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しおりを挟むあのあと家に帰って着替えたら彼からの迎えが来た。
「聖女様、坊っちゃんがお待ちでいらっしゃいます」
着替えて一息ついた瞬間来るからびっくりする。ストーカー?でもそんな高位貴族がたかが聖女にそこまではしないだろうから偶然だろう。
「アリアっ!会いたかった」
「メルヴィン様」
馬車から飛び出てきた私には勿体無すぎる彼、メルヴィン・ホワイト様。私にはどこからどうみても王子様。彼の従兄弟である本物の王子様も学校にいたが、雲の上の人すぎて記憶にない。メルヴィン様も雲の上の方だけれど、選択授業が一緒でお声掛けをしていただけてから仲を深めた。
「様なんて他人行儀な呼び方はやめてくれ。もう私達は婚約が決まっているんだから」
決まってはいるが、私をどの貴族の養女にするかなど話すことは尽きないようだが。私としては特にすることは何もないのでいつも通り過ごしているだけだ。
「今日はどこへ行こうか?この前のカフェでテイクアウトしてピクニックでもする?楽しかったよね」
「今日は…お願いがあるんです。聞いてくださいますか?」
「婚約をなかったことにする以外ならなんでも聞いてあげるよ。言ってみて?」
「聖女や教会に関する書物を読みたいんです。どうしても」
「じゃあ図書館にしようか。貴族街の方なら蔵書も多いよ。個室を借りれば会話も出来るし一緒にお茶も出来る」
そう言ってすぐ馬車を走らせた。
着いた先には沢山の蔵書。どれから目を通せばいいものか
「何が知りたいの?司書に聞いてあげるよ」
聖女が処女じゃなくても力が使えるか知りたいんですなんて彼には言えない。彼に言わず司書の方に聞いたとしても絶対に彼に漏れない保証がないので私の心のなかに留めておくことにする。
「その…結婚した後の聖女達について知りたくて…。あとは聖女のお子様なんかが存在すればそれについての」
セックスはしたのかとか子どもがいるのかとか、子どもがいるのならセックスはしているから裏付けになるの。さすがにセックスしないで子どもはおかしい。処女受胎はありえないって娼婦の方々は言っていたもの。
「そうか…では聞いてこさせるよ」
いつも一緒のおじさまが行ってくれた。ちなみに私の家まで迎えに来たのもこのおじさま。執事って家にいるものだと思っていたのに、従者ですからっていつも一緒にいる。息子が本当の従者らしいんだけどまだお姿を拝見したことはない。
「護衛も兼ねるから結婚する前までは身を隠しながら護衛する術を身に付けているんだよ」
とメルヴィン様に教えてもらえたが、お前と結婚したところで跡継ぎを生めないお前には大事な従者をみせるつもりはないよと今なら解釈もできる。
「お待たせいたしました」
待っていない。すごい早い。
数冊の書物を手に戻ってこられた。聖女とはいえ庶民の私には手にするのも萎縮してしまうくらい立派な装丁だ。
「読まないのかい?」
装丁が立派すぎて触れるのも躊躇われますなんて隣でニコニコしているメルヴィン様の前では言えない。すぐに庶民だから本も見れないなんてお飾りにもならないじゃないかなんて思われたら絶望してしまうわ。それはもう仕えるべき神にも文句を言ってしまいそうになるくらい。
そんな私の様子にどちらが気付いたのかはわからないが、メルヴィン様が本を探すと席を立った。
「アリア、メルヴィン様はいないので本当の目的を言いなさい。」
この執事にはバレているのだ。本の装丁が立派すぎてと言ったら、そこは気にするなと言われた。そもそも図書館にあるものなのだから気にするなと。確かにそうだ。
「そもそもなぜアリアが図書館に?書物にも歴史にも興味なんてないでしょう?」
「ひどい!」
「普段のあなたを知っているからです。メルヴィン様は存じてないと信じたいですが」
溜め息をつきながら言わないでほしい。
「それが…」
ここに至った経緯を説明した。処女でなければ聖女ではいられないこと、メルヴィン様の後継者を生むためだけだとしても第2夫人が用意される噂のこと、ここに来たのは処女じゃなくても聖女を続けていた先人がいたか調べたかったこと。洗いざらい説明したら、少し考えて一人で納得された。はぁ?
「今一度確認しますがアリアはメルヴィン様のことを本当に愛しておられますか?」
「当たり前です!私なんかにはもったいない御方なのも重々承知しています。でも…」
初めて会ったときから、恋心を自覚したとき、諦めなければならないと涙したとき、想いが通じ合ったとき。全てがかけがえない思い出で、庶民の私に釣り合うような人でないこともわかっている。でも彼の隣で人生を歩むことを諦めることはもうできない。
「もう諦めません。私はメルヴィン様と共に歩むと決めたのです。」
「えぇ。それならいいんです。あなたはよくない方へ考えることが多いですから。そこに関してはメルヴィン様も心配しておいでです」
どの部分のそこ?
「聖女の処女問題についてはこちらも調べます。あなたを本当に手に入れることが出来るならメルヴィン様はなんだってするでしょう。第2夫人の話はこちらからはでていませんから、恐らく故意にあなたに聞かせようとしている連中がいますね。」
なんてこった!政治的なやつに巻き込まれてるってことか!私には関係ないやーなんてみんなに言っていたがそうはいかないってことなのかもしれない。
「そこに関してはアリアはなにもしないで下さい。メルヴィン様にも勘づかれたくはないので私達だけでなんとかします。」
「では私は…」
なにをすればいいのだろうか?
「アリアが出来ることは聖女としての職務を全うすることです。中央にいたときからあなたの評判はよかったのですから、花街でも同じように頑張りなさい。あと出来ることと言えば娼婦達から教わることでしょうか…」
耳年寄りかってくらい色々聞かされているのにこれ以上どうしろと?穴は2つ使えるとか衝撃的すぎたのにこれ以上?
「なにも挿入だけがセックスではありませんよ」
「なんですって!?」
図書館なのに思わず大きい声を出してしまった。挿入がなくてもセックス…?初耳すぎて思わず声が…
「お待たせアリア」
席に戻ってきたメルヴィン様が私の頭にキスをして席に着く。
「おかえりなさいませ」
「…いいね、早く結婚してアリアが家に入ってくれたら毎日言われるのかと思うとすごくいい」
挿入しないセックス、挿入しないセックス?
「アリア、聞いているかい?」
「あっ!すみません、ちょっと考え事を…」
駄目よアリア、メルヴィン様が目の前にいるのに挿入しないセックスのことしか考えられないなんて駄目。
「今日のアリアは少し疲れているのかな?ごめんね。午前中は聖女の務めをこなしていたのに午後もすぐ来てしまって」
「いいえ、メルヴィン様に早く会えるだけで私は幸せです」
これは本音。一秒でも早く、一秒でも多くメルヴィン様に会えるだけで幸せ。一緒に暮らせたりしたら毎日が幸せなんだろうけど…セックスが出来なければメルヴィン様は第2夫人の元へ夜は通うことになるかと思うと…イヤ!絶対にイヤ!!
「調べものは順調に進みそう?」
「え、えぇ。」
結婚して子ども出来ても聖女を続けている人がいたのか調べることよりも挿入しなくてもいいセックスの方を知りたくて仕方ないのだが、さすがにそんな本があるとも思えないし、あってもメルヴィン様の前で読むことなんて絶対に出来ない。早く何か手掛かりが見つかりますように。あと早く明日になって娼婦のお姉さん達に挿入しないセックスを教えてもらうんだ。
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