リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜

ゆずき

文字の大きさ
65 / 302

64話 帰宅計画(1)

しおりを挟む
「ルーイ様、大丈夫かな……」

「セドリックがついてるから平気だよ」

「セドリックさんに迷惑かけてないといいけど」

「あのさぁ……クレハ。俺といる時は俺だけを見て、そして俺のことだけ考えて」

 レオン殿下……なかなかに無茶苦茶なことを仰る。しかし、殿下の表情は真剣そのもの。この言葉がいかに本気であるかが伺える。クレハ様が殿下そっちのけで、別の事に気を取られているのがお気に召さないんですね……

 王宮で侍女見習いをさせて頂いてから数日が経ち、本日はクレハ様と殿下に誘われて午後のティータイムにご一緒させて頂いている。しかし、おふたりの間に少しばかり不穏な空気が漂い始めたのを感じて、私はハラハラしているのだ。
 『ルーイ』という方は殿下の新しい先生なのだそうだ。ディセンシア家とも所縁ゆかりがあるらしく、クレハ様もお知り合いだと聞いた。お茶請けに用意された焼き菓子を見たクレハ様が『これルーイ様が好きそう』とぽそりと呟いたのを皮切りに、そこからクレハ様の『ルーイ先生』語りが始まった。最初こそ穏やかにクレハ様の話を聞いていた殿下だけれど、クレハ様のとある一言で場の空気が一転した。

「リズ、ルーイ様って凄く素敵なんだよ。背が高くて……顔はもちろんだけど、声もとってもカッコいいの」

 また新たな美形が増えたのか……それはお会いするのが楽しみって……クレハ様、その発言はちょっとマズいと思いますよ。
 心なしか周囲の温度が2、3度下がったような気がした。殿下を中心に冷たい風が流れ出ている錯覚までしてしまい、思わず身震いする。
 レオン殿下はクレハ様の事が大好きだ。それはもう、溺愛と言ってもいいくらい。その殿下が、自分以外の男性を褒めるクレハ様を見ておもしろい訳がない。
 クレハ様の言動に他意は無いだろう。クレハ様は嬉しかったことや、感動したことをそのまま素直に口にする。取り澄ましたところが無いのは、クレハ様の魅力の1つだと私は思っているが、今回はそれが悪い方向に作用していた。それに、カミル様の件でも分かるようにクレハ様は少々……いや、かなり鈍い。殿下が目に見えて機嫌が悪くなっているのに、全く気づいておられない。

「レオンもそう思いますよね?」
 
「ウン……ソウダネ」

 同意を求めてきたっ! 殿下の見事なまでの棒読みが怖いです。この後に殿下の『俺だけ見てろ』発言に繋がるのだけれど、本格的に拗れる前にクレハ様をお止めしなければ……そう思った時――

「あっ、そうだ。私、レオンにお願いしようと思っていた事があるのですが聞いて貰えますか?」

 なんとクレハ様の方から別の話題に移って下さった。しかも、クレハ様からのお願いなんて……。それを聞いた殿下は、さっきまでのつまらなそうな表情を一瞬にして晴れやかなものへと変化させた。クレハ様の手を取り、その指先に軽く唇を落とす。

「なに? クレハの頼みならなんでも聞いてあげるよ」

 殿下は熱のこもった視線を向けながら、口元に寄せていたクレハ様の手を、自身の頬になぞる様に擦り付ける。クレハ様は顔を真っ赤にしている。当然のように使用人わたしの存在などは完全スルーです。セドリックさん……私、頑張って慣れますから。この場にいない殿下の最側近である彼に言われた事を思い出し、私は心の中で気合いを入れ直した。

「えっと……一度、家に帰りたいと思ってるんです」

 さっきとは別の意味で空気が変わった。クレハ様を見つめる殿下の瞳がスッと細められる。

「……家が恋しくなった?」

「そういうわけでは……いや、そうなのかもしれません」

 クレハ様は屋敷の皆に心配をかけた事をとても気になさっていた。これからも王宮に滞在するのなら尚更、一度帰宅して自分はもう元気なのだと知らせておきたいとのこと。クレハ様の状況は手紙などで逐一報告されてはいるだろうけれど、直接お会いして得られる安堵感に勝るものはない。自分だってそうだったのだから。

「しばらくの間、一緒にいてくれるって言ったよね? 俺まだ全然満足してないんだけど」

「王宮には、またすぐに行きますよ」

「離れず側にいて欲しいなぁ……」

 殿下はクレハ様の手を握り締めながら切なげに呟いた。そもそもフィオナ様の問題がまだ解決していない。今クレハ様にお帰りになって貰っては困るのだ。殿下は何とか思いとどまらせようとしているのか、甘えるような仕草で帰らないでと訴えている。クレハ様……そんな助けを求めるような目で私を見ないで下さい。私にはどうする事もできません。
 しかし、フィオナ様のことはどう決着をつければ良いのだろうか……現状様子を見るということになってはいるけれど、クレハ様に何も説明しないまま誤魔化し続けるのは無理だと思う。赤の他人ならともかく、フィオナ様はクレハ様の姉君なのだから……

「頂いたお見舞いのお礼も直接伝えたいんです。どうしても駄目ですか?」

「はぁ……分かった、いいよ」

 そうですよね、駄目ですよね……って、殿下いま何て……もしかして分かったって言ったの? まさかフィオナ様のこと忘れていらっしゃるんじゃ……

「本当!? ありがとうございます、レオン」

「その代わり、条件がある」










 殿下の提示した条件とは、クレハ様の帰宅はあくまで一時的なものとし、数日滞在したらまた王宮へ戻ってくること。殿下の側近の1人を護衛として同行させること、そして……

「帰る日は今から5日後……それでも良い?」

「はい!」

 クレハ様は殿下の出した条件を全て受け入れた。とりあえず帰宅できる目処が立ったことを喜んでいらっしゃる。そんなクレハ様を横目に私の心境は複雑だ。やはりどうしてもフィオナ様のことが気になってしまうから。

「リズ、君もクレハに付いて行って欲しい。後で同行する部下を紹介する」

「分かりました」

 殿下には何かお考えがあっての事だとは思うけれど。私の心配が杞憂に終わればいいと、願わずにはいられなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)

星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。 団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。 副団長「彼女のご飯は軍事物資です」 私「えっ重い」 胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!? ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。 (月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

何も言わずメイドとして働いてこい!とポイされたら、成り上がり令嬢になりました

さち姫
恋愛
シャーリー・サヴォワは伯爵家の双子の妹として産まれた 。実の父と双子の姉、継母に毎日いじめられ、辛い日々を送っていた。特に綺麗で要領のいい双子の姉のいつも比べられ、卑屈になる日々だった。 そんな事ある日、父が、 何も言わず、メイドして働いてこい、 と会ったこともないのにウインザー子爵家に、ポイされる。 そこで、やっと人として愛される事を知る。 ウインザー子爵家で、父のお酒のおつまみとして作っていた料理が素朴ながらも大人気となり、前向きな自分を取り戻していく。 そこで知り合った、ふたりの男性に戸惑いながらも、楽しい三角関係が出来上がっていく。 やっと人間らしく過ごし始めたのに、邪魔をする家族。 その中で、ウインザー子爵の本当の姿を知る。 前に書いていたいた小説に加筆を加えました。ほぼ同じですのでご了承ください。 また、料理については個人的に普段作っているのをある程度載せていますので、深く突っ込むのはやめてくださいm(*_ _)m 第1部の加筆が終わったので、ここから毎日投稿致しますm(_ _)m

元社畜悪役令嬢、辺境のボロ城を全自動ボタニカル美容スパに大改造して引きこもる ~前世コスメで冷徹公爵を完治させたら溺愛されました~

季未
恋愛
「貴様のような悪逆非道な女は、極寒の辺境へ追放だ!」 建国記念の夜会で王太子から婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢シャルロッテ。 しかし、彼女の中身は前世でブラック企業に殺された過労で過労死したマーケターだった! (激務の王妃ルート回避!? しかも辺境は誰にも邪魔されないブルーオーシャン! 最高のフリーランス生活の始まりじゃない!) 理不尽な追放を究極のホワイト・スローライフへのパスポートだと歓喜した彼女は、あてがわれた辺境のボロ城を、前世の「DIY・スマートホーム知識」と「土・水魔法」を駆使して爆速で大改造! 隙間風の吹く部屋は、一瞬で「床暖房完備の全自動温水スパ」へ。 辺境に自生する雑草からは「極上ボタニカルコスメ」を開発し、自らも絶世の美女へと変貌していく。 さらに「お前には干渉しない」と白い結婚を突きつけてきたはずの、呪いで顔に火傷を負った氷の公爵に特製マッサージと美肌治療を施したところ……。 「お前が作ったこの空間と、お前自身が……俺のすべてだ」 冷徹だったはずの公爵様が、極上の癒やし空間と彼女の手技で完全に骨抜きにされ、異常なまでの過保護・溺愛モードに突入!? 現代マーケティングと美容チートで辺境を超高級スマート・リゾートへと再生させ、かつて自分を追放した王太子たちを大後悔させる! 爽快&極甘な、異世界リゾート経営×溺愛ファンタジー、堂々開幕!

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。

処理中です...