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287話 謝礼
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「テレンス、お願いです。うちの侍女を見つけるために、力を貸して頂けないでしょうか?」
もう一度改めてテレンスに頼み込む。彼は相当悩んでいるようで、両手で頭を抱えながら呻いていた。
「あなたから聞いたということは伏せるし、迷惑がかからないよう徹底する。私たちを助けてくれないかな」
フェリスさんが私に続いてテレンスを説得してくれている。元々の知り合いであるフェリスさんの言葉なら、テレンスも聞き入れてくれる可能性が上がる。もう一押しだ。
「……タダでとは言わないぞ。もし今お前が我々に協力してくれたら、それなりの謝礼を支払う事を約束しよう」
「分かった、それならいいよ」
一瞬何が起きたのか分からなかった。私とフェリスさんの二人がかりでの説得に対してはあんなにも葛藤していたというのに……
テレンスはいとも簡単に要求を受け入れてしまった。レナードさんが提案した『謝礼』が彼の意志を固める決定打になったみたいだ。
「アンタらの質問に答えてあげるよ。俺が知ってる範囲内でだけどね」
「結局金かよ。ちゃっかりしてやがんな。ま、そのくらいはっきりしてる方が俺らもやりやすいから助かるけどね」
頼み事をするなら相応の対価……見返りを渡すのは当然。危険が伴うことであるなら尚更である。テレンスの判断は何も間違っていない。むしろしっかりしていると言える。頭では分かっているけど……なんとなくモヤモヤした感情が湧いてきてしまう。
相手は子供。真摯にお願いすれば応えてくれるはずだと、疑いもしていなかった自分の認識の甘さを突きつけられたからかもしれない。
「現実主義と言って欲しいな。それに、俺がここで話さなかったら別の奴らに聞くつもりなんだろ? こんなゴタゴタに巻き込まれるのは俺だけで充分だ。顔馴染みのフェリスさんの頼みでもあるから特別だよ。このお嬢様も本当に困ってるみたいだし……」
テレンスはルイスさんの言葉に反論した。こちらの事情も考慮した上で協力を決めてくれたらしい。謝礼だけに釣られたわけではないと強調する。私たちの嘆願は無駄ではなかったのか。
「あっ、ありがとうございます!! テレンス」
「クレハ様……彼に礼を述べるのはまだ早いですよ」
レナードさんは懐から小さな布袋を取り出した。それは手のひらに乗るくらいの大きさで、揺れると中からカチャカチャと硬い物が擦れ合うような音が聞こえた。
「とりあえず前金としてこれを渡す。受け取るならこちらもお前に対してそれなりの働きを要求する。クレハ様の質問に嘘偽りなく答えろ。お前がこの方のご期待に沿うことができたら、最終的にはその倍の金額を支払おう」
布袋に入っていたのは硬貨だった。テレンスはレナードさんからそれを受け取るとすぐに中身を確認した。私には見せて貰えなかったので、どの程度の金額が入っていたのかは分からない。でも、テレンスは袋を覗き込んだ瞬間、息を呑んだのだ。この様子からするに彼が想定していたよりも高額だったのだろう。
何はともあれ……皆のおかげでテレンスとの話はまとまった。ここからは私が頑張る番だ。
「それではテレンス、改めて聞かせて下さい。失踪したうちの侍女についてです」
「アンタたちが探してるニコラさんらしき女の人は、俺たち施設の子供らの間でも一時期噂になってた。まるで何日もろくに食べてないみたいに顔色が悪くてフラフラしててさ。でも着てる服とかはちゃんとしてたし、金に困ってるようにも見えなかったから不思議だったんだ」
フェリスさんから聞いた聖堂でのニコラさんの目撃情報と同じだった。やはり誰から見ても彼女の様子は異様であり、周囲の目を引くものだったようだ。
「なんとなく訳アリの人だとは感じてたけど、聖堂には色んな人がいるからね。周りに迷惑をかけてたとかじゃないから徐々に気にしなくなっていたんだ。初めて見たのは……2ヶ月くらい前かな。それから結構頻繁に来てたみたいだけど、まさかあの人がお嬢様のとこの侍女だったなんてね」
「テレンスはニコラさんを何度か見たことがあるのですね。では……あなたがニコラさんを見た際、彼女はひとりでしたか? 誰か他の人間と一緒にいたり、会話をしている時はなかったのでしょうか」
ニコラさん本人ではなく、彼女と接触していた人物がいたのかどうか……テレンスは覚えているだろうか。彼は暫し考え込んだ後、私の問いに答えた。
「俺が見た時はいつもひとりだったよ。あの人はほぼ聖堂の大広間にいて、出店があるこの辺にはたまにしか来たことなかったと思う」
「ニコラ・イーストンはまるで懺悔室の開放時間に合わせたかのように、14時から16時の間に目撃されていましたよね。それもひとりでいたという証言ばかりでした」
「やっぱニコラ・イーストンが聖堂に通ってた目的は懺悔室だな。ここでのやり取りが分かればなぁ」
ルイスさんは悔しそうに頭をかいている。テレンスもニコラさんが誰かと連れ立っている所は見ていないという。彼が知らないだけかもしれないが、他の目撃者の記憶にも残っていないのだ。ニコラさんは聖堂内ではひとりでいた時間が圧倒的に多く、目立つような連れはいなかったという事になる。
やはりルイスさんも言うように、懺悔室であった出来事の詳細を紐解くしかないのか。かなり難しいだろうけど、やるだけやってみよう。
「テレンス。バルカム司祭の代わりに聴罪を行なっていたというあなたの知り合い……その方の名前を教えてくれますよね」
「……金まで貰っちゃったからね。でも、俺が言ったってバラさないでよ」
テレンスは私の耳元に顔を寄せた。大っぴらに話すのは抵抗があるようだ。内緒話をするような体制で彼が私に告げた内容は――――
もう一度改めてテレンスに頼み込む。彼は相当悩んでいるようで、両手で頭を抱えながら呻いていた。
「あなたから聞いたということは伏せるし、迷惑がかからないよう徹底する。私たちを助けてくれないかな」
フェリスさんが私に続いてテレンスを説得してくれている。元々の知り合いであるフェリスさんの言葉なら、テレンスも聞き入れてくれる可能性が上がる。もう一押しだ。
「……タダでとは言わないぞ。もし今お前が我々に協力してくれたら、それなりの謝礼を支払う事を約束しよう」
「分かった、それならいいよ」
一瞬何が起きたのか分からなかった。私とフェリスさんの二人がかりでの説得に対してはあんなにも葛藤していたというのに……
テレンスはいとも簡単に要求を受け入れてしまった。レナードさんが提案した『謝礼』が彼の意志を固める決定打になったみたいだ。
「アンタらの質問に答えてあげるよ。俺が知ってる範囲内でだけどね」
「結局金かよ。ちゃっかりしてやがんな。ま、そのくらいはっきりしてる方が俺らもやりやすいから助かるけどね」
頼み事をするなら相応の対価……見返りを渡すのは当然。危険が伴うことであるなら尚更である。テレンスの判断は何も間違っていない。むしろしっかりしていると言える。頭では分かっているけど……なんとなくモヤモヤした感情が湧いてきてしまう。
相手は子供。真摯にお願いすれば応えてくれるはずだと、疑いもしていなかった自分の認識の甘さを突きつけられたからかもしれない。
「現実主義と言って欲しいな。それに、俺がここで話さなかったら別の奴らに聞くつもりなんだろ? こんなゴタゴタに巻き込まれるのは俺だけで充分だ。顔馴染みのフェリスさんの頼みでもあるから特別だよ。このお嬢様も本当に困ってるみたいだし……」
テレンスはルイスさんの言葉に反論した。こちらの事情も考慮した上で協力を決めてくれたらしい。謝礼だけに釣られたわけではないと強調する。私たちの嘆願は無駄ではなかったのか。
「あっ、ありがとうございます!! テレンス」
「クレハ様……彼に礼を述べるのはまだ早いですよ」
レナードさんは懐から小さな布袋を取り出した。それは手のひらに乗るくらいの大きさで、揺れると中からカチャカチャと硬い物が擦れ合うような音が聞こえた。
「とりあえず前金としてこれを渡す。受け取るならこちらもお前に対してそれなりの働きを要求する。クレハ様の質問に嘘偽りなく答えろ。お前がこの方のご期待に沿うことができたら、最終的にはその倍の金額を支払おう」
布袋に入っていたのは硬貨だった。テレンスはレナードさんからそれを受け取るとすぐに中身を確認した。私には見せて貰えなかったので、どの程度の金額が入っていたのかは分からない。でも、テレンスは袋を覗き込んだ瞬間、息を呑んだのだ。この様子からするに彼が想定していたよりも高額だったのだろう。
何はともあれ……皆のおかげでテレンスとの話はまとまった。ここからは私が頑張る番だ。
「それではテレンス、改めて聞かせて下さい。失踪したうちの侍女についてです」
「アンタたちが探してるニコラさんらしき女の人は、俺たち施設の子供らの間でも一時期噂になってた。まるで何日もろくに食べてないみたいに顔色が悪くてフラフラしててさ。でも着てる服とかはちゃんとしてたし、金に困ってるようにも見えなかったから不思議だったんだ」
フェリスさんから聞いた聖堂でのニコラさんの目撃情報と同じだった。やはり誰から見ても彼女の様子は異様であり、周囲の目を引くものだったようだ。
「なんとなく訳アリの人だとは感じてたけど、聖堂には色んな人がいるからね。周りに迷惑をかけてたとかじゃないから徐々に気にしなくなっていたんだ。初めて見たのは……2ヶ月くらい前かな。それから結構頻繁に来てたみたいだけど、まさかあの人がお嬢様のとこの侍女だったなんてね」
「テレンスはニコラさんを何度か見たことがあるのですね。では……あなたがニコラさんを見た際、彼女はひとりでしたか? 誰か他の人間と一緒にいたり、会話をしている時はなかったのでしょうか」
ニコラさん本人ではなく、彼女と接触していた人物がいたのかどうか……テレンスは覚えているだろうか。彼は暫し考え込んだ後、私の問いに答えた。
「俺が見た時はいつもひとりだったよ。あの人はほぼ聖堂の大広間にいて、出店があるこの辺にはたまにしか来たことなかったと思う」
「ニコラ・イーストンはまるで懺悔室の開放時間に合わせたかのように、14時から16時の間に目撃されていましたよね。それもひとりでいたという証言ばかりでした」
「やっぱニコラ・イーストンが聖堂に通ってた目的は懺悔室だな。ここでのやり取りが分かればなぁ」
ルイスさんは悔しそうに頭をかいている。テレンスもニコラさんが誰かと連れ立っている所は見ていないという。彼が知らないだけかもしれないが、他の目撃者の記憶にも残っていないのだ。ニコラさんは聖堂内ではひとりでいた時間が圧倒的に多く、目立つような連れはいなかったという事になる。
やはりルイスさんも言うように、懺悔室であった出来事の詳細を紐解くしかないのか。かなり難しいだろうけど、やるだけやってみよう。
「テレンス。バルカム司祭の代わりに聴罪を行なっていたというあなたの知り合い……その方の名前を教えてくれますよね」
「……金まで貰っちゃったからね。でも、俺が言ったってバラさないでよ」
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