異世界に行ってしまった幼馴染が俺に異能の力を託してくれたのだが

にぃ

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第8話 俺のミルク

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 思ったよりも呆気なかった。
 それが正直な感想である。
 魔族っていうから暗黒魔法的なものをバンバン使ってくるのだろうなと思っていたのだけど、結果として相手は何もしてこなかった・・・・・・・・・
 いきなり俺達の目の前に現れて、襲われて、そしてあっさり撃退。
 まるでただの獣。
 相手が弱すぎたのか、それとも牛乳属性が強すぎたのか……
 とにかくこんなにあっさり終わってしまうとは全く思わなかった。

「あ、葉子、大丈夫か? 立てそう?」

 腰が抜けている葉子に手を伸ばす。

「あ……は、はい……ありがとうございます」

 嫌がってくるかもと思ったけど、葉子は素直に俺の手を握り、立ち上がった。

「小鳥も」

「う、うん。ありがとう兄さん」

 尻もちついていた妹も立ち上がらせ、服についた砂を叩き落としてあげる。

「えっと……その犬みたいな魔族……死んじゃったのですか?」

「いや……どうだろ……確かめてみた方がいいかな?」

「あ、危ないよ! 近づかない方がいいと思う!」

 生死を確かめようと思ったけど小鳥に全力で止められたので放置することにする。
 さて、ならばこれからどうしようか。

「状況の整理とか、二人に聞きたいこととかあるけどさ……まずは……」

「まずは?」

「全員無事でよかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 俺は涙を散らしながら小鳥と葉子の二人に抱き着いた。

「ちょ、兄さん!」

「は、離れて……く、くださいまし」

「よかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「……聞いちゃいないですわね、あなたのお兄さん」

「昔から過保護な一面あったから。こうなった兄さんは中々離れないですよ。諦めて抱きしめられ続けてください」

「も、もう……仕方ない人ですわね」

 結局この日は俺の号泣が止まらず、話を聞くどころではなくなってしまった。
 夜も遅かったのでこの場で解散。
 色々ありすぎて果てしない疲労感に襲われた俺は帰宅と同時に眠りこけてしまった。






  コンコン。

「兄さん。起きてます?」

「……ん」

 起きている。
 けどなんだか身体がだるい。

「……だるい」

 とてつもない倦怠感に襲われて起き上がるのがつらい。

「それ、たぶん異能の使い過ぎの時に起こるガス欠状態。私も経験あるんだ。その状態になっちゃうと2~3日はつらいと思う」

「……そっか」

「今日は祝日だし、一日寝ていた方がいいよ」

「いや、大丈夫だ。ことり、テーブルに置かれているタンブラー取って」

「? これですか?」

 銀色のタンブラーを両手で持って俺の前に差し出した。
 タンブラーに異能の牛乳を流し入れる。
 適量入ったらそれを受け取り、少しだけ飲む。

「いよっっし!! 全・回・復!!」

 目をガッと見開き、大きく伸びをする。
 その様子を見た小鳥が信じられないと言わんばかりに驚いていた。

「う、うそ? ガス欠状態をそんな一瞬で回復するわけが……」

「するんだな。これが俺の牛乳属性の力だ。兄さんの能力はヒーラーなんだぞ?」

「牛乳窒息攻撃を繰り出すヒーラーって……」

「そんなことよりも小鳥も飲め。兄さんの牛乳はうまいぞ。ほれ」

 タンブラーには半分くらい牛乳が残っていたので、それを無理やり小鳥に手渡した。
 なぜか少し顔を赤らめて飲むことを躊躇していたが、やがて上品に口をつけて残りの牛乳を飲んでいく小鳥。

「お、美味しい! それに本当に疲労が取れたような気がする」

「兄さんのミルクで良かったら毎日出してやるからな」

「……うん。毎日……飲みたい」

 …………
 うん。ちょっと下ネタチックに言ったけど通じなかったか。
 純真なままスクスク育ってくれよ、妹よ。

「……改めて聞くまでもないけど、兄さんも異能を授かっていたんだね」

「ああ。牛乳属性だ」

「『……土、風、牛乳、それらの異能を一つずつ皆に授ける』」

「ああ。夢の中で舞奈が言っていた言葉か」

「私の聞き間違いじゃなかったんだ。なぁに牛乳属性って」

「……舞奈に聞いてくれ」

 大きくため息をつくと、会話は止まり、一旦話はお開きになる。
 話の続きは朝食を取りながらゆっくり行うことにした。






「今更聞くけど、小鳥と葉子ってどういう関係なんだ?」

 朝食のパンをもぐもぐ食べながら、俺はふと気になったことを小鳥に訪ねてみた。

「……? 兄さんの知り合いなんじゃないの?」

「……?? いや、小鳥の知り合いだろ? お前たち二人が一緒にいる場に俺が出てきたんだから」

「まぁ、そうだけど。私ね、いつもあの場所で風の異能の特訓を一人でしていたの。でも最近、あの人……葉子さんから急に声かけられるようになって」

 ってことは、もしかして小鳥の方も葉子のことをよく知らないってこと。

「あの人、いつも兄さんのことを聞いてきていたよ? 牛嶋来海と会わせてほしい、家に案内してほしいって」

「えっ?」

「ちょっと普通じゃない様子で怖かったから、兄さんと合わせることはできませんってハッキリ断っていたの。でも翌日もその翌日も会うたびにあの人兄さんのことを聞いてきて……そして昨日はついに強硬手段に訴えてきて……」

「それで戦闘が始まりかけていたのか」

 しかしなんでだ?
 俺と葉子は知り合いではない。
 なのにどうして向こうは俺のことを知っていたんだ?

「まっ、そのうち本人に聞けばわかることか」

「——では教えて差し上げますわ」

「「うわぁぁぁぁぁっ!!」」

 不意に背後から聞こえてきた知り合いの声。
 俺達兄妹は驚きで椅子からコケ落ちそうになってしまった。

「よ、葉子!? どうして葉子が俺たちの家に!?」

「あら。私はお友達の家に遊びにきただけですわ」

 お前といつ友達になった。

「せめてチャイムを鳴らしてから入ってきてください」

 いや、そういうことじゃないぞ妹よ。

「なんで葉子が俺たちの家を知っているんだ!?」

「昨日解散した後、帰ったフリして二人の後ろをつけたからに決まっているじゃないですか」

「さも当然のようにストーキングを暴露するのやめてくれる!?」

「いいじゃありませんか。それより来海、パン半分ください」

 言いながら葉子は勝手に俺の間の前のトーストを半分にちぎってむしゃむしゃ食べだしていた。

「おまっ! 俺のパンを!」

「来海。牛乳欲しいです」

「お任せあれ」

「それはいいんだ!?」

 俺は葉子の分のコップを持ってきて無から生み出した牛乳を葉子に差し出した。
 葉子はそれを美味しそうに飲み干してくれた。

「絶品ですわね」

「だろう! 俺の濃厚なミルクで良ければ毎日でも出してやるぞ」

「~~~~! こほこほっ!! ばかっ!!」

 顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俺をにらみつける葉子。
 心が汚れているなぁ葉子。小鳥を見習ってもらいたい。
 ニヤニヤしながら慌てふためく葉子を眺める俺。
 小鳥だけは終始頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら首を傾げて俺達二人の様子を眺めていた。
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