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108話 お見舞い(3)
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「完璧です!! とてもよくお似合いですよ、クレハ様」
ミシェルさんは満足気に頷いている。実を言うと彼女のテンションの高さから、一体どんな格好をさせられるのだろうかと心配だったのだが……
「クレハ様は機動性に欠けた服を好まれないとお聞きしていましたので、ミディ丈のドレスに致しました。スカートは白とピンクのグラデーションチュールです」
促され、姿見の前に立つ。白いドレスに身を包んだ自分が映っている。薄くてふわふわした生地が数枚折り重なっているスカートは、裾に向かって白から淡いピンク色に変化するグラデーションが美しかった。
「トップスも白でロングスリーブですが、デコルテからスリーブ全体が透明感のある総レースになっていますので重くなり過ぎず、すっきりとした印象になります。レースがほぼ透明に近いので、花の刺繍が直接肌に浮かび上がってるみたいに見えて素敵なんですよー」
ミシェルさんが主張していた、レオンが好きだという可愛いを全面に出したようなドレスだ。しかし、動きやすさや、アクセントとして胸元に付けられたバラのコサージュなど……随所に私の好みも取り入れられている。レオンだけじゃなくて、私の事もちゃんと考えてくれているのが分かった。
でもやっぱりお見舞いに行く装いとしては、気合い入り過ぎだと思う。想像していたよりは派手派手しくなくて安心したけど。
「綺麗なドレスですね。ありがとうございます、ミシェルさん」
「いいえー、私も眼福ですから♡ 髪の毛の方もちょっとだけいじってみましょうか」
ミシェルさんは、所々跳ねていた私の髪にブラシを入れ、丁寧にとかしてくれる。ヘアセットも出来るなんて……本職じゃないのにミシェルさんは器用だ。
「クレハ様、髪の毛を伸ばしてみようとは思われませんか? 短い髪も可愛いらしいですけど、長い方もきっとお似合いですよ」
「髪を? うーん……あまり考えたことなかったです。拘りがあるわけではないのですけど」
「でしたら是非! クレハ様の髪の毛……とっても綺麗ですし、長い方が服装によって髪型も色々アレンジできて楽しいですから」
手際良く両サイドの髪が編み込まれていく。普段は髪で隠れているピアスが丸見えになった。仕上げにドレスのコサージュと同じ、バラの髪飾りを付けて出来上がりだ。
「レオンは……レオンは短いのと長いの……どっちが好きでしょうか」
「えっ?」
ミシェルさんが不意をつかれたように声を上げた。自分の口からこぼれ出た言葉なのに、私自身も驚いてしまう。
お洒落はあまり興味無いし、よく分からない。今だってミシェルさんの言われるがままに着付けて貰っている。見た目なんて貴族の令嬢として、見苦しくない程度に取り繕っていれば良い……そんな風に思っていた。髪型だって、今までの自分だったら間違いなく『何でもいい』だ。もしくは、短い方が運動するには向いてるかな、みたいな考えが一番に浮かんでいたはずだった。
しかし、先程の自分は真っ先にレオンの反応を気にした。自らの意志で積極的にレオンの好みに合わせようとしていたのだ。そりゃ、あれだけミシェルさんがレオン好みにしようって盛り上がっていたのだから、自然と影響されていたのかもしれない。だけど……嬉しそうに笑う彼を想像して、浮ついてしまう自分は間違いなく存在しているのだ。心境の変化に困惑している私を、ミシェルさんは眩しいものでも見ているかのように、目を細めて眺めていた。
「それは……今からご本人に直接確認してみましょう」
ミシェルさんも髪型の好みまでは知らなかったみたい。レオン本人に聞いてみたらどうだと提案される。そういうの自分から聞くの、照れ臭いんだけどなぁ。
何も持って行かなくていいと言われはしたが、私の腕には数冊の本とトランプが抱えられていた。備えあれば憂いなしってことで。『ローズ物語』はお見舞いとは別に、レオンに渡そうと思っていたのだ。読書なら暇つぶしにも丁度良いだろう。
ミシェルさんに案内して貰い、レオンの部屋を訪れた。王族の居住スペースは、私が滞在している客室からはかなり離れている。警備も特に厳重で、見張りをしている兵士と何人もすれ違った。
「ではクレハ様、私はここで失礼致します。隣の控えの間で待機しておりますので、ご用があればお呼び下さいね。1時間後にお迎えに上がります」
ミシェルさんは、部屋の中までは付いて来るつもりはないらしい。扉の前まで来ると私だけを残して、別室へ下がってしまった。
「そういえば、私レオンの部屋に行くの初めてなんだよね」
いつでも自由に訪問して良いとのお許しが私には出ている……でも、その機会は今の今まで1度も無かった。私から出向かなくても、レオンの方から毎日会いに来てくれていたからだ。
意識した途端に緊張してきた。ここまで来て今更引き返したりはしないけど、思ったように手が動いてくれなくてノックに踏み切れない。私は部屋の前で立ち往生してしまう。そんな状態が5分ほど経過したところで、扉の内側から声をかけられた。
「クレハー……いい加減入って来てくれない? 俺、待ちくたびれちゃったよ」
「レっ、レオン!?」
レオンの声だ。ここは彼の部屋で療養中なのだから、いるのは当然なんだけど……ノックをする前から私が来てるってバレてしまっていた。ぐずついて、いつまでも入ってこない私に痺れを切らしたようだ。
「えっと……お見舞いに来たんですけど」
「うん、知ってる。だから早く来て」
扉越しに話しかける声のトーンは普段と変わらない。ミシェルさん達に聞いていた通りだ。もうずいぶん回復して、良くなっているみたい。
「失礼します……」
ゆっくりと扉を開き、私は彼の部屋へと足を踏み入れた。
ミシェルさんは満足気に頷いている。実を言うと彼女のテンションの高さから、一体どんな格好をさせられるのだろうかと心配だったのだが……
「クレハ様は機動性に欠けた服を好まれないとお聞きしていましたので、ミディ丈のドレスに致しました。スカートは白とピンクのグラデーションチュールです」
促され、姿見の前に立つ。白いドレスに身を包んだ自分が映っている。薄くてふわふわした生地が数枚折り重なっているスカートは、裾に向かって白から淡いピンク色に変化するグラデーションが美しかった。
「トップスも白でロングスリーブですが、デコルテからスリーブ全体が透明感のある総レースになっていますので重くなり過ぎず、すっきりとした印象になります。レースがほぼ透明に近いので、花の刺繍が直接肌に浮かび上がってるみたいに見えて素敵なんですよー」
ミシェルさんが主張していた、レオンが好きだという可愛いを全面に出したようなドレスだ。しかし、動きやすさや、アクセントとして胸元に付けられたバラのコサージュなど……随所に私の好みも取り入れられている。レオンだけじゃなくて、私の事もちゃんと考えてくれているのが分かった。
でもやっぱりお見舞いに行く装いとしては、気合い入り過ぎだと思う。想像していたよりは派手派手しくなくて安心したけど。
「綺麗なドレスですね。ありがとうございます、ミシェルさん」
「いいえー、私も眼福ですから♡ 髪の毛の方もちょっとだけいじってみましょうか」
ミシェルさんは、所々跳ねていた私の髪にブラシを入れ、丁寧にとかしてくれる。ヘアセットも出来るなんて……本職じゃないのにミシェルさんは器用だ。
「クレハ様、髪の毛を伸ばしてみようとは思われませんか? 短い髪も可愛いらしいですけど、長い方もきっとお似合いですよ」
「髪を? うーん……あまり考えたことなかったです。拘りがあるわけではないのですけど」
「でしたら是非! クレハ様の髪の毛……とっても綺麗ですし、長い方が服装によって髪型も色々アレンジできて楽しいですから」
手際良く両サイドの髪が編み込まれていく。普段は髪で隠れているピアスが丸見えになった。仕上げにドレスのコサージュと同じ、バラの髪飾りを付けて出来上がりだ。
「レオンは……レオンは短いのと長いの……どっちが好きでしょうか」
「えっ?」
ミシェルさんが不意をつかれたように声を上げた。自分の口からこぼれ出た言葉なのに、私自身も驚いてしまう。
お洒落はあまり興味無いし、よく分からない。今だってミシェルさんの言われるがままに着付けて貰っている。見た目なんて貴族の令嬢として、見苦しくない程度に取り繕っていれば良い……そんな風に思っていた。髪型だって、今までの自分だったら間違いなく『何でもいい』だ。もしくは、短い方が運動するには向いてるかな、みたいな考えが一番に浮かんでいたはずだった。
しかし、先程の自分は真っ先にレオンの反応を気にした。自らの意志で積極的にレオンの好みに合わせようとしていたのだ。そりゃ、あれだけミシェルさんがレオン好みにしようって盛り上がっていたのだから、自然と影響されていたのかもしれない。だけど……嬉しそうに笑う彼を想像して、浮ついてしまう自分は間違いなく存在しているのだ。心境の変化に困惑している私を、ミシェルさんは眩しいものでも見ているかのように、目を細めて眺めていた。
「それは……今からご本人に直接確認してみましょう」
ミシェルさんも髪型の好みまでは知らなかったみたい。レオン本人に聞いてみたらどうだと提案される。そういうの自分から聞くの、照れ臭いんだけどなぁ。
何も持って行かなくていいと言われはしたが、私の腕には数冊の本とトランプが抱えられていた。備えあれば憂いなしってことで。『ローズ物語』はお見舞いとは別に、レオンに渡そうと思っていたのだ。読書なら暇つぶしにも丁度良いだろう。
ミシェルさんに案内して貰い、レオンの部屋を訪れた。王族の居住スペースは、私が滞在している客室からはかなり離れている。警備も特に厳重で、見張りをしている兵士と何人もすれ違った。
「ではクレハ様、私はここで失礼致します。隣の控えの間で待機しておりますので、ご用があればお呼び下さいね。1時間後にお迎えに上がります」
ミシェルさんは、部屋の中までは付いて来るつもりはないらしい。扉の前まで来ると私だけを残して、別室へ下がってしまった。
「そういえば、私レオンの部屋に行くの初めてなんだよね」
いつでも自由に訪問して良いとのお許しが私には出ている……でも、その機会は今の今まで1度も無かった。私から出向かなくても、レオンの方から毎日会いに来てくれていたからだ。
意識した途端に緊張してきた。ここまで来て今更引き返したりはしないけど、思ったように手が動いてくれなくてノックに踏み切れない。私は部屋の前で立ち往生してしまう。そんな状態が5分ほど経過したところで、扉の内側から声をかけられた。
「クレハー……いい加減入って来てくれない? 俺、待ちくたびれちゃったよ」
「レっ、レオン!?」
レオンの声だ。ここは彼の部屋で療養中なのだから、いるのは当然なんだけど……ノックをする前から私が来てるってバレてしまっていた。ぐずついて、いつまでも入ってこない私に痺れを切らしたようだ。
「えっと……お見舞いに来たんですけど」
「うん、知ってる。だから早く来て」
扉越しに話しかける声のトーンは普段と変わらない。ミシェルさん達に聞いていた通りだ。もうずいぶん回復して、良くなっているみたい。
「失礼します……」
ゆっくりと扉を開き、私は彼の部屋へと足を踏み入れた。
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