カレが私を諦めてくれない

そいみるくてぃー

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「そもそも勘違いでしょう?惚れやすい人間なようだから次の相手もすぐ見つかるわ」

別れたくないときっぱり告げてから手首を離してくれない男に言ってやった。

「イザベルは特別なんだ。勘違いなんかじゃない」
「それがそもそも勘違いよ」

何度振り払おうとも離れないこの手がもどかしい。
そういえばあのときもそうだった






*****





車を追いかけられたあの日から数日、新しいドレスを仕立てたいから出掛けようと侍女に言えば、執事が手紙を持ってきた。

「お嬢様、裸足で帰られた日、靴はお貸しになったのですか?」
「いいえ、あげたわ。気に入ってはいたけれど自分より年下の令嬢がヒールが折れたと床に座っていたのよ?かわいそうであげたの」

いつも服を注文するブランドの変形ヒールで一点物だった。普通に売ってないし諦めたのだ。

「その靴を返したいとお手紙が来ております。持ってきた方でどちらのお家の方かはわかっているのですが、お嬢様には内緒にしてほしいとのことで」
「お父様はそれでいいと?」
「はい。家名ではなくその令嬢と会ってみるのもいいんじゃないかと。お返事をされるようでしたら私が直接あちらにお届けに参ります」

えー、めんどくさーい。と口走ってしまいそうになるが、お母様や家庭教師の教育の賜物だ、口走らなかった。私も随分と成長したわと自画自賛してしまう。

「靴だけ返すでもいいのにね」
「現物だけ返せばいいというものでもありません。お嬢様が普段適当に遊ぶだけの殿方とは違うんですよ?」
「わかったわ。まぁアポイントのお手紙でしょう?私も都合のいい日を書いてお返事とすればいいのね」
「えぇ。」

あちらから提示されていた日付にこちらの都合のいい日を記載し、お礼はいらない、無事に帰れたのならよかったと書き封をする。

「お嬢様、面倒だと口に出さなくなったのは素晴らしいですが、靴だけ返してくれればは淑女として残念でなりません」
「もー!それ部屋を出るときに言うの?その時言ってよ!」

うちの使用人は時々いじわるだ。部屋にいる侍女達もくすくすと笑っている。いいじゃない別に。




後日令嬢との待ち合わせ場所に行けば既に相手は来ていた。

「遅くなって申し訳ありません」
「いいえ、私が楽しみにしすぎて早く来てしまったのです。まだお時間前ですもの」

ギャザーとフリルたっぷりの淡いピンクのドレスにぴったりなニコニコとした笑顔。私が悪魔ならこの子は間違いなく天使ね。可愛らしいわ。

「立ち話もなんですからどうぞお掛けください」

うちより高位もしくは同格くらいの爵位だろう。堂々としている。立派だわ。私がこの子の親ならば自慢してまわるのに。

「イザベル様にお会いできてとても嬉しいんですっ!」

妙に興奮している令嬢、名前しか伺っていないがこのポーラ嬢は私のことが好きらしい。私のようになりたいと両親や兄弟に言ったら「とてもいいことだ」と言われたそうだ。ポーラ嬢の私の評判を知らないとしか思えない。数々の浮き名を流す女のことが好きだなんて未成年の娘、妹に言われたら卒倒してしまう自信がある。それくらい私の浮き名はとんでもないのだから。

「このハイヒールをどうしてもお返ししたくて」

大層立派な箱に入って従者から渡されたのはあの時彼女に渡した私のハイヒールだった。高めのヒールに蛇が絡み付いている奇抜なもの。一般販売はしていないものだから大事にしていたのだ。

「ありがとうございます」
「この靴でなければイザベル様に辿り着くことができませんでしたわ。このブランドを調べてからはすぐイザベル様のものだとわかったので、早めに手紙を出すことができたのです」

確かに。作ってはみたけれど売れる気がしないとオーナーは言っていた。それをよくブランドを探り当てたものだ。こんな蛇が絡み付くヒールなんて普通の令嬢だったら悲鳴をあげてもおかしくないのに。それを無理矢理履けと言った私…とんでも女ね、そのあと裸足で駆けていくのだから本当にただのヤバい女だわ…
私がいかに美しいかと他人に言われるのは些か恥ずかしいものがあるが、まぁある程度は自分が綺麗だと自覚はある。淑女かどうかと言われたら微妙なところではあるが、ポーラ嬢は私を立派なレディだと言う。淑女だと言わない辺りがわかっている。様々な噂は耳には入っているのだろうに、ある種の盲信者なんではなかろうかと思ってしまうほどにポーラ嬢は私を褒め称える。

「私どーーっしてもイザベル様にお兄様を紹介したいんですの」

浮き名を流す令嬢に自分の兄を勧めてくるポーラ嬢の考えることはわからない。まぁ先程からの私を綺麗だと言い続けて妄信的な発言を繰り返す彼女のことだ、兄の許可なんてとらずに私を紹介するのだろう。断るのも角が立つし、変に誘われても厄介すぎる。向こうが怒り狂ってすぐに立ち去ってくれるのを祈るばかりだ。

「私なんかがポーラ嬢のお兄様のお眼鏡にかなうとは思えないのですが…」
「そんなことありませんわ!謙遜なさらないでくださいませ。今従者に呼びに行かせていますから」

彼女の兄が今どこにいるのかは知らないが。

「私はイザベル様に見合うような人間はお兄様しか知りません。大好きなイザベル様とお兄様がお近づきになってくれるだけで幸せなんです」

私に見合う人間がお兄様だけとは言ってくれるなポーラ嬢。噂も知っていてそう言うのだから相当なレベルのお兄様が出てくるのだろう。ん?話ぶりからするとそのお兄様は私のことを知っているのか?え?元カレとかじゃないわよね、それだけは遠慮したいわ。

「すまない、待たせてしまった」

来たのはまさかの男だった

「私の兄のジャスティン・ジョーンズです」

嘘でしょ…

「先日はヒールが折れた妹にわざわざ靴を御貸しくださって家族全員を代表して私からお礼を言わせてください」

跪いた目の前の男が私のドレスの裾にキスをしてきた。
もうすべてにあっけにとられて抵抗も何も出来なかった。キャーキャー言っているポーラ嬢には悪いが私は魂が抜けている。
裾にキスってなによ、忠誠でも誓うの?あのJJが?うっわー勘弁、バレたら嫉妬の嵐で今度から夜会が大荒れよ。

「妹はあなたのお陰で人が来る前に立ち上がれました。令嬢としての面子が保たれたのです。感謝してもしきれません。」
「そうです!イザベル様のようなお優しい方のお陰で。あのハイヒールもそうです、私いつかあの靴を華麗に履きこなせるような令嬢になりますわ」

あの蛇が絡み付いたやつ?この可憐な令嬢が?華麗に履きこなす?無理よ無理無理。私みたいなザ悪女みたいなおんなでなければあんなふざけたものを好き好んで履かないわ。あー、頭痛い。

「お兄様も一緒にお茶にしましょう!」

頭痛の種も一緒らしい。
そんなに大きくないテーブルだから自ずとJJとの距離も近くなる。うっわー嫌だ。それにしても綺麗な顔立ち。妹と似てるじゃない。交互に顔を見ては失礼だから持ち前の令嬢スキルでうまくやってる。
そもそも一緒に来ている我が家の執事は絶対に知っていたわ、ポーラ嬢がジョーンズ家の令嬢だって。わざとらしく私から目を逸らしているのが何よりの証拠だ。

「お砂糖はいりますか?」
「いいえ結構です」

甘いものなんて気分じゃなくなった。顔が甘い兄妹が目の前にいるのにこれ以上甘いものなんて遠慮したい。
なのに運ばれてくるのは菓子菓子菓子。騎士の男子がいるのにチーズやクラッカーや生ハムはでてこないのかしら?

「お兄様は甘いものが大好きなんですの。男性なのに珍しいでしょう?」
「え、えぇ…」
「疲れたときには甘いものが一番なんですよ。男らしくないと言われることもありますが」

嫌味か!JJが甘いものが好きで文句を言うなんて僻んでいる同性くらいだろう。ちなみに私もお酒が好きで好きでたまらないので気持ちはわからなくはない。外では泡をとか言っちゃってるけど本当はビール一気したいし、ワインだって手酌で飲みたい。家でしか出来ないけれど。    

しばらく兄妹の話を聞いていたら、ポーラ嬢の従者が彼女を連れ出した。レストルームに行くのだろう。私もこのタイミングで抜け出したい。

「イザベル様」
「っ…」

ティーカップを手にしようとしたらJJに手をとられた。手に熱いお茶がかかりでもしたらどうするつもりだったんだ!?と思ったが、騎士だからそんなへまはしないだろう。

「二人きりでお話がしたいのです」

勘弁ー、そんなのやめてもらいたい。

「なにゆえ未婚ですので御容赦願います」

婚約もしていないから男性と二人きりになって噂を広められても困るのでいやですと言っているのだ、わかれJJ。
指と指の間に自分の指を入れたいのか、もぞもぞ手の甲でJJの指が動くが、絶対に嫌だ。これでもかってくら指同士で固く閉じる。

「私としては何も問題ないのですが」
「それではなおさら御容赦願いますわ」

さっきっから手を引いているががっつり押さえつけられているから手が解放されない。もういっそこのまま椅子から転げ落ちて怪我をしたと言ってこの場から逃げ出したい。

「この前の彼とはお別れをしたんですか?」
「えぇ、謝罪に御両親が来られて、裸で逆立ちしながら市中を一周したら許すと執事から伝えてもらったのだけれど。どんなに新聞をみても載ってないからきっと許してもらおうって気はないのでしょうね」
「あっはっはっはっはっ!」

うわーびっくり!JJってこんなに笑う人なの?え?意外。

「ただでなくても貴女にフラれてプライドが折れたのに、幼馴染みの令嬢がなぜか逆上してイザベル様を階段から突き落として立場はもうない。我が家とヒネメス家から睨まれたらもう首都ではやっていけませんよ」
「あらそう?私の元彼達は首都にいる人間も何人かいるけれど」
「それは貴女と一時でもお付き合いことを誇りに思っているからです。貴女と関係があったというだけで社交界では話題に事欠きませんから」
「ではジョーンズ様もそのようにお考えで?」

私と付き合って箔でもつけたいのかしら?そんな男に大した興味もないけれど。JJはそんな人間じゃないと思いたいのだけれど

「いいえ」

キッパリと言いきった彼に少しだけ驚いてまた手を引いたけれどやはり離れなかった。

「階段の上から天使が舞い降りてきたのかと思いました。咄嗟に助けましたが、その後不安からか私にもたれかかる貴女は噂とは違う人間だとすぐにわかりました。その時にはもう…貴女の以外が見えなくなってしまいました」

なんてこと…階段から落ちたせいでJJに惚れられてしまうなんて想定外すぎる。私が魅力的すぎるせい?それにしても女が落ちてきただけで天使ってなによ、まぁ落とされたのは初めてだけど天使にはなっていない。

「何が言いたいんですか?」

はっきり言ってもらおう、そしてきっぱりお断りをしよう。

「私と結婚を前提にお付き合いをしてください」
「おこ「まぁっ!!!!!お兄様っ!ついにイザベル様に想いを伝えられたのですね!」

本当に最悪なタイミングでポーラ嬢が戻ってきた。断りの言葉を遮られたのだから。
スキップし出す勢いで席に戻ったポーラ嬢はニコニコしながら私を見てくる。やめてー、期待のこもった目で私を見ないでー。

「お付き合いなされるんですよね?ではイザベル様は私のお義姉様?イザベル様!お義姉様とお呼びしてもよろしいですか!?」
「えっ…」
「返事を待ってからでもいいだろう?イザベル様がお困りだ」

そう、困ってる困ってる。すごく困っている。そんなこと言うあなたのせいで困っているんだけれど。

「お兄様が断られるはずありませんわ!私の自慢のお兄様ですもの!」

うっわー、キラキラした目でこっちをみているよ…

「皆様の憧れのジャスティン・ジョーンズ様へのお返事は…簡単ではありませんわ。今度是非2人で会える機会がありましたらそのときにでも」

誤魔化すしかない。いまここで返事をしてしまうのは良くない。

「では楽しみに待っています」

楽しみになんてしないてほしい。





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