カレが私を諦めてくれない

そいみるくてぃー

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「もういいわ、別れましょう」

アクセサリー感覚で付き合ったこの男に、ダンスパーティの途中で庭に出て別れを告げた。周囲には数組のカップル、甘い雰囲気の中で私の一言で場の空気が凍った。

「絶対に嫌だ」

別れを告げたにも関わらず頑なに拒否をするこの男、ジャスティン・ジョーンズ。名前の通り騎士の男だ。顔は一流、剣の腕も一流、家族想いの旦那様にしたい人トップ3にいつも入るような男である。
そんな男を見事に落とした私、イザベル・ヒネメスは男をとっかえひっかえ、婚約者のいる男でも容赦なく落としてすぐに飽きて捨てる女として彼とは正反対の意味で有名人である。

私は彼に興味はなかったし、彼も私のような女は嫌いだったであろう。出会いと言うものは本当に不思議である。




*****



ある夜会の最中、このときも男を振ったばかりだった。その腹いせか階段から突き落とされた。振った男だったか、その男の恋人か婚約者だったかの女なのかは覚えていない。

「大丈夫か!?」

痛いのを覚悟していたから抱き留められたときは驚いて声もでなかった。そもそもその相手の胸元に顔を埋めているのだから出るものもでないが

「声もでないのか?パートナーは?まだ会場にいるのか?」

心配をしてもらうなんて家族や我が家の使用人以外では久々すぎてどう対応していいのかわからなくなった。

「あなたさまがお慰めくだされば大丈夫ですわ」

相手の顔も見ないでそう言ってから顔をあげてしまったことが悪かった。まさか相手があのジャスティン・ジョーンズ、通称JJだったのだから。難攻不落、孤高の騎士JJ。潔癖とも噂されていて、軽い女は大嫌いとのこと。私なんて大嫌いなタイプだろうに、そんなJJに慰めてくれと言ってしまった。あー、また突き落とされるわ。今日のハイヒールは気に入っているから傷付いたり折れたりしないことを祈るだけよ

「私でよければ。レディ、お名前を呼ぶ権利を」
「え?」
「ヒネメス侯爵令嬢と御呼びするよりいいでしょう?」
「え、えぇ。どうぞ。名前で呼んでいただいて結構ですわ」
「ではイザベル様」
「きゃぁっ!」

膝裏に腕を回され、横抱きにされる。あのJJにこんなことをされるなんて

「噂がある女性とは言え、高位貴族の令嬢にこのようなことをして逃げ果せると思うな」

顔だけ後ろを振り返りながら恐ろしいことをおっしゃっていたが、私が気にするのは今のこの状況だけなのでどうでもいいのだ。

「車を呼ばせますので休憩室までどうぞこのままで」
「いいえ、足を挫いたわけでもありませんから降ろしていただいて結構ですわ。騎士であるあなた様の手を煩わせてしまい申し訳ありません」
「どうぞこのままで。二人で落ちてしまって怪我をするのもいいですが」

笑いながら言うことではない。私が怪我をするよりこのJJが怪我をするほうが国にとっても痛手となりそうだ。

周囲の目に晒されながら会場にある休憩室まで運ばれた。

『エスコートは別の方ではなかったかしら?』
『どうせ怪我でもした振りをしてジャスティン様に運ばせているのよ』
『わざわざ横抱きにしてもらって…ほんとさすが高慢令嬢ね』

高慢とか言われているけれど、容姿は人より優れているし、頭も人の悪口を堂々と言う女よりはまし、身分もあるし高慢とか言われる筋合いはない。傲慢のほうが私にはあっていると思うの。あとこのJJに運ばれているのは決して私の意思ではない。

「今宵の虫は随分とよく鳴きますね」

令嬢達を虫と言ってのけるこの男が一番恐ろしい。なにを要求されるのだろうか。金銭であればいいのだが、家に迷惑をかけるようなことを要求されないことを祈る。                     
そして早く、本当に早くこの状況から解放されたい。

休憩室はよく利用していた。大人数で社交がてらのところもあれば、個室でその時に付き合っていた男といちゃつくこともあった。それがまさかこの国一嫁ぎたい男JJと来るとは思いもしなかった。言ってしまえばタイプではないのだ。顔が、ではない。国に忠誠を誓っている騎士としての立場や真面目一辺倒な所が。私には眩しすぎる彼を恋愛対象としてみたことはなかったから、ドキドキするよりも呆然としてしまう。
個室タイプかよ厄介と思いながらも、連れ込まれた部屋のソファに下ろしてもらう。


「ありがとうございましたジョーンズ様」
「困っている女性を助けるのは騎士の勤めです。あと家名ではなく私の事も名前で呼んでいただけませんか?」
「いいえ、あなたを恋慕う者達から睨まれてしまいますので遠慮させていただきますわ」

こんなところでこの男と縁を結びたくないのだ。雲の上の人間とは関わり合うことなく過ごしたいだけなの。

「お茶か、お酒、どちらを飲まれますか?」

部屋にはJJと私だけなので、彼がお茶の用意をすると背を向けた瞬間がチャンス。部屋を飛び出す。音を立てないで扉の開け閉めをするなんて私には朝飯前なのだ。
扉を閉めた瞬間走る。ドレスだから?ハイヒールだから?そんなこと一切関係ない。ハイヒールのまま走るなんて先程の扉の開け閉めばりに得意中の得意なのだから。気づく前に、あのJJが私がいなくなったことに気づく前に車を拾って家に帰る、そして父母に洗いざらい話して絶対に取り次ぎをしないようにお願いをする。私のお願いならきっと聞いてくれる。
まぁ笑っちゃうほど順調に走ってはいたが、エントランスホールで座り込んでいる子を見つけてしまった。あー、放っておけばいいのに声かけちゃう自分の人間性を呪いたくなる。

「どうかされましたか?」

私よりも数歳は年下であろう令嬢は差し出した手を取ろうとしたが、引っ込めてしまった。

「申し訳ありません」
「いいえ、なにか事情がおありなのでしょう?」

彼女が大きく広がったスカートの裾をすこし捲れば、ヒールの折れた可愛らしい靴があった。おそらくまだ慣れていないのだろう、アンクルストラップがついている。そのヒールが根本から折れてしまい、立ち上がるに立ち上がれないということか。

「お連れ様はいらっしゃいますか?」
「はい、兄と来ていましたが…兄が少し外すと。ここなら変な人間に声をかけられることはないと言われ待っていたのですが」

連れがいるなら話は早い。

「私の靴をはいてどうぞお立ちになって」

おもむろに靴を脱いで彼女の前に揃える。この令嬢の足のサイズと私の足のサイズはかなり違うだろうが、立って彼女の兄を待つくらいになら使えるだろう。私は裸足だけれどそんなこと今はどうでもいい。折角パーティーにきたのに立ち上がれなくなったこの可愛らしい令嬢を床に座ったままにさせたくはないのだ。

「でも、あなた様が…」
「私なら大丈夫。裸足でもすぐ車に乗りますから安心なさって。変なブランドの靴でもありませんし、お嬢様がお連れの方をお待ちになる間立つのに使っていただければこの靴も本望ですわ。ではごきげんよう」

10センチは縮んだのでドレスには悪いが、踏まないように裾をたくしあげてまた走る

「そんな!お待ちください!せめてお名前だけでも!」

背後から先程の令嬢の声がするがこれ以上立ち止まってはいられないのだ。

「名乗るほどの者ではございませんわ!よい夜をお過ごしくださいませ!」

裸足のまま駆けてロータリーに着く。幸運にも我が家の車を見つけて御者に大きく手を振る。

「帰るわ!急ぎよ!」
「お嬢様!?あーっ!靴!靴がありませんよっ!」
「諸事情により差し上げたのよ!それより早く家まで出して!」

御者とは別の従者が扉を開けてくれたのでそのまま乗り込み、早く発つように急かす。

「イザベル様!待ってください!」
「早く!」

追ってきたJJを寄せ付けず車が発進してくれた。追うのを諦めたのをバックミラーで確認してようやく息をついた。

「よかったわ、スムーズに発進できて」
「馬車もいいんですけどね。私はもはや御者ではなく運転手ですよ」
「それよりお嬢様、先程追ってきたのはあのジャスティン・ジョーンズ様ではありませんでしたか?」

馬車を使っていた時代からの御者とフットマンは今や運転手と従者だ。運転席とその隣、助手席に座っている。後ろを振り向くこともなく3人で話をする。何を隠そう、私は裸足で走ってきたので今は足の裏を拭いている。

「そう。あの超絶有名人JJ本物よ」
「なぜお嬢様を?接点はありませんよね?」

階段からの話をするとなんとも言えない空気になった

「あの完璧なる騎士、ジャスティン・ジョーンズ様はお嬢様に一目惚れでもなさったのでしょうか…?」
「一目惚れぇ?あのJJが?お父様達とパーティに出たときに何度か挨拶はしたことあるから一目惚れではないわね。心底嫌そうな顔で私を睨んでいたのを覚えているもの」

そんな話をしながら邸に帰った。お風呂へ直行、洗われまくったあと、念入りにマッサージをしてもらった。裸足で走ったのだから仕方ないが、思った以上に疲労が溜まっていたようだ。
お風呂上がりには執事に頼んでいたので父と話すことができた。
やはり我が家に来たそうだが、父と母が直接対応しお帰りいただいたそうだ。階段から突き落とされたことと誰かわからずしなだれかかってしまったこと、その相手があのジャスティン・ジョーンズ、横抱きにされ休憩室へ運ばれて逃げたと包み隠さず話した。

「お付き合いと言っても軽いものだろう?」
「えぇ。将来の話なんかは一切しませんでしたから後腐れなんてないかと思ったら。」
「相手は調べておく。イザベルにも非があるからそこまで強くはでないぞ」
「わかりました」

「あら、ママはてっきりあのJJを落としたのかと思ったわ」

父と話が終わったかと思ったら優雅にカモミールティーを飲んでいた母が訳のわからぬことを言った。私が?あの難攻不落のJJを?

「ありえませんわ」
「でも彼が女性を横抱きにしてなんて初耳よ。妹君ならありえるかもしれないけれど、イザベルみたいな結婚も婚約もしていない令嬢を抱き抱えるなんて…やるわねイザベル」
「そうだとしても私は慎んで遠慮させていただきます」
「あーら、超優良物件なのに、ねぇあなた」

父は黙った。優良物件はわかるが娘の結婚やら婚約もやらを出されると途端に黙ってしまう。男親とはそういったものなのだろうか?

「粗相があって謝る以外のことでジャスティン・ジョーンズ様にお会いするつもりはありません。使用人達にもお伝え願います。」

こんなときは寝るに限る。明日の肌にも影響が出るし考えないことが一番。




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