打ち上げハナビ

赤海 梓

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打ち上げハナビ

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「ヒナ…?」
「はっはっ…キクっ、!?あっつ、はふはふ」

 俺の名前は赤咲あかさき キク。高校3年生だ。俺は今、手に持っていた焼きそばの箸を落とした。

「ひょっと待ってへ、はこ焼ひあっちあっち」

 そしてこの熱々のたこ焼きを食べるのに難儀している少女は虞美人ぐびじん ヒナ。俺の同い年の幼馴染だった。だがしかし中1の時、彼女はこの地域を引っ越してしまったはずだ。

「お前…帰ってきてたのか…?」
「あっつ、ちょっ、ちょっとまあっ、はふはふっ」
「…」

 俺は無言でカバンの中のお茶を差し出す。

「まだ飲んでないから。安心して全部飲め」
「…!!はふはふ」

 ごくごくとお茶を飲み始めるヒナ。…めっちゃ飲むな。…半分いったな。…おっ、全部いくのか…?…全部いったな。

「あぁ~、助かったよ…」
「久しぶりだな、ヒナ。お前、いつ帰ってきたんだよ」
「うーん、さっきかな?」
「さっきって…。って事はもう今後はこの町に…」
「いや、今夜いっぱいで帰るよ。ごめんね?」
「いや別に。いいんじゃないの」
「もーう、拗ねないでよ!ほら、たこ焼き1個分けたげる!」
「…あっつ」

 そうして俺は彼女との再開を果たした。

 今は、俺の住んでる町の大規模な祭り『来弥祭くるみまつり』が開催中だ。この祭りの花火は1回だけ、だけど極端に大きいのが特徴だ。

「焼きそばの箸貰ってきたわ」
「びっくりさせちゃったね。ごめんね?」
「俺が勝手に落としただけだし、気にすんな」
「…そっか。そうだよね。私の事見つけて、ドキッとしちゃったんだもんね?」
「うっせ」

 俺は久しぶりに彼女と会えたということで、一緒に祭りをまわる事になった。

「それにしてもなんで急に帰ってきたんだ?」
「そんなの、君に会いたかったからに決まってるでしょ、キク?」
「…っ」
「あははは!照れてる照れてる!可愛い!」
「うるさいうるさい!お前も顔真っ赤だかんな!」
「あれ…!?」
「気付いてなかったのかよ」
「…」
「…」

 なんだか変な空気になってしてまった。

「でも、君に会いに来たってのは、本当だよ?」
「くっ…」

 可愛い…。というのも俺は昔から彼女に好意を抱いていたりする。彼女がいなくなって5年経つが、その想いは全く変わっていない。

「今夜限りなんだから、一緒に遊ぼ!」
「あぁ」

 この祭りは来弥町くるみちょう主催の祭りだ。屋台があちらこちらにあり、色々なものが売っている。安価な値段で売られているため、町外からもそこそこ人が訪れる。だが所詮は名前があまり知られていない村なので、目立った人混みは作られない。

「チョコバナナ!」
「…うん、美味いな」
「ごく平均的なチョコバナナだね」

「クレープ!」
「…おかずクレープって意外と美味いんだな」
「ね。初めて知った」
「お前自分で熱心に勧めてきたくせに…」

「アップルパイ!」
「所詮祭りの屋台だと思ってたけど、美味いな」
「いい感じにしっとりしてるね。外側のパリッと食感も好印象」

「アンチョビパスタ!」
「…アンチョビ。いや美味いけど。なんか…」

「ココレッチ!」
「なんでどんどんマイナーな物になってってるんだよ」
「…美味しいよ?」
「いや、美味いけどさぁ」

 こいつはこういう所があるから可愛い。掴みどころのない性格に惹かれているのだろう、俺は。
 お腹がいっぱいになった所で、遊ぼうと思いくじ引きに訪れる。

「おめでとう兄ちゃん、3等だ!」
「ありがとうございます。で、景品は…」
「この中から選んでくれや!」

 差し出されたのは箱だった。中には若干高そうなアクセサリーがちらほら。3等にしてはなかなか微妙なものばかりであり、男がアクセサリーした所でな…。といった感じだ。

「残念、嬢ちゃんは10等だから、このポケットティッシュだ」
「ふぇ…」

 …仕方ねーな。

「ほらヒナ。髪飾りやるから、元気出せって」

 そして俺はチューリップ柄の髪飾りを渡す。

「髪飾り…?…!ありがとうキク!!とっても可愛いよ!!」

 相変わらず笑顔が可愛いやつだな、こいつは。

「じゃあお礼にこれあげる、はい!」

 そうして渡されたのはポケットティッシュ。10等のヤツだ。
 3等と10等を交換するのはお礼になるのか、という疑問はさておく。ヒナの笑顔がこの差を埋めてる。うん。そう考える事にしよう。

「ちなみに4等はラジコンだったよ」
「…」

 正直4等が良かった。めちゃくちゃ4等が良かった。

 そんな感じで俺たちは祭りを楽しむのであった。


 ◇◇◇

「ふぅ、流石に疲れてきたな」
「じゃあ、昔よく行ってたあそこ行こ!」
「あー…疲れたってのにあそこ行くのか…?」
「いいじゃん、行こうよ!」
「…まぁ俺も最近行ってなかったし、ちょっと久しぶりに見てみたいかもな」


 そうやって俺たちはとある場所に訪れるのだった。


「こんなに木いっぱい茂ってたっけ」
「まあ私たち以外誰も通らなかったからね」

 草薮をかき分け辿り着いたのは、気が遠くなるほどに高い階段であった。ずっと向こうをよく見ると、朱色の鳥居が建っている。

「うわ、懐かしいなぁここ」
「…キクって運動部?」
「…いや、部活には入ってない」
「…」
「…」

 俺には言いたいことが分かるぞ、ヒナ。この階段は500段くらいある。それもコンクリートとかではなく若干足場が不安定の。

「…いくか」
「…うん」

 昔から運動不足だった俺たちに今、この階段は地獄以外のなんでもない。

 ◇◇◇

「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
「あとちょっとだよ、キク…」
「くっ、普通にやばい…」

 そして遂に俺たちは階段を乗り越えた1番上の大地を踏みしめる。

「あ~っ、やっと着いた!!」
「流石に足と息…キツい…」

 俺たちは地面に寝転がる。力なく倒れ込むと言った方が正しいのか。
 脚の張りを感じる頃には呼吸はほとんど整っており、少し寝っ転がってだらだらした後、辺りを見渡してみる。

「変わってないな、ここ」
「うん、そうだね。私たちが出会ったのもここだったよね」
「覚えてたのか」
「うん、もちろん」

 あれはそう、小一の夏頃の時だ。俺はカブトムシを探してここまで来ていた。家のエアコンが壊れ、家にいると熱が篭って暑すぎるので、外で普段しないことをしてみたのだが、そんな時にこの神社の階段の下に辿り着いたのだ。
 登る気が失せる高さの階段だったが、何を思ったのだろうか、その階段を俺は登ったんだ。

「その時にあったのがヒナだったんだよな」
「そっか、あれがもう丁度11年前になるんだね」
「丁度?」
「あれ、覚えてない?私がここに来た時は、この来弥祭の日だったんだよ」
「あーなんか、そういえばそうだったっけなぁ」
「…それ本当にちゃんと覚えてる?」
「いやいや、覚えてるって。あの時お前は確か…」





「はぁ…はぁ…。やらかした…。こんな事なら階段なんて登るんじゃ…ん?」
「…」

 そこには、同い年くらいの少女の泣いている姿があった。

「どうしたんだ?」
「…ママと…はぐれた…」
「そうか」
「私、ここら辺よく分かんないし…、ママがいる祭りのとこも…わかんないし…」
「じゃあ何でここに来たんだ?」
「…わかんない」
「…仕方ないな。着いてこいよ」

 そして俺は少女の手を握る。

「えっ、」
「祭りのとこまで連れてってやるから」
「…ん」





「めちゃくちゃ泣いてたんだよな。もうそれはギャン泣き」
「もー!いつの話してるのさぁ!ってか私言うてそんな泣いてなかったよねぇ!?ねぇ!?」
「懐かしいな」
「…無視しやがってぇ」

 あれから神社に行くとヒナがいるから、毎日のように行くようになったんだっけな。

「ほとんど毎日会ってたのに、お前急に神社に来なくなるからさ。置き手紙1枚に「引っ越した」だけは流石に来るものがあったぞ?」
「えへへへ、ごめんね」
「…まぁいいけどさぁ」

 くっそ、この笑顔を向けられて許さないやつなんて居ないだろ!!自分の魅力がよくわかっていてズルいヤツだよ、本当に。

「…ごめんね」
「…そっか。お前ここに居るの今夜だけなんだもんな」
「まぁ、そうだよ」

 なんだか歯切れが悪いなと思いつつ、体力がそこそこ回復したので、久しぶりの神社を探索してみる。

「お守りとかも売ってないし、賽銭箱もここはいつもお金が入ってなかったな。…おっ、今日は500円玉が入ってるのか。珍しいな」
「そうだね。賽銭に500円とか、相当叶えたい願い事だったんだろうね」
「でも普通こういうのって5円じゃないのか?ご縁がありますようにって」
「それ迷信でしょ。神様は金額に偏らず私たちの声を聞いてくれるんだよ?」
「へぇ。妙にロマンチックだな」

 ブゥゥン
 俺の右肩にクワガタが飛んで来る。

「おっ」
「珍しいね。私ここでノコギリクワガタ見たの9年振りかも」
「俺は初めてだな。しかもコイツ結構大物だな」
「可愛いなぁ。クワガタっていいよね」
「ああ。歳をとるにつれてカブトムシよりもクワガタの方がかっこよく思えるんだよな」
「わかる」

 俺たちはそこそこな甲虫好きだ。カブトクワガタが好きで、昔はたまに虫取りも一緒にしてたっけな。

「…こうやってしてると、昔の頃を思い出すね」

「ああ。俺はあの頃からお前が…」

 …そうだな。俺がヒナと一緒に居られるのは今夜しかないんだ。自分の思いを渋って伝えられなければ、俺は一生後悔するだろうな。

「…ヒナ」
「…なに?」
「俺はお前のことが好きだ、ヒナ」

 そう、これでいい。これでいいんだ。

「お前が何処にいようとも、俺はお前のことを想い続ける」
「……し…」
「?」
「うれしい…。うれしいよ…!」

 ヒナは俺の左手を強く握りしめてくれた。彼女の手は小さく、暖かかった。…ヒナは、俺のことを受け入れてくれるのか…?

「キク…!私も、私も…!キクのことが昔から好


 ピュ───、ド────ン!!


「えっ、もう花火…」

 俺は花火の感想なんて、今はどうでも良かった。

「ヒナ、今なんて言おうと…」
「…」

 刹那、俺の目に映った彼女の瞳からは、大粒の涙が零れていた。

「ヒナ…!?どうしたんだよ?」
「ごめんね、、キク…。私…、ここまでだから…」
「待って、まだヒナの答えを聞けてない!それに、ここまでって…」
「…好きだよ、キク」

 そうしてヒナは、花火の焔が淡く霧散するかのように、静かに、消えていってしまった。

「え?は?」

 俺は、何も状況が理解出来なかった。

「ヒナ?なんで消えて?え…?」

 俺はスマホを見た。7時20分。予定より10分早い花火だった。

「花火で、?」

 俺は急いで神社の拝殿の奥に走った。何故かはわからない。そこに答えがあると、何故かそう確信していたのだ。

「寂れた本棚に、…1冊だけの本?」

 明らかに何十冊も入るだろう薄汚れた本棚に、古本が1冊だけ置かれていた。
 俺は怖かった。この本を開くことが、怖かった。それでも開けるべきだ。絶対に。
 俺は覚悟を決め、本を開く。中は2枚の紙を綴じ込んだだけだった。

「…」

 死者は何人たりとも生き返ることはあらず。されどされど、こはき念が露の間ばかり物を動かすべし。また、神々は題目つけかりそめにわたり生き返らすべし。想ひ人と想ひ人がかたみに想ひ合ふ心が、わたりの魂にかりそめに肉をつく。

「…じゃあ、ヒナはいつの時かもう…この世に…」

 嘘だ…。嘘だろ…。ヒナ…?なんで、なんでお前…?それに、神々って…?

「俺は…ヒナ、ヒナ…!!…うわぁぁぁあぁぁあぁああああ!!」

 つまりヒナはいつかに死んでいて、でも俺を想って、神様にこの世界に条件つきで具現化させてもらっていた…!俺が、俺がヒナの事を想っていて、彼女もまた、俺のことを想っていた。だから、こうやって…。

「もっと、もっと話したい事があったのに…!もっと、一緒に行きたい所だってあったのに!ヒナ…、ヒナ!!ヒナぁああぁぁあぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁあああ!!」



 ◇◇◇

 数時間後、俺は未だ蹲っていた。彼女の消えたその場に。

「うっ…ううっ…」

 涙が止まらない。彼女を失ったことが、彼女がもうこの世に居ないという事実が、自分にとって苦痛で堪らなかった。

「もういっそ…。ヒナのいない世界なら…」

 死んでしま

「…?」

 左手に、冷たい感触を覚えた。鉄特有の、この蒸し暑い夏の夜をひっくり返すほどの、冷感が。

「これは…、髪飾り?」

 見たことがある。桃色の桔梗ききょう柄の髪飾りだ。神社の裏に咲いていて、ヒナと一緒に話したよな…。

「永遠の、変わらぬ愛…ってか」

 …ははっ。なんだよそれ。

「ヒナ、ごめんな。俺が悪かったよ。…こんなに綺麗だったかな、彼岸花って」

 『再開』の花言葉をもつ彼岸花が、とても美しく見えた。
 俺は桔梗の髪飾りを付け、前を向いた。彼岸花の咲き誇る神社を後にし、俺は帰路に着くのだった。




 ◇◇◇

「あんた、大丈夫?こんな時間までどこに行ってたの?」
「ごめんごめん、祭りで盛り上がりすぎちゃって」

 俺は夜遅く、家に帰ってきた。相当怒られるかと思ったが、母さんにちょっと口出しされる程度で済んだ。どっと疲れてしまった。ベットに転がって、もう寝てしまおうかな。

「はぁ。…ヒナ」

 俺はずっとヒナの事が好きだ。
 そうして俺は最後に別れを告げるように、目を閉じた。










































































 これでまたヒナに会える。
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