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208話 不満
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「バルト隊長がレオン様の補佐に?」
「はい。殿下に捜査指揮権を与えるための条件として陛下から提示されたそうです。殿下の行動が行き過ぎないよう監視する意味合いもあるようで……我々では力不足だと判断されたのだと」
「そうか……」
レオン様の意気込みが空回りするのを陛下は心配なさっておられるのか。陛下はクレハ様が王宮に留まることになった当初から、ジェムラート家と密に連絡を取り合っておられた。フィオナ様についての情報がレオン様の耳に入らないようにと配慮なさっていたな。けれど、その気遣いも虚しく、持ち前の行動力でレオン様は真実を明らかにしてしまったのだった。
陛下が危惧なさるように、クレハ様がお側にいることで主の感情の揺れ幅も激しくなる。捜査中に冷静な判断を下せなくなる可能性もなくは無い。そう考えると、俺たちとは異なった立ち位置でレオン様をサポートしてくれる者の存在が重要であるのは理解できる。でもまさか、よりにもよってバルトにその役割が課せられるとは……
「ふたり共ビミョーな顔しちゃって。その隊長さんが一緒だとなんかまずいの?」
「そういう訳ではありませんよ。バルト隊長は堅実で信頼できる人間です。ただあまり融通の効くタイプでないと申しますか……ウチの隊の者と反りが合わない所がありまして。私以上のクソ真面目ですからね。あいつは」
「え、セディ怒ったの? ゴメンって」
「……怒ってません」
「嘘だよ、クソ真面目って言ったの気にしてるじゃん」
先生はバルトと初対面になるな。正体を隠すために王宮では人前に出ることを極力避けていたから、三隊長で面識があるのはクライヴだけか。出自の設定も曖昧であるし、そこを突かれるとボロが出てしまう。陛下とレオン様が後ろ盾をしているので誤魔化せないこともないが、バルトのような疑り深くて警戒心の強い奴に先生が目を付けられると厄介だな。
「陛下のお考えは分かるけど、一番隊と我々の折り合いが悪いのもご存知のはずなんだけどな」
「せめて二番隊の者にして貰えないかと殿下に嘆願してはみましたが、決定事項だと却下されてしまいました。それどころか関係修復の足掛かりにしろとまで言われてしまい……」
「職場の人間関係って苦労するよねー。関わりたくない人とだって仕事上は付き合っていかなきゃいけないんだからさ。でも、どうしたって合わない人間ってのは存在するし、そこを強引にくっ付けようとするのもどうなのかな。変に引っ掻き回すくらいなら現状維持のがいいんじゃないの?」
一番隊との仲が決定的に拗れたのは、いま目の前にいる男のせいだ。レオン様はレナードとバルトの間にある女関係のいざこざを知らない。苦手意識が先行していがみ合っているだけ、食わず嫌いのようなものだと考えている。それであれば一緒に行動しているうちに打ち解けて……なんて変化も期待できるのかもしれない。でも実際は違う。性格の不一致だけが問題ではなかった。
「そこは我々も大人ですので。事件を解決するという共通目的がある以上、相手がいくら苦手な人間であろうが互いに手を取り足を取り、協力して捜査に当たりますよ。個人的な感情は持ち込みません」
「……足は取っちゃダメでしょ」
「あはは、人当たりの良いルーイ先生でもバルト隊長には手こずると思いますよ。セドリックさんは隊長同士という繋がりもあってか比較的穏やかに交流なさってますが、私など完全に目の敵にされてますから」
レナードは自虐的に笑った。バルトの恋人関連の話は誤解だと言い張っていたな。でも当時のレナードの奔放振りを間近で見ていた身としては、手放しで信用することもできない。今でこそ落ち着いているが、10代後半のレナードは嫌な方向に荒れていたから……。彼の主張が事実だったとしても、バルトに信じて貰うのは至難の業だろう。
「……それでもセドリックさんがいるので何とかなるだろうと思っていました。バルト隊長と我々の間に入って緩衝材の役割をしてくださると期待していたのです。ですが今回セドリックさんは、ルーイ先生の護衛に集中して欲しいと殿下からのお達しです」
「俺はここに来る前にレオン様から正式に先生の護衛を任命されているからな。更に言えば先生は怪我のせいでしばらく動くことができない。レオン様の采配は妥当だろう」
「えー……なんかごめんね、レナード君。みんなのセディを俺が独り占めしちゃって……」
「先生、全然申し訳なさそうな顔に見えないんですけど。ニヤニヤして……」
レナードは大袈裟に落胆してみせるが、いざ仕事になればきっちりと頭を切り替えることができる男なので、実はそれほど心配していない。今は気を許せる者たちの前だから不満を隠さずにぶちまけているだけ。つまりただの愚痴。
バルトも陛下から直々に補佐へ任命されている。内心はどうであれ、捜査の妨げになるような行為を進んでやるとは思えない。
お互い主君に対する忠誠心は厚い。調和を乱して迷惑をかけるような事があってはならない。よって、此度の一番隊との合同捜査で大きな問題は起こらないと予想する。むしろ現場には適度に緊張感が生まれていいのかもしれないな。彼らとの関係が好転することはないが悪化もしない。レオン様の淡い期待には添えられないけど、とりあえず現状を維持することができれば、それで十分ではないだろうか。
「はい。殿下に捜査指揮権を与えるための条件として陛下から提示されたそうです。殿下の行動が行き過ぎないよう監視する意味合いもあるようで……我々では力不足だと判断されたのだと」
「そうか……」
レオン様の意気込みが空回りするのを陛下は心配なさっておられるのか。陛下はクレハ様が王宮に留まることになった当初から、ジェムラート家と密に連絡を取り合っておられた。フィオナ様についての情報がレオン様の耳に入らないようにと配慮なさっていたな。けれど、その気遣いも虚しく、持ち前の行動力でレオン様は真実を明らかにしてしまったのだった。
陛下が危惧なさるように、クレハ様がお側にいることで主の感情の揺れ幅も激しくなる。捜査中に冷静な判断を下せなくなる可能性もなくは無い。そう考えると、俺たちとは異なった立ち位置でレオン様をサポートしてくれる者の存在が重要であるのは理解できる。でもまさか、よりにもよってバルトにその役割が課せられるとは……
「ふたり共ビミョーな顔しちゃって。その隊長さんが一緒だとなんかまずいの?」
「そういう訳ではありませんよ。バルト隊長は堅実で信頼できる人間です。ただあまり融通の効くタイプでないと申しますか……ウチの隊の者と反りが合わない所がありまして。私以上のクソ真面目ですからね。あいつは」
「え、セディ怒ったの? ゴメンって」
「……怒ってません」
「嘘だよ、クソ真面目って言ったの気にしてるじゃん」
先生はバルトと初対面になるな。正体を隠すために王宮では人前に出ることを極力避けていたから、三隊長で面識があるのはクライヴだけか。出自の設定も曖昧であるし、そこを突かれるとボロが出てしまう。陛下とレオン様が後ろ盾をしているので誤魔化せないこともないが、バルトのような疑り深くて警戒心の強い奴に先生が目を付けられると厄介だな。
「陛下のお考えは分かるけど、一番隊と我々の折り合いが悪いのもご存知のはずなんだけどな」
「せめて二番隊の者にして貰えないかと殿下に嘆願してはみましたが、決定事項だと却下されてしまいました。それどころか関係修復の足掛かりにしろとまで言われてしまい……」
「職場の人間関係って苦労するよねー。関わりたくない人とだって仕事上は付き合っていかなきゃいけないんだからさ。でも、どうしたって合わない人間ってのは存在するし、そこを強引にくっ付けようとするのもどうなのかな。変に引っ掻き回すくらいなら現状維持のがいいんじゃないの?」
一番隊との仲が決定的に拗れたのは、いま目の前にいる男のせいだ。レオン様はレナードとバルトの間にある女関係のいざこざを知らない。苦手意識が先行していがみ合っているだけ、食わず嫌いのようなものだと考えている。それであれば一緒に行動しているうちに打ち解けて……なんて変化も期待できるのかもしれない。でも実際は違う。性格の不一致だけが問題ではなかった。
「そこは我々も大人ですので。事件を解決するという共通目的がある以上、相手がいくら苦手な人間であろうが互いに手を取り足を取り、協力して捜査に当たりますよ。個人的な感情は持ち込みません」
「……足は取っちゃダメでしょ」
「あはは、人当たりの良いルーイ先生でもバルト隊長には手こずると思いますよ。セドリックさんは隊長同士という繋がりもあってか比較的穏やかに交流なさってますが、私など完全に目の敵にされてますから」
レナードは自虐的に笑った。バルトの恋人関連の話は誤解だと言い張っていたな。でも当時のレナードの奔放振りを間近で見ていた身としては、手放しで信用することもできない。今でこそ落ち着いているが、10代後半のレナードは嫌な方向に荒れていたから……。彼の主張が事実だったとしても、バルトに信じて貰うのは至難の業だろう。
「……それでもセドリックさんがいるので何とかなるだろうと思っていました。バルト隊長と我々の間に入って緩衝材の役割をしてくださると期待していたのです。ですが今回セドリックさんは、ルーイ先生の護衛に集中して欲しいと殿下からのお達しです」
「俺はここに来る前にレオン様から正式に先生の護衛を任命されているからな。更に言えば先生は怪我のせいでしばらく動くことができない。レオン様の采配は妥当だろう」
「えー……なんかごめんね、レナード君。みんなのセディを俺が独り占めしちゃって……」
「先生、全然申し訳なさそうな顔に見えないんですけど。ニヤニヤして……」
レナードは大袈裟に落胆してみせるが、いざ仕事になればきっちりと頭を切り替えることができる男なので、実はそれほど心配していない。今は気を許せる者たちの前だから不満を隠さずにぶちまけているだけ。つまりただの愚痴。
バルトも陛下から直々に補佐へ任命されている。内心はどうであれ、捜査の妨げになるような行為を進んでやるとは思えない。
お互い主君に対する忠誠心は厚い。調和を乱して迷惑をかけるような事があってはならない。よって、此度の一番隊との合同捜査で大きな問題は起こらないと予想する。むしろ現場には適度に緊張感が生まれていいのかもしれないな。彼らとの関係が好転することはないが悪化もしない。レオン様の淡い期待には添えられないけど、とりあえず現状を維持することができれば、それで十分ではないだろうか。
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