転生未遂から始まる恋色開花

にぃ

文字の大きさ
54 / 62

第54話 二人の天才に救われた そして一人の同級生にまた救われる

しおりを挟む

「それで、結局プロット作成をしながら私の通話を待っていた……と」

「あ、あはは。なんか集中できなくて」

 瑠璃川さんとの初通話。
 雫との毎日の通話で慣れたものだと余裕こいていたが、瑠璃川さんとの初めての通話は少し緊張してしまっていた。

「貴方思っていたよりも小説バカだったみたいね」

「はいはい。どうせ小説バカですよ」

「あら。褒めたつもりなのに」

 瑠璃川さんはいつも通りみたいだな。そりゃあそうか。学園のアイドル的存在だもんな。通話する友達もたくさんいるのだろうな。

「――いいえ。私の連絡先知っている人は実は少ないのよ。通話だって初めてよ」

「通話でも心を読まないで」

 この人、本当にテレパス能力持っているんじゃないだろうか。以心伝心で説明できないレベルで心が読まれている。

「ふふ。不思議ね。貴方の考えていることはなぜか手に取るようにわかるわ。私たちめちゃくちゃ相性が良いのかもしれないわね」

 本当に嬉しそうに言ってくる。きっと本心でそう言っているのだろう。
 瑠璃川さんとは趣味も思考も共通点が多い。見ているアニメもほぼ一緒だし。
 そうだ試しに今期アニメのおすすめ作の推しキャラを聞いてみよう。

「瑠璃川さん。今期アニメ」

「ええ。『アヒル転生』よ。推しキャラは――」

「鳥丸ガァ子、だよね」

「さすがね雪野君正解よ」

「うん」

 嘘でしょ。
 最短で会話が成立している。
 気味が悪いくらい心が読まれているし、心が読める。
 冷や汗が止まらない。

「さすがにちょっと冷や汗でたわ」

「瑠璃川さん。実は僕ら双子ってことない?」

「双子でもここまで以心伝心はないでしょ。なんなのよ貴方」

「ここまでくると逆に笑えてくるね」

「ふふ。全くね。貴方こんなに面白い人だったのね」

 互いに笑いあえたおかげで緊張はかなり和らいだ気がする。

「前談はこれくらいにして、本題に行かせてもらうわね」

「あ、はい。何かな?」

 あの瑠璃川さんがわざわざ1対1で通話を呼び出すほどのことだ。
 よほど重要なことだと思う。

「まず単刀直入から聞くわ。『ウラオモテメッセージ』は貴方の作品で間違いない?」

 なるほど。さすが瑠璃川さんだ。
 アレを読んだだけでそこまでたどり着いたんだね。
 ならば僕も彼女に応じよう。
 僕は正直に答えた。






 【main view 瑠璃川楓】

 『小説家だろぉ』で投稿された雪野くんの作品を拝見した。
 『異世ペン』はよくある異世界転生モノと思いきや、設定がしっかりと練りこまれており、中盤以降は夢中になって読むことができた。
 雫ちゃんは日常会話回が好きと言っていたけれど、私はどちらかというとバトル設定や世界観に惹かれていた。たぶん私みたいなのは少数派だろう。
 でも雪野くんが見てほしいのは会話回よりも説明回だと私は感じた。
 ただ主人公に無双をさせるだけではなく、どうして主人公が無双できるのか、それを世界観説明回を読み込むと納得に至る。
 正直言うと雪野君の過去作『大恋愛は忘れた頃にやってくる』は私の中では『そこそこ面白い』という評価だった。面白いことは面白いけど、どこか納得感に欠けていると思えた。
 売れたのは雫ちゃんのイラストが大きかったのだなと思った。
 異世ペンは違う。面白さに納得感がある。雫ちゃんの挿絵が素晴らしいことはもちろんだけど、それ以上に話の面白さが上回っていると素直に感じた。
 私も小説執筆を嗜んでいるが、素直に『負けた』と感じたのは、大恋愛じゃなく異世ペンの方だった。
 だけど――それ以上に――

 『ウラオモテメッセージ』

 雪野くんの『だろぉ』での処女作であるこの作品を異世ペン読了後に拝見したのだが――
 正直度肝を抜かれた。
 『敗北』どころの話じゃない。私なんかでは一生かけても届くことのない領域。
 面白さに『震えた』のは初めての経験だった。

 だけど――

 この内容は――

 私は一つの疑惑を彼に抱く。
 疑惑通りでも、疑惑通りじゃなくても。
 私は彼を見る目を変えなければいけなくなりそうだ。






「まず単刀直入から聞くわ。『ウラオモテメッセージ』は貴方の作品で間違いない?」

 もし『NO』なら詳しく事情を聴く。
 もし『YES』なら……

「答えは『YES』だよ瑠璃川さん。『ウラオモテメッセージ』は間違いなく僕の作品だ。もし疑うなら雫に聞いてみるといい」

 そうなのね。
 分かっていた。

「信じるわ。これはただの確認なの。雪野君、キミは『被害者』だったのね」

 色々と察した私は彼に同情を抱く。
 そういえば雪野君は一時期人間不信になっていたと言っていた。自分から人を遠ざけ、孤独になり、少しずつクラスから浮いていった。
 彼に起こったウラオモテメッセージ絡みの事件の時期と重なる。

「雪野君。今からでも戦うつもりはない?」

「…………」

 無言だ。当然だろう。色々と考えることはあるに違いない。
 もし彼に抗う気力があるならば私は全力で彼の支援をするつもりだ。

「いいんだ。瑠璃川さん。ウラオモテメッセージの件は運が悪かったと思ってもう吹っ切れているんだ」

「そぅ……わかったわ」

 嘘だ。
 吹っ切れるはずなどない。
 私が彼の立場なら未だに自分の不運さを呪っていただろう。復習できる機会があればそれに乗っかりたいと思っただろう。
 だけど彼は違う。
 私たち似ていると思ったけど、根本は全然違うみたいね。

「瑠璃川さんの言いたいことも伝わっているよ。僕の気持ちに立って味方になってくれるんだよね。本当に心強い。そして本当に嬉しいんだ。でも大丈夫だから」

 悠々と言葉を紡ぐ彼の言葉は晴れやかな印象を感じた。
 落ち込みとか復習とか一切感じない強い言葉。

「雪野君はどうして吹っ切れたの? 私だったらたぶん二度と小説の世界に戻ろうとは思わないと思う」

「それはあの二人のおかげだよ」

 あの二人。
 雫ちゃんと……花恋ちゃん?

「あの事件が発覚した当初、僕は本当に失意のどん底だった。それこそ復習を誓うほどにね。今だから言うけどその当時の僕はひどい精神状態だったよ。たぶん今の僕からは想像もできないほどに」

「それは仕方ないと思うわ」

 当たり前だ。簡単に立ち直れるはずがない。
 この事件はそれほど根深いものなのだから。

「失意のどん底に居た僕を雫が引き上げてくれたんだ。ひどい精神状態だった時の僕を毎日励ましてくれた。毎日お見舞いのイラストも描いてくれていた。本当に感謝しかないよ。恩を返せる時がきたら必ず返す。雫が困っていたらすべてを投げ出してでも助けにいく。比喩じゃないよ? 本気でそう思えるくらいあの子は僕の恩人でもあるんだ」

 雪野くんと雫ちゃんの間には強いつながりがあるとは思っていた。
 なるほど、納得ね。この二人は誰よりも強くつながっている。

「少しずつ執筆意欲が上がって来た頃に雨宮さんと出会った。あの子の小説への姿勢が再び僕をいい意味で小説バカにしてくれたんだ。雨宮さんと出会っていなければ異世ペンも完結していたかわからないし、少なくとも新作を書こうとも思わなかったと思う。雨宮さんが僕を再び小説の世界に引き上げてくれたんだ」

 良かったわね花恋ちゃん。
 貴方はたぶん無自覚だと思うけど、貴方の存在は確実に雪野君の中で大きくなっているわよ。

「だから『事件』については本当にもう大丈夫。今の僕は過去の悲惨な出来事より未来の新作を如何にたくさんの人に読んでもらうか、その考えしかないよ」

 なんて強い人なのだろう。
 この人は過去から目をそらしているわけじゃなかった。
 過去の出来事を自身の中で『大した事ないこと』に昇華させたんだ。

「わかったわ雪野君。私も貴方の意見を尊重する」

「ありがとう。瑠璃川さんが親身になってくれるなんて本当に嬉しいよ」

 いい人ね。
 聞いているこっちが前向きになれてくる。
 私はこの人から学ぶべきことが多い。

 でも。
 だからこそ。
 雪野君の優しさに付け入っていた『敵』が許せなくも思った。

「雪野君。私が力になれることがあればいつでも言ってね」

 私は彼の力になりたい。
 雫ちゃんほど繋がりがなくても、花恋ちゃんほど影響力がなくても。
 私だって彼の友達なのだから。
 彼の痛みを分けてもらいたい。
 彼が追った傷はたぶん全て癒えたわけではないはずだから。
 それに――


「――作品の『盗作』なんて本来は絶対に許してはいけないことなのだから」


 盗作された雪野君の作品のウラオモテメッセージ。
 雪野君が盗作した加害者じゃなくて良かったと思うべきなのか、それとも大きな傷を負わされた被害者であることを慈しむべきなのか。
 今の私には何とも言えなかった。

「……うん」

 少し重い雰囲気もまま雪野君との通話は終了した。
 これが今年最後の彼との会話になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

もう一度、やり直せるなら

青サバ
恋愛
   告白に成功し、理想の彼女ができた。 これで全部、上手くいくはずだった。 けれど―― ずっと当たり前だった幼馴染の存在が、 恋をしたその日から、 少しずつ、確実に変わっていく。 気付いた時にはもう遅い。 これは、 「彼女ができた日」から始まる、 それぞれの後悔の物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...