寿司好きのおじさん(自称)、魔王の心を掴む。〜ジョブ『寿司職人』は異世界最強だったかもしれない〜

赤海 梓

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「?」

 なんだここは?真っ暗だな?

「…」

 なんの音も聞こえない。わずかに風が響く。

「ここは…一体?」

 周りを見渡すも、何も見えない。そこに見えるのは、光の届かない暗闇のみ。

「…!」

 いや、何かがある。何か、大きくて、真っ暗な何かが、そこに。

「誰だ?」

「…」

 返答はなかった…と思っていたのも束の間、

「ほう」

「!?」

 急に暗闇の中から、2つの光が現れる。いや、暗闇なのに何故か見える…といったようなところだ…。

「なんだ」

「貴様、ふむ」

「はぐらかしやがって」


 《情報魔法》鑑定


 ネームド不定

 HP:20000/999999999999
 MP:3500/999999999999
 攻撃値:9217464049
 防御値:8246184665
 俊敏値:538464575
 クリティカル率:45%
 器用値:434815737




「なんだこれ!?」

「…鑑定されたか」

「なんなんだお前、一体」

「ふむ」

「ふむしか言わないけど、本当になんのつもりなんだ?」

「なんのつもりは、私のセリフなのだがな?」

「どういうことだ?」

「わからないか。別にそれでも良い。…ふむ」


 《鑑定》


「あっ」

 しまった、鑑定されてしまった。こんな怪しくて姿も現さないやつに情報が…。

「ふむ。鑑定阻害か。…他干渉魔術か。それも高度だ」

「鑑定阻害…?」

 グレスがやってくれていたのか…?いや、そんな事は今どうでもいい。

「おい、ここはどこなんだ?」

「…貴様はもう帰れ」

「答えろよ」

「帰れ!!」


 《独亭害損どくていがいそん魔術》殺戮ゼノベーション


「なんだ!?」

 真っ暗でよく分からないが、何かが迫ってきている。

「クソっ…!」


 《火炎魔術》 不死鳥舞踏フェニックスフレター


「気持ち悪いなこれは」

 焼き払い、炎で周りが明るくなったためやつの魔術が見えた。だがそれはとてもこの世のものとは思えない造形をしていた。
 棘の生えたような太い触覚のような、赤黒くおぞましい何かがこちらに向かってきていた。

「…殺すのは諦めよう。だがここからは出ていってもらおうか」

「なんだよ…?」


 《独亭害損魔術》 郷鴑発シャットアウト


「うおっ」

 目の前の視界が炎があるはずなのに暗くなっていく。
 かと思えばその視界は明るくなった。








 俺はグレスの城のベッドで寝ていた。

「よく分からなかったが…夢で良かったのか…?」

 とりあえず起き上がり、朝飯を作る。流石に最近毎食寿司だったので、健康に気を遣いたくなった。あと単純にさっきのせいで寝覚めが悪いから握る気になれない。

「悪いなグレス、今日は目玉焼きと白米だ」

 そして米をスキルで出し、卵を焼く。
 あれ、そういえば自分のステータスをじっくりと見た時ってあまり無かったな…。

「んーっ…おはよぉ…」

 階段からグレスが降りてきた。眠い目を擦っている。

「おっ、グレス。丁度いい。今いい具合に卵に火が通ったところだ」

「んー…?今日は寿司じゃないの…?」

「まあ毎日寿司ってのも健康に良くないしな」

「そっかー、スマキは健康に気をつけなきゃいけないしね」

「ん?なんだその私は健康大丈夫と言っている様な発言は?」

「ん?私は健康とか実際大丈夫だから…」

「いや、お前も健康には気をつけろよ」

「ああ、違くて、魔王のジョブスキル《不老不死・魔力永遠供給》の影響で別に健康とかどうでもいい体になってるんだよね」

「…そうか。それよりジョブスキルとはなんだ?」

「ん?あれ、そういえばスマキが自分のステータスちゃんと見てる時ってあったっけ…?」

「いや、無いな。さっき丁度その事に気づいたところだ」

「ん、じゃあちょっと開いてみて」

「ちょっと待ってくれ。まずは目玉焼きと白米をよそわせてくれ」

「そうだったね。よろしくー」

「おう」

 そして俺たちは朝ごはんを食べてしまう。


 ~20分後~

「なんか卵焼いただけなのにめちゃくちゃ美味しかったんだけど、なんかしたの?」

「特別なことはしてないさ。火を通しすぎると美味しくない、火が通って無かったら生だ。その間の「点」を狙って焼いたんだ。余熱の関係でささっと食べてもらった訳だが」

「へぇ…焼けば焼くほど良いんじゃないんだね…」

「そりゃそうだろ」

 コイツ、料理に詳しいのか料理音痴なのかよく分かんないな…。

「よし、本題に入ろっか!ステータスを2人で分析してみよっか!」

「ああ」


 《ステータス》


 サトウ スマキ
 HP:595837/595837
 MP:〒〆+~〆|^\×€
 攻撃値:979856
 防御値:1293542
 俊敏値:10002
 クリティカル率:15.5%
 器用値:9999999999999999
 ジョブ:寿司職人
 ジョブスキル:握り匠


「こうやって自分のステータスをじっくり見たのは初めてだな…」

「うわぁ…相変わらずの化け物性能…」

「はいはい。引くな引くな」

「まあ攻撃とか俊敏とかはわかるね?」

「ああ」

「サトウ スマキ、いい名前だね」

「その辺の名前だよ」

「んーん。前世ではどうだったか知らないけど、この世界の名前って言うのはめちゃくちゃ大事なんだよね」

「へぇ?」

「ピンと来てないね?名前付与ネームドって言うのは、ホントにめちゃくちゃ大事でね?ネームドした人、その個体への相性が深く関係するんだよね」

「なるほど?」

「だからあだ名なんて以ての外なんだよ。失礼だし高貴な人にそれやったら首落とされる人も居るってよ」

「え、それだったら、グレス…ティーア、めちゃくちゃ悪いことをしたか…?」

「いや、大丈夫だよ」

「そう…なのか?でも悪いことは悪い…」

「あーだから大丈夫だって。えっと…個人的にはグレスの方が好きだからさ、これからもグレスがいいな?」

「…そうか。じゃあグレス、次を頼む」

「うん!えっとね、ネームド…はまあ相性と名付け親の魔力量によって、強さが変わるってだけ」

「なるほど、わかりやすい」

「まあそんなところかなー。そして次、ジョブ。これもめちゃくちゃ大事でねー。ジョブ固有にあるスキル、ジョブスキルって言うのがあってね。その影響でその個体の能力が変わるんだよね」

「そうか。俺はどんなジョブスキルなんだ?握り匠にぎりしょう…?前世の子供の頃は確かにそんなふうに呼ばれたが…」

「そいつは使ってみないとわかんない。私の魔王のジョブスキルなら名前からして分かりやすいしオート発動なんだけどさ、握り匠とか、見ただけじゃよく分からない。使い方もよく分かんない。そういう時は、ステータス画面をタップするんだ。それだけで概要が見れるはずだよ」

「へぇ…なるほど」

 そして俺は自分のジョブスキル欄をタップしてみる。
 すると、手前にまた1つ画面がで現れる。

「これは…?」


 ジョブスキル《握り匠》

 古代最高位スキル。魔力が無限大、器用値は最大値になる。
 握った対象にバフやデバフをかける事が出来る。また、武器『包丁』でのダメージが6000倍になる。



「うえぇ!?なんだこの壊れ性能!?」

「確かにこれは素人目線でもやばいな…」

「握り匠…これは相当恐ろしいかもしれない…。不老不死もえげつないけど、この能力上昇はやばいよ…」

「でも、これなら寿司にバフをかけられるということになるな?」

「あー確かに?じゃあなんか適当に1貫握ってみてよ」

「それ、お前が寿司を食いたいだけじゃないのか?」

「なんでバレたん…?いやでも10分の1くらいはスキル把握目的だし!」

「ダメじゃねえか」

 と、多少グレスに呆れつつ、寿司を握りに厨房へと向かう。
 そして厨房に着いたはいいものの、何を握ろうか迷っている次第だ。

「さっきまで卵焼いてたし、卵焼きにするか…」

 そして調理にかかる。
 寿司屋の卵は食感が命だ。どれだけ美味い味付けでも、固ければ寿司には馴染まない。
 だが、卵の白身をメレンゲに加工する。そうすることで卵焼きの中に無数の空気が含まれ、シャリに合うフワフワの卵焼きが出来上がる。

「じやあ、握りに入ろうか」

「うん!」

 そして俺は握りに入る。

 ~5分後~

「へい、卵焼きお待ちぃ!!」

 まあただの卵焼き1貫なのだが、手のひらに集まる魔力が形を作るようだった。上手く言えないんだけど、こう…筆舌に尽くし難い感覚であった。

「見た目は普通の卵焼きだけどな?でもめちゃくちゃふわふわしてるな…なんだこれ?」

「こちらぁ、白身に大量に空気を含ませたメレンゲになってますぜ!さぁ、1貫だけですが、是非食ってみてくだせえ!」

「ふぅん」

 パクッ

「!?これは…!?」

「どうですかぃ?」

「心地よいふわふわ具合が口の中で踊る…かと思えば滑らかな口どけ、シャリとの一体感…なんだこの凄まじいこの味は…!めちゃくちゃ美味しい!」

「ふぅ、ああ、気に入ってもらって嬉しいよ。それもそうだが、能力に何か違和感は無いか?」

「あ、そうだった。ちょっと見てみるね。

 《ステータス》

「そういえば若干力がみなぎる感じがす…る!?」

「どうだ?」

「な…なっ…!?」

「どうしたんだグレス?」

「魔力量が…私の魔力量が…5倍近くまで膨れ上がってるんだけど!?」

「なっ!?ちょっとステータス見るぞ…?」

「え?あっちょ、」


 《情報魔法》鑑定
 バチィン!!


「うわっ、目痛っ!!」

「あ、ごめん!私常に鑑定阻害魔術を展開してるから、見ようとしても普通に見れないんだった…」

「早く言ってくれよ…!普通に目痛かったわ」

「あはは…ごめんごめん…。でも!この能力凄いよほんとに!!」

「ああ。俺の予想通り、『魔力の倍加』というイメージの元で握ったんだ。この能力は凄いな!」

「うん!めちゃくちゃ凄すぎるよ!」

 こうして俺たちはこの日、スキルと魔術に没頭し続けたのだった。
 あの事は、思い出せずに。


 名称不定

ジョブ:邪神
ジョブスキル:世界呪詛
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