リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜

ゆずき

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109話 お見舞い(4)

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 王太子殿下の私室か……どんな感じなんだろう。緊張半分期待半分といった心持ちで、私はレオンの部屋に入った。ところが、彼の部屋は私が想像していたものとは随分趣が違っていたのだった。
 広さは王妃様のお部屋より少しだけ広い。けれどこちらには、内装に派手さや華やかさは全く無く、私がいる客室の方が豪華なくらいだ。王子様の部屋ってもっとこう煌びやかで、あちこちに高価な調度品が置かれてて……みたいなのを予想していたのに。
 上品で落ち着いてる。でも、悪く言えば殺風景。必要最低限の家具しか置かれていない。どことなくお父様の書斎を思い出させる……そんな部屋だった。中でも一際存在感を主張しているのは、高さが天井に届きそうなほどの大きな本棚が2つ。そこには難しそうな本がぎっちりと詰まっていた。こんなにたくさんの本が部屋にあるなら、私がわざわざ持って来る必要無かったかも……
 正面に見えるテーブルの上には、文字が書かれた紙が乱雑に散らばっていた。何かの書類かな。テーブルと揃いの椅子が二脚ほどあり、レオンはその内のひとつに腰掛けている。彼の手にも数枚の書類が握られていて、そこに書かれた文章を眺めていた。横になっていなくて良いのだろうかと思ったけれど、そもそも部屋にはベッドが見当たらない。寝室は別なのかも……部屋の右側奥に扉があるから、あそこかな。あまりじろじろ見るのも失礼だろうし、私はレオンの方へ目線を固定した。彼も書類に向けていた顔を上げ、私と瞳を合わせる。

「いらっしゃい、クレハ。よく来てくれたね」

「お加減はいかがですか? 倒れたって聞いて驚きました」

「見ての通りだよ」

 小さく笑みを浮かべながら、レオンは椅子から立ち上がった。歩み寄る足取りは軽い。溌剌とした声に、軽快な仕草……数日意識を失っていた人間とは思えなかった。実際に目にする彼の元気な姿に、嬉しさが込み上げてくる。また涙ぐみそうになってしまうのを、私は必死にこらえた。

「良かった……」

「大丈夫だと言っているのに、医師が大袈裟なんだよ。しばらく休養を取れってうるさいんだ。寝てる暇なんて無いっていうのに……」

「お医者様の言うことは聞かなきゃ駄目です」

「でも、父上に泣き付くのは卑怯だろ。父上は父上で君との婚約を盾にして、俺を黙らせようとするんだからさ」

 目を覚ましてすぐに動き回ろうとしたってのも本当なんだな。医師は手に負えなくて、ジェラール陛下に助けを求めたんですね。数日くらい安静にしてれば良いのに……いや、してて下さい。

「みんなレオンを心配しているんですよ」

「クレハも?」

「もちろんです」

「そっか……」

 レオンの右手が私の頬に触れる。突然の接触に驚き、思わず体が跳ねた。

「自室待機は不本意だったけど、悪いことばかりじゃないね。おかげでこんな可愛い子がお見舞いに来てくれたんだから」

 顔の形をなぞるように、彼の手がゆっくりと移動する。ピアスが付けられた耳たぶを指で軽く摘んだかと思うと、耳の裏側から後頭部に向かって髪の毛をすくように撫でられた。

「いつも可愛いけど、今日のクレハは格別だね。この白いドレスも似合ってるよ。また母上の見立てかな?」

「えっと、これはミシェルさんが……レオンがこういうふわふわした服が好きだって聞いたから……それで」

「俺が? そうなんだ」

「違うんですか!?」

「違うっていうか……そりゃ嫌いではないけど、特別好きって言った覚えもないよ」

 ミシェルさん!!? 話が違いますけど!! あんなにレオンの好みについて熱く語っていたのに。
 レオンが言うには、自分が着る服に関してはミシェルさんの言っていた通りで、あまり華美な物は好まないそうだ。でも、女の子の服の好みをミシェルさんに伝えたことは無いし、そういう話題を誰かとしたことすら無いときた。

「ミシェルか……ったく、しょうがないな。クレハはあいつに上手くのせられたんだよ。多分、あいつが見たいから着せられただけだぞ」

「えぇ……」

「俺なら君がどんな格好をしていても褒めるのを見越して、それなら自分の着せたい服を着せてやろうって思ったんじゃないかな」

 このひらひらドレスはレオンではなく、ミシェルさんの趣味だったんですね。ドレスそのものは素敵だし、レオンも気に入ってくれたようだけど……なんか、一気に脱力感に見舞われた。がっかりして肩を垂らす私を、レオンは面白そうに眺めている。

「そんなに落胆しないでよ。俺は今とても嬉しいんだからさ。ミシェルに言われたからであっても、君が俺のためにこうやって着飾ってくれたってことが……俺を喜ばせようとしてくれたんでしょ?」

 私の頭に付けられたバラの髪飾り……彼はそれを指先でいじりだす。綺麗に結われた髪が崩れないよう、絶妙な力加減だ。その後は胸元のコサージュに視線を移し、改めて私の全身を隈なく観察している。遠慮の無いそれに居心地が悪くなる。

「クレハ、抱きしめてもいい?」

「なっ!? いっ、いつもはそんなの聞いてこないじゃないですか」

 彼はいつだって自分の好きなように行動し、私を翻弄させているというのに……。抱きしめるのだって、彼の気分次第。なぜ今日に限ってお伺いをたてるのか。

「どうしてだろうね。元々嫌われてないのは分かってたけど、更に自信がついたのかも。ねぇ、クレハいい?」

『いい?』と聞いてはいるが、レオンの顔は余裕たっぷりで、断られるわけないと確信している表情だ。何だか悔しいから、本を抱えているのを理由に拒否してやろうかな……。そんな可愛くない考えが一瞬頭をよぎったのだけれど。

「ちょっとだけなら……」

 実際に口から出たのは受け入れの言葉だった。最初からそうだった。恥ずかしいだけで、私は彼に触れられるのは嫌じゃないのだ。でも、照れ隠しの拒絶を押し退けて、こんなにあっさり了承してしまうなんて……

「やった」

 私の返事を聞いて、レオンは顔を綻ばせて笑った。それはとても綺麗で、幸せそうで……私は、なんだか胸の辺りが熱くて締め付けられるような感覚に襲われた。
 それじゃあ早速と、彼は私の体を腕の中に閉じ込める。予想以上に思い切り抱きつかれてしまったため、私は持っていた本とトランプを、床の上に落としてしまったのだった。
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