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150話 ボーダーライン
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妥協案……お互いに歩み寄って我慢できる所は我慢し、ひとつの結論を出す。ルーイ先生の仰る通り、主張が真っ向から対立している以上、どこかで譲歩できる点を見出していかねば埒が明かない。
「とりあえずさ……セディがこれだけは絶対に譲れないっていう、俺に改めて欲しい行動を言ってごらんよ」
「他者の目がある場で不必要に触れないで頂きたい。昨日のようにレオン様やリズさん……幼い子供のいる前でなど以ての外です」
先生の問いかけに即答した。最低でもこれだけは受け入れて貰うと決めていたのだ。実際に俺の醜態を目撃したのはクラヴェル兄弟であって、レオン様達には見られてはいない。それでも際どい状況であったことに違いなかった。
「いいよ、分かった。人前では我慢する。他には?」
いやにあっさりと了承するな。失礼だけど、素直な先生がとても不気味だ。
「それと、関係を誤解されるような発言もしないで下さい。今のあなたはレオン様の先生。私とは仕事仲間程度の繋がりでしかないんですから」
「酷いよ、セディ。キスまでした仲なのに……」
「あなたが勝手にやったんでしょうがっ!! 私の許可無く、ほぼ不意打ちで!」
思いださせないで欲しい。できるだけ意識しないようにしてるんだからな。
「俺の不意打ちが成功してる意味を、もう少しちゃんと考えてみて欲しいんだけどなぁ……まぁ、いいや。分かったよ。他は?」
「他は、えーっと……」
提示した要求がすんなりと認められてしまった。もっとごねられると思っていたので、拍子抜けだ。せっかく他にもあるかと尋ねられているのに、言葉が詰まってしまう。しまった、これ以上考えていなかった……
「あれ、無いの? だったら次は、セディのボーダーラインでも探っていこうか」
「ボーダーライン?」
「うん。セディ、こっちおいで」
先生が俺に向かって手招きをしている。行きたくない。さすがに学習した。絶対ろくなことにならないに決まってる。呼びかけには応じず、上下に動く彼の手を睨み付ける。
「俺はさっきセディが出した要求を受け入れたよ。互いに譲り合おうって言ったのに、俺にだけ我慢させるの? セディが本気で嫌がることはしないから、早く来て」
「嘘だったら今度こそ一発殴りますよ」
「はいはい。分かったから、はーやーく」
殴っていいとの言質は取った。それでも胸に燻る疑念は消えてくれるわけがなく……何をされても即反応できるよう、警戒しながら先生のもとへと向かった。
「セディ、手出して。左右どっちでもいい」
「……急に引っ張ったりしないですよね?」
「しないよ。疑り深いなぁ」
彼の前に右手を差し出した。万が一引き寄せられた時の衝撃に備え、足に力を込める。しかし、先生は宣言通り何もすることはなかった。
「手、触ってもいい?」
「えっ? はい、どうぞ」
彼は両手で俺の右手に触れた。壊れ物でも扱うように慎重に……。何がしたいんだ。先生の意図が掴めない。
「あの、先生……これは」
「俺に手触られて嫌じゃない?」
「……嫌ではありませんけど」
「手を握るのはOKと……頭撫でていい?」
手の次は頭。頭の次は腕……その後は肩。こんな調子で先生は俺の体に触れていった。触る前に必ずお伺いを立てているけど、本当にただ触れているだけ。何か細工をしているとか、そんな怪しい素振りも無い。これで最後だと首筋に触れながら、先生はこの行動の理由を語った。
「セディがどこまで触るのを許してくれるかなって……セディの許容範囲を確認しているんだよ。場所を予告しておけば平気みたいね」
指摘の通り、彼に触られること自体に嫌悪感は無かった。事前に何もしないと言われているからだろうな。
「次は……」
先生はソファから腰を上げた。そして、俺の正面に向かい合うようにして立つ。190センチを越える長身の彼に見下ろされると、僅かだが威圧感を感じる。
「ヤらせて?」
「…………嫌です」
腕を軽く広げながらそんな事を言う。要求が一気にエスカレートしやがった。
「えー……」
「えー、じゃないんですよ。ふざけてるんですか」
「大真面目だよ。それじゃあ、キスさせて」
「嫌です」
「今更でしょ。許してよ、セディ」
「ダメです」
「キスもダメなの? 嘘でしょ、俺何もできないじゃん!! セディ厳し過ぎるよ」
何もしなくていいし、どこが厳しいんだ。いきなりヤらせろだなんて、断るに決まってんだろうが。
「なら、抱きしめさせてよ……これなら良いでしょ」
「……抱きしめるだけですね? それ以上変なことしませんよね」
先生は力強く何度も頷く。抱擁なら友人同士でも状況によってはすることもあるだろう。先生だって俺の求めに応じてくれたのだしな。このあたりで彼の要求をのむことにした。
「分かりまし……ったぁ!!?」
返事を返すやいなや、先生は勢いよく抱き付いてきた。まるで、待てを解除されて餌に飛びつく犬みたいだった。……となると餌は俺か。神を犬扱いするのも不敬過ぎるし、無意識に嫌な例えを出してしまったな。
「聞こえるでしょ。俺、今すっげードキドキしてんの」
隙間が全く無いほど、ぎゅうぎゅうに抱きしめられている。密着しているせいで、相手の鼓動の音まで聞こえてしまう。とくとくと早鐘を打つさまは人のそれと変わらない。彼の心音を聞いていると、悲しくもないのに鼻の奥がツンとした。
「セディ以上に困惑しているのは、きっと俺の方。でもさ、しょうがないじゃん。止められなくなっちゃったんだから……」
「先生……」
「セディが何と言おうが、この感情を無かったことになんてしない……これだけは譲らない」
抱きしめる腕の力が緩んだ。顔を上げると、先生と視線がかち合う。切なげに、訴えかけるような目をしていた。
「お前が思うよりもずっと……俺は純情なんですよ」
ついさっきまでヤらせろだのほざいていた方が、どの口で言うんだろうか。
「ねぇ、セディ」
「何ですか?」
「お前が好きだよ」
「とりあえずさ……セディがこれだけは絶対に譲れないっていう、俺に改めて欲しい行動を言ってごらんよ」
「他者の目がある場で不必要に触れないで頂きたい。昨日のようにレオン様やリズさん……幼い子供のいる前でなど以ての外です」
先生の問いかけに即答した。最低でもこれだけは受け入れて貰うと決めていたのだ。実際に俺の醜態を目撃したのはクラヴェル兄弟であって、レオン様達には見られてはいない。それでも際どい状況であったことに違いなかった。
「いいよ、分かった。人前では我慢する。他には?」
いやにあっさりと了承するな。失礼だけど、素直な先生がとても不気味だ。
「それと、関係を誤解されるような発言もしないで下さい。今のあなたはレオン様の先生。私とは仕事仲間程度の繋がりでしかないんですから」
「酷いよ、セディ。キスまでした仲なのに……」
「あなたが勝手にやったんでしょうがっ!! 私の許可無く、ほぼ不意打ちで!」
思いださせないで欲しい。できるだけ意識しないようにしてるんだからな。
「俺の不意打ちが成功してる意味を、もう少しちゃんと考えてみて欲しいんだけどなぁ……まぁ、いいや。分かったよ。他は?」
「他は、えーっと……」
提示した要求がすんなりと認められてしまった。もっとごねられると思っていたので、拍子抜けだ。せっかく他にもあるかと尋ねられているのに、言葉が詰まってしまう。しまった、これ以上考えていなかった……
「あれ、無いの? だったら次は、セディのボーダーラインでも探っていこうか」
「ボーダーライン?」
「うん。セディ、こっちおいで」
先生が俺に向かって手招きをしている。行きたくない。さすがに学習した。絶対ろくなことにならないに決まってる。呼びかけには応じず、上下に動く彼の手を睨み付ける。
「俺はさっきセディが出した要求を受け入れたよ。互いに譲り合おうって言ったのに、俺にだけ我慢させるの? セディが本気で嫌がることはしないから、早く来て」
「嘘だったら今度こそ一発殴りますよ」
「はいはい。分かったから、はーやーく」
殴っていいとの言質は取った。それでも胸に燻る疑念は消えてくれるわけがなく……何をされても即反応できるよう、警戒しながら先生のもとへと向かった。
「セディ、手出して。左右どっちでもいい」
「……急に引っ張ったりしないですよね?」
「しないよ。疑り深いなぁ」
彼の前に右手を差し出した。万が一引き寄せられた時の衝撃に備え、足に力を込める。しかし、先生は宣言通り何もすることはなかった。
「手、触ってもいい?」
「えっ? はい、どうぞ」
彼は両手で俺の右手に触れた。壊れ物でも扱うように慎重に……。何がしたいんだ。先生の意図が掴めない。
「あの、先生……これは」
「俺に手触られて嫌じゃない?」
「……嫌ではありませんけど」
「手を握るのはOKと……頭撫でていい?」
手の次は頭。頭の次は腕……その後は肩。こんな調子で先生は俺の体に触れていった。触る前に必ずお伺いを立てているけど、本当にただ触れているだけ。何か細工をしているとか、そんな怪しい素振りも無い。これで最後だと首筋に触れながら、先生はこの行動の理由を語った。
「セディがどこまで触るのを許してくれるかなって……セディの許容範囲を確認しているんだよ。場所を予告しておけば平気みたいね」
指摘の通り、彼に触られること自体に嫌悪感は無かった。事前に何もしないと言われているからだろうな。
「次は……」
先生はソファから腰を上げた。そして、俺の正面に向かい合うようにして立つ。190センチを越える長身の彼に見下ろされると、僅かだが威圧感を感じる。
「ヤらせて?」
「…………嫌です」
腕を軽く広げながらそんな事を言う。要求が一気にエスカレートしやがった。
「えー……」
「えー、じゃないんですよ。ふざけてるんですか」
「大真面目だよ。それじゃあ、キスさせて」
「嫌です」
「今更でしょ。許してよ、セディ」
「ダメです」
「キスもダメなの? 嘘でしょ、俺何もできないじゃん!! セディ厳し過ぎるよ」
何もしなくていいし、どこが厳しいんだ。いきなりヤらせろだなんて、断るに決まってんだろうが。
「なら、抱きしめさせてよ……これなら良いでしょ」
「……抱きしめるだけですね? それ以上変なことしませんよね」
先生は力強く何度も頷く。抱擁なら友人同士でも状況によってはすることもあるだろう。先生だって俺の求めに応じてくれたのだしな。このあたりで彼の要求をのむことにした。
「分かりまし……ったぁ!!?」
返事を返すやいなや、先生は勢いよく抱き付いてきた。まるで、待てを解除されて餌に飛びつく犬みたいだった。……となると餌は俺か。神を犬扱いするのも不敬過ぎるし、無意識に嫌な例えを出してしまったな。
「聞こえるでしょ。俺、今すっげードキドキしてんの」
隙間が全く無いほど、ぎゅうぎゅうに抱きしめられている。密着しているせいで、相手の鼓動の音まで聞こえてしまう。とくとくと早鐘を打つさまは人のそれと変わらない。彼の心音を聞いていると、悲しくもないのに鼻の奥がツンとした。
「セディ以上に困惑しているのは、きっと俺の方。でもさ、しょうがないじゃん。止められなくなっちゃったんだから……」
「先生……」
「セディが何と言おうが、この感情を無かったことになんてしない……これだけは譲らない」
抱きしめる腕の力が緩んだ。顔を上げると、先生と視線がかち合う。切なげに、訴えかけるような目をしていた。
「お前が思うよりもずっと……俺は純情なんですよ」
ついさっきまでヤらせろだのほざいていた方が、どの口で言うんだろうか。
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