あのパンの香りが届かないように

八月森

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21話 ついでのようなものなんです

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「あ、あの!」

 そこで、私は声を上げた。

「わ、私も、連れていってください」

「ミレイ……? 何を言って……」

 マリナさんが不安そうな顔で私を見る。アルテアさんも眉間にしわを寄せた。

「君を? いや、それは――」

 ここで難色を示されるのは当たり前だ。私には、戦う力が何もないのだから。けれど――

「ご存じの通り、私には神さまから授かった加護があります。もしかしたら、この先で役に立つかも……」

「は?」

 という声はリタさんのもの。そういえばそのあたりのことは何も話していなかった。

「……確かに君の加護には助けられてきた。貧民街での一件も、詰め所への襲撃も、君が伝えてくれなければ我々は知ることもできなかった。しかし……魔物が侵入してきた今は、街のどこで戦いが起こるか分からない。それに、未来を見通すはずの君の加護も、ここまでに起きたことは見えていなかったのだろう?」

 アルテアさんの言う通り、私がついていっても彼らの足手まといになるのは目に見えている。それに一周目の今は当然、この先に起こることを何も知らない状態だ。――でも。

「……私の加護の本当の力は、未来を見ることではありません」

「……なんだって? しかし、現に君は――」

「はい、先の出来事を言い当ててきました。けれどそれは、ついでのようなものなんです」

「ついで……?」

「私の力は――死ぬと、過去に戻ること。一度体験した未来の記憶を持ったまま、過去に戻って何度もやり直してるんです」

「は?」

 という声は、またもリタさんのもの。初めて聞くことが多くて事態についてこれていないのかもしれない。

 アルテアさんも最初は呆然としていたが、少しすると思い当たる節があるかのように一人頷く。

「……死ぬと記憶を持ったまま過去に戻って、そこからやり直す……そうか、だから君は未来で起こることも、私の名前も知っていたのか。私たちは一度出会っているんだね」

 コクリと、頷く。

「……騙していて、ごめんなさい。こんなこと、いきなり言っても信じてもらえないと思って、悩んだ末にああ言ってしまって……」

「それは構わないよ。事情も分かるし、実際に未来の情報を知っていたのだから嘘でもない。だが、なぜ今になってそれを?」

「今言わなければ――……〝見えるかもしれない〟なんて不確かな状態では、連れていってもらえないからです。私は、実際に現場におもむいて体当たりで情報を得るしかできません。だから、この目で確かめなきゃいけないんです」

 情報が少なくて判断がつかないのなら、その情報を集めるしかない。そしてあまり頭がいいとはいえない私は、今言ったように実際に体験しなければそれを得られない。
 ならば、まずは目下最大の懸念である魔物の襲撃について調べ、この目に、記憶に、焼き付ける必要がある。この一連の事態の原因がそこにあればよし。なかったとしても、次に繋げることができれば――

「……つまりミレイは、それが必要だと考えているんだね。ただ魔物に対処するだけでは足りない。裏で糸を引く何者かが存在する。そしてそれは――あの悪魔崇拝者たちかもしれない、と」

 彼らの言葉を実際に耳にしたからか、アルテアさんもその可能性には思い至っていたのかもしれない。

「……はい。もしそうであれば、私は……!」

 マリナさんを傷つけた彼らを、許してはおけない。絶対に企みを阻止してみせる。その決意を込めて、アルテアさんの目をまっすぐに見つめ……彼女はそれを正面から受け止めてから、小さく息を吐いた。

「……君は時折、驚くような意志の強さを見せるね。先の事件でもそうだった。結果的に見れば、我々はそれに助けられてきたわけだ……。分かった、一緒に来てもらおう。君の加護については理解したし、目の届かないところで無茶をされても困るしね。ただし、戦いになったら私の指示に従ってもらう。それだけは約束してくれ。いいね?」

「アルテアさん……はい!」

 仕方ないといった様子で微笑むアルテアさんに、私は強く頷いた。それを遮るように声を上げたのはマリナさんだ。

「待ってよ、ミレイが行くなら、わたしも……!」

「君はダメだ、マリナ。君には……戦いの場で出来ることが、何もない」

「……っ! それは……」

「それが悪いと言っているんじゃない。領分の違いだ。戦いは私の領分だ。けれど、君の領分は別にあるだろう?」

「……」

 押し黙るマリナさんをさらに説得すべく、私も口を開く。

「そうですよ、マリナさん。それに、ミルトちゃんも置いてきたままでしょう?」

「う……」

 お店の荷馬であるミルトちゃんは、今もあの路地の入口に繋いだままだ。魔物の襲撃がまなければ、そのうち襲われてしまうかもしれない。

「だからマリナさんは、ミルトちゃんをお店まで連れ帰ってあげてください。私なら大丈夫ですから」

「ああ。さっきの今で説得力はないかもしれないが……今度こそ、私たちがミレイを護ってみせるよ。だから、マリナ」

「~~……。……分かったわ」

 まだ納得のいかない様子ではあったものの、マリナさんは頷いてくれた。内心ホっとする。

「リタ。マリナを護衛してやってくれ。君がいれば無事に店まで帰りつけるだろう」

「ああ、色々よく分からねぇが、分かった。……あんたらも、気をつけろよ」

「はい!」

 リタさんの言葉に返答し、踵を返す。

 この大きな混乱が全て悪魔崇拝者たちの仕業だというなら、なんとしてでも阻止しなければいけない。もう二度と、マリナさんをあんな目に遭わせないために――
 決意を胸に秘め、私はアルテアさんたちと共に東門に繋がる大通りへ駆け出した。
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