追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち-

晴本吉陽

文字の大きさ
53 / 98
第1部 星霊隊結成

第10話(2)モテる女

しおりを挟む
「えっ!?ま、待って!!」

 その女性の悲鳴にも似た命乞いを無視して、悪魔は女性に殴りかかろうとする。悪魔の背後にいた菜々子は、この状況を見過ごせなかった。
 瞬間、手錠をかけられた菜々子の両手に霊力が集まると、ピンク色の光が集まり、長い鎖が菜々子の手に握られていた。

「『ラフィーネ・スラッシャー』!!」

 菜々子は叫びながら鎖を振るう。鎖から放たれたピンク色の衝撃波は、女性に殴りかかろうとしていた悪魔の背中に突き刺さり、悪魔は悲鳴を上げながら黒い煙となって消えた。

「…どうなってんの…?」

 悪魔に殺されかけた女性は、目の前の状況が理解しきれずに呟く。菜々子はそれを気にせず、霊力を流して自分にかけられた手錠を破壊すると、未だに困惑しているその女性に声をかけた。

「危なかったけど、大丈夫?オネーサン」

 菜々子に尋ねられ、初めてその女性は現実に還ったように菜々子の方を見る。菜々子は軽い笑顔を浮かべながら話を続けた。

「私、桜井《さくらい》菜々子《ななこ》っていいまーす。趣味はー、んー、色々。あ、お化粧は特に好きだよ。オネーサンの名前は?」

 菜々子は軽い空気のまま目の前の女性に尋ねる。女性は戸惑いながら立ち上がると、周囲を見回してから話し始めた。

「えっと…木村《きむら》千鶴《ちづる》っていいます…その、助けてくれたんですよね、桜井さん」

「菜々子でいいよー。ナナちゃんでもカンゲー。まぁ、結果的に、そうなったってだけだから、気にしなくていいよ、千鶴ちゃん」

「とにかく、ありがとうございました」

「いえいえー」

 よそよそしい千鶴に対して、菜々子は馴れ馴れしく言う。千鶴は菜々子に頭を下げて礼を言うと、周囲を見回してから菜々子に尋ねた。

「すみません、ここ、どこですか?」

「えっとね、真川《さねがわ》県の…どこだったかなぁ?」

「え?何県って?」

「真川《さねがわ》だよー」

「…え?聞いたことない…」

 千鶴は深刻な表情で呟く。菜々子はそれに対して相変わらず軽い様子で話しかけた。

「千鶴ちゃんはどこから来たの?」

「私、東京の高校に通ってて、部活から帰る途中だったんです。そしたら、気がついたら穴みたいなところに吸い寄せられて…」

「トーキョー?うーん、どこかなぁ…私、だいたい全部の県行ってるはずなんだけど、聞いたことなーい」

「え?」

「え?」

「…」

 千鶴は理解しきれない状況に黙り込む。一方の菜々子は何かに気がついたように声を上げた。

「あ、わかった!千鶴ちゃん、きっと異世界から来たんだ!」

「…は?」

「よくあるじゃん、普通に生きてたら突然異世界に来ちゃうってラノベ。千鶴ちゃんは読まないの?」

「いや、まぁ、なくはないですけど、そんな突拍子もないことあるわけ…」

 千鶴はそう言いながら、ふと先ほどの光景を思い返す。襲いかかってくる悪魔に、何もないところから武器を発現させた菜々子。

(…でも、よくよく考えたら意味わかんないことばっかり…これ…本当に現実なの?仮にこれが現実なら…本当に異世界に来ちゃったのかも…)

 非現実的でしかないはずのその考えが、今の千鶴にとって最も現実的で論理的な答えだった。それだけに、千鶴の顔からは徐々に血の気が引いていくのだった。
 明らかに動揺している千鶴を見た菜々子は、周囲を見回しながらも千鶴に話し始めた。

「とにかく、千鶴ちゃんにとってここは知らない場所なんだよね?だったら、とりあえず私を信じてついてきてくれないかな?」

 菜々子が提案すると、千鶴は少し戸惑ったあと、弱々しく頷いた。

「は、はい」

「よかった!じゃあ行こう!」

 菜々子はそう言うと、千鶴の手を引いて早足で森の中を歩き出す。千鶴はそれに引っ張られるようにしてついていくのだった。

「な、菜々子さん、どこ行くんです?」

「とにかくここを離れるの。さっき千鶴ちゃんを襲ったアレ、悪魔って言うんだけど、ここ悪魔の拠点っぽいんだよね」

「え?えぇ!?」

「だから一旦ここから逃げないと…あ、そうだ」

 驚く千鶴をよそに、菜々子は冷静に何かを思い出すと、一度足を止め、自分のベルトに差していた2本の十手《じって》のようなものを抜いた。

「千鶴ちゃん、霊力使える?」

「れいりょく?」

「わかった。じゃあ、これあげる。さっきみたいに悪魔に襲われそうになったら、それで悪魔を引っ叩いてね」

 菜々子はそう言うと、2本で1組の十手を千鶴に手渡す。千鶴は状況が飲み込めないままそれを受け取ると、すぐに菜々子の方へ顔を上げた。

「あ、あの」

 千鶴が質問しようとすると、菜々子が人差し指を立てて千鶴を制する。そして周囲を見回し、表情を鋭くした。

「…もう囲まれちゃったか…」

 菜々子は小さく呟く。状況を理解しきれない千鶴だったが、菜々子は気にせず、千鶴の方に向き直って話し始めた。

「いい、千鶴ちゃん?真っ直ぐあっちに向けて走ってね。何があっても振り向いちゃダメだよ。大通りに出たら、ずっと左の方に走っていってね」

「ちょ、ちょっと待ってください、菜々子さんはどうするんです?」

「後で追いつくからさ。大丈夫。とにかく、走って、誰か頼れそうな人がいたらその人と一緒に逃げて。そうじゃなかったら、大通りに出て左、お屋敷を目指して走るんだよ。いい?約束して!」

 菜々子はやや語気を強くする。そんな菜々子の態度を見て、千鶴はわけもわからず頷いた。

「わ、わかりました、言う通りにします」

「よし、じゃあ行って!」

 菜々子がそう言うと、千鶴は草むらを掻き分け、菜々子に背を向けて走り出す。そんな千鶴を見送った菜々子は、霊力を右手に集め、武器である鎖を握りしめると、ゆっくり振り向いた。

「…ふふ、私ってば、イケメンだけじゃなく、悪魔にもモテちゃうわけ?」

 菜々子はなんとか軽口を叩いて気持ちを誤魔化す。しかし、彼女の額に浮かんでいた汗と唇の震えは誤魔化せなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について

マカロニ
恋愛
名門・雄幸高校で目立たず生きる一年生、神谷悠真。 クラスでは影が薄く、青春とは無縁の平凡な日々を送っていた。だがある放課後、街で不良に絡まれていた女子生徒を助けたことで、その日常は一変する。救った相手は、学年一の美少女三姉妹として知られる西園寺家の次女・優里だった。さらに家に帰れば、三姉妹の長女・龍華がなぜか当然のように悠真の部屋に入り浸っている。名門令嬢三姉妹に振り回されながら、静かだったはずの悠真の青春は少しずつ騒がしく揺れ始める。

【完結】魔王を殺された黒竜は勇者を許さない

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
幼い竜は何もかも奪われた。勇者を名乗る人族に、ただ一人の肉親である父を殺される。慈しみ大切にしてくれた魔王も……すべてを奪われた黒竜は次の魔王となった。神の名づけにより力を得た彼は、魔族を従えて人間への復讐を始める。奪われた痛みを乗り越えるために。 だが、人族にも魔族を攻撃した理由があった。滅ぼされた村や町、殺された家族、奪われる数多の命。復讐は連鎖する。 互いの譲れない正義と復讐がぶつかり合う世界で、神は何を望み、幼竜に力と名を与えたのか。復讐を終えるとき、ガブリエルは何を思うだろうか。 ハッピーエンド 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/03/02……完結 2023/12/21……エブリスタ、トレンド#ファンタジー 1位 2023/12/20……アルファポリス、男性向けHOT 20位 2023/12/19……連載開始

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...