リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜

ゆずき

文字の大きさ
281 / 302

280話 司教(1)

しおりを挟む
 ベインズさんに案内され、マードック司教様の部屋だという扉の前に到着した。司教様は温厚な方だから安心していいと言われはしたけど……それでもリアン大聖堂で一番偉い方なのだ。緊張するのはどうしようもなかった。

「マードック司教、警備隊のベインズです。クレハ・ジェムラート様をお連れいたしました」

 ベインズさんは、扉の奥にいるであろう司教様に向かって呼びかけた。すると、そう間を置かず部屋の中から返事が返ってくる。

「おお……ベインズ隊員、ありがとう。どうぞ、入って貰っておくれ」

 穏やかで優しそうな男性の声。緊張のせいで強張っていた体から僅かに力が抜けて楽になった。
 ルーイ様はリアン大聖堂に来たことがありそうな素振りだったけど……司教様には会ったことがあるのかな。そんな気持ちを込めて彼の顔を見た。
 私の視線にすぐに気が付いてくれたルーイ様は、ハッとするほどに美しい笑顔を披露してくれた。どういう意味なんだろうか。彼の笑顔の意図がよく分からない。
 なんだかルーイ様……美しさに磨きがかかってない? いや、綺麗なのは元からだ。私と違って緊張することに無縁そうなのも相変わらずである。上手く説明するのは難しいが、雰囲気が変わった気がするのだ。
 セドリックさんなら知ってるかな。彼は護衛として……そして、怪我の看病のためにずっとルーイ様に付き添ってくれていた。後で聞いてみよう。

「失礼致します」

 ベインズさんはドアノブに手を掛けた。ゆっくりと扉が開かれていく。
 
「皆さん。ようこそ、いらっしゃいました。さあ、どうぞ中に入って下さいませ」

「……マードック司教様?」

「はい。クレハ・ジェムラート様ですね。お初にお目にかかります。キース・マードックと申します」

 司教様は扉越しに聞いた声のイメージ通りの方だった。年齢は60代くらいの男性。丸いメガネ越しに見える瞳は暖かみのある茶色。私に向けられる眼差しはとても優しい。笑うと目尻の皺が強調され、安心感と親しみを感じさせた。
 身に纏っている衣装はアルバビリスによく似ている。物腰が柔らかく穏やかな印象を与えつつも、教会の神官然とした威厳のある姿だった。

「突然お呼び出てして申し訳ありません。こちらに掛けて下さい。お付きの方々も、さあ……」

 部屋の中央にある椅子に座るように言われた。私は司教様に促されるまま、ゆっくりと椅子に向かって歩を進める。司教様はその様子を和やかに見つめていたのだけど……私に続いて部屋に入って来たルーイ様を目に留めた瞬間、全てが一転してしまった。

「は? えっ……貴方は……」

 司教様は茶色の瞳を大きく見開いている。まるで恐ろしい物にでも遭遇したかのよう。一体何が起こっているのだろうか。ベインズさんも私たちも、突然の司教様の豹変ぶりに困惑する。さっきまでの落ち着いた雰囲気が一瞬にしてどこかに消え去ってしまった。そんな中でルーイ様だけがいつもと変わらない。この状況を作ったのが彼であるのは間違いないだろうに。

「よう、マードック。息災なようで何よりだ」

「ル、ルーイ様!!?」

 司教様の口から飛び出したのはルーイ様の名前。ルーイ様の方も気さくに挨拶をしている。ふたりは知り合いなのか。司教様はルーイ様がこの場にいることにかなり驚いているようだけど……まさか、ルーイ様の正体を知っているのでは――――

「あの、マードック司教。ルーイ先生がどうかなさったのですか?」

「先生? ルーイ様が? はっ……?」

「ええ。女神から直々に任を受け、王太子殿下の元で教鞭を執っておられますよ。てっきり司教はご存知なのかと思っておりましたが……」

「マードック……」

 ルーイ様が小声で呟いた。表情は笑っているのに紫色の瞳から放たれる威圧感が凄まじい。司教様の肩がびくりと震えた。あんな目で見詰められたら当然だ。私まで心臓が縮み上がりそう。

「あっ、そう! そうでした!! いやー……最近物忘れが酷くて……歳は取りたくないものですな」

 どう見ても嘘だった。ルーイ様の圧に負けて話を合わせてくれたようにしか見えない。なんだか変な展開になってきた。ベインズさんたちも困っているじゃないか。

「司教、大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが……」

「……問題ない。まさかルーイさ……先生もいらっしゃるとは思っていなくて、驚いてしまっただけだよ。気遣わせてしまいすまない。ベインズ隊員」

「無理をなさってはいけません。クレハ様、こちらから呼び出しておいて大変失礼ではありますが、司教の体調が芳しくないようです。お話しはまた別の機会に……日を改めさせて頂いてよろしいでしょうか?」

「私は構いません。しばらく聖堂に通う予定でしたので……その間でしたらいつでもどうぞ」

「いいえっ……わざわざ御足労頂いたのにとんでもない!! ベインズ隊員、私は平気ですから……」

 マードック司教の必死すぎる説得もあり、私たちは当初の予定通り司教様とお話しをすることになった。しかし、人数は最小限にして欲しいとの希望により、私とルーイ様のみが部屋に残される形となる。ベインズさんたちは、話が終わるまで隣の控え室で待機して貰うことになった。








「さて……もう下手な芝居をする必要はないぞ。つーか、驚き過ぎだろう。幽霊にでも会ったみたいじゃないか」

 ルーイ様は皆がいなくなった途端、椅子にどっしりと腰を下ろした。まるで自分の部屋かのような態度だ。もうちょっとお行儀良くして下さい。

「神である貴方様になんの準備もなくお会いするのに比べたら、幽霊相手の方がいくらか冷静に対応できたのではないかと思います。改めまして、キース・マードックがルーイ様にご挨拶申し上げます」

「はい、はい。突然来た俺が悪かったですよ」

「司教様はルーイ様が神様だってご存知だったのですか」

「はい。クレハ嬢も……そうだったのですね。色々と申し訳ありませんでした。レオン殿下の婚約者である貴女が聖堂にいらっしゃると聞いて、挨拶をしておこうと思っただけなのです。まさかルーイ様がご一緒だとは………取り乱して、見苦しいところをお見せ致しました」

 司教様は私に向かって謝罪をした。私も状況がまだ飲み込めていないので、どのように対応すればいいのかわからない。

「司教様、そしてルーイ様。まずはおふたりの関係からご説明頂けないでしょうか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)

星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。 団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。 副団長「彼女のご飯は軍事物資です」 私「えっ重い」 胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!? ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。 (月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

落ちこぼれ村娘、拾った王子に溺愛される。

いっぺいちゃん
恋愛
辺境の村で育った元気娘 ミレイ。 ある日、森で倒れていた金髪の青年を助けるが、 実は彼は国一の人気者 完璧王子レオン だった。 だがレオンは外に出ると人格がゆるみ、 王宮で見せる完璧さは作ったキャラだった。 ミレイにだけ本音を見せるようになり、 彼は彼女に依存気味に溺愛してくる。 しかしレオンの完璧さには、 王宫の闇に関わる秘密があって—— ミレイはレオンの仮面を剥がしながら、 彼を救う本当の王子に導いていく。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。 ※この作品は「小説家になろう」でも同時投稿しています。

何も言わずメイドとして働いてこい!とポイされたら、成り上がり令嬢になりました

さち姫
恋愛
シャーリー・サヴォワは伯爵家の双子の妹として産まれた 。実の父と双子の姉、継母に毎日いじめられ、辛い日々を送っていた。特に綺麗で要領のいい双子の姉のいつも比べられ、卑屈になる日々だった。 そんな事ある日、父が、 何も言わず、メイドして働いてこい、 と会ったこともないのにウインザー子爵家に、ポイされる。 そこで、やっと人として愛される事を知る。 ウインザー子爵家で、父のお酒のおつまみとして作っていた料理が素朴ながらも大人気となり、前向きな自分を取り戻していく。 そこで知り合った、ふたりの男性に戸惑いながらも、楽しい三角関係が出来上がっていく。 やっと人間らしく過ごし始めたのに、邪魔をする家族。 その中で、ウインザー子爵の本当の姿を知る。 前に書いていたいた小説に加筆を加えました。ほぼ同じですのでご了承ください。 また、料理については個人的に普段作っているのをある程度載せていますので、深く突っ込むのはやめてくださいm(*_ _)m 第1部の加筆が終わったので、ここから毎日投稿致しますm(_ _)m

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...