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199話 共犯(2)
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何かの比喩表現でもなく、『共犯』という単語の意味をそのまま受け取るなら同一の犯罪に関与している者たちの事を指す。僕がエルドレッドの共犯? こいつとは知り合ったばかりだ。犯罪どころか行動を共にしたことすらろくにない。共犯だなどと言われる筋合いは全くないぞ。
「こいつ何言ってんだって顔してるねー」
「実際そう思ってるからな。百歩譲って友人は認めてやっても、お前がやらかした悪さの片棒まで担いでやるつもりはないよ」
友人になったからといって共犯扱いされるのは断固として拒否だ。こいつがどんな悪事を働いたかは知らないけど、僕には関係のないことだ。巻き込むなとはっきり告げた。突き放すような態度を見せてもエルドレッドは平然としており、堪えた風には見えない。憎たらしい。
「だからー、これからじゃなくて既になってるんだってばぁ……カミルくん。君はオレの親友だし、共犯なの」
エルドレッドは膝の上に乗せていた紙の蝶をひとつ手に取った。先ほどこの白い蝶は、彼が魔法を使う時に用いる道具なのだと説明を受けたけれど。
「どうしてオレが会ったことの無いクレハお嬢様の顔を知っているのかって? 答えは簡単。この魔法を使ったからさ」
彼が手にしている蝶が薄っすらと輝きだした。ただの紙でしかなかったそれが宙に浮かぶ。そして、さながら本物の蝶のようにひらひらと僕たちの周りを飛び回ったのだ。
「この蝶を通してコスタビューテ王宮にいらっしゃるクレハお嬢様のお顔を拝見させて頂きました。噂通りお美しい方で……一発で分かったよね」
「千里眼……」
「そう。でも安心して。ほんとに顔を見ただけ。それ以外は何もしていないからさ」
淡い黄色の光を纏いながら空中を漂う蝶。エルドレッドの魔法……千里眼は遠く離れた場所の景色を見る事が出来るという。でも待てよ。確かエルドレッドは……
「お前、見たい場所にはあらかじめその蝶を置いておく必要があるって言っただろ。まさかコスタビューテの王宮に入ったことがあるのか」
こいつの話を信じるならそういうことになるけど……あり得ないな。島へと繋がる橋を渡ることだって無理だろう。僕ですら父さんと同伴でなければ許可証が必要なほどに厳しい警備体制を敷いているのだ。放浪の外国人であるこいつが入れるわけがない。
「オレは無いよ。オレはね……」
エルドレッドは王宮に入ったことはない。じゃあ、誰か別の……こいつの知り合いで王宮に出入りできるような立場の人間がいるのか。
エルドレッドは僕の顔をじっと見つめている。またこの気持ちの悪い笑顔だ。人を小馬鹿にしたようなムカつく顔。本当に焦れったい。言いたいことがあるならはっきりと言えば――
「まさか……」
はっと息を呑む。身に覚えのないことだったけど、エルドレッドは僕をこう呼んでいる。『共犯』だと。
「エルドレッド、お前……僕にこの蝶を運ばせたのか?」
1度思い至ってしまったら、もうそうとしか考えられない。比較的簡単に王宮に出入りができて、クレハに目通りが許される人間。己がそれに該当する限られた者であるのを失念していた。こいつの知り合いというポジションがまだしっくりきていないせいなのか、無意識に自分を除外していたのだ。
「ご明察。お前の外套のポケットにこっそりとね。無事に王宮まで運ばれるかどうかは賭けだったけど。運が味方してくれたみたいだ」
王都に帰るまでの道中はクレハのことで頭が一杯だった。一刻も早く彼女に会って婚約の真偽を確かめようと躍起になっていたのだ。注意力が散漫になっていたのは否めない。しかし、衣服の中にそんな物を入れられていたなんて……
僕が王宮についた頃を見計らってポケットから抜け出し、チャンスが来るまで物陰に隠れていたのだという。制限のある魔法でこれをやるのは大変だったとか……そんなの知るか。
「もし蝶が見つかったとしてもただの紙切れにしか見えないし、あれだけでオレの魔法と結び付けるなんて不可能だよ。カミルさえ黙っていればバレることはない」
「……だから共犯か。なんて事してくれたんだよ……」
これはれっきとしたスパイ行為だ。王宮の内部を盗み見るなんて許されるわけがない。自分はその幇助をしたことになる。知らなかったでは済ませられない。
「さっきも言ったけど、クレハお嬢様を見てみたかっただけなんだって。カミルのことも心配だったしさ……悪気はこれぽっちも無かったんだよ」
ショックを受けている僕を見て、罪悪感が芽生えたのだろうか。さっきまでへらへらしていたエルドレッドが、焦ったように言い訳を並べたてる。お前の意図とか関係ない。盗み見をした行為自体が問題なんだよ……
「僕はこの国の宰相の息子なんだ。立場を考えてくれよ……もし誰かに知られでもしたら」
「お前が自分から言わなきゃ大丈夫だって。それに、王宮に持ち込んだ蝶ではもう千里眼は使えない。このあいだから何度も試してるけど失敗するんだ。きっと蝶が見つかって捨てられてしまったんだと思う」
目の代わりとなる蝶が破れたり、燃やされたりなどで傷つけられてしまうと千里眼は使えなくなるそうだ。過去の行いを無かったことには出来ないが、これ以上エルドレッドが王宮内を覗き見することは防げたようで少しだけ安心した。
「もう二度とこんな軽率な真似はするな。お前だって旅先で捕まりたくはないだろ。親が泣くぞ」
「そんな簡単に捕まってやるつもりもないんだけどね。親のことは置いとくとして……今回はカミルを巻き込んじゃったし、これからは自重するよ」
魔法は凄い。でもそれを過信しすぎではないだろうか。コスタビューテにも魔法使いがいる。その筆頭がディセンシア家だ。普通の人間ならともかく、同じ魔法使いである彼らが、王宮内で使われた魔法に気づかないとは言い切れないのではないか。
エルドレッドはバレるわけないと高を括っているけど、僕はこいつのように楽観的に考えることは出来なかった。
「こいつ何言ってんだって顔してるねー」
「実際そう思ってるからな。百歩譲って友人は認めてやっても、お前がやらかした悪さの片棒まで担いでやるつもりはないよ」
友人になったからといって共犯扱いされるのは断固として拒否だ。こいつがどんな悪事を働いたかは知らないけど、僕には関係のないことだ。巻き込むなとはっきり告げた。突き放すような態度を見せてもエルドレッドは平然としており、堪えた風には見えない。憎たらしい。
「だからー、これからじゃなくて既になってるんだってばぁ……カミルくん。君はオレの親友だし、共犯なの」
エルドレッドは膝の上に乗せていた紙の蝶をひとつ手に取った。先ほどこの白い蝶は、彼が魔法を使う時に用いる道具なのだと説明を受けたけれど。
「どうしてオレが会ったことの無いクレハお嬢様の顔を知っているのかって? 答えは簡単。この魔法を使ったからさ」
彼が手にしている蝶が薄っすらと輝きだした。ただの紙でしかなかったそれが宙に浮かぶ。そして、さながら本物の蝶のようにひらひらと僕たちの周りを飛び回ったのだ。
「この蝶を通してコスタビューテ王宮にいらっしゃるクレハお嬢様のお顔を拝見させて頂きました。噂通りお美しい方で……一発で分かったよね」
「千里眼……」
「そう。でも安心して。ほんとに顔を見ただけ。それ以外は何もしていないからさ」
淡い黄色の光を纏いながら空中を漂う蝶。エルドレッドの魔法……千里眼は遠く離れた場所の景色を見る事が出来るという。でも待てよ。確かエルドレッドは……
「お前、見たい場所にはあらかじめその蝶を置いておく必要があるって言っただろ。まさかコスタビューテの王宮に入ったことがあるのか」
こいつの話を信じるならそういうことになるけど……あり得ないな。島へと繋がる橋を渡ることだって無理だろう。僕ですら父さんと同伴でなければ許可証が必要なほどに厳しい警備体制を敷いているのだ。放浪の外国人であるこいつが入れるわけがない。
「オレは無いよ。オレはね……」
エルドレッドは王宮に入ったことはない。じゃあ、誰か別の……こいつの知り合いで王宮に出入りできるような立場の人間がいるのか。
エルドレッドは僕の顔をじっと見つめている。またこの気持ちの悪い笑顔だ。人を小馬鹿にしたようなムカつく顔。本当に焦れったい。言いたいことがあるならはっきりと言えば――
「まさか……」
はっと息を呑む。身に覚えのないことだったけど、エルドレッドは僕をこう呼んでいる。『共犯』だと。
「エルドレッド、お前……僕にこの蝶を運ばせたのか?」
1度思い至ってしまったら、もうそうとしか考えられない。比較的簡単に王宮に出入りができて、クレハに目通りが許される人間。己がそれに該当する限られた者であるのを失念していた。こいつの知り合いというポジションがまだしっくりきていないせいなのか、無意識に自分を除外していたのだ。
「ご明察。お前の外套のポケットにこっそりとね。無事に王宮まで運ばれるかどうかは賭けだったけど。運が味方してくれたみたいだ」
王都に帰るまでの道中はクレハのことで頭が一杯だった。一刻も早く彼女に会って婚約の真偽を確かめようと躍起になっていたのだ。注意力が散漫になっていたのは否めない。しかし、衣服の中にそんな物を入れられていたなんて……
僕が王宮についた頃を見計らってポケットから抜け出し、チャンスが来るまで物陰に隠れていたのだという。制限のある魔法でこれをやるのは大変だったとか……そんなの知るか。
「もし蝶が見つかったとしてもただの紙切れにしか見えないし、あれだけでオレの魔法と結び付けるなんて不可能だよ。カミルさえ黙っていればバレることはない」
「……だから共犯か。なんて事してくれたんだよ……」
これはれっきとしたスパイ行為だ。王宮の内部を盗み見るなんて許されるわけがない。自分はその幇助をしたことになる。知らなかったでは済ませられない。
「さっきも言ったけど、クレハお嬢様を見てみたかっただけなんだって。カミルのことも心配だったしさ……悪気はこれぽっちも無かったんだよ」
ショックを受けている僕を見て、罪悪感が芽生えたのだろうか。さっきまでへらへらしていたエルドレッドが、焦ったように言い訳を並べたてる。お前の意図とか関係ない。盗み見をした行為自体が問題なんだよ……
「僕はこの国の宰相の息子なんだ。立場を考えてくれよ……もし誰かに知られでもしたら」
「お前が自分から言わなきゃ大丈夫だって。それに、王宮に持ち込んだ蝶ではもう千里眼は使えない。このあいだから何度も試してるけど失敗するんだ。きっと蝶が見つかって捨てられてしまったんだと思う」
目の代わりとなる蝶が破れたり、燃やされたりなどで傷つけられてしまうと千里眼は使えなくなるそうだ。過去の行いを無かったことには出来ないが、これ以上エルドレッドが王宮内を覗き見することは防げたようで少しだけ安心した。
「もう二度とこんな軽率な真似はするな。お前だって旅先で捕まりたくはないだろ。親が泣くぞ」
「そんな簡単に捕まってやるつもりもないんだけどね。親のことは置いとくとして……今回はカミルを巻き込んじゃったし、これからは自重するよ」
魔法は凄い。でもそれを過信しすぎではないだろうか。コスタビューテにも魔法使いがいる。その筆頭がディセンシア家だ。普通の人間ならともかく、同じ魔法使いである彼らが、王宮内で使われた魔法に気づかないとは言い切れないのではないか。
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