追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち-

晴本吉陽

文字の大きさ
19 / 53
第1部 星霊隊結成

第4話(3)霊力の専門家

しおりを挟む
17:10 ログハウス 104号室
 薄暗い部屋の中、その隅に置いてある机の上に本を広げ、冥綺《くらき》明宵《あけよ》はそれを見下ろしていた。真っ黒の前髪を伸ばして目元を隠し、着ている服も真っ黒なワンピースの、肌以外は全て黒尽くめな女性である。
 明宵は次の瞬間、何かの気配を感じてふと顔を上げると、その気配の正体に気がついた。

「…壁越しでも伝わってくる強力な霊力…いや、ただの霊力じゃない…これは一体…?」

 明宵がブツブツと呟いていると、彼女のいる部屋の扉がノックされる。明宵は扉の方を向くと、声を出した。

「…どうぞ…」

 明宵が返事をすると、扉のノブが回る音が聞こえてくる。明宵は鍵をかけていたことを思い出すと、特に慌てず扉の前に歩き、鍵を開け、扉を開ける。
 扉を開けた先には、黒いロングコートを着た男、幸紀がそこに立っていた。

「…?弥生…?背が高くなりましたね…」

「いや、別人だ。俺は東雲幸紀。清峰侯爵の部下で、悪魔に対抗する部隊、星霊隊のメンバーを集めながら旅をしているものだ。よろしく」

 幸紀は穏やかな微笑みを作りながら明宵に挨拶する。明宵は前髪越しに幸紀の顔を見た。

「…顔もかっこよくなってます…霊力って本当にいいものですね」

「いや、弥生とは別人だ」

「…あれ…失礼しました…えっと…お名前は…」

「幸紀、東雲幸紀だ」

「…覚えました…もう大丈夫です…ノリノリさん…」

 明宵はか細い声でそう言うと、幸紀の名前を間違えながら自信満々に微笑んで頷く。一方の幸紀は無言で明宵を見下ろしながら内心毒づいた。

(大丈夫かこいつ)

「…私は…」

「冥綺明宵さん、だろう?ここアカツキの国において、冥綺財閥のご令嬢で、霊力研究の第一人者でもある…」

「…そうです…随分お詳しいんですね…ノリノリさん」

「幸紀だ。悪魔と戦う人間を集めてる以上、強い人間の情報は耳に入ってくるものだ。君は有名人だからな」

「…それで…ご用件は…?」

 幸紀が愛想よくしていると、明宵が首を傾げながら尋ねてくる。幸紀は本題に入ると、口角を上げながら話し始めた。

「君も星霊隊に加入してほしい」

「…いいですよ」

 幸紀が頼むと、明宵はあっさりと頷く。幸紀は逆に驚きながら尋ね返した。

「いいのか?」

 次の瞬間、明宵は声の小ささはそのままに、ブツブツと早口で話し始めた。

「えぇ悪魔に対抗する部隊ならば必然的に霊力の強い人間が揃います。そうなれば私自身の研究も捗りますし社会貢献にもなります。同時に幸紀さんが隊長を務めるでしょうからあなたの有する正体不明の霊力についても間近で研究することが可能になり、さらに社会貢献の名目でうちの財閥は義援金を受け取りやすくなるため全員にとってウィンウィンということになります。つきましては幸紀さん、霊力の調査のためにあなたの体を調べさせていただきますね。まずはしょくし…」

「とにかく、これからよろしくな」

 幸紀は明宵の言葉のほとんどを聞き流すと、明宵の頭に手を置く。明宵は伸ばそうとしていた手を止めると、調子の悪い人形のようにゆっくりと頷いた。

「たっだいまー!」

 幸紀と明宵がそんなやり取りをしていると、幸紀の背後から弥生の声が聞こえてくる。幸紀が振り向くと、山小屋の入り口が開き、弥生が入ってきた。

「あ、幸紀くん!明宵ちゃんとお話し中だった!?」

「ちょうど終わったところだ」

「そうなの!明宵ちゃん!明宵ちゃんも星霊隊に入ったよね!?」

 弥生は幸紀に言われると、明宵に尋ねる。明宵は部屋から出ると、小さな声で答えた。

「…えぇ…大変興味深いお話でしたので、参加します」

「私もだよー!今他の星霊隊のメンバーの子たちはお風呂に入ってるから、みんながお風呂から出たらご飯を食べながら自己紹介しあおうね!」

「…そうしましょう」

 弥生は明宵とやり取りすると、幸紀の方に向いた。

「幸紀くんも、夕飯までくつろいでていいよ!私が今から全員分作るから!」

「手伝おう」

「え!?いいの!?」

「そう言っている」

「やった!ありがとう!じゃあ一緒に来て!」

 弥生は幸紀にそう言うと、幸紀を厨房へ案内する。幸紀は弥生に連れられながら厨房へと歩いていくのだった。



19:00 ログハウス 共有スペース

「ご飯できたよー!」

 弥生が高い声で言うと、ログハウス内の個室から、風呂から上がって待機していた日菜子や四葉、晴夏、結依といったメンバーたちが出てくる。明宵も遅れて個室から出てくると、ものの数秒で共有スペースに全員が集まった。
 共有スペースには長机と椅子が置かれ、机の中央には炊飯器とカレー鍋が置かれており、各自の椅子の前には皿とスプーンが置かれていた。

「弥生と幸紀くん特製のカレーだよー!さ、みんな食べて食べて!」

「うまそー!いただきます!」

 真っ先に席についた晴夏は自分の分のカレーを皿によそうと、すぐに食べ始める。四葉はそんな晴夏を見て叱った。

「こら!こういうのは全員分よそってあげるのがマナーですよ!」

「まぁまぁそう怒らないで、四葉」

 日菜子は四葉をなだめながら、自分の分のカレーをよそう。同時に、黙って座ったまま動こうとしない明宵に気がついた。

「取りますか、カレー?」

 日菜子が尋ねると、明宵は前髪に隠れた瞳で日菜子を見て頷いた。

「…お願いします」

「はい!」

 日菜子はすぐに皿にカレーをよそうと、明宵にその皿を渡す。明宵が遠慮がちに会釈をすると、日菜子は尋ねた。

「あなたが、冥綺明宵さん?」

「…そうです」

 日菜子に尋ねられると、明宵は小さく頷く。日菜子はそれを見て話を続けた。

「私は桜井日菜子、星霊隊のリーダーです」

「…ここにいる皆さんが星霊隊ですか」

「そうだよ」

「…なるほど、確かに皆さん女性で、しかも霊力は平均を上回っていますね…」

 明宵が小さく呟くと、それを聞いた晴夏は明宵に尋ねた。

「性別って関係あんの?まぁ、そりゃ悪魔と戦うなら男の方がいいとは思うけどさ」

「…いいえ、逆です。霊力は基本的に女性の方が強い傾向があります」

「え、そうなの?」

「そうです。そもそも霊力を扱える人間自体が少ないのですが、過去50年間で報告された霊力使用者のデータを見ても、また人口比から調べても女性の方が多く、さらに、女性の方が強力であることが判明しています」

「ふーん、そーなんだ、詳しいなぁ」

 晴夏は明宵の言葉が理解しきれずに適当に相槌をうつ。そんな晴夏に、弥生が自慢げに話し始めた。

「明宵ちゃんは霊力の専門家だからね!霊力のことはなんでもわかるんだ!」

「…なんでもはわかりません。例えば幸紀さん…彼は男性でありながら私も経験したことがないほどの霊力を有しています…しかも普通の霊力とは異質な…それこそ、その力は悪魔に近いようにすら…」

「本人のいないところで評論か」

 明宵が話していると、幸紀が現れ、低い声で言う。女性陣が慌てるのに対し、幸紀は何食わぬ顔でカレーを皿によそい、丁寧な所作で食べ始める。どことなく気まずい空気を察して、晴夏が話し始めた。

「ゆ、幸紀さん、誤解しないでくだせぇよ、別に明宵は悪口言ってたわけじゃねぇんですよ」

「知っている。俺の霊力がやたらと強いという話だろう?」

「そ、そうっすよ」

「答えを教えてやる、俺は元々強いんだ。霊力も、戦闘能力も。生まれた時から今日に至るまでな。これで満足だろう」

 幸紀は平然とそう言うと、カレーを口へと運んでいく。女性たちは幸紀の態度に何も言えず、肩をすくめるとカレーを再び食べ始めた。
 直後、建物の外から爆発音が聞こえてくる。距離はかなり遠く感じられたが、全員の表情が硬くなったその時、弥生と明宵が目配せをしあうと、明宵はワンピースのポケットからスマホを取り出し、弥生に見せた。

「あそこか…」

 弥生が呟くと、再び爆発音が響く。やはりその音は遠かったが、弥生は明宵のスマホの画面を見て表情を重くした。

「…」

「どうしたんですか、辰間さん?」

 四葉の質問に、弥生が答える言葉を選ぶ。その間に、明宵が話し始めた。

「…弥生が設置した霊力爆弾が各地で爆発してます…しかも一定の方角から、徐々にこちらに近づくように…」

「つまり?」

「…悪魔の大群が、こちらに向かってきているということです」

 明宵の言葉に、幸紀を除いた全員が息を呑む。遠くからの爆発音が響く中、すぐに弥生は他のメンバーたちに尋ねた。

「みんな、目的地は霊橋区って言ってたよね?」

「そうだよ」

「だったらちょうど悪魔が来てる側と逆だ。急いで下山すれば逃げ切れるよ。どうする?」

 弥生が尋ねると、結依が気弱そうに訴えた。

「逃げましょうよ…!大群なんでしょう?」

「おいおい、オレたちは悪魔と戦うための部隊なんだろ?戦わなきゃ!」

「…しかし迫ってきている悪魔の数は非常に多いです…おそらく100は超えているでしょう…ここの皆さんの霊力で追い払えるかは正直に言って疑問です…」

 結依、晴夏、明宵と、自分の意見を述べていく。そのままメンバーたちが言葉を交わす中、幸紀は立ち上がりながら声を発した。

「お前たちは逃げろ。俺が奴らを片付ける」

「幸紀くん!?」

 弥生が驚いて尋ね返すが、幸紀は気にせずに霊力で刀を発現させる。日菜子はすぐに状況を理解すると、頷き、メンバーたちに指示を出し始めた。

「わかりました!みんな、ここは幸紀さんに任せて先に行こう!」

「日菜子ちゃん!?本気で言ってるの!?いくら幸紀くんでも、こんな数の敵は無理だよぉ!」

「幸紀さんは絶対に大丈夫!弥生、私たちを案内して!」

 弥生が若干の反発を見せるが、日菜子は弥生を説得する。弥生はそれに押し切られると、机の下に置いてあった懐中電灯を手に持った。

「それじゃあ、私が案内するから、みんなで下山しよう。幸紀くん、あの、本当に危なくなったら逃げてね?」

「俺をナメるな。さっさと行け」

 弥生の言葉を遮るように、幸紀は無愛想に言うと、建物を出る。弥生は幸紀の背中を見送りながら頬を膨らませた。

「…感じわる」

「あれが東雲さんなりの気遣いなんです。さ、案内をお願いします!」

「わかった!ついてきて!」

 弥生は四葉に言われると、懐中電灯で足元を照らしながら先頭を切って建物を出ていく。他のメンバーたちも弥生に続いて建物を出ると、そこに立っている幸紀の背中を見送って、幸紀が立つ側と反対方向へと走り始めた。
 一方の幸紀は、暗闇の中1人で立つと、頭上に広がる星空を眺める。そして大きく息を吸うと、刀を横一文字に振るってから構え直した。

「死にたい奴からくるがいい」

 幸紀が小さく呟く。瞬間、幸紀を取り囲むようにして、さまざまな方向の草むらから、悪魔が飛び出してくる。
 幸紀はそれを見て小さく微笑むのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

強制ハーレムな世界で元囚人の彼は今日もマイペースです。

きゅりおす
SF
ハーレム主人公は元囚人?!ハーレム風SFアクション開幕! 突如として男性の殆どが消滅する事件が発生。 そんな人口ピラミッド崩壊な世界で女子生徒が待ち望んでいる中、現れる男子生徒、ハーレムの予感(?) 異色すぎる主人公が周りを巻き込みこの世界を駆ける!

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...