転生未遂から始まる恋色開花

にぃ

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第8話 無自覚なスキンシップが増えてきた美少女作家

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「これは『僕が思う』恋愛小説のタブーだけど言っていい?」

「もちろんです」

「正直、これを聞いたら雨宮さん怒るかもしれないけどそれでもいい?」

「絶対に怒りません」

 自分では今から発言する言葉は真理だと思っている。
 いや、僕はその真理を覆してほしいのかもしれない。
 そんな期待も薄っすらと込めて、力強く、云う。

「早々に主人公と相手を恋人同士にさせること」

「えっ?」

「それが僕の思う恋愛小説のタブーだと思う」

「納得し兼ねます! それってどういう……」

 言ってはいけないことを言ってしまった後悔。
 聞いてはいけないことを聞いてしまった焦燥。
 お互いの声は若干掠れていた。

「恋愛小説の作品のピークってどこだと思う?」

 不意に質問を返され、雨宮さんは驚きを交えつつ考察し、言葉を返す。

「一般的には起承転結の『転』の部分……です……けど――」

 雨宮さんの言うことは正解だ。
 「起」から始まり、「承」で徐々に話が盛り上がっていき、「転」で一気にピークを迎える。
 作品の基本の考えであり真理。僕もその考え方には納得はしている。
 雨宮さんはまだ言葉を続けそうな雰囲気の言い方なので彼女の次の言葉を黙って待った。

「でも私的には恋愛小説は『結』こそが最重要だと思います」

「それはどうして?」

「読者の方々は付き合った男女がどんな甘い日々を過ごしているか、そこが一番気になるじゃないですか!」

「そっか。ちなみ雨宮さんは告白イベントって起承転結のどの部分だと思う?」

「『承』です! 主人公と相手はさっさとくっつけるに限ります」

 鼻息を荒くして熱く語る雨宮さん。
 僕の主張に断固反対と言わんばかりに力が入っている。

「僕もね恋愛小説のピークは『結』だと思うんだ」

「ですよね、ですよね!」

「そして主人公と相手をくっつけるのは『結』しかないとも思っている」

「え……?」

「恋愛小説は主人公と相手がくっついたら終わりにすべきだと思う」

「な、なぜですか?」

「作品のピークがそこだからだね。主人公と相手がくっついたらそこから先の物語は蛇足だ」

「は、はっきり言いますね」

「うん。告白イベントがピーク。そこから先は面白さが下降する。間違いない」

「うぅー」

 ものすごく不満げに頬を膨らませてにらみつけてくる雨宮さん。
 ただ、どんなに睨まれても僕は自身の主張を曲げることはしない。

「雪野さん」

「なに?」

「――頭にきました」

「えっ?」

「弓野先生に恋人同士になってからの甘い日々を『蛇足』と言われたことに桜宮先生はぷんすかぷんです」

「初めて聞く怒りの表現だなぁ」

「とにかく! それくらい怒りマックスってことです」

「怒らないって言ったのに……」

 でもこうなることはなんとなく予想はついていた。
 恋愛小説を書き手は雨宮さんが言う通り『結ばれた主人公相手のラブラブ生活』を書きたいものだ。
 だけどその根本を蛇足と罵られたらそりゃあ怒るよなぁ。

「雪野さん! 私決めました!」

「な、何かな?」

「私の描く新作の恋愛小説は雪野さんが否定した『主人公と相手が早々にくっつく』作品に的を絞ります」

「そ、それは……どうなのかなぁ?」

 面白さ的に。

「そして雪野さんが否定した『蛇足』の部分が一番面白いといわれる作品を書きます!」

「…………」

 無茶、無謀。
 そういった感情も確かにこのときあった。
 だけど、僕はそれ以上に――

「――嬉しいよ、雨宮さん」

「えっ?」

「僕はね、僕の考えを否定してくれる作品を欲していたんだ。でも僕自身では力不足だったからできなかった。でも桜宮恋なら、もしかしたら――」

 その続きを言い終える前に雨宮さんが僕の両手を力強く包み込む。

「書きます! 書きますから私の作品を楽しみにしててくださいね」

「わ、わわわ、わかりましたたた。た、楽しみに、し、しています」

「……なんか急に言葉が弱くなりましたね? さっきまで自信満々に持論を語っていたのに」

「そ、そりゃあ、その……」

 視線が雨宮さんのか細い手に包まれた自分の両手に移動する。
 雨宮さんもその視線を追って、同じ地点で止まる。
 瞬時に紅潮し、慌てて僕の両手から離れていった。

「えへへ。そ、その、きょ、今日は遅くなったから、か、帰りましょうか」

 ごまかすように帰宅を促す雨宮さん。僕もそれに同調する。

「あ、お、送るよ」

「そんな! 悪いですよ」

 ここで『大丈夫だから家の近くまで送るよ』って言えないのが雪野弓だ。
 まぁ、雨宮さん的にもよく知りもしない男に送られるのは微妙か。

「じゃあ分かれ道まで一緒に帰ろう」

「は、はい」

 この提案には照れながらも同意してくれた。
 うん。友達かどうか微妙な関係なのだからそのくらいの提案が妥協点か。
 寒空の下、僕らはゆっくりと帰宅の路につく。
 先ほどの小説談義の時とは打って変わって二人の間に会話はない。
 でも不思議と沈黙が自然と思えた。
 無理して会話で間を持たせる必要なんてない、隣を歩く雨宮さんからそんな雰囲気を感じたのは気のせいではないと思いたい。
 冬の到来を感じさせるような涼やかな風を心地よいと思えたのは初めてだった。






「えっ? こちらが雪野さんのお家なのですか?」

「うん」

「普通に私の通学路の途中にあるなんて……」

「なんと」

「私の家、ここから歩いて5分くらいの所ですよ」

「なんとなんと」

 どうやら僕らは割とご近所だったらしい。
 ちなみに僕の家は学校から徒歩15分ほどの場所にある。
 ていうか僕が今の高校を選んだ理由は家から一番近いからというのが当てはまる。
 もしかしたら雨宮さんも同じ理由なのかもしれない。

「この距離なら毎日一緒に帰れますね」

「~~っ!」

「どうかしましたか?」

「な、なんでもない」

 小首をかしげて不思議そうに顔を覗いてくる雨宮さんに対し、僕はつい顔をそらしてしまった。
 いや、まぁ、確かに恋愛指導の相談受け付けたけど、その、『毎日やりましょう』と言われたのと同意味なことを申されたので、嬉しさやら恥ずかしさやら色々な感情が綻び舞って渦巻いた。

「明日から連休です! 書いて書いて書きまくりますよ!」

「そ、そう、頑張って」

 やる気満々な雨宮さんに小さくエールを送る。
 不意に雨宮さんはピタっとその場に立ち止まり、神妙な面持ちで振り向いてくる。

「――私、純文学以外を書いてもいいんですよね?」

 急に真剣な表情で何を聞いてくるかと思えばとんだ愚問であった。

「当たり前じゃん。ていうか普通に楽しみだよ桜宮恋の大衆作品。早く読ませろください」

「なんですが読ませろくださいって」

 クスクス笑う。

「そういえば雪野さんは書かないのですか?」

「僕か……うーん」

 『だろぉ』に投稿した新作は書くつもりではいるが、異世界転生モノ以外を書く気は今それほど起きない。
 
「まぁ、気が向いたらね」

「わかりました。それでは雪野さん。今日はこれで。参考になるお話ありがとうございました。また月曜日の放課後で」

 控えめに手を振って別れを告げられる。
 仕草がいちいち絵になって可愛いなぁ。
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