悪魔のお悩み相談所

春風アオイ

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森火戦争編

雷花の巫女(4)

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空は曇天。
まだ日の出ている時間だが、どこか憂鬱な空気が漂っている。
外に出てすぐ傘を手にしたジオだが、差さずに左手に抱えた。

「二人とも、何か気になることがあればすぐに言ってくれ。サニーの暴走が故意的なものであれば、彼女を保護した俺達に敵意が向いていてもおかしくないからな」
「分かったわ」
「……ん」

薄暗く静かな街並みを眺めてそう呟くジオに、レアは毅然と、デイジーは小さく頷く。

デイジーには、未だに過去の記憶が無い。
だから、自分がどのようにステルラを使い、それがどれ程の効果を持つのか、はっきりと分からない。
けれど、サニーの件を踏まえると、この能力はかなり汎用性が高いような気がしていた。

普通は見えない感情の流れが視える。
これは、時には裏側にいる誰かの思惑をも浮かび上がらせるものだ。
この事件に黒幕がいるとして、それを追えるのはデイジーだけだろう。

『真眼』─見えない真実を視る眼。
ステルラの名前の意味が、何となく分かったような気がした。

むん、と静かに気合いを入れ、周囲をきょろきょろと見渡す。
あの、じっとりとした暗い悪意は忘れられそうもない。
同じ人物からのそれを感じればすぐに分かる筈だ。
デイジーの意気込みを感じてか、レアが僅かに頬を緩めたのが見えた。

…やはり、どうにも妹扱いされているような気がする。
彼女は面倒見がいい性質なので悪い気はしないのだけれども。

若干気恥ずかしくなりつつも、周囲を警戒しながらジオの後に続く。
今のところ、誰かに負の感情を向けられているような気配は感じない。
とはいえ、あの爆発事故があっては気も張るというもの。
これ以上、皆が傷付くところは見たくない。

…とりわけ、ジオのような傷付き方は、もう。

きゅっと胸が締まる思いがして、静かに前を歩くジオを縋るように見つめ─

「……?」

─チカッと、視界が明滅するような感覚を覚えた。

何かが視えた訳ではなかったけれど、何となく身体が動いてデイジーは後ろを振り返っていた。
気配を察してか、ジオとレアも足を止めてデイジーに続く。

そこに、いつの間にか、一人の男がいた。

風に透き通った長い白髪が靡く。
瞳は雲の向こう側の空を映した蒼穹。
ゆったりとした民族衣装には煌びやかな宝石がそこかしこに輝いており、一見派手に見える。
けれど、唇に湛えた笑みは柔らかく、穏やかな雰囲気を醸し出していた。
そして何より、思わず目を奪われるほどの美しさ。
見ただけで気圧されてしまうほどの美を詰め込んだ、文句無しに美しい青年であった。

これほど存在感の強い人物が近くにいたのに、今の今まで気付かなかったことにデイジーは驚いていた。
それは足を止めたまま固まっているジオとレアも同様のようで、後ろから困惑の感情が伝わってくる。
驚く三人に対し、彼は人懐っこそうな笑顔のまま話しかけてきた。

「久しぶり。何だか騒がしかったから来てみたけど、何があったの?」

若々しく爽やかなテノールだ。
どうやら、ジオとレアの知り合いらしい。
珍しく動揺した様子のジオに代わり、レアが声を上げる。

「あ、アレクさん……お久しぶりです」
「やあ、レアちゃん。元気そうで何より」

おずおずとしたレアの声に、アレクと呼ばれた男は気さくな返事を返す。
かなり親しげだ。
何でも屋と関わりの深い人物なのだろうか。
そう思って、ジオに尋ねようとして…

…気付いた。
ジオの瞳が、爛々と赤く輝いていることに。
彼が、何だかとっても怒っていることに。

「…?!」

驚いて思わずレアにしがみつくデイジー。
その様子を見て、男がデイジーに気が付き、微かに目を見張る。

「あれ、君は─」

しかし、その言葉が続くことはなく。
次の瞬間、ジオが抱えていた傘の柄が伸び、すらりと抜かれた銀の刃が男に勢い良く振り下ろされた。

「─おっと」

素人のデイジーからすればその太刀筋を追うことすら叶わない鋭い一撃。
けれど、男は涼しい顔でひらりと避けてしまった。
そのことも織り込み済みだったのだろう、ジオは仕込み刀を翻しながらそこでようやく男に声をかけた。
というか、怒鳴りつけた。

「アレク!!!!!お前、一月もどこほっつき歩いてやがった?!アルカナに何回泣きつかれたと思ってんだ!!!せめて行き先くらい言ってからいなくなれ!!!」
「おー、思ってたより怒ってる~……ごめん☆」
「殺す」
「あっ待って本気になるのは無しだってあっぶな?!」

そして、突然街中で始まる大立ち回り。
相当お冠だったようで、ジオはレアとデイジーのことも忘れて無我夢中に攻撃を繰り返している。
どれも一撃必殺と言わんばかりの非常に苛烈な太刀筋で、常人であれば十回は血の海に沈んでいるはずなのだが、焦ったような声を上げていた割に男─アレクには掠りもしない。
風のようにひらりひらりと躱して、その上で平然と会話を続ける余力があった。

「ごめんってば~。ミリシアに頼まれた仕事がいつも以上に時間かかっちゃって~」
「だから、事前に出かけるなら連絡しろって言ってんだよ!!腹立つから一回くらい斬らせろ!!」
「死んじゃうからダメ!」

偶然通りがかった街の人は、初めはぎょっとしていたものの、誰なのか分かると微笑ましそうな顔に変わる。

…街中で刀を振り回すジオの存在は、この地域の人達にとっては当たり前なのだろうか。
遠い目になるデイジーを、レアが溜め息をつきつつ撫で回した。

結局、二人(主にジオ)が落ち着きを取り戻したのは十分以上経った後のことだった。







「いや~、本当にごめん。うちのアルカナには後で謝っとくからさぁ」
「当たり前だ。謝罪参りまでは付き合わない」
「つれないなぁ」

ようやくレアとデイジーの下に戻ってきた二人。
あっけらかんとにこにこしているアレクを無視して、ジオは若干疲れた顔でデイジーに説明してくれた。

「悪かったな、放置して。こいつはアレクトラ、通称アレク。魔族の族長で、俺の……上司みたいな人だ」

何故か最後の方でもごもごと言い淀むジオ。
アレクはけらけら笑い、ジオの肩を抱く。

「も~、そういう照れ屋なとこもルヴィそっくりだよね~。ちゃんとお義父さんって言ってくれないと」
「?!」

衝撃で固まるデイジー。
アレクは、どんなに上に見積もっても二十代前半にしか見えない、非常に若々しい青年なのだが…
デイジーの驚嘆に思うところがあるのか、レアは深く頷いて耳打ちしてくる。

「言いたいことは分かる。でも、この人はもう四十手前で子供もいるわよ」
「……すごい、ね?」

外見から全く導き出されない情報が飛び込んで来た。
そこに、アレクの手を強引に払い除けたジオも付け加える。

「あぁ、勘違いするなよ。俺の家族が死んでから、俺が成年するまでの保護者になったのがアレクってだけだ。この放任主義者にまともに面倒を見られた記憶もない。あくまで戸籍上の関係だ」
「ジオ、照れると急に饒舌になるよね」
「照れてない」

子供のように拗ねたような顔をするジオ。
戸籍上とは言うが、何だかんだ仲は良いらしい。
ちょっと空気が和らいだところで、しかしアレクは本題を忘れてはいなかった。

「で、何があったの?ジオがわざわざ斬りかかってきたってことは、僕の協力が欲しいんでしょ?」
「……」

穏やかな碧眼には、怜悧な色が窺える。
ジオは思考を読み取られたことに若干不満そうな顔をしつつ、こくりと頷く。

「たまたま近くにいたなら都合が良い。神花フロースを狙っている輩がいるらしくてな。セフィリアがラメド治癒院から盗まれたそうだ。先生に至急対策の旨を伝えて欲しい」
「……それはそれは」

そこで、穏やかだったアレクの表情が初めて強ばった。
彼は頭を掻き、聖樹を見上げる。

「セフィリアに目つけられるとはね……分かった。聖樹に向かうところだったし、ミリシアにも伝えてくるよ」
「頼む」

散々怒鳴っていたジオだが、アレクを見つめる瞳には確かな信頼が見えた。
アレクはにこりと笑い、レアとデイジーにも視線を向ける。

「会ったばかりだけど、仕事は終わらせないとね。じゃあ、また後で。レアちゃんと……デイジーちゃんも」
「……え」

突然、名前を呼ばれた。
名乗っていないはずなのに、何故名前を…

…しかし、そんな疑問はすぐに吹き飛んでしまった。
彼は勢い良く駆け出し…

空を、飛んだのだ。

「?!」

鋭い風が吹く。
デイジーよりも大きい身体は軽々と近くの木々を飛び越え、風に乗って遥か彼方へ消えて行く。
あっという間に見えなくなった背中を見つめながら、ジオがぼそりと零した。

「……アレクは、『魔術』を持つ魔族の中で、一番優秀とされる族長でな。特に、風に関する魔術はこの国で敵う者はいないと言われてる。ああいう普通じゃ有り得ない行動も、魔術の才能で可能にしてる。俺に魔術を教えてくれたのもアレクだ」
「……!」

そういえば。
昨日の食事中にしれっと教えられたことだが、ジオは全種族のルーナを使えるらしい。
具体的にどんな能力が使えるのかまでは知らないが、昨日助けられた時に風が落下を軽減してくれたのを思い出した。
常識離れした行動力は、彼から叩き込まれたものなのだろう。

「すごい、人だね」
「自由すぎるのが玉に瑕だけどな」

やれやれと溜め息をつくジオ。
乱れた髪を直しつつ、レアとデイジーに顔を向ける。

「余計な時間を使ったが、早いところ済ませよう。治癒院に行くぞ」

そういえば、依頼の真っ只中だった。
思わぬ人物の登場で立ち往生していた三人は、ようやく真隣の治癒院へと入ることができたのだった。



︎✿



「あら、またお会いしましたね」

治癒院に入ると、ちょうど玄関付近にいた制服姿の女性がにこやかに話しかけてきた。
穏やかな瞳はジオに向いている。

「先程、傷害沙汰が発生したと聞き及びましたが……」
「ああ、早々に対処してもらった。問題ない」

ジオは淡々と答え、そっとデイジーを前に差し出した。

「デイジー、この人がローズだ。隣の治癒院の責任者だから、会う機会は多いと思う」
「……よろしくお願いします」

ぺこりと頭を下げると、彼女─ローズは微笑んでお辞儀を返してくれた。

「デイジー様、でしたね。ご回復されて何よりです。お困りのことがあれば、いつでもお越し下さい」

確かに、皆が言う通り礼儀正しく丁寧な人物だ。
初対面の挨拶が終わったところで、ローズは不思議そうにこちらへ向き直った。

「それで、本日はどのような……?」
「あぁ、えっと……」

ジオはちらりと治癒院を見渡す。
いつも通り、職員と患者で中はかなりごった返している。

「内密に話がある。個室を借りてもいいか?」
「……はい、承知致しました」

付き合いがある分、察しも早い。
ローズはすぐに三人を奥の休憩室へと案内してくれた。



︎✿



「え、セフィリアが……?!」
「はい、実物はここに」

個室に入って早々、ジオが事の顛末を伝えると、彼女は顔面蒼白になり目を見開いた。
レアが布に包まれたセフィリアを手渡すと、かなり狼狽した様子で受け取り、状態を確認する。

「……はい、確かにここで保管していたものと同じです。でも、どうして……」

相当焦っているのが伝わるが、これは国の機密事項が勝手に外へ漏れていたことへの動揺に見える。
少なくとも、彼女が私的に持ち出したということは無さそうだとデイジーは感じた。
ジオも同じことを思ったのか、デイジーの視線を受けて小さく頷いた。

「セフィリアについては、他に存在を知っている者はいるか?」
「ええと……管理を担当しているのは私で、後は管理局から出向しているマロー様と、歴代で管理を担当していた職員以外には全ての情報を伏せている筈です。ここに置かれたのは森火戦争が切っ掛けですし、それ以降はまだセフィリアを使用するほどの大事件は起きていませんから」

天使族のルーナを向上させる為の施策とジオは言っていたが、その認識は間違いではないようだ。
森火戦争と聞いて少し表情が曇ったが、声には出さずジオは質問を続ける。

「どのように管理をしていた?」
「普段は使われない地下の霊安室の奥に、専用の隠し部屋があります。そこに、鍵を掛けて保管していました。週に一度、夜に見回りをして確認しています」
「前回の見回りは?」
「それが……昨日なのです。その時は、何の異常もなく……」

その話を聞いて、三人は思わず顔を見合わせた。

「昨日?!じゃあ、確認してから一日も経たずに盗まれたってこと……?」
「鍵はどこだ?」
「それは、私が常に携帯しています。今も手元に」

ローズは困惑した様子でネックレスに取り付けられた鍵を見せる。
確かに、これだけ身近に鍵を保管していた上に昨日確認していたなら、盗まれたなどそれこそ青天の霹靂だろう。
ローズは更に続けた。

「そもそも、セフィリアについてはほとんど誰も知らない筈ですし、知っていても扱いが難しいものですので、勝手に持ち出されるなんて思ってもみなくて……」

ジオはその言葉に腕を組み、渋い顔で立ち上がった。

「保管室を確認してもいいか?」
「はい、お願い致します」

ローズは頷き、慌ただしく席を立つ。
レアとデイジーも、二人の後に続いた。



︎✿



「こ、これは……!」
「……!」

離棟地下、霊安室。
薄暗く陰鬱な空気の漂う静かな部屋には、明らかに異常な痕跡が存在していた。

数少ない備品─棚や椅子、照明器具などは、どう見ても配置がめちゃくちゃになっており、誰かが手当たり次第に動かしたような状態にされている。
そして奥には、確かに扉のようなものがあった。
しかし、隠し部屋と言う割には秘匿されておらず、何よりひしゃげて見る影もない。
その向こうには、破壊されたガラスケース。

誰かが侵入し、強引に盗んだ跡が残っていた。

「まさか、一晩でこんなことに……」

呆然とするローズ。
ジオも渋い顔で狼藉の痕跡を見つめている。

「これは、セフィリアがここに保管されてることを知ってる奴の仕業だな」
「ええ、そうでしょう……」

ローズは力なく頷きを返した。

「霊安室は、基本的には使われない部屋なので……騒ぎを起こさず、ここだけに侵入している時点で、犯人には確信があったのでしょうね」
「それはそれで、大問題ではあるんだがな」

どこからか、情報が漏れていたことになる。
しかも、国の機密を知るような立場の者から。

難しい顔で黙りこくるジオを気遣うように見つめるレアの横で、デイジーはじっと現場の観察をしていた。

霊安室全体が荒らされていることから、犯人はセフィリアが霊安室にあることは知っていたものの、具体的な保管場所までは知らなかったようだ。
棚のどかし方はかなり乱雑で、焦りや苛立ちが感じられる。

「……」

ふと、ローズの持つセフィリアに目が行った。
デイジーはとことこと彼女に近寄り、声を掛ける。

「……セフィリア、借りてもいいですか?」
「えっ……?」

きょとんとするローズ。
ジオがデイジーへ視線を向けた。

「何か考えがあるのか?」

デイジーはこくんと頷き、ジオを見上げる。

「これ……私が使ったら、もっと、色々なもの、視えるかも」
「……!」

ジオとレアが、目を見開いた。

「そうか、デイジーなら……」
「確かに、試してみる価値はありそうね」

物に宿る感情さえも見抜けるのなら。
神の力を借りれば、もっと多くのことが視えるかもしれない。

「……私、ミリシア教徒じゃないけど」
「う、うーん……」

ぽつりと付け加えられた一言にレアが微妙な顔になったが。

「この場合って、使えるのかしら……?」
「前例は間違いなく無いな」

そう言いつつも、ジオはローズからセフィリアを受け取り、そっと布を開いて中身を取り出した。
ローズが少し不安げに三人を見つめる。

「よ、宜しいのですか……?」
「責任は俺が取るから問題ない。デイジーの能力は非戦闘系だし、何かあったらどうにかする」
「……グラジオラス様がそう仰られるのであれば」

随分曖昧な説得だったが、ローズは静かに頷いて引き下がった。
レアは苦笑していたが、確かな説得力があるから不思議だ。

許可は下りた。
緊張感のある沈黙が漂う中、デイジーは恐る恐るセフィリアへ手を伸ばした。
その指が、硬い花弁に触れ─

「───!!!」

紅い瞳が、はっと見開かれる。

「何か見えた?」

不安げに尋ねるレア。
デイジーはしばらくの間黙りこくり、そして呟いた。

「……男の人が、二人。ドアを、壊してる」
「「「!!」」」

三人がはっと目を見開く。
デイジーは、少し怯えるようにぎゅっと拳を握り、再び口を開いた。

「セフィリア、持ってるのは……女の人。黒い髪と、黒い羽と……赤い目の、女の人……」

デイジーにしか見えない、その景色の中で。
冷たい瞳の女が、真っ直ぐにデイジーを睨みつけていた。

「…………っ、はぁっ、はぁっ……」
「おっと」

ふと、デイジーがぐらりと体を傾け、咄嗟にジオが支えた。
強い力の反動か、無感情な顔にも明らかに疲労の色が浮かんでいる。

「……すごい、疲れた……けど、視えた……」
「まさか、過去の出来事をそのまま見れちゃうなんて……」

かなり驚いた顔のレア。
ジオも、セフィリアを丁寧に包み直してレアに預けつつ、デイジーをしっかり抱えながら呟いた。

「お前のステルラは、本当に不思議だな……でも、おかげで犯人像が見えた」

ジオは微笑み、ローズへと視線を向けた。

「ここからは、聖樹管理局に引き継いでもらう。セフィリアの保管については、再度協議する必要があるし、一旦俺に預けさせてくれ」
「え、ええ、それが宜しいかと」

デイジーの言葉に驚いていたローズもジオの言葉で我に返り、深々と頭を下げてきた。

「この度は、私の不手際でご迷惑をお掛けしました。この件について協力できることがあれば、お申し付け下さい」
「いや……あんたのせいじゃない。そんなに気負わないでくれ」

ジオは居心地が悪そうに肩を竦めつつ、デイジーを軽々と抱え上げてレアに目を向ける。

「わ……っ」
「一先ず、デイジーを休ませないとだな。一旦事務所に戻ろう」
「そうね」

手短に会話を交わすジオとレア。
突然抱き上げられたデイジーは、少し赤くなってジオをむっと見つめる。

「わ、私、歩ける……!」
「無理するな。荷物にもならん」
「……うー」

ぷくっと膨れるデイジー。
レアはやれやれとジオを呆れた目で見ていたが、何だかちょっと羨ましそうな顔をしていた。

ローズに暖かい視線で見送られつつ、三人は事務所へと戻るのだった。



︎✿



そして、その道中。

「……面倒なことになったな」

鋭い目のジオが、レアを庇うように引き寄せながら零す。

雲が僅かに晴れ、陽射しが差し込み始めた午後。
立ち尽くすジオと、彼に抱えられながら傘を差すデイジーと、緊迫した顔でセフィリアを握り締めるレアは。

武器を構えた悪魔族の集団に、取り囲まれていた。
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