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274話 もうひとつのバングル
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「事件発生前後においてのニコラ・イーストンの行動には、不自然なところが多々ある。でも、それだけでは事件への関与を決定付ける根拠としては薄い。それはここまでに散々言われていた事だね」
ルーイ様の言葉に、私を除いた全ての人間が無言で頷いた。ニコラさんに容疑がかけられていたのを私が知ったのはつい最近だ。ニコラさんの捜査をするということは、フィオナ姉様と私の関係についても触れることになってしまう。皆は私に与える精神面への影響を鑑みて口を噤んでいたのだ。
辛くない、気にしてないとは決して言えない。でも、私の受けた苦しみや悲しみを共に受け止め、支えてくれる人たちがいる。だから私は膝を折らずに立ち続けることが出来る。
ルーイ様は私の顔色を慎重に窺っている。私も皆に倣い静かに頷いた。話を続けて欲しいという、私の意思表示をルーイ様は正確に読み取り、一旦止めていた口を再び動かした。
「彼女にクレハを害する動機があったとしても、他国の殺し屋にそれを依頼するというのはあまり現実的ではない。ニコラさんがどうやってグレッグの事を知り得たのかという疑問も生じる」
いくら自分にとって憎い相手がいたとしても、殺害しようとまで考えて実行に移す人間はそういない。ニコラさんを犯人だと仮定しながらも、その説の強引さや決定打に欠けるということをルーイ様は語っている。
私の存在を邪魔だと思っている人物か――――
王太子と私の婚約を良く思っていない人間なら他にもいそうだ。いや、もしかしたら婚約以外の理由もあるのかもしれないが……
「確かにちょっと無理やりなとこはあるかもね。でも俺たちからしたら、僅かでも怪しいところがあれば警備上の観点からしても看過出来ない。疑わしきは罰せよじゃないけど、警戒するのに損はないからさ」
クラヴェル兄弟は疑惑が上がった時点でニコラさんを警戒対象にしている。事件との関わりの有無関係なく、それは今後も続いていくのだという。
「まだ捜査の途中ですからね。新たに得た情報もありますが……ニコラさんについてはやはり疑惑扱いという段階を抜け切れていないというのが現状です」
「まあね。それでも俺がニコラさんを犯人だと主張するのは、最初に怪しいと感じたからっていうのもあるが……」
ルーイ様はズボンのポケットに手を差し入れた。何かを探しているような動作をする彼を、私たちは食い入るように見つめる。そこから出てきた物は……
「じゃーん。ニコラさんのバングル。見つかっちゃいました……」
「えっ!!?」
私たちはルーイ様がさらっと出してきたとんでもない物に度肝を抜かれた。ニコラさんのバングル……どうしてそれをルーイ様が持っているのだ。
ニコラさんのバングルだというそれは、シルバーで小さな宝石が数個装飾されたシンプルなものだった。どことなく私が今しているバングルと似ている気がする。
「このバングルはニコラさんが最初にしていた物……つまり、彼女の母親の形見だ。いつからか行方知れずになっていて皆が気にしていたヤツだよ」
「ルーイ先生、それ……よく見せて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞー」
ミシェルさんはルーイ様からバングルを受け取ると、慎重な手付きでそれを観察している。そういえば、ニコラさんのバングルに最初に興味を持ったのはミシェルさんだったな。
「……先生。この所々に付着している赤色の物体……これは血ですね。先生は一体どのような方法でこれを入手されたのですか」
「ひっ、えっ……血って……そんな」
血という言葉にリズが怯えたような声を上げる。間近で見ないと分からなかったけど、バングルは一部赤黒く汚れていた。ミシェルさんはそれを血液だと言うのだ。
ミシェルさんに詰め寄られ、ルーイ様はなんとも言えない複雑な表情をしていた。いつも明るくて飄々としている彼だけど、ミシェルさんの迫力に圧倒されている。
「ノアくんの話を聞いて、バングルがあるかもしれない場所が判明してね。万が一の可能性にかけて調べて貰ってたんだけど……まさかのまさか。その場所から見つかってしまったのさ。レオンたちにもまだ知らせていない。俺がこれを手にしたのは、クレハの部屋に向かっている最中……ついさっきの事だからな」
「ついさっきって……そんな短い間に。調べて貰ったって誰に?」
「シエルレクト。このバングルを持ってきたのもあいつだよ」
「えっ……シエルレクト様がいらっしゃったんですか!? うちの屋敷に?」
「うん。要件だけ告げてさっさと帰ったけどね。俺がひとりになるタイミングを見計らっていたんだろう。レオンやみんなと会うつもりは無かったみたい。直接来た理由は、俺らがいちいちメーアレクトを通してコンタクトを取ろうとするのがウザかったんだろうな」
「シエルレクト様がうちに……」
「このバングルがシエルの元にあったということ……それがニコラさんとグレッグの間に繋がりがあったことの証明になるはずだ」
ルーイ様は淡々と話を続けているが、皆話に付いていけてない。そもそもどうしてシエルレクト様のところにニコラさんのバングルがあるのだ。そこの説明をされていないので、私たちは混乱するばかりだった。
「ルーイ様、どうしてニコラさんのバングルがシエルレクト様のもとにあると分かったのです? そのような考えに至られた理由も教えて頂きたいのですが……」
「あ、そっか。その辺の話はまだしてなかったね。ごめんごめん」
分かって貰えて良かった。ルーイ様ってめんどくさくて話を端折るところがあるからな。ニコラさんを犯人だとする根拠のひとつがこのバングルであるのなら……もう少し詳しく経緯を教えて貰わないと……
ルーイ様の言葉に、私を除いた全ての人間が無言で頷いた。ニコラさんに容疑がかけられていたのを私が知ったのはつい最近だ。ニコラさんの捜査をするということは、フィオナ姉様と私の関係についても触れることになってしまう。皆は私に与える精神面への影響を鑑みて口を噤んでいたのだ。
辛くない、気にしてないとは決して言えない。でも、私の受けた苦しみや悲しみを共に受け止め、支えてくれる人たちがいる。だから私は膝を折らずに立ち続けることが出来る。
ルーイ様は私の顔色を慎重に窺っている。私も皆に倣い静かに頷いた。話を続けて欲しいという、私の意思表示をルーイ様は正確に読み取り、一旦止めていた口を再び動かした。
「彼女にクレハを害する動機があったとしても、他国の殺し屋にそれを依頼するというのはあまり現実的ではない。ニコラさんがどうやってグレッグの事を知り得たのかという疑問も生じる」
いくら自分にとって憎い相手がいたとしても、殺害しようとまで考えて実行に移す人間はそういない。ニコラさんを犯人だと仮定しながらも、その説の強引さや決定打に欠けるということをルーイ様は語っている。
私の存在を邪魔だと思っている人物か――――
王太子と私の婚約を良く思っていない人間なら他にもいそうだ。いや、もしかしたら婚約以外の理由もあるのかもしれないが……
「確かにちょっと無理やりなとこはあるかもね。でも俺たちからしたら、僅かでも怪しいところがあれば警備上の観点からしても看過出来ない。疑わしきは罰せよじゃないけど、警戒するのに損はないからさ」
クラヴェル兄弟は疑惑が上がった時点でニコラさんを警戒対象にしている。事件との関わりの有無関係なく、それは今後も続いていくのだという。
「まだ捜査の途中ですからね。新たに得た情報もありますが……ニコラさんについてはやはり疑惑扱いという段階を抜け切れていないというのが現状です」
「まあね。それでも俺がニコラさんを犯人だと主張するのは、最初に怪しいと感じたからっていうのもあるが……」
ルーイ様はズボンのポケットに手を差し入れた。何かを探しているような動作をする彼を、私たちは食い入るように見つめる。そこから出てきた物は……
「じゃーん。ニコラさんのバングル。見つかっちゃいました……」
「えっ!!?」
私たちはルーイ様がさらっと出してきたとんでもない物に度肝を抜かれた。ニコラさんのバングル……どうしてそれをルーイ様が持っているのだ。
ニコラさんのバングルだというそれは、シルバーで小さな宝石が数個装飾されたシンプルなものだった。どことなく私が今しているバングルと似ている気がする。
「このバングルはニコラさんが最初にしていた物……つまり、彼女の母親の形見だ。いつからか行方知れずになっていて皆が気にしていたヤツだよ」
「ルーイ先生、それ……よく見せて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞー」
ミシェルさんはルーイ様からバングルを受け取ると、慎重な手付きでそれを観察している。そういえば、ニコラさんのバングルに最初に興味を持ったのはミシェルさんだったな。
「……先生。この所々に付着している赤色の物体……これは血ですね。先生は一体どのような方法でこれを入手されたのですか」
「ひっ、えっ……血って……そんな」
血という言葉にリズが怯えたような声を上げる。間近で見ないと分からなかったけど、バングルは一部赤黒く汚れていた。ミシェルさんはそれを血液だと言うのだ。
ミシェルさんに詰め寄られ、ルーイ様はなんとも言えない複雑な表情をしていた。いつも明るくて飄々としている彼だけど、ミシェルさんの迫力に圧倒されている。
「ノアくんの話を聞いて、バングルがあるかもしれない場所が判明してね。万が一の可能性にかけて調べて貰ってたんだけど……まさかのまさか。その場所から見つかってしまったのさ。レオンたちにもまだ知らせていない。俺がこれを手にしたのは、クレハの部屋に向かっている最中……ついさっきの事だからな」
「ついさっきって……そんな短い間に。調べて貰ったって誰に?」
「シエルレクト。このバングルを持ってきたのもあいつだよ」
「えっ……シエルレクト様がいらっしゃったんですか!? うちの屋敷に?」
「うん。要件だけ告げてさっさと帰ったけどね。俺がひとりになるタイミングを見計らっていたんだろう。レオンやみんなと会うつもりは無かったみたい。直接来た理由は、俺らがいちいちメーアレクトを通してコンタクトを取ろうとするのがウザかったんだろうな」
「シエルレクト様がうちに……」
「このバングルがシエルの元にあったということ……それがニコラさんとグレッグの間に繋がりがあったことの証明になるはずだ」
ルーイ様は淡々と話を続けているが、皆話に付いていけてない。そもそもどうしてシエルレクト様のところにニコラさんのバングルがあるのだ。そこの説明をされていないので、私たちは混乱するばかりだった。
「ルーイ様、どうしてニコラさんのバングルがシエルレクト様のもとにあると分かったのです? そのような考えに至られた理由も教えて頂きたいのですが……」
「あ、そっか。その辺の話はまだしてなかったね。ごめんごめん」
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