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第21話 ライトノベルにおける表紙の重要性
しおりを挟む「瑠璃川さんが桜宮恋の影響を受けていることはすごく伝わったよ。地の文が桜宮恋節満載だった」
「ええ。私桜宮恋大好きだから」
「わわ、なんか照れます」
顔を赤らめながら俯いてもじもじする雨宮さん。
「可愛すぎないかしらこの子。ねえ雪野君」
「わかる」
それに関しては同意しかない。
理解者が出来て嬉しい。
「わ、私のことはいいですから! 瑠璃川さんの小説の感想の続きを聞かせてください」
「うん。えと、瑠璃川さんの作品はレベルが高いと思う。でもやっぱり執筆に不慣れな感じも受けたんだ」
「例えばどの辺が?」
「んー、句読点の付け場所に違和感あったりとか、重言が多く見受けられたりとか」
「重言って?」
「同じ意味の言葉を一つの文節内に盛り込むこと。つまりは『頭痛が痛い』みたいなやつ」
「なるほどね。勉強になるわ」
「だけどね。良いところもあった」
「どこかしら?」
「キャラ!」
「あら。それは素直に嬉しいわね。どこキャラが気に入ったの?」
「んー、雨宮さんが未読だから言っていいのか……」
「大丈夫ですよ。ネタバレ上等ですっ」
「そっか。僕の好みなだけかもしれないけど、中盤から出てくる設楽ってキャラ」
「そこでまさかの悪者キャラに焦点がいくとは……」
「いや、このキャラ本当にすごいよ。純粋な悪者キャラって登場させるの勇気いるんだよ」
「どうして?」
「自分の作品の登場キャラには愛着が出ちゃうから。たとえ悪者でも救いを与えたり、憎めない要素をつい織り交ぜたくなるんだ」
「あー、わかります!」
雨宮さんが大きく頷きながら同意してくれる。
僕も未だにやっちゃうんだよな。悪役キャラへの救済って。
「だけど瑠璃川さんはそこの所をしっかり割り切ってヘイトを高めるキャラをしっかり動かせているんだ。しかも変な救済もない。それが良かったです」
「だって悪者よ? 自分で書いてて胸糞悪くなるキャラなのよ。哀れな結末にしてやろうってプロット段階から決めていたわ」
胸をそらしながら自慢げに鼻を鳴らす瑠璃川さん。
「作品をプロット通り進行させるってのもプラス要素だよ。脱線せずに小説を書き上げるのも地味にすごいことですから」
プロットとは脱線するもの。
作者も気づかないうちにプロットの内容とは違う展開に話を持っていきがちになるのだが、瑠璃川さんはそこをブラさずに路線を守り続けていけたみたいである。
「ね。そろそろ教えててくれる? 雪野くんは私の作品のどの部分を見てすごいって思ったの? 設楽の件だけであんなに夢中になって読み込んだりしないよね?」
「あー、うん。そうだね。僕が夢中になっていたのは――」
「いたのは?」
「わくわくですっ」
期待の視線が二つ。
そう、僕が夢中になっていたのは全く別の要素のことだった。
すなわち――
「『絵』だ」
「「絵?」」
雨宮さんと瑠璃川さんの二人が首を傾げて不思議そうに聞いてくる。
「うん。瑠璃川さんの作品には要所ごとに挿絵があったんだ。表紙もあった。僕はまず表紙のカラーページにしばらく心を奪われていたんだ」
売れる小説の大きな要素として『目を引く表紙』を描いてもらえること。
僕の処女作『大恋愛は忘れた頃にやってくる』がそこそこ売れたのは雫がそれを実践してくれたからだ。
瑠璃川さんの作品にもそれが大いに盛り込まれていた。
だから僕は最初にこの作品を見たとき一目で『商品化すれば売れる』と思ったのだ。
それだけこのカラー表紙には他者の目を引き付ける魅力が備わっていた。
更に言うならこの作品は小説よりも適した形はある。
だけどいうのは止めておこう。多分瑠璃川さんはこの作品を『小説』として紹介したいんだ。
「私の絵、気に入ってくれたんだ?」
「ってことはやっぱりあの絵は瑠璃川さんが自分で書いたんだ! すごいですよ! 本当に!」
「ふふーん。嬉しいわ。正直小説の内容よりも絵を誉めてくれたことの方が私的にポイント高いわよ」
「そ、そんなにすごいのですか? 雪野さんちょっと見せてください」
「うん。ほらっ」
「……わぁぁぁ」
僕のスマホを覗き込んだ雨宮さんがパァァっと花開くような笑みを浮かべている。
僕もきっと同じような表情を浮かべていたのだろう。それくらい彼女の絵の完成度は高かった。
「――ふむ」
イラストに見入っている僕らを尻目に瑠璃川さんは一つ納得いったような表情を浮かべ出す。
その様子に気づいた僕らは同時に小首を傾げて瑠璃川さんに向き合った。
「雪野くんと花恋ちゃん、二人は恋人同士なのね」
ガツンっ!
瑠璃川さんの言葉に反応した僕らは勢いよく頭同士をぶつけ合い、その場に蹲る。
「ご、ごめん雨宮さん。だ、大丈夫だった?」
「つぅぅ。は、はい。雪野さんこそ……」
互いに涙目のまま無事を確かめ合う。
その様子を瑠璃川さんが微笑ましそうに眺めていた。
「頭がぶつかり合うくらい近い距離に居ながらお互い離れようとしないのだもの。それはもう恋人同士の距離感だわ」
「「ち、違いますっ!」」
「あら? そうなの? でも昨日手を繋いで一緒に帰っていたじゃない」
ガッツン!
「「つぅぅぅぅぅ!」」
瑠璃川さんの次なる言葉に過剰反応した僕らは今度は体同士がぶつかった。
ていうか見られてた? あの桃色っぽい空気の僕らを見られてた?
「本当にごめん雨宮さん。怪我はない? 僕変なところ触らなかった?」
「だ、大丈夫です。私の方こそ距離感掴めずごめんなさい。る、瑠璃川さんが連続でおかしなことを言うものですから……」
「その様子だと、好きあっているのけど付き合ってはいないって所ね。面白い題材ねお二人さん」
「「題材とか言わないでください!」」
僕と雨宮さんの言葉が寸分違わずハモりだす。
心なしか距離を空けてしまう僕と雨宮さんだった。
「でもクラスの皆は貴方達二人に興味津々みたいよ。ほら」
促されて振り返ってみると、教室に残っていたほぼ全員が僕らの様子を興味深そうに眺めていた。
「「うっ……」」
僕と雨宮さんの呻きがハモる。
「普段物静かな雪野くんが饒舌なことに対する驚きと、急に現れた別クラスの美少女が居る新鮮さと、クラスのマドンナが楽しそうに談義している姿が展開されていたら誰でも見るわよね」
「うぅぅぅぅ……わ、私、これで失礼しますねっ!」
顔を真っ赤にし、クラスのみんなに見守られながら早々と出ていく雨宮さん。
微笑ましい動物を見るようなみんなの視線は妙に暖かかった。
みんながほっこりとなごんでいる中、雨宮さんはなぜかすぐに戻ってきて瑠璃川さんに向き合った。
「る、瑠璃川さんのアプリID聞くの、わ、忘れていました。私も小説読みたいので、その、教えてもらってもよろしいですか?」
恥ずかしそうにスマホ画面に友達交換用のQRコードを差し出す雨宮さん。
クラスのみんなのほっこり度が更に上がった気がした。
「本当に可愛いわね貴方」
「わかる」
「か、かかか可愛くなんてないです! 雪野さんも同意しないでください!」
2人はID交換を済ませると、脱兎のごとく雨宮さんは飛び出していった。
僕も帰ろうと支度をすると、瑠璃川さんに呼び止められる。
「雪野くん。あの子はちゃんと守ってあげないと駄目よ」
「えっ? 守るって……?」
「貴方、知らないの? 花恋ちゃんのクラスでの立ち位置」
「どういうことです?」
「貴方に言っていないということは、もしかしたら知られたくないことなのかもしれない。だから私からは言わない」
僕は雨宮さんのことはまだ知らないことが多い。
その中でも瑠璃川さんが突如申し上げた一件はその中でも大きな部類に属している気がした。
「雪野くん。明日3-Eの教室を覗いてみなさい。たぶん貴方ならすぐに察することができるから」
「う、うん」
「じゃあね、雪野君。小説の感想ありがとう。また書いたらデータ送るから」
それだけ言い残すと瑠璃川さんは早々に教室から去っていった。
少し不穏な空気感が残る教室から脱出するかのように僕も帰宅につくことになるのであった。
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