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275話 核心(1)
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「ニコラさんのバングルがシエルレクトの巣にあったのは、グレッグが死の直前までそれを体に身に付けていたからだよ。つまり、シエルはニコラさんのバングルごとグレッグを食らっていたという事になる」
「うえぇ……じゃあその血痕はグレッグのものなんだね。貴金属は消化できなくてそれだけ残ったのかぁ」
「グレッグは金以外に宝飾品でも依頼を受ける。ノア君からその話を聞いた時にニコラさんのバングルの事を思い出したんだ。それで駄目もとで確認してみたら……」
「……見つかってしまったという事ですか。ニコラさんの母親の形見であるバングルをグレッグが所持していた。確かにこれは、ニコラさんとグレッグの繋がりを裏付ける重要な証拠になりえますね」
ニコラさんのバングルがグレッグの元へと渡った経緯がルーイ様の想像通りであるなら……大切な形見を犠牲にしてまで私の命を奪おうとしたことになる。側仕えの侍女をそのような凶行に走らせてしまうほど、フィオナ姉様の状態は酷いものだったのか。私はそこまで憎まれていたのか……
ルーイ様の肩口を握っていた手に力が籠る。胸が痛い。
「少なくとも、ニコラさんを問い詰める材料にはなるだろう。その後何事もなく、別のバングルを身に付けていたことからも自主的に手放した可能性が高いからね」
「ニコラさんのバングルが母親の形見であることは、使用人仲間のあいだでは周知の事実でした。リアン大聖堂の出店で似たデザインのバングルを購入したのは、周囲の目を欺くためだったんですね。常日頃から身に付けていた物が突然無くなれば、不審に感じる人もいたかもしれませんから」
「それでも、仲のいい同僚にはバングルが変わってることに気付かれてたよな。いくらあの出店の品揃えが豊富だとしても、都合良く同じデザインの物が見つかるわけがないから妥当だね」
あくまでルーイ様の仮説であるのに、うまい具合に辻褄が合っているような気がして怖い。『とまり木』の面々も仮説を補強するような発言をし始めている。
行方知れずになっていたニコラさんのバングルが、まさかの場所で見つかったのだから仕方ないけど……
「バングルを対価にグレッグへ依頼を行った……その前提でいくと、ますますニコラさんはどうやってグレッグの事を知ったのか気になってしまいます。ノアの話によると、依頼を行うには金銭の他に合言葉を伝えるなどの決まりもあったそうじゃないですか。彼女はジェムラート家で住み込みで働いている。私用での外出といえば教会くらいしかなかったようなのに……」
ニコラさんがグレッグの活動拠点らしい件の酒場に出入りしていたという話はまだない。フェリスさんの陳述と近隣住民の目撃情報も、リアン大聖堂でのことばかりだったのだ。
「そう。だから俺はここでもうひとつの可能性を考えた。ニコラさんは酒場とは別の場所でグレッグの情報を入手したんだろうね。うわさ程度なら酒場に赴かなくても偶然耳にすることはあったかもしれないけど、そんな曖昧なものじゃなくてもっと確実に……彼女がグレッグの元へ向かうよう後押しするようなものが存在していたとしたら……」
ルーイ様は言葉を一旦区切り、深呼吸をした。この後に続くであろう内容が、彼が私たちに伝えたい話の本命なのだろうな。一体何が告げられるのか……私たちは固唾を飲んで待った。
「グレッグに依頼をしたのはニコラさんだろうけど、彼女がそうするように誘導した人物……言うなれば黒幕的な存在がいたのではないかと俺は思っているんだよ」
ここにきてニコラさんとは別の疑惑の第三者の登場だった。突拍子もないと感じてしまうけど、この事件をニコラさんがひとりで計画したと考えるのはやはり難しい。協力者のようなものがいたと言われた方が、納得する場面があるのも確かだった。
「みんなの話を聞けば聞くほどニコラさんって、行動は怪しいんだけど、気はそんなに強いわけでもなさそうじゃない? 人殺しを思い至ったとしても、即実行に移すようなぶっ飛んだ性格をしているとも思えない」
ミシェルさん訪問時の怯えた様子に加え、リアン大聖堂で目撃された憔悴しきった姿。懺悔室に頻繁に通っていたという話からも、彼女が精神的に相当追い詰められていたのは間違いない。
「彼女の負の感情を煽り、犯罪に手を染めさせた者がいる。そいつがニコラさんとグレッグとの間を橋渡ししたんじゃないかってね。俺はその人物が、エラさんの言っていたニコラさんの『会いたい人』ではないかと予想している」
時が戻される前……最初の未来の結末に準ずるなら、私の命を狙う存在自体は、遅かれ早かれ間違いなく現れるはずなのだ。もしかしたらルーイ様は、その人物が既に動き出していて、襲撃事件に絡んでいると考えているのかも……
そいつがニコラさんを利用して私を殺めようとしたとか……それは飛躍し過ぎかな。
「ああ、恋人なんじゃないかって言われてた奴か。暗殺は失敗、実行犯のグレッグは死亡。相当ビビったんだろうな。追い詰められた結果、ニコラさんは姿を消した。今頃はその協力者(仮)と合流してどこかに身を潜めているか……それとも、国外に逃亡しようとか企んでたりしてな」
「逃げているだけならまだいいんだけどな……」
ルーイ様の不穏な発言。彼は事件の捜査に積極的に協力し、これまで様々な見解を示してくれた。彼のおかげで解決できた問題もたくさんある。だからこそ、彼のふとした台詞のひとつひとつが気になってしまうのだ。
逃げているだけならいい……それより悪いことって? どういう意味だろう。またしても言葉足らずなルーイ様に、発言の詳細を尋ねようとしたのだけど……
よくわからないが、とてつもなく嫌な感じがしたのだ。知りたいのに、聞いたら後悔しそうな……
『どういう意味ですか』……このひと言が、私はなかなか口に出せなかった。
「うえぇ……じゃあその血痕はグレッグのものなんだね。貴金属は消化できなくてそれだけ残ったのかぁ」
「グレッグは金以外に宝飾品でも依頼を受ける。ノア君からその話を聞いた時にニコラさんのバングルの事を思い出したんだ。それで駄目もとで確認してみたら……」
「……見つかってしまったという事ですか。ニコラさんの母親の形見であるバングルをグレッグが所持していた。確かにこれは、ニコラさんとグレッグの繋がりを裏付ける重要な証拠になりえますね」
ニコラさんのバングルがグレッグの元へと渡った経緯がルーイ様の想像通りであるなら……大切な形見を犠牲にしてまで私の命を奪おうとしたことになる。側仕えの侍女をそのような凶行に走らせてしまうほど、フィオナ姉様の状態は酷いものだったのか。私はそこまで憎まれていたのか……
ルーイ様の肩口を握っていた手に力が籠る。胸が痛い。
「少なくとも、ニコラさんを問い詰める材料にはなるだろう。その後何事もなく、別のバングルを身に付けていたことからも自主的に手放した可能性が高いからね」
「ニコラさんのバングルが母親の形見であることは、使用人仲間のあいだでは周知の事実でした。リアン大聖堂の出店で似たデザインのバングルを購入したのは、周囲の目を欺くためだったんですね。常日頃から身に付けていた物が突然無くなれば、不審に感じる人もいたかもしれませんから」
「それでも、仲のいい同僚にはバングルが変わってることに気付かれてたよな。いくらあの出店の品揃えが豊富だとしても、都合良く同じデザインの物が見つかるわけがないから妥当だね」
あくまでルーイ様の仮説であるのに、うまい具合に辻褄が合っているような気がして怖い。『とまり木』の面々も仮説を補強するような発言をし始めている。
行方知れずになっていたニコラさんのバングルが、まさかの場所で見つかったのだから仕方ないけど……
「バングルを対価にグレッグへ依頼を行った……その前提でいくと、ますますニコラさんはどうやってグレッグの事を知ったのか気になってしまいます。ノアの話によると、依頼を行うには金銭の他に合言葉を伝えるなどの決まりもあったそうじゃないですか。彼女はジェムラート家で住み込みで働いている。私用での外出といえば教会くらいしかなかったようなのに……」
ニコラさんがグレッグの活動拠点らしい件の酒場に出入りしていたという話はまだない。フェリスさんの陳述と近隣住民の目撃情報も、リアン大聖堂でのことばかりだったのだ。
「そう。だから俺はここでもうひとつの可能性を考えた。ニコラさんは酒場とは別の場所でグレッグの情報を入手したんだろうね。うわさ程度なら酒場に赴かなくても偶然耳にすることはあったかもしれないけど、そんな曖昧なものじゃなくてもっと確実に……彼女がグレッグの元へ向かうよう後押しするようなものが存在していたとしたら……」
ルーイ様は言葉を一旦区切り、深呼吸をした。この後に続くであろう内容が、彼が私たちに伝えたい話の本命なのだろうな。一体何が告げられるのか……私たちは固唾を飲んで待った。
「グレッグに依頼をしたのはニコラさんだろうけど、彼女がそうするように誘導した人物……言うなれば黒幕的な存在がいたのではないかと俺は思っているんだよ」
ここにきてニコラさんとは別の疑惑の第三者の登場だった。突拍子もないと感じてしまうけど、この事件をニコラさんがひとりで計画したと考えるのはやはり難しい。協力者のようなものがいたと言われた方が、納得する場面があるのも確かだった。
「みんなの話を聞けば聞くほどニコラさんって、行動は怪しいんだけど、気はそんなに強いわけでもなさそうじゃない? 人殺しを思い至ったとしても、即実行に移すようなぶっ飛んだ性格をしているとも思えない」
ミシェルさん訪問時の怯えた様子に加え、リアン大聖堂で目撃された憔悴しきった姿。懺悔室に頻繁に通っていたという話からも、彼女が精神的に相当追い詰められていたのは間違いない。
「彼女の負の感情を煽り、犯罪に手を染めさせた者がいる。そいつがニコラさんとグレッグとの間を橋渡ししたんじゃないかってね。俺はその人物が、エラさんの言っていたニコラさんの『会いたい人』ではないかと予想している」
時が戻される前……最初の未来の結末に準ずるなら、私の命を狙う存在自体は、遅かれ早かれ間違いなく現れるはずなのだ。もしかしたらルーイ様は、その人物が既に動き出していて、襲撃事件に絡んでいると考えているのかも……
そいつがニコラさんを利用して私を殺めようとしたとか……それは飛躍し過ぎかな。
「ああ、恋人なんじゃないかって言われてた奴か。暗殺は失敗、実行犯のグレッグは死亡。相当ビビったんだろうな。追い詰められた結果、ニコラさんは姿を消した。今頃はその協力者(仮)と合流してどこかに身を潜めているか……それとも、国外に逃亡しようとか企んでたりしてな」
「逃げているだけならまだいいんだけどな……」
ルーイ様の不穏な発言。彼は事件の捜査に積極的に協力し、これまで様々な見解を示してくれた。彼のおかげで解決できた問題もたくさんある。だからこそ、彼のふとした台詞のひとつひとつが気になってしまうのだ。
逃げているだけならいい……それより悪いことって? どういう意味だろう。またしても言葉足らずなルーイ様に、発言の詳細を尋ねようとしたのだけど……
よくわからないが、とてつもなく嫌な感じがしたのだ。知りたいのに、聞いたら後悔しそうな……
『どういう意味ですか』……このひと言が、私はなかなか口に出せなかった。
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