女神は堕落に染まってく

にぃ

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女神は堕落に染まってく番外編:魔王討伐RTA

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「四天王を倒し、ここまで到達できた勇者パーティはウヌらで初めてだ」

 俺、七井蒼汰は異世界転移者である。
 ちなみに転移してからまだ10日しか経っていない。
 俺はたった10日で四天王と呼ばれる魔族幹部を討伐し、魔王の元へと到達していた。

「どうだ? ウヌら魔族の軍門に下らぬか? 世界の半分をくれてやっても——」

「——ミリオさん! ファイアーボール乱れ打ち!」

「マンマミーヤ!」

 俺の指示の下、立派なヒゲが特徴的な仲間が両手の平からバレーボールほどの大きさの火の玉を投擲する。
 この人は強靭な肩を持っているので球速も中々エグイ。稀にスローカーブも入り交えたりして緩急もつけていたりする。

「うおわ!? ま、まだ我の口上の最中ではないか!?」

「うっさいな。俺はさっさと終わらせて帰りたいだけなんだ。その為には魔王消滅が必須条件なの」

「提案を断るにしても最後まで話くらいさせてくれても——」

「——ルンクさん! アイツの話長くて鬱陶しいから口元目掛けて爆弾投げて」

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 投擲力で言えばこの人の方が上かもしれない。
 人の頭ほどの大きさの爆弾を片手で軽々持ち上げて、魔王の顔面目掛けてストレート投球をする。
 勇者やめて砲丸投げ選手にでもなればいいと思う。

「もうわかった! ウヌらが話を聞くつもりがないことはもうわかった!」

 飛翔し、ファイアーボールと爆弾をアッサリとかわす魔王。
 さすがに奇襲くらいで堕とせるような柔な相手ではないということか。

「死ぬがいい」

 突き出された両の手から魔力の球体が生み出される。
 バチッバチッと空間の粒子が音を立てて猛っている。

「大雷撃=グス・ゲム・イエラ!」

 魔王の手の中から離れてた魔法は一気に堆積を広げこちらに放出された。
 パーティ全員を一網打尽にしようとするための広域魔法のようだ。

「——ガビィさん。アレ吸い込んじゃって」

「ぽよっ!」

 俺らのパーティの癒し系ガビィさん。
 一頭身しかない可愛らしい真ん丸ボディが宙で数回跳躍されると——
 そのボディが一気に拡張し、大きな口が開けられた。
 ガビィさんの『食事』である。
 まるでハリケーンでも発生したかのように暴風が巻き起こり、全ての物体がガビィさんの口元に吸い寄せられる。
 否——ガビィさんが食事可能なのは『物体』だけではない。
 対象が例え『魔法』であっても、それはガビィさんにとっては食事となるのだ。

「我の魔法を……喰っただと!? 古代の大魔族でもそんなことできんぞ!?」

「喰っただけじゃないさ。ガビィさん、大雷撃=グス・ゲム・イエラ!」

「ぽよっ!」

 先ほど魔王が放った魔法を今度はガビィさんが創造する。
 広範囲の雷が魔王を襲うが、奴は黒い翼を一振りさせるだけでガビィさんの魔法を消滅させた。
 あの魔法をそんなアッサリ打ち消せるのか……
 さすがに俺も額汗を浮かべる。
 ……が、大汗を垂らしていたのは魔王も同じだった。

「魔法の『コピー』など聞いたことないぞ!? そいつだけチートの幅がでかくないか!?」

 まぁ、確かに四天王戦は正直ガビィさん一人で何とかなったのは事実である。
 しかし、他二人を舐めていていいのか? 魔王よ。

「でやああああああああああ!」

「マンマミーヤ!」

「なっ!? こいつらいつの間に!?」

 ルンクさんの回転切りが魔王の片翼をアッサリと切り落とす。
 落ちた黒翼を足場にしてミリオさんが大きく跳躍。
 
「舐めるな!」

 魔王が再び雷撃を放つが、ミリオさんは自前のマントを翻すだけで雷撃を打ち消した。
 ミリオさんはそのまま魔王の顔面目掛けて渾身のパンチを繰り出した。
 魔王の巨体が一瞬グラつき、バランスを大きく崩す。
 その隙を逃さずルンクさんが魔王の足元目掛けてブーメランを投擲し、脛の辺りに命中した。
 魔王は痛みで尻もちをついてしまう。
 追い撃ちを掛けようと、ミリオさんがルンクさんの身体を足場にして再び大きく跳躍した。
 猛スピードでミリオさんが魔王に迫る。

「なんなのだ! こいつらの連携は!」

 ミリオさんとルンクさんのコンビネーションに翻弄されまくりの魔王。
 まるで互いの心が読めるかのようなシンクロされた動きにさすがの魔王も翻弄されていた。

 無表情のまま繰り出される波状攻撃に魔王は違和感を抱く。

「(こやつら……攻撃に自身の意思が感じられない。まるで機械人形でも相手にしているかのような感覚だ)」

 ただの機械人形相手ならここまで苦戦するはずがない。
 奴らの強さには何か秘密があるはず……
 そう考えた魔王は周囲を見渡し——

 ——俺と目が合った。

「おまえかぁぁ!」

「やっと気づいたのか。そう、皆を『操作』しているのは俺だ」

 女神長からもらったスキルは『操作』。
 特定の相手を意のままに操る洗脳みたいなスキルだ。
 ちなみにちゃんと同意の上で操作しているからね?
 皆さんを操作していいですか? って問いに全員迷いなく首を縦に振ってくれたもん。良い人すぎるよこの3人。

「ならば……貴様を堕とすまで!」

 右手には火炎、左には氷、そして頭上には雷撃の魔法が同時に浮かび上がる。

「そこのピンク球体も3つ同時にはコピー出来まい! 死——!」

 『死ね』という口上と共に俺に向けて3つの魔法を放とうとしたのだろう。
 だが、そんなことは起きなかった。

 ——俺が『魔王の操作』を開始したからだ。

「う……ぎ……貴……様……!」

 操作できるのは何も味方だけじゃない。
 さすが女神長のスキルというべきか、敵すらも操作可能だと気づいたときは俺も震えたなぁ。

「おぉ。さすが魔王。俺に『操作』されていても喋れるんだ」

 俺に操作されまいと必死に抵抗しているのだろう。
 実際、魔王の身体は上手く操れない。
 一昔前のポリゴンキャラのようなカクつきを見せていた。
 でも、魔王の自由はほとんど奪われている。
 それさえ出来ればもう勝利したようなものである。

「ルンクさん! ミリオさん! 魔王をこちらに向けて投げ飛ばしてくれ!」

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「マンマミーヤ!」

 俺は今『魔王』を操作しているのでこれは単なる『命令』だ。
 しかし、二人は俺みたいな若造の命令にも素直に従ってくれる。
 本当……すごい人だよ皆。心から尊敬する。
 二人に投げられた魔王はこちらに向かって飛ばされてくる。
 さぁ、仕上げだ。

「ガビィさん! そいつを……喰っちゃってください!」

「ぽよっ!」

「はぁぁっ!? ちょ……まっ……!?」

 魔王も言っていたがこの3人の中で飛び抜けたチート持ちはガビィさんである。
 ガビィさんの何でも吸い込んでコピーすることができる。
 そう——『なんでも』食べることができてしまうのだ。
 それが例え、岩だろうと、魔王であろうと。
 ガビィさんに食べられないものはない。

「あむ」

 激しい吸引が止まり、同時に魔王の姿も居なくなる。
 きっと今頃はガビィさんの胃液に消化され始めているのだろう。
 なにはともあれ、これで魔王討伐完了である。

「やりましたね! 皆さん! 皆さんが異世界を救ったんですよ!」

「マンマミーヤ!」

「でやぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ミリオさんとルンクさんも万歳をして喜んでいる。
 そして一番の功労者であるガビィさんも——

「——この勝利はキミの存在が在ったことが一番大きいさ。自分の功労も労ってあげていいと思うぞ?」

「……って、喋ったぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 えっ? ガビィさん喋れるの?
 そういえばガビィさんだけ言語能力の副作用なかった気がする。
 喋れるのにこの人は『ぽよっ』しか言っていなかったのか。なんでだよ。

「蒼汰くん? なんかキミの身体透け始めたぞ? だ、大丈夫か?」

 やたら渋い声で俺を心配してくれるガビィさん。
 そうか、魔王を倒せたから、俺……

「皆さん。今まで本当にありがとうございました。俺、魔王を倒せたら元居た場所に……最愛の人がいるあの場所に帰してもらえることになっているんです」

 3人の表情に笑みがこぼれている。

「そうか。だからキミはあんなに魔王討伐を急いでいたんだな。愛する人に早く会うために」

「まぁ、その、そういうことです。その、別に恋人ってわけではないのですが、俺、帰ったら彼女に告白してみようかなと思います」

 10日間しか離れていなかったのに、俺はトレシアさんの存在が恋しくて仕方がなかった。
 離れていて初めてわかる大切な人の存在の大きさ。

「応援しているぞ。勇者蒼汰」

「マンマミーヤ!」

「でやぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 3人が俺のことを見送ってくれる。
 『勇者』なんて大それた称号俺には大きすぎる。
 でもこの3人が認めてくれて、称えてくれたことは素直に嬉しかった。

「皆さん。本当にありがとうございました! 俺、一生貴方達のファンでいます!」

 その言葉を最後に、俺の異世界での冒険は幕を閉じた。






 天界に帰った俺はトレシアさんと身を寄せ合いながらゲーム三昧の日々を過ごしていた。
 変わったことというと、就寝の時にトレシアさんが俺の腕を強く抱きしめながら寝るようになったことだろうか。
 寝ている時に姿を消したことがよほどショックだったみたいだ。こうしていないと安心して寝られないようである。

「(可愛い……な)」

 決めた。この子が次に起きたその時、告白しよう。
 皆の前で誓ったもんな。
 ミリオさん、ルンクさん、ガビィさん
 どうか俺に勇気をください。

「ん……ぅう……」

 トレシアさんの寝息が聞こえてくる。
 彼女が起きる前にちょっと予行演習しておこうかな。

「トレシアさん……好きだ……」

 ベタすぎん?
 もっと気の利いた言葉で感動させてあげたい。

「トレシアさん。ゲームと同じくらいキミが好きだ」

 こっちの方が気持ちが定量化されていてわかりやすいかな。

「うん。これだ」

「……これだ、じゃないよ」

「うぉわ!?」

 やたらはっきりした寝言だなと思ったら、思いっきり目を見開いているトレシアさんとバッチリ目があった。

「い、いつから、起きてた?」

「『トレシアさん……好きだ……』からです! どうして告白の言葉がそっちじゃないんですか! どうして私をゲームと同列にしたんですか!」

「えっ? 俺の中で最大級の告白の言葉だったんだけど。ゲームと同じくらい好き。即ち世界一位タイで好きですって言っているんだよ?」

「なんで『タイ』なんですか! そこは『ゲームよりもトレシアさんの方が好きだ』くらいに言ってくれてもいいじゃないですか!」

「うーん。でも20年以上の付き合いのゲームとぽっと出のトレシアさんじゃまだ同列くらいだよ」

「正直ですか! 貴方は!」

 何が気に入らないのか、トレシアさんは俺の告白の言葉に対してぷんすか怒っていた。

「ち、ちなみにお返事とか、頂けると、その、嬉しいのですが……」

 ていうか振られたらどうしよう。
 俺、この世界から出られないし、めっちゃ気まずい中これから一生彼女と過ごしていかなければならなくなる。
 良い返事ありますように。割と切実に!

「私はゲームより蒼ちゃんの方が好きですよ」

「えええ!? げ、ゲームよりも!? トレシアさんめっちゃ俺のこと好きじゃん!」

「驚き方が尋常じゃありませんね。私は蒼ちゃんみたいにゲームに浮気したりしませーん。蒼ちゃんが一番好きだもん」

「あ、ありがとうございます。めちゃくちゃ嬉しいです」

「蒼ちゃんも早くゲームよりも私のことを好きになってくださいね」

「それは約束できないけど、なるべくガンバルヨ」

「そこは約束してくださいよ! まったくもう!!」

 どうやら俺の心配はただの懸念だったみたいで。
 むしろこの子からの好意の矢印の方が太かったみたいである。
 
 俺が異世界で過ごした10日間。

 共に過ごしたゲームキャラにそっくりな3人の勇者が果てしなく格好良かったから……
 いつかあんな風に格好いい存在になりたいと思ったから……
 ゲーム主人公みたいに格好良かった3人のように慣れたら、俺は俺に自信を持つことができるから……
 自信をもってトレシアさんを守れる男になれると思うから……っ!

 だから俺はこの子と同じくらいゲームが好きなのであった。
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