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しおりを挟むパーティーに呼ばれることが多い彼女のヘアメイクも着付けも今日は自分の担当だ。彼女の夫達2人は積極的に振ってくれる。私の主人である殿下もミズキを優先していいと言ってくれているので甘えている。
まだ結婚を意識はされていない、彼女のいた世界では一人が一人としか夫婦になれないからこちらの感覚にまだ慣れないのだろう。まぁ夫を2人迎えたのだから時間の問題だけれど。
「今日はファヴォリですね」
「久々に正統派可愛い系」
「えぇ、でもミズキは何を着ても魅力的ですよ」
まだヘアセットをする前の髪にキスをする。以前よりかなり距離は縮まってきた。
今日のドレスは久々にコルセットをがっつり締めるものなので彼女は目の前で抵抗もなく服を脱ぎ出す。まぁ最初から着ているものも肌がほぼでているけれど。
カップの中に胸を収めるためにやましい気持ちなんてなく胸に触れるが、彼女からは見えない下乳は夫のどちらか、はたまた両方の執着が見て取れる。嫉妬と羨望で一瞬我を失いかけるがここで焦っても仕方ない。正直長期戦を覚悟しているのでもっと信頼を深めるしかない。そう、当面の目標はキス以上。結婚ではない、まずは体から。
「今日のは?」
ベルベットの箱に入ったアクセサリーを開ければ想像以上のものが入っていた。気付くべきだった、箱の裏には侯爵家の紋章が入っていたことに
「これジョエルのママのやつ。あっ、お義母様って呼ばなきゃいけないんだった」
呼び名のことなんてどうでもいい。侯爵家に受け継がれている宝石を触る機会なんてなかったので指先が震えそうになる。王家の物は触れる機会があっても、女児が生まれても絶対に王家には嫁がないという謎の誓いが立てられているあの侯爵家の物に触れるのは初めてだ。とてつもない価値がありそうな物を易々とミズキに貸してしまう侯爵当主達は異世界から召喚された嫁を溺愛しているのだろう。まぁまさかあのジョエル
「ミズキは宝石はお好きですか?」
「うーん、あんま興味ないかも。価値わかんないし」
そうだ、欲がないというよりは興味がない。ドレスも可愛ければいい、似合えばいいくらいだし、髪色も染めていたのにノアールのお願いですぐに地毛に戻した。こだわりは化粧とお酒くらい。あとはハイヒールが好きで面食いなことだろう。
「プレゼントしたら着けてくださいますか?」
「えー、2人のときはその畏まった喋り方やめてくれるなら。ね、恋人同士なんだから」
唐突に抱き付いてきた彼女を抱き止めながらもこのとんでもないネックレスとピアスのセットを落とさないようテーブルに置いて頭を撫でる。以前贈ったドレスに合わせてサファイアなんていいかもしれない。いや、タンザナイトもありか。自分の色を纏ってもらうのが一番いい。殿下に頼んで軽いパーティーでも催してもらうか
「ねぇ、聞いてる?」
「えぇ」
「聞いてない!」
そもそも話し方はずっとこれなので今更変えることはできない。それを言って理解してくれるかは不明だけれど。
「出来ないお願いもあるんですよ。申し訳ありません」
「えー!」
「ほら、今日は被るタイプのドレスですから先に着てからヘアセットしますよ」
珍しく背中があまり出ないのでキスを落とす。早くすべてを自分の物にしてしまいたい。
決して高くはない身長に見合わない胸、細い腰に控えめなヒップ。小さめの膝に引き締まった足首に華奢なヒール。ミスマッチなはずなのに全てが詰まったミズキは本当に愛おしい。
ドレスを着せてあとは髪だけ。本当はこの細い首に後れ毛が垂れていればいいのに、今日は堅い集まりだからきっちりとしなければならない。可愛らしいドレスなのは彼女の義理の両親である侯爵達が主宰で長男の妻を見せびらかしたいからだ。ファヴォリの得意な可愛らしいドレスと侯爵家に代々継がれているネックレスとピアス、そこに夫である長男と筆頭魔術師。侯爵家が浮かれているのが見てとれる。
「はい、できましたよ」
「ありがと。うん、今日もかわいい」
大きな姿見の前で全身チェックをする彼女はとてもいい。これを作り上げたのが自分だというのもたまらない。
最後に着けたアクセサリーが思ったよりすごくて驚いているのか何度も覗き込んでいる。あなたの義両親のものだからと言い聞かせているがヤバいヤバいしか言ってない。
手をとって控え室に。転移をしないのはミズキを見せびらかすためだと思われるが、夫達は先に控え室で待っているそうだ。まぁ役得ではあるのだがわかりやすすぎる。対外的にアピールなのだろう、殿下の側近と一緒ということともう一つ。私にとってはもう一つのほうが大事だし期待している。侯爵家がそうしてくれているのだ、甘える他ない。
「ねぇ、なんか撮られてない?」
わかっているが浮かれていたのか止めなかった。近々ゴシップ紙にでも載るだろう、殿下も焦ってくださるだろうからわざわざ止めない。
「撮らせておけばいいんですよ。私とあなたがいい関係だと。侯爵様達もわかっておられるでしょう?だからここまでのエスコートを任せてくださったんですから」
「えー、あたしブスに写ってない?ミシェルと顔の大きさとか比べられるのイヤなんだけど。」
それは普段私が一歩引いた位置にいるから遠近法でそう見えているだけじゃないだろうか?今日は逆。ドレスの広がりとミズキがわからない場所なのでエスコートをしているから彼女より半歩前にいる。
そんなに写真写りが気になるのであれば権力でもなんでも使って載せられる前にチェックもできるだろうに。大衆紙最大手はジョエル様とノアールによって半壊させられたと聞いているし他も同様に脅せばそれくらいできるだろう。そもそもミズキは顔が大きいわけじゃない。
他愛もない話をしながら進んだ道も目的地まで来てしまえば彼女を夫に渡さなければならない。 名残惜しいが彼女を引き渡して戻ろうとしたが呼び止められる。
「今夜の予定は?」
嫌味かと言ってしまいたいが立場上無理だ。
「ありませんが」
「私とノアールは部屋に戻ることが出来なくなってしまったのでミズキを頼みたいのです。そう、朝まで帰るのは難しいので私達を気にせずミズキと過ごしてください。部屋の護衛にあたってくれている者達にはミシェルの入室があることを伝えていますから」
恋人として認めてもらってはいるがそんな話がくるとは思ってもみなかったので、ありえない顔をしているかもしれない。
「聞いてますか」
「え、えぇ。では彼女をお部屋に送り届けて」
「そこから先はどうぞお好きに。ミズキの思うままに過ごしていただいて結構ですよ。月のものの前ですからうまくやればミズキのすべてを手に入れられると思いますよ」
こいつはミズキの夫なのに何を言っているんだろうか?でも夫公認のようなので甘えさせてもらう。ちなみにミズキは用意されていたシャンパンを早速開けているが、トイレに行きたくなるから控えろと言ったことはとっくに忘れているらしい。義両親のパーティーなのに飲む気満々なのは彼女らしい。
「では終わる頃また連絡を入れますね。それともミシェルも参加しますか?」
「いいえ、殿下の準備もありますので一度戻ってまたあとで参ります」
思いもよらないチャンスが巡ってきたものだ。今日はもう休暇を取っているけれど、明日の午前勤務も休もう。何時まで一緒にいられるかわからないが、彼女を独占できる時間を自分の都合で短くしたくはない。よし、殿下に許可を取りに行こう。
思いの外浮かれていたのか足取りが軽く、口角も上がっていたので同僚達にはなんとも言えない目で見られたがそんなものどうでもいい。
「殿下、申し訳ありませんが明日の午前中も休暇をいただきます」
執務室で机に向かっていた殿下に用件だけ伝えた。
「はぁ?ミシェル、お前今日休暇じゃなかったか?ミズキが侯爵家のパーティーに出席するからって。こっちももうそろそろ着替えて行かなきゃならないんだが」
「承知していますよ。衣装はちゃんと昨日のうちに用意してあります。大丈夫、殿下は何を御召しになられても似合いますから」
そう、この主人は昔から本当に見てくれはいい。あんなことがなければ今頃とっくに結婚もしていたし、貴族からの身上書は後を絶たなかっただろう。
「で?本当は?」
そう、よくわかっているのだ。幼馴染なる存在はヒナに言われて初めて知ったが私と殿下、ロランはそれに当てはまる。長い間共に過ごしたせいか考えていることは大体わかってしまう。私が2人のことに気付くことが大半だが今回は珍しく殿下が気付かれた。
「ジョエル様から明日までお帰りにならないとのことでミズキを頼まれました」
「ノアールは?」
「おりません」
「…そうか」
自分が仕えている人に思うのもなんだが大人になったものだ。若かりし彼は王子で末っ子だから少しワガママというか自己主張が激しかった。が、今は随分と大人しくなられた。ミズキに対してだけ素直になれないのはどうしてなのか頭を抱えてしまう。
「着替えるから手伝え」
「かしこまりました」
この人とも家族になりたい、なるものだと思ったのはなんとなく婚姻制度を知ってから。もう10年以上だ。この主人とミズキはお互いが絶対好きになるはずなのに意地を張り合っているようにしか思えない。それは私だけではなくジョエル様もノアールもわかっている。
「はぁ…」
「なんだため息なんてついて」
「いいえ、なんでもありません」
彼女と主人、どちらかが素直になればいいだけなのに。
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