追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち-

晴本吉陽

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第1部 星霊隊結成

第4話(3)霊力の専門家

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17:10 ログハウス 104号室
 薄暗い部屋の中、その隅に置いてある机の上に本を広げ、冥綺《くらき》明宵《あけよ》はそれを見下ろしていた。真っ黒の前髪を伸ばして目元を隠し、着ている服も真っ黒なワンピースの、肌以外は全て黒尽くめな女性である。
 明宵は次の瞬間、何かの気配を感じてふと顔を上げると、その気配の正体に気がついた。

「…壁越しでも伝わってくる強力な霊力…いや、ただの霊力じゃない…これは一体…?」

 明宵がブツブツと呟いていると、彼女のいる部屋の扉がノックされる。明宵は扉の方を向くと、声を出した。

「…どうぞ…」

 明宵が返事をすると、扉のノブが回る音が聞こえてくる。明宵は鍵をかけていたことを思い出すと、特に慌てず扉の前に歩き、鍵を開け、扉を開ける。
 扉を開けた先には、黒いロングコートを着た男、幸紀がそこに立っていた。

「…?弥生…?背が高くなりましたね…」

「いや、別人だ。俺は東雲幸紀。清峰侯爵の部下で、悪魔に対抗する部隊、星霊隊のメンバーを集めながら旅をしているものだ。よろしく」

 幸紀は穏やかな微笑みを作りながら明宵に挨拶する。明宵は前髪越しに幸紀の顔を見た。

「…顔もかっこよくなってます…霊力って本当にいいものですね」

「いや、弥生とは別人だ」

「…あれ…失礼しました…えっと…お名前は…」

「幸紀、東雲幸紀だ」

「…覚えました…もう大丈夫です…ノリノリさん…」

 明宵はか細い声でそう言うと、幸紀の名前を間違えながら自信満々に微笑んで頷く。一方の幸紀は無言で明宵を見下ろしながら内心毒づいた。

(大丈夫かこいつ)

「…私は…」

「冥綺明宵さん、だろう?ここアカツキの国において、冥綺財閥のご令嬢で、霊力研究の第一人者でもある…」

「…そうです…随分お詳しいんですね…ノリノリさん」

「幸紀だ。悪魔と戦う人間を集めてる以上、強い人間の情報は耳に入ってくるものだ。君は有名人だからな」

「…それで…ご用件は…?」

 幸紀が愛想よくしていると、明宵が首を傾げながら尋ねてくる。幸紀は本題に入ると、口角を上げながら話し始めた。

「君も星霊隊に加入してほしい」

「…いいですよ」

 幸紀が頼むと、明宵はあっさりと頷く。幸紀は逆に驚きながら尋ね返した。

「いいのか?」

 次の瞬間、明宵は声の小ささはそのままに、ブツブツと早口で話し始めた。

「えぇ悪魔に対抗する部隊ならば必然的に霊力の強い人間が揃います。そうなれば私自身の研究も捗りますし社会貢献にもなります。同時に幸紀さんが隊長を務めるでしょうからあなたの有する正体不明の霊力についても間近で研究することが可能になり、さらに社会貢献の名目でうちの財閥は義援金を受け取りやすくなるため全員にとってウィンウィンということになります。つきましては幸紀さん、霊力の調査のためにあなたの体を調べさせていただきますね。まずはしょくし…」

「とにかく、これからよろしくな」

 幸紀は明宵の言葉のほとんどを聞き流すと、明宵の頭に手を置く。明宵は伸ばそうとしていた手を止めると、調子の悪い人形のようにゆっくりと頷いた。

「たっだいまー!」

 幸紀と明宵がそんなやり取りをしていると、幸紀の背後から弥生の声が聞こえてくる。幸紀が振り向くと、山小屋の入り口が開き、弥生が入ってきた。

「あ、幸紀くん!明宵ちゃんとお話し中だった!?」

「ちょうど終わったところだ」

「そうなの!明宵ちゃん!明宵ちゃんも星霊隊に入ったよね!?」

 弥生は幸紀に言われると、明宵に尋ねる。明宵は部屋から出ると、小さな声で答えた。

「…えぇ…大変興味深いお話でしたので、参加します」

「私もだよー!今他の星霊隊のメンバーの子たちはお風呂に入ってるから、みんながお風呂から出たらご飯を食べながら自己紹介しあおうね!」

「…そうしましょう」

 弥生は明宵とやり取りすると、幸紀の方に向いた。

「幸紀くんも、夕飯までくつろいでていいよ!私が今から全員分作るから!」

「手伝おう」

「え!?いいの!?」

「そう言っている」

「やった!ありがとう!じゃあ一緒に来て!」

 弥生は幸紀にそう言うと、幸紀を厨房へ案内する。幸紀は弥生に連れられながら厨房へと歩いていくのだった。



19:00 ログハウス 共有スペース

「ご飯できたよー!」

 弥生が高い声で言うと、ログハウス内の個室から、風呂から上がって待機していた日菜子や四葉、晴夏、結依といったメンバーたちが出てくる。明宵も遅れて個室から出てくると、ものの数秒で共有スペースに全員が集まった。
 共有スペースには長机と椅子が置かれ、机の中央には炊飯器とカレー鍋が置かれており、各自の椅子の前には皿とスプーンが置かれていた。

「弥生と幸紀くん特製のカレーだよー!さ、みんな食べて食べて!」

「うまそー!いただきます!」

 真っ先に席についた晴夏は自分の分のカレーを皿によそうと、すぐに食べ始める。四葉はそんな晴夏を見て叱った。

「こら!こういうのは全員分よそってあげるのがマナーですよ!」

「まぁまぁそう怒らないで、四葉」

 日菜子は四葉をなだめながら、自分の分のカレーをよそう。同時に、黙って座ったまま動こうとしない明宵に気がついた。

「取りますか、カレー?」

 日菜子が尋ねると、明宵は前髪に隠れた瞳で日菜子を見て頷いた。

「…お願いします」

「はい!」

 日菜子はすぐに皿にカレーをよそうと、明宵にその皿を渡す。明宵が遠慮がちに会釈をすると、日菜子は尋ねた。

「あなたが、冥綺明宵さん?」

「…そうです」

 日菜子に尋ねられると、明宵は小さく頷く。日菜子はそれを見て話を続けた。

「私は桜井日菜子、星霊隊のリーダーです」

「…ここにいる皆さんが星霊隊ですか」

「そうだよ」

「…なるほど、確かに皆さん女性で、しかも霊力は平均を上回っていますね…」

 明宵が小さく呟くと、それを聞いた晴夏は明宵に尋ねた。

「性別って関係あんの?まぁ、そりゃ悪魔と戦うなら男の方がいいとは思うけどさ」

「…いいえ、逆です。霊力は基本的に女性の方が強い傾向があります」

「え、そうなの?」

「そうです。そもそも霊力を扱える人間自体が少ないのですが、過去50年間で報告された霊力使用者のデータを見ても、また人口比から調べても女性の方が多く、さらに、女性の方が強力であることが判明しています」

「ふーん、そーなんだ、詳しいなぁ」

 晴夏は明宵の言葉が理解しきれずに適当に相槌をうつ。そんな晴夏に、弥生が自慢げに話し始めた。

「明宵ちゃんは霊力の専門家だからね!霊力のことはなんでもわかるんだ!」

「…なんでもはわかりません。例えば幸紀さん…彼は男性でありながら私も経験したことがないほどの霊力を有しています…しかも普通の霊力とは異質な…それこそ、その力は悪魔に近いようにすら…」

「本人のいないところで評論か」

 明宵が話していると、幸紀が現れ、低い声で言う。女性陣が慌てるのに対し、幸紀は何食わぬ顔でカレーを皿によそい、丁寧な所作で食べ始める。どことなく気まずい空気を察して、晴夏が話し始めた。

「ゆ、幸紀さん、誤解しないでくだせぇよ、別に明宵は悪口言ってたわけじゃねぇんですよ」

「知っている。俺の霊力がやたらと強いという話だろう?」

「そ、そうっすよ」

「答えを教えてやる、俺は元々強いんだ。霊力も、戦闘能力も。生まれた時から今日に至るまでな。これで満足だろう」

 幸紀は平然とそう言うと、カレーを口へと運んでいく。女性たちは幸紀の態度に何も言えず、肩をすくめるとカレーを再び食べ始めた。
 直後、建物の外から爆発音が聞こえてくる。距離はかなり遠く感じられたが、全員の表情が硬くなったその時、弥生と明宵が目配せをしあうと、明宵はワンピースのポケットからスマホを取り出し、弥生に見せた。

「あそこか…」

 弥生が呟くと、再び爆発音が響く。やはりその音は遠かったが、弥生は明宵のスマホの画面を見て表情を重くした。

「…」

「どうしたんですか、辰間さん?」

 四葉の質問に、弥生が答える言葉を選ぶ。その間に、明宵が話し始めた。

「…弥生が設置した霊力爆弾が各地で爆発してます…しかも一定の方角から、徐々にこちらに近づくように…」

「つまり?」

「…悪魔の大群が、こちらに向かってきているということです」

 明宵の言葉に、幸紀を除いた全員が息を呑む。遠くからの爆発音が響く中、すぐに弥生は他のメンバーたちに尋ねた。

「みんな、目的地は霊橋区って言ってたよね?」

「そうだよ」

「だったらちょうど悪魔が来てる側と逆だ。急いで下山すれば逃げ切れるよ。どうする?」

 弥生が尋ねると、結依が気弱そうに訴えた。

「逃げましょうよ…!大群なんでしょう?」

「おいおい、オレたちは悪魔と戦うための部隊なんだろ?戦わなきゃ!」

「…しかし迫ってきている悪魔の数は非常に多いです…おそらく100は超えているでしょう…ここの皆さんの霊力で追い払えるかは正直に言って疑問です…」

 結依、晴夏、明宵と、自分の意見を述べていく。そのままメンバーたちが言葉を交わす中、幸紀は立ち上がりながら声を発した。

「お前たちは逃げろ。俺が奴らを片付ける」

「幸紀くん!?」

 弥生が驚いて尋ね返すが、幸紀は気にせずに霊力で刀を発現させる。日菜子はすぐに状況を理解すると、頷き、メンバーたちに指示を出し始めた。

「わかりました!みんな、ここは幸紀さんに任せて先に行こう!」

「日菜子ちゃん!?本気で言ってるの!?いくら幸紀くんでも、こんな数の敵は無理だよぉ!」

「幸紀さんは絶対に大丈夫!弥生、私たちを案内して!」

 弥生が若干の反発を見せるが、日菜子は弥生を説得する。弥生はそれに押し切られると、机の下に置いてあった懐中電灯を手に持った。

「それじゃあ、私が案内するから、みんなで下山しよう。幸紀くん、あの、本当に危なくなったら逃げてね?」

「俺をナメるな。さっさと行け」

 弥生の言葉を遮るように、幸紀は無愛想に言うと、建物を出る。弥生は幸紀の背中を見送りながら頬を膨らませた。

「…感じわる」

「あれが東雲さんなりの気遣いなんです。さ、案内をお願いします!」

「わかった!ついてきて!」

 弥生は四葉に言われると、懐中電灯で足元を照らしながら先頭を切って建物を出ていく。他のメンバーたちも弥生に続いて建物を出ると、そこに立っている幸紀の背中を見送って、幸紀が立つ側と反対方向へと走り始めた。
 一方の幸紀は、暗闇の中1人で立つと、頭上に広がる星空を眺める。そして大きく息を吸うと、刀を横一文字に振るってから構え直した。

「死にたい奴からくるがいい」

 幸紀が小さく呟く。瞬間、幸紀を取り囲むようにして、さまざまな方向の草むらから、悪魔が飛び出してくる。
 幸紀はそれを見て小さく微笑むのだった。
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