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276話 核心(2)
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ニコラさんを犯罪に誘導した者が存在しているのなら、それはどんな人物になるのだろう。10年後に私を手に掛ける犯人と関係あったりするのかな。もしかしたら同一人物……? 全く見当もつかない。
ニコラさんが事件の前後で頻繁に目撃されていたのはリアン大聖堂だ。目的は懺悔室を利用するため。彼女がこの懺悔室で何を語ったのか分かれば、間違いなく事件の謎を解き明かす重要な手がかりになったはずなのに。
教会の規則により懺悔の内容を知るのは不可能だった。それに加えて、規則以前の問題も発覚している。聴罪担当司祭の怠惰。バルカム司祭は子供に自分の代理をさせていたという疑惑がある。
せっかく新しい情報が手に入り、事件が解決に向かうと歓喜したそばから、また新しい問題が浮上するジレンマだ。
時を遡る前の記憶が僅かでも残っていたら良かったのに……
私には死ぬ直前の……刺されて死んだという刹那的な記憶しかない。犯人の容姿はおろか、性別すらも分からなかった。でも、例え犯人の顔を覚えていたとしても、あちらも10年若返っているので、今の時点ではあまり参考にはならないのかもしれない。せめて性別が分かれば……
あれ、まって……
10年若返る……私を殺した犯人も同じなんだよね。それってつまり――――
「今は子供の姿の可能性がある……」
ルーイ様の真似をして仮説らしきものを立ててみよう。10年後の未来で私を殺した犯人が、私とそう変わらない年齢であったなら、現在は十歳前後の姿をしているということになる。
「クレハ? どうした」
「ごめんなさい……ルーイ様。もうちょっとだけこうさせて下さい」
心臓が早鐘を打つ。私はルーイ様の胸元に顔を埋めた。落ちついて……大丈夫。
もし私と違って、その犯人の記憶が鮮明に残っていたとしたらどうなるのだろうか。よくわからない力で10年前の過去に戻される。大層驚いたに違いない。そして、殺したはずの私が生きているという状況をどのように受け止めたのか。
「クレハ様、お顔が真っ青です。大丈夫ですか?」
リズが心配そうに私の顔を覗き込んでいる。違う。具合が悪いんじゃない……もう少しだけ考えさせて。
「リズ。平気だから、ちょっと待って……」
これから起こる未来の記憶を保持したまま過去に戻ったら犯人はどうする? 私に対する憎しみの感情が強ければ、再び殺害を計画するのではないか。
10年分の知識と経験……とてつもなく強力な武器になる。子供の姿であることなど、大したハンデにもならないかもしれない。いや、むしろ子供であることを利用して、最初の未来とは別の方法で……更に上手く事を運ぼうするのではないだろうか。
未来を知っているということは、グレッグの事も……ジェムラート家やディセンシア家の人間関係も把握していても不思議ではない。ニコラさんの心の弱い部分を巧みに揺さぶり、犯罪に手を染めさせるのも可能なのではないか。
どうしよう。嫌な想像がどんどん膨らんでいく。もし、私の考えていることが当たっていたら……
ニコラさんを影で操り、自分の手を汚す事なく目的を達成しようと試みた人物。それが幼い子供の姿をしていたとしたら……ニコラさんはどこで接触した?
「リアン大聖堂の子供たちだ……」
児童養護施設が近くにある関係でリアン大聖堂には多くの子供たちが行き来していた。彼らの中に混ざっていれば誰も不審に思わないだろう。
ニコラさんと出会ったこと自体は偶然かもしれない。でも犯人はニコラさんの事を知っていた。だから利用した。私を葬るために。もしそうだとしたら……
「フェリスさん!!」
「は、はい。何でしょう、クレハ様」
ルーイ様に抱かれたまま俯いていた私が勢いよく顔を上げたので、皆を驚かせてしまった。私の想像なんて的外れかもしれない。それでも確かめずにはいられなかった。
「フェリスさんはリアン大聖堂の子供たちと交流があったと言っておられましたよね。バルカム司祭の件もその子供たちから聞いたと……」
「はい。あっ、でも司祭の話はあくまで噂です。確実な証拠があるわけではなく……」
「構いません。その子供たちにもう一度話を聞くことは可能でしょうか?」
「あの子たちは、ほぼ毎日教会の周辺をうろついていますので問題ないとは思いますが……」
みんな私の脈絡のない行動に呆然としている。落ち込んでいたかと思えば、いきなり何かを思い出したかのように忙しなくフェリスさんに詰め寄る。リズが私の横で心配そうにあたふたしていた。
「……クレハ、もしかして何か分かったのか?」
そんな中でもルーイ様は、冷静に私の行動理由を探ろうとしていた。いや……彼は私が何を考えているのかなど既に分かっていそうだ。私が想像できる事をルーイ様が思いついていないはずがない。きっとニコラさんを誘導した者がいるのではと仮定した時点で、教会の子供たちを疑っていたに違いない。そうか……確かにキツい内容だ。
「ただの思いつきなんです。間違っているかもしれない」
「それでもいいさ。可能性を探って間違いを正していくことも、真実を浮き彫りにするために必要なことだ。その過程で新たな発見があるかもしれないんだから」
ルーイ様に後押しされて踏ん切りがついた。私の考えが違っていたとしても、曖昧な部分を明らかにするのは意味のあることなのだ。
「私、リアン大聖堂に行きます。確認したい事があるんです。フェリスさん、案内をお願いできますか?」
皆の注目が集まる中、私はしっかりとした大きな声で告げた。
ニコラさんが事件の前後で頻繁に目撃されていたのはリアン大聖堂だ。目的は懺悔室を利用するため。彼女がこの懺悔室で何を語ったのか分かれば、間違いなく事件の謎を解き明かす重要な手がかりになったはずなのに。
教会の規則により懺悔の内容を知るのは不可能だった。それに加えて、規則以前の問題も発覚している。聴罪担当司祭の怠惰。バルカム司祭は子供に自分の代理をさせていたという疑惑がある。
せっかく新しい情報が手に入り、事件が解決に向かうと歓喜したそばから、また新しい問題が浮上するジレンマだ。
時を遡る前の記憶が僅かでも残っていたら良かったのに……
私には死ぬ直前の……刺されて死んだという刹那的な記憶しかない。犯人の容姿はおろか、性別すらも分からなかった。でも、例え犯人の顔を覚えていたとしても、あちらも10年若返っているので、今の時点ではあまり参考にはならないのかもしれない。せめて性別が分かれば……
あれ、まって……
10年若返る……私を殺した犯人も同じなんだよね。それってつまり――――
「今は子供の姿の可能性がある……」
ルーイ様の真似をして仮説らしきものを立ててみよう。10年後の未来で私を殺した犯人が、私とそう変わらない年齢であったなら、現在は十歳前後の姿をしているということになる。
「クレハ? どうした」
「ごめんなさい……ルーイ様。もうちょっとだけこうさせて下さい」
心臓が早鐘を打つ。私はルーイ様の胸元に顔を埋めた。落ちついて……大丈夫。
もし私と違って、その犯人の記憶が鮮明に残っていたとしたらどうなるのだろうか。よくわからない力で10年前の過去に戻される。大層驚いたに違いない。そして、殺したはずの私が生きているという状況をどのように受け止めたのか。
「クレハ様、お顔が真っ青です。大丈夫ですか?」
リズが心配そうに私の顔を覗き込んでいる。違う。具合が悪いんじゃない……もう少しだけ考えさせて。
「リズ。平気だから、ちょっと待って……」
これから起こる未来の記憶を保持したまま過去に戻ったら犯人はどうする? 私に対する憎しみの感情が強ければ、再び殺害を計画するのではないか。
10年分の知識と経験……とてつもなく強力な武器になる。子供の姿であることなど、大したハンデにもならないかもしれない。いや、むしろ子供であることを利用して、最初の未来とは別の方法で……更に上手く事を運ぼうするのではないだろうか。
未来を知っているということは、グレッグの事も……ジェムラート家やディセンシア家の人間関係も把握していても不思議ではない。ニコラさんの心の弱い部分を巧みに揺さぶり、犯罪に手を染めさせるのも可能なのではないか。
どうしよう。嫌な想像がどんどん膨らんでいく。もし、私の考えていることが当たっていたら……
ニコラさんを影で操り、自分の手を汚す事なく目的を達成しようと試みた人物。それが幼い子供の姿をしていたとしたら……ニコラさんはどこで接触した?
「リアン大聖堂の子供たちだ……」
児童養護施設が近くにある関係でリアン大聖堂には多くの子供たちが行き来していた。彼らの中に混ざっていれば誰も不審に思わないだろう。
ニコラさんと出会ったこと自体は偶然かもしれない。でも犯人はニコラさんの事を知っていた。だから利用した。私を葬るために。もしそうだとしたら……
「フェリスさん!!」
「は、はい。何でしょう、クレハ様」
ルーイ様に抱かれたまま俯いていた私が勢いよく顔を上げたので、皆を驚かせてしまった。私の想像なんて的外れかもしれない。それでも確かめずにはいられなかった。
「フェリスさんはリアン大聖堂の子供たちと交流があったと言っておられましたよね。バルカム司祭の件もその子供たちから聞いたと……」
「はい。あっ、でも司祭の話はあくまで噂です。確実な証拠があるわけではなく……」
「構いません。その子供たちにもう一度話を聞くことは可能でしょうか?」
「あの子たちは、ほぼ毎日教会の周辺をうろついていますので問題ないとは思いますが……」
みんな私の脈絡のない行動に呆然としている。落ち込んでいたかと思えば、いきなり何かを思い出したかのように忙しなくフェリスさんに詰め寄る。リズが私の横で心配そうにあたふたしていた。
「……クレハ、もしかして何か分かったのか?」
そんな中でもルーイ様は、冷静に私の行動理由を探ろうとしていた。いや……彼は私が何を考えているのかなど既に分かっていそうだ。私が想像できる事をルーイ様が思いついていないはずがない。きっとニコラさんを誘導した者がいるのではと仮定した時点で、教会の子供たちを疑っていたに違いない。そうか……確かにキツい内容だ。
「ただの思いつきなんです。間違っているかもしれない」
「それでもいいさ。可能性を探って間違いを正していくことも、真実を浮き彫りにするために必要なことだ。その過程で新たな発見があるかもしれないんだから」
ルーイ様に後押しされて踏ん切りがついた。私の考えが違っていたとしても、曖昧な部分を明らかにするのは意味のあることなのだ。
「私、リアン大聖堂に行きます。確認したい事があるんです。フェリスさん、案内をお願いできますか?」
皆の注目が集まる中、私はしっかりとした大きな声で告げた。
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