子爵家に嫁ぐけれど仕事は続けたいし幼馴染みとも結婚したい

そいみるくてぃー

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「それは無理だと申し上げています」
「無理ではないだろう?ミリエットがちゃんとこの邸にいてくれればなんの問題もないではないか」
「ですから、私にも仕事があって」
「実家から荷物を半分も持ってきていないのも関係しているのか?」
「なぜそれを!?」
「モルガンに聞いている。そして先日訪ねたときに嫁に行ったとは思えないくらい充実した部屋を見ている」

初体験の数日後、午後からの休みをもぎ取ったとボロボロなユベール様が私に要望をぶつけてきたのだ。
夜は実家に泊まり込みをなくして邸にいるようにと。

「仕事が好きなのもわかっているが、邸の者に聞けば月の半分は実家へ泊まり込んでいるようじゃないか」
「それは…仕事が」
「仕事だけではないのはもうわかっている」

言えない、実家のほうが居心地がいいから居座っているなんて。父や義両親には仕事だと言っているし、モルガンは気付いてはいるけれどユベール様には言っていないはずだ、なんだかんだ私を大事にしてくれているから。ならなぜユベール様が気付いたかって?おそらく人を観察するのに優れている方なのだろうきっと。

「ミリエットとの仲が深まらなかったのは私が多忙なのもあるが、ミリエット、貴女が邸を空けることも多くてすれ違っていた」
「私のせいだと?」
「いや、そうではない。俺が貴女の存在を感じたいからだ」

もう少し話をしてほしい、言葉を続けてほしいと言ってからは人が変わったのかと思うくらいお話をされるようになったユベール様。本来は義両親のようにお喋り好きな方なのだろう。
まぁ会話ができるようになったのはいい、家に縛り付けようとしてきていることが問題だ。

「子が出来やすい日があると聞いた」
「そうなんですね」
「その日の夜絶対に仕事が入らないとは言い切れないので数をこなすことにした」

数をこなす?ユベール様の言い分としては数をこなせばいつかは当たるとのことだ。その日を狙うより数で勝負とのこと。むしろその日だったら絶対とでも考えているのだろうか?なぜそのような考えに至ったかはお察しだ。彼の職場の方々の影響だろう。お貴族様的とい「」うよりは庶民的な。

「その、事前に申してくれれば」
「それが難しい職場だとミリエットはわかっているだろう?なるべく帰るようにしたいが何が起こるかわからない。機会は逃したくないのだ、邸にいてくれ」

とにもかくにもここでそのような話をするのはやめてほしい。玄関ホールだし、珍しく早く帰宅したユベール様のお出迎えに執事や侍従達もいる。イヤだと言ってしまうことは簡単ではあるがこの家で居心地が悪くなるのは嫌なので口をつぐむ。

「ミリエットも納得してくれたことだし、湯の用意をしてくれ。ミリエットと入るから」
「はぁ?ユベール様なにをおっしゃって」
「夫婦なのだから当然ではないか。はははっ」

笑い事ではない






*****






「どう思う?モルガン」
「それ職場ここで言うことじゃないだろ」
「だって子爵邸だといつ誰が聞いてるかわからないし、私実家への泊まり込みは制限されてるんだからここしかないじゃない」
「うちの親方も他の人もいるんだよ…」
「あら?馴染みなのだからいいじゃない。旧知の仲じゃない、あなたの職場と私の職場は」

ユベール様にいつでも性行為ができるように邸にいろと言われていることをモルガンに相談するにはここしかなかったのだ

「ミリエットも子作りのこと考えてはいるんだろ?」
「そりゃ嫁に行ったんだから当たり前よ。でも早くない?」
「遅いよ」

目と手は作業に没頭しているモルガンは話をしてくれるだけいいのかもしれない。
モルガンが言うには早い人であれば婚姻後すぐだったり、なんなら婚姻前に妊娠している人もいるのに半年以上全く気配がないとは影でなにを言われているかわからないということだ。ましてやユベール様は同性愛者が多い市中騎士、モルガンとの結婚も同時で子爵邸にいるのだから一部からはモルガンとユベール様がデキているんじゃないかと噂があるそうだ。周りは知っているのか、全員が引くほど笑っている。旦那様同士が愛し合っていると思われているということ?まさか…いや、まさか…

「私、ユベール様と子作りに励むわ。モルガンとユベール様の愛の隠れ蓑にされていると思われているなんて…心外よ」
「こっちも勘弁だよ…ユベールみたいなやつと…うっえ…」
「あぁ、そうだわ。モルガンとはちゃんと避妊すればしていいって。ユベール様から許可がでたの」

モルガンがはんだごてを落とした

「危ないじゃない。怪我は?していない?」
「ユベールの仕事は?」
「ユベール様?今日は仕事に出ているけれど」
「帰ってくるって?」
「わからないわよ」
「使いを出す。ミリエット、今日は実家で待っていてくれ」
「どういうこと?」
「ヤるんだよ!それくらい察しろ!」

    



*****





「御家族様より使いの者が参っていますが」
「用件を聞こう。通してくれ」

職場にとは珍しい。ミリエットがどうしても実家に泊まり込んで仕事がしたいとかの類いだとは思うが

「モルガン殿から本日はミリエット様と共に邸には帰らないから邪魔をするなとのことで…」

ボキン

書類と向き合っていたペンが折れたがそんなことはどうでもいい。

「モルガンは他に何か言っていたか?」
「えっ…その…あの…」
「勿体ぶらないでもいい」
「はい…その…ざまぁみろ、避妊はしてやるから指咥えて待っていろと伝えてと…」

あの野郎ブッ飛ばしてやる。次会ったら絶対ブッ飛ばす。
ミリエットと幼馴染みなのはわかっているがここまであからさまにマウントをとられるとは思わなかった。冗談半分でミリエットに避妊するのであればモルガンともと言ったのが失敗だ。ミリエットがそれをモルガンに言わない訳がなかったんだ。ヤりたいからじゃない、ただそのようなことを言われたと伝えただけだろう。モルガンからしてみたら待ちに待った機会がやってきたのだから逃すわけがないことも。

「わかった。ミリエットに明日は必ず邸に帰るようにだけ伝えてくれ」
「かしこまりました。モルガン殿には」
「あいつにはいい。」

書類の横にあった紅茶はもう冷めていた。

これで避妊しないでモルガンが先にミリエットを孕ませでもしたら決闘しかない







*****






「ねぇ、ユベールもモルガンも馬鹿よね。剣とはんだごてでは勝負にならないわ。」
「ミリエット、そんなことを言っては駄目じゃないか」
「だってそうじゃない。恋仲と噂されていた二人が実は私のことが好きすぎておかしくなっていたなんて。無意識に殿下達を虜にした異世界の花嫁様みたいだわ」

6年も前の話を面白おかしく話せるのもちゃんと第一子はユベール様の種だったし、第二子はモルガンとの子だったからだ。

「僕も大体のことは聞いてはいたけれどセックス1つでそんなに大変だったとは初耳だよ」
「でしょう?貴方を夫に迎えるのも一苦労だったんだから。ユベールは自分より顔がいいやつは駄目だとか、モルガンは技術職の人間はやだとかお義父様もお義母様も呆れていたわ」

今話しているのは3人目の夫マルセル。男爵家の三男で継ぐものはないけれど学園で経済学を専攻していたのでお義父様のお仕事の助けになっている。いずれはユベールの名代として子爵家の仕事を引っ張っていくのだろう。ユベールは市中騎士を辞めるつもりは一切ないのだから。

「で?夜会のドレスはどうすんの?」
「それね。お義父様もお義母様も仕事でいらっしゃらないから私達なのよね。しかもユベールが出席しなくてはならないから4人で行かなくちゃ」
「いや、だからドレスだよ」
「…」
「授乳中だから胸が大きくなってて今までのが入らないんじゃないの?気付いてないとでも思った?」
「…いいえ、その通りだわ」
「ユベールに言われたでしょ?好きにしていいから仕立て直しなさいって」
「リメイクでいいと思ったのよ」

その予算はちょっとどころじゃなくいい石を買うのに回そうと思ったのに。
半年前に生まれた第三子はなんと女の子だったのだ。邸中が歓喜に包まれたものだ。その子が将来侮られることのないよういい宝石を今からといいものが手に入れば買うをくりかえしているから自分のことに意識が回らない。

「いいか、娘に宝石を与えるなら3歳からにしなさい。まだ価値もわからないし誤飲でもしたらどうするつもりだ?」
「箱にいれておくから平気よ」
「そのキラキラごてごてした箱か?鍵もかからないし装飾が外れるかもしれないからやめなさい」
「せっかくモルガンが作ってくれたのに!」
「なら子どもの手の届かないところへ置いておくんだ。わかった?」
「…」
「わかった?」
「…はい」

マルセルは先の2人の夫とは違って母親みたいの存在だ。駄目なことは駄目ときちんと言える素晴らしい人間だ。私やユベール、モルガンが仕事に没頭しすぎたり、無茶をするときは限界が来る前に必ず止めてくれる。マルセルが夫婦に加わって私達は本当によかったと思う。
マルセルは自分の種の子が女の子だと世間にバレ、マルセルの兄や弟には求婚が相次いでいると頭を抱えている。ちなみにマルセルの兄、長男もこれまた女児に恵まれていたのでマルセルの実家は女児をもたらす祝福がされているのではと有り難がられているそうだ。偶然だと思うんだけど。ひとつ上のお兄様の種の子も女児なら偶然ではなくなるのかもしれないが。

「ドレスはね、僕たちがもう注文して届いている」
「え?どういうこと?」
「ミリエットがどうせしないってわかっていたから先に注文しておいたの。ファヴォリやニュイじゃないけど、ニュイから独立したデザイナーの工房にお願いしておいたんだよ」
「それってあの」
「そう、あの彼のところ。エレゴンに頼んだんだよ」

素晴らしい!エレゴンと言えば新進気鋭のデザイナーのメゾンだ。規模としてはまだ小さいけれど、メゾン・ド・ニュイで修行を積んだ彼のメゾンはこれから絶対予約の取りづらくなるメゾンなのだから。
ちなみに私の実家はエレゴンとは既に業務提携を済ませている。それもマルセルのアドバイスでだけど

「エレゴンの方々はいいと仰ってくれたの?」
「以前ミリエットが仕立てたことがあるだろう?それをベースに。ウエストなんかはコルセットでどうにでもなるけど、バストはモルガンの目測でなんとか。」

目測?せめて寝てる間測ったと言われるほうがよかった。むしろモルガンが目測で私のバストを測ってなんとなくわかるとか正直引く。それを当たり前のようにマルセルが言うのも引く。多分ユベールも知ってる。

「あと4日しかないけど好きにアクセサリーをつくっていいってユベールが」
「本当!?」
「まだ子どもが小さいから泊まり込みは駄目だとよく言い聞かせろって。まぁさっきの話を聞いたらユベールが口酸っぱく言うのもわかったけど。迎えに行くからそれまでは子ども達も任せて行っておいで」

夜会もいきなり決まるもんだからこっちは本当に大変なのだ。
ファヴォリが注文を一切受け付けてもくれず途方に暮れるご婦人が後をたたないらしい。まぁどっちにしろ一週間もなく新しいものを仕立てあげるのは無理だろうけど。
そのせいもあってか、うちにもアクセサリーのリメイクや新しいものに買い換えるご婦人が殺到しているというわけだ。私は家に帰らないとユベールが怒るので夕方には帰るが、商会のスタッフは交代で仮眠をとりながら寝る間も惜しんで作業に明け暮れることだろう。

「愛されてないと思ってた時も辛かったけど、愛されてるのもそれはまた別の大変さがあるわね」
「幸せな悩みじゃん」
「まぁね。じゃあいってくるわ。子ども達をよろしくね。愛しているわマルセル」

仕事に行くときに愛を伝えるのは私達夫婦のルールだ。ユベールが騎士だからというのもあるけど、言葉にしなければ伝わらないと6年前に知ったから。だから私は今日も夫達に言葉にして愛を伝える。





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