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236話 可能性(2)
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「ニコラ・イーストンはクレハの姉さんの侍女。シルヴィア・コールズはレオンの側近。釣り堀で起きた一連の騒動への関与を疑われているふたりの女性。共通点といえばどちらも地位の高い人間に仕えていることだけど……彼女たち顔見知りだったりしないかな」
何かを探るようなルーイ先生の視線がレオン様を射抜く。主を通じて接点を得る機会がなかったのかと、先生は確認しているのか。
レオン様とフィオナ様はこれまで幾度も顔を合わせてはいるが、社交辞令の挨拶程度しか言葉を交わしたことがない。どちらも相手に対して特別な感情を持っているようには見えなかった。だからこそフィオナ様がレオン様に好意を持っているという話を聞いた時は首を傾げてしまったのである。
当人同士がこのありさまなのに、使用人たちに親交が生まれるはずもない。排他的思考が強いシルヴィアなど尚更だ。
「部下の私的な交友関係を全て把握してはいないので絶対とは言い切れませんが、俺を足掛かりにするのは難しいかと。俺とフィオナ嬢の関わりは本当に薄いので……」
関わりが薄いというのをレオン様は殊更強調して告げた。フィオナ様との関係を万が一にでも先生に邪推されたくないという感情からだろう。
陛下とジェムラート公爵は、フィオナ様がレオン様を好いているという説をいまだに信じているようだった。真実はフィオナ様本人にしか知り得ないことだけど、レオン様には全く身に覚えがない。主からしたら真偽はどうであれ、迷惑以外の何ものでもないだろう。
レオン様は婚約者を溺愛し、彼女しか見えていないのだ。クレハ様に危害を加えられること、自分の側から離れていってしまうことを最も恐れている。
ゆっくりではあるが、クレハ様は俺たちに心を開きつつある。一方的に結んだ婚約だったけど、主に寄り添おうとしてくれているのだ。せっかく築けた信頼関係であるのに、ここで台無しにするわけにはいかない。
釣り堀での一件から、その恐れている事態に向かっているようで胸が騒めく。俺ですら不安でたまらないのに、レオン様のそれは如何程ばかりだろうか。
「でもお前のことだから調べてはいるんだろ?」
「はい。ニコラ・イーストンの方は失踪までしていますからね。本人を見つけだすことが最優先ですが、シルヴィアを含めた周囲との交友関係、生活環境諸々にも焦点を当てて調査を行なっています」
「公爵邸の警備とニコラ・イーストンの捜索は一番隊が?」
「ああ、ジェイクに任せている。ちなみにうちの隊の連中……レナードとミシェルには引き続き侵入者の見張り。ルイスにはクレハの護衛について貰っているよ」
「ジェイク……クソ真面目っていう噂の隊長さんだね」
「噂? 先生はジェイクのことを知っていたのですね。まだ紹介もしてないのに……」
「セディとレナード君からどんな人なのかちょっとだけ聞いたんだよ」
「なるほど……。確かに彼は堅物で取っ付きにくいところがありますが、とても優秀な兵士なんですよ。実際に会って頂ければわかると思いますが……」
先生の言葉を受けて、レオン様の目線が俺の方へ向けられた。それは何かもの言いたげな……いわゆるジト目と呼ばれるものだ。
まさか俺たちが先生にジェイクの悪口でも吹き込んだのではと疑われているのだろうか。クソ真面目発言は自分のものなので、若干うしろめたい感情が湧き上がり居心地が悪くなる。
主は隊同士の関係改善を図っている。それについて異を唱えることはないけれど、困難な道であるのは間違いない。
下手に刺激することで状況が更に悪化するということもある。合わない者同士を無理にくっ付けるよりは、現状維持でよいのではないかと先生も言っていた。
仲間うちで愚痴を言い合う程度で収まっている今の状態がベストだったという風にならなければ良いが……
「……ニコラさんについては一番隊の隊長さんたちが調べているんだね。シルヴィアちゃんのことはどうするの?」
「シルヴィアにはまだこちらが疑っていると悟られないよう、水面下で調査を進めていこうと思っています。最近また頻繁に王宮に出入りしているようですので、侍女長に動向を注視するよう指示を出しておきました」
「ロザリーさんですか。彼女なら上手くやってくれるでしょうね」
「もしシルヴィアに何らかの思惑があって王宮に滞在しているのなら、俺たちが不在の今は行動を起こす絶好のチャンスだからな」
「みんな各々頑張ってるんだね。よし、それじゃあルーイ先生もまたお手伝いしましょうかね」
先生は絡ませた両手を前方に突き出し、筋を伸ばすポーズを取った。やる気満々といった様子だ。俺が散々口を酸っぱくして行なった忠告を、今回はレオン様がして下さった。
「先生、あなたは怪我人なのですから安静にしていなければなりません。俺の話を聞いて下さっているだけで十分ですよ」
「セディから特別なご褒美を貰ったからね。それに見合う働きをしなきゃ。体動かすわけじゃないから、そんな心配しなさんな」
「セドリック……お前、言葉巧みに先生を拐かして無理を強いているのではないだろうな?」
「レオン様!?」
なんで俺が責められるんだ。俺だって心配してきたのに。先生の言い回しのせいで主から誤解されてしまった。理不尽過ぎる。
「無理やりとかじゃない。俺がしたいからするんだよ。ねぇ、いいでしょ」
「……まずはどのようなことをなさるおつもりなのか教えて下さい。内容を聞いてから判断致します」
レオン様も大概先生に弱い。強く押されると返すことができずにそのまま押し切られてしまうのだった。
さて、先生は今度は何を思いつかれたのだろうか……
何かを探るようなルーイ先生の視線がレオン様を射抜く。主を通じて接点を得る機会がなかったのかと、先生は確認しているのか。
レオン様とフィオナ様はこれまで幾度も顔を合わせてはいるが、社交辞令の挨拶程度しか言葉を交わしたことがない。どちらも相手に対して特別な感情を持っているようには見えなかった。だからこそフィオナ様がレオン様に好意を持っているという話を聞いた時は首を傾げてしまったのである。
当人同士がこのありさまなのに、使用人たちに親交が生まれるはずもない。排他的思考が強いシルヴィアなど尚更だ。
「部下の私的な交友関係を全て把握してはいないので絶対とは言い切れませんが、俺を足掛かりにするのは難しいかと。俺とフィオナ嬢の関わりは本当に薄いので……」
関わりが薄いというのをレオン様は殊更強調して告げた。フィオナ様との関係を万が一にでも先生に邪推されたくないという感情からだろう。
陛下とジェムラート公爵は、フィオナ様がレオン様を好いているという説をいまだに信じているようだった。真実はフィオナ様本人にしか知り得ないことだけど、レオン様には全く身に覚えがない。主からしたら真偽はどうであれ、迷惑以外の何ものでもないだろう。
レオン様は婚約者を溺愛し、彼女しか見えていないのだ。クレハ様に危害を加えられること、自分の側から離れていってしまうことを最も恐れている。
ゆっくりではあるが、クレハ様は俺たちに心を開きつつある。一方的に結んだ婚約だったけど、主に寄り添おうとしてくれているのだ。せっかく築けた信頼関係であるのに、ここで台無しにするわけにはいかない。
釣り堀での一件から、その恐れている事態に向かっているようで胸が騒めく。俺ですら不安でたまらないのに、レオン様のそれは如何程ばかりだろうか。
「でもお前のことだから調べてはいるんだろ?」
「はい。ニコラ・イーストンの方は失踪までしていますからね。本人を見つけだすことが最優先ですが、シルヴィアを含めた周囲との交友関係、生活環境諸々にも焦点を当てて調査を行なっています」
「公爵邸の警備とニコラ・イーストンの捜索は一番隊が?」
「ああ、ジェイクに任せている。ちなみにうちの隊の連中……レナードとミシェルには引き続き侵入者の見張り。ルイスにはクレハの護衛について貰っているよ」
「ジェイク……クソ真面目っていう噂の隊長さんだね」
「噂? 先生はジェイクのことを知っていたのですね。まだ紹介もしてないのに……」
「セディとレナード君からどんな人なのかちょっとだけ聞いたんだよ」
「なるほど……。確かに彼は堅物で取っ付きにくいところがありますが、とても優秀な兵士なんですよ。実際に会って頂ければわかると思いますが……」
先生の言葉を受けて、レオン様の目線が俺の方へ向けられた。それは何かもの言いたげな……いわゆるジト目と呼ばれるものだ。
まさか俺たちが先生にジェイクの悪口でも吹き込んだのではと疑われているのだろうか。クソ真面目発言は自分のものなので、若干うしろめたい感情が湧き上がり居心地が悪くなる。
主は隊同士の関係改善を図っている。それについて異を唱えることはないけれど、困難な道であるのは間違いない。
下手に刺激することで状況が更に悪化するということもある。合わない者同士を無理にくっ付けるよりは、現状維持でよいのではないかと先生も言っていた。
仲間うちで愚痴を言い合う程度で収まっている今の状態がベストだったという風にならなければ良いが……
「……ニコラさんについては一番隊の隊長さんたちが調べているんだね。シルヴィアちゃんのことはどうするの?」
「シルヴィアにはまだこちらが疑っていると悟られないよう、水面下で調査を進めていこうと思っています。最近また頻繁に王宮に出入りしているようですので、侍女長に動向を注視するよう指示を出しておきました」
「ロザリーさんですか。彼女なら上手くやってくれるでしょうね」
「もしシルヴィアに何らかの思惑があって王宮に滞在しているのなら、俺たちが不在の今は行動を起こす絶好のチャンスだからな」
「みんな各々頑張ってるんだね。よし、それじゃあルーイ先生もまたお手伝いしましょうかね」
先生は絡ませた両手を前方に突き出し、筋を伸ばすポーズを取った。やる気満々といった様子だ。俺が散々口を酸っぱくして行なった忠告を、今回はレオン様がして下さった。
「先生、あなたは怪我人なのですから安静にしていなければなりません。俺の話を聞いて下さっているだけで十分ですよ」
「セディから特別なご褒美を貰ったからね。それに見合う働きをしなきゃ。体動かすわけじゃないから、そんな心配しなさんな」
「セドリック……お前、言葉巧みに先生を拐かして無理を強いているのではないだろうな?」
「レオン様!?」
なんで俺が責められるんだ。俺だって心配してきたのに。先生の言い回しのせいで主から誤解されてしまった。理不尽過ぎる。
「無理やりとかじゃない。俺がしたいからするんだよ。ねぇ、いいでしょ」
「……まずはどのようなことをなさるおつもりなのか教えて下さい。内容を聞いてから判断致します」
レオン様も大概先生に弱い。強く押されると返すことができずにそのまま押し切られてしまうのだった。
さて、先生は今度は何を思いつかれたのだろうか……
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