問題でもあった?」
「「試合は死人が出ないように審判が判断」とか書いてたろ」
「書いてたね」
「それじゃ、模擬戦とほとんど変わらねぇじゃねぇか。俺はもっと命懸けでバチバチの勝負がしてぇんだよ。勝手に審判が止めてんじゃねぇよ」
「え……まさかそれが理由で、出場しないことに決めたんですか?」
思わず私が問い質すと、彼は力なく頷く。
「ああ。なんか萎えちまってな……殺さずに寸止めの勝負じゃ、大した経験になんざならねぇからな」
「……前に会った時は、「もう少しくらい慎重にやる」って言ってませんでしたか?」
「あ? あー……それはそれ、これはこれだ」
「……」
わずかに顔を逸らすジャイールさんを、私はジト目で見つめる。以前の出会いで彼は、アレニエさんと命懸けの決闘をした結果、一度死にかけているのだけど……この人やっぱり危なっかしい。
「だから〈黒腕〉、お前が出場するなら、俺も出る気になったんだが……やっぱりしねぇか?」
「うん、しない」
アレニエさんは頑として方針を曲げない。私の依頼――勇者を陰から助ける――を完遂するため、出場して目立つリスクは負いたくないのだろう。そもそも彼女は目立つのを好まないし、誰が誰より強いという話にも興味はないようだけれど。
「そろそろ諦めろ。どのみち今からでは出場の受け付けも間に合わないだろう」
「くそ。それもそうか」
粘るジャイールさんを、ヴィドさんがあっさりと説き伏せる。
「まぁ、そういったわけで、我々も観戦だけはする運びとなった次第だ。ここまで足を運んでおいて何もせずに帰るのも勿体ないのでな」
ヴィドさんはそう説明すると、次いで一つの提案をする。
「ところで、せっかくの再会だ。共に観戦するというのはどうだ? 旅は道連れと言うだろう?」
「んー……そうだね。たまには、そういうのも悪くないかもね。……と、リュイスちゃんは、どうかな」
「私も構いませんよ」
最後にジャイールさんに目を向けると、彼も満更でもないというように頷く。
「……ま、それもアリか。野郎二人で観るよりは楽しめるかもな」
「決まりだ」
意見をまとめたヴィドさんに先導され、私たちは観客席へと移動した。
***
闘技場は一階部分に円形の戦場が広がっており、二階以降が観客席になっている。席は外側に行くほど一段ずつ高くなっていき、最も高い外周部に至っては四階建ての建物と同等の高さを有していた。二階席の中央には一際豪華な観覧席もあり、アニエスさんとエカルさんはそこに招かれているはずだった。
通路で悠長に会話していて出遅れたためだろうか、観客席は既にどこも人でいっぱいだった。四人が座れる空間など空いていない。それに帯剣してる人が二人もいるので、座席につくと武器の置き所に困る。咄嗟の際に動きづらい。他の客の観戦の妨げになるかもしれない(これにはジャイールさんの体格も大きく関係していた)。
それらの理由から仕方なく私たちは、外周部から立ち見で観戦することに決めた。ここなら諸々の条件をクリアしているうえ、闘技場全体の様子も掴みやすい。座れないため、長時間の観戦は辛そうだが。
「ま、ここからでも十分見えるしな」
手すりに体重を預けながら、ジャイールさんが呟く。その視線の先である中央の戦場では、複数の人員が慌ただしく準備に奔走している。様々な楽器を持った楽団が並び、騎士団と思われる黒い甲冑姿の人々が整列し、帝国の旗が掲げられ……
やがてそれらも終わり、戦場に大会役員らしき男性が現れると、ざわついていた会場がにわかに静まる。
「そろそろ、始まるみたい」
アレニエさんのその言葉を受けたように、男性が声を張り上げる。
「――これより、第百七回ハイラント帝国闘技大会を開催する!!」
宣言と共に、楽団が音楽をかき鳴らし、戦場に整列した騎士団が鬨の声を上げながら手に持つ槍を空に突き刺し、同時に掲げられた帝国の旗が風にはためく。
ワアァァァァ――!
開会の宣言に、観衆が歓声をもって迎える。――闘技大会が、始まる。
私とアレニエさんは武具や道具の点検を万全にしてから宿を出発した。
大通りは初めてこの街に来た時より大勢の人で溢れていた。それも当然だろう。いわば今日が祭りの本番だ。
人の流れに沿って街中を進み、闘技場に辿り着く。今日この街にいるほとんどの人が同じ目的の元に動いているだろう。受け付けは混雑し、人の列が渋滞を起こしていた。
やがて私たちの順番が回り、入場料を払い、中に入る。観客席は二階から先だ。階段を上り、一般用の通路に出たところで……
「ん?」
「お?」
見知った顔に、バッタリと出会う。
一般通路で出くわしたのは、以前の旅で関わりを持った二人の冒険者。見上げるような巨躯に大剣を背負った大男と、中肉中背の身体を灰色の衣服とフードで覆った男性の、二人組。
「ジャイールさんに、ヴィドさん?」
「よう、リュイスの嬢ちゃんに〈黒腕〉じゃねーか! 久しぶりだな!」
大男――ジャイールさんが、再会を祝して声を張り上げる。ちなみに〈黒腕〉とは、アレニエさんの二つ名だ。由来は、左腕の黒い篭手から……って、そのままですね、この呼び名。
「お久しぶりです、ジャイールさん。怪我の具合は……」
「ああ。あれからずいぶん経つからな。すっかりよくなったぜ」
彼はそう言って自身の首をポンと叩く。以前出会った際に重傷を負っていた箇所だが、本人が述べる通り快方に向かっているようだ。
「アレニエ嬢にリュイス嬢、息災のようだな」
ジャイールさんとは対照的に静かに口を開いたのは、ヴィドさん。彼の言葉に、アレニエさんが返答する。
「お互いにね。それにしてもあなたたち、こんなところまで一緒だなんて、相変わらず仲がいいねー」
「「いや、こいつとはただの腐れ縁だ」」
二人は同時に同じ語句で否定した後に、顔を見合わせてばつが悪そうな表情になる。やっぱり仲がいい気がする。
ジャイールさんは気を取り直してこちらに向き直り、質問してくる。
「こんなところにいるってことは、お前らも目当ては闘技大会か」
「うん。せっかく来たからね。帰った時の土産話になるかと思って」
「出場するのか?」
それは、なんらかの期待を込めたような声音だったが……
「ううん、観戦だけ。目立つの嫌いだからね」
「なんだ、出ねぇのか……」
目論みが外れたのか、ジャイールさんはあからさまに残念そうな声を出して黙り込む。
「そういうあなたたちは出場するの?」
「あー……初めはそのつもりでここまで来たんだけどな……パンフレット見たか? 俺は読めねぇから、こいつに読ませたんだが」
「うん、見た。何か問題でもあった?」
「「試合は死人が出ないように審判が判断」とか書いてたろ」
「書いてたね」
「それじゃ、模擬戦とほとんど変わらねぇじゃねぇか。俺はもっと命懸けでバチバチの勝負がしてぇんだよ。勝手に審判が止めてんじゃねぇよ」
「え……まさかそれが理由で、出場しないことに決めたんですか?」
思わず私が問い質すと、彼は力なく頷く。
「ああ。なんか萎えちまってな……殺さずに寸止めの勝負じゃ、大した経験になんざならねぇからな」
「……前に会った時は、「もう少しくらい慎重にやる」って言ってませんでしたか?」
「あ? あー……それはそれ、これはこれだ」
「……」
わずかに顔を逸らすジャイールさんを、私はジト目で見つめる。以前の出会いで彼は、アレニエさんと命懸けの決闘をした結果、一度死にかけているのだけど……この人やっぱり危なっかしい。
「だから〈黒腕〉、お前が出場するなら、俺も出る気になったんだが……やっぱりしねぇか?」
「うん、しない」
アレニエさんは頑として方針を曲げない。私の依頼――勇者を陰から助ける――を完遂するため、出場して目立つリスクは負いたくないのだろう。そもそも彼女は目立つのを好まないし、誰が誰より強いという話にも興味はないようだけれど。
「そろそろ諦めろ。どのみち今からでは出場の受け付けも間に合わないだろう」
「くそ。それもそうか」
粘るジャイールさんを、ヴィドさんがあっさりと説き伏せる。
「まぁ、そういったわけで、我々も観戦だけはする運びとなった次第だ。ここまで足を運んでおいて何もせずに帰るのも勿体ないのでな」
ヴィドさんはそう説明すると、次いで一つの提案をする。
「ところで、せっかくの再会だ。共に観戦するというのはどうだ? 旅は道連れと言うだろう?」
「んー……そうだね。たまには、そういうのも悪くないかもね。……と、リュイスちゃんは、どうかな」
「私も構いませんよ」
最後にジャイールさんに目を向けると、彼も満更でもないというように頷く。
「……ま、それもアリか。野郎二人で観るよりは楽しめるかもな」
「決まりだ」
意見をまとめたヴィドさんに先導され、私たちは観客席へと移動した。
***
闘技場は一階部分に円形の戦場が広がっており、二階以降が観客席になっている。席は外側に行くほど一段ずつ高くなっていき、最も高い外周部に至っては四階建ての建物と同等の高さを有していた。二階席の中央には一際豪華な観覧席もあり、アニエスさんとエカルさんはそこに招かれているはずだった。
通路で悠長に会話していて出遅れたためだろうか、観客席は既にどこも人でいっぱいだった。四人が座れる空間など空いていない。それに帯剣してる人が二人もいるので、座席につくと武器の置き所に困る。咄嗟の際に動きづらい。他の客の観戦の妨げになるかもしれない(これにはジャイールさんの体格も大きく関係していた)。
それらの理由から仕方なく私たちは、外周部から立ち見で観戦することに決めた。ここなら諸々の条件をクリアしているうえ、闘技場全体の様子も掴みやすい。座れないため、長時間の観戦は辛そうだが。
「ま、ここからでも十分見えるしな」
手すりに体重を預けながら、ジャイールさんが呟く。その視線の先である中央の戦場では、複数の人員が慌ただしく準備に奔走している。様々な楽器を持った楽団が並び、騎士団と思われる黒い甲冑姿の人々が整列し、帝国の旗が掲げられ……
やがてそれらも終わり、戦場に大会役員らしき男性が現れると、ざわついていた会場がにわかに静まる。
「そろそろ、始まるみたい」
アレニエさんのその言葉を受けたように、男性が声を張り上げる。
「――これより、第百七回ハイラント帝国闘技大会を開催する!!」
宣言と共に、楽団が音楽をかき鳴らし、戦場に整列した騎士団が鬨の声を上げながら手に持つ槍を空に突き刺し、同時に掲げられた帝国の旗が風にはためく。
ワアァァァァ――!
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