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攻め虐のΩ王子その4
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第一王子リョウヤさんはわたしより四歳年下、カイくんより三歳年上の十九歳。私生子のわたしと違い正妃との間の息子で、カイくんのことをとても大切に思っている。
今日も今日とてお茶会である。カイくんより早く来たリョウヤさんは円卓になっているお茶会テーブルに着席した。後ろに控えるカナタのことをリョウヤさんがちらりと見る。わたしはリョウヤさんに声をかける。
「陛下ようこそ。カイくんもすぐに来ますよ」
リョウヤさんは普段はわたしが陛下と呼ぼうがリョウヤさんと呼ぼうが気にしていない。それが気になるのはカイくんがいる時だけだ。カイくんがいる時はリョウヤさんと言われるのを好む。カイくんにも名前を呼んでほしいので、可能な者には、少なくともその時だけは、名前で呼んでほしいとのことだ。
「カイくんは可愛いよな」
リョウヤさんはαである。こう言っては身も蓋もないが、彼はΩのカイくんのことを性的に見ている。
「いつも穏やかでいい(趣味の)子ですよ」
わたしは当たり障りのない受け答えをした。リョウヤさんは頷いて言う。
「うん、いい子だ。可愛い。宮廷お抱えの占術師に初見で『凶相』だと言われたのが未だに信じられない。あんな可愛い子を……。本当ならその宣告により、さっさと他国に嫁がせるものだがあんな可愛い子を見知らぬ土地に送るなんてとても出来ないよな。くそ、この国に近親婚を禁じる法律がなければ私が、私が……!」
リョウヤさんはカイくんのΩ性にやられているので時々おかしくなる。普段は合理的な性格をしている分カイくんのΩ性の魔性がとんでもなく作用していることがわかる。
「カイくんは十五歳の「成人の儀」では大変可愛い姿を見せてくれた。あの時初めてカイくんと会って、心動かされた。こんな気持ちになるのはカイくんと会っている時だけだ……」
カイくんの成人の儀は去年あった。実はリョウヤさん以外に父王も似たような状態になっていた。というか大体のαがおかしくなっていた気がする。カイくんがカナタを見付けて話しかけ、わたしの従者となっていることを知ったのもその時だった。
わたしはカナタを眺める。その表情は心なしか硬く見えた。
そこへ、ちょうどカイくんがお茶会に到着する。
「皆さん、こんにちは。カナタさんは今日もかっこいいね」
カイくんが出だしから豪速球だ。わたしはカナタの方を手で示しながらリョウヤさんに説明する。
「リョウヤさん、こちらがわたしの従者のカナタです」
カナタが内心はともかく、さっと一礼する。さすがにカナタは対αの場合は普通に対応できるなぁ。
カイくんがリョウヤさんにニコニコ言う。
「カナタさんはぼくのお気に入りなんです」
「へぇ……そうなのか」
リョウヤさんは努めて笑顔を貼り付けている。カナタの顔からも内心は読めない。
α性は対Ωでポンコツになりやすいが、αがもう一人いると互いに引き締まるものなのかもしれない。
この空気苦手だなぁ。出方の読み合いに巻き込まれている。そもそもカイくんの一方的な逢い引きにわたしも加担しているので下手を踏むとわたしもどうなるかわからない。
「カナタのどういうところが好きなんだ?」
リョウヤさんがカイくんに優しく聞く。カイくんは照れたように笑った。何が聞きたいんだ、リョウヤさんは……。カイくんが口を開く。
「えっと……、男らしくてかっこいいところ、ムキムキで強そうなところ、おにいさん気質なのに弟だってところ……とか」
カイくんはそう言うけれどその手のアピールポイントを叩き潰してめちゃくちゃにするのが好きってことでしょ? と、わたしは脳内で呟く。
「たくさん好きなところがあるんだな」
リョウヤさんがニコニコ言う。テーブルに置かれたリョウヤさんの手を見ると指を小刻みにトントンと動かしている。イライラしている時の仕草だ。音がしないので見なければ気付かなかった。と思いながら控えているカナタを見るとカナタもリョウヤさんの手元を見た後、こちらを見た。
立場としてカナタはこの会話に積極的に参加できない。話を振られたら答えられるが自分から話に入ることは礼儀として許されないことだ。
わたしがなんとかしないといけないのか? でも実際引き合わせるだけで二人は完全にプラトニックであり、何も悪いことはしていない。カイくんがこのお茶会を今後できなくするようなことを言うとも思えないしカイくんに任せよう。わたし自身はこのお茶会が開催されなくても何も不都合はないので。
わたしは細くながーく静かに息を吐きながらゆったりと座り直し椅子の背に身を預けた。カナタがわたしを凝視している。わたしが早くも白旗を挙げた、または戦線離脱を表明したことを悟ったようだ。
リョウヤさんが言う。
「二人で会ったりはするのか?」
あー、はいはい、リョウヤさんはカイくんとカナタが恋愛関係にあるか、もっと俗に言えば肉体関係があるかが気になるのか。
王族のΩは政略結婚の道具になりがちなのでそれまでその貞操は守りたいものだろう。そもそもリョウヤさんはカイくんを性的に見ている。
「二人で……?」
カイくんの笑みがスンと消える。リョウヤさんは目に見えておろおろしてしまった。カイくんが悲しそうに言う。
「二人っきりでは、会えないんだ」
ナイスプレー! この一連の挙動でカイくんの身の潔白は証明されました!!
心の中でわたしは叫んだ。
「そ……そうか……」
リョウヤさんの、嬉しさ半分、悲しい顔をさせた罪悪感半分、といった気持ちが完全に顔に出ている。カイくんはリョウヤさんを見つめて悲しそうに言う。
「それに……カナタさんはぼくのことあんまり好きじゃないみたいだし」
「そ、そうなのか?」
「いっぱい迷惑かけちゃったし……」
「そうなのか?」
「ぼくと話すの好きじゃなさそうだし……」
「え……そ、そうなのか……」
おおむね合っている。カイくんの可哀想ぶりにリョウヤさんの気持ちまで沈んでいくようだ。Ω性にαはポンコツになりやすい。それは本能なのだ。
リョウヤさんはカイくんの顔を見て辛そうに顔を歪めてからカナタの方を向いた。
「カナタぁ、愛してやれよぉ!!」
カナタ自身も何故かしょんぼりしている。そういえばΩ性にポンコツになりやすいαはリョウヤさんだけではない。カナタもΩ性の影響を受けやすい。いや、もしかしてカイくんのΩ性がαにとってとても強力に作用するのかもしれない。
というか、リョウヤさんからカイくんとカナタの関係について同意を得られたのは僥倖である。これもカイくんの手腕のおかげだ。
「さて、宴もたけなわ、お開きにしましょうか」
わたしがそう言ったところ、リョウヤさんは何かハッとした後帰りの挨拶をしてすごすごと帰っていった。カイくんも帰る。
「またね、皆さん。カナタさんもね」
カイくんの笑顔はどこか晴れ晴れとして見えた。
数日後、リョウヤさんからちょっとした言伝てが届いた。
「人の従者を怒鳴り散らすなどどうかしていた。謝罪する」
カナタに対しての謝罪文であった。カイくんとカナタがお茶会で顔を合わせることに言及がないところを見るに、本当にその点について目くじらを立てられずに済みそうである。
「カイくん……つよいなぁ……」
とりあえずカナタに謝罪があったことを言っておこうと思う。
今日も今日とてお茶会である。カイくんより早く来たリョウヤさんは円卓になっているお茶会テーブルに着席した。後ろに控えるカナタのことをリョウヤさんがちらりと見る。わたしはリョウヤさんに声をかける。
「陛下ようこそ。カイくんもすぐに来ますよ」
リョウヤさんは普段はわたしが陛下と呼ぼうがリョウヤさんと呼ぼうが気にしていない。それが気になるのはカイくんがいる時だけだ。カイくんがいる時はリョウヤさんと言われるのを好む。カイくんにも名前を呼んでほしいので、可能な者には、少なくともその時だけは、名前で呼んでほしいとのことだ。
「カイくんは可愛いよな」
リョウヤさんはαである。こう言っては身も蓋もないが、彼はΩのカイくんのことを性的に見ている。
「いつも穏やかでいい(趣味の)子ですよ」
わたしは当たり障りのない受け答えをした。リョウヤさんは頷いて言う。
「うん、いい子だ。可愛い。宮廷お抱えの占術師に初見で『凶相』だと言われたのが未だに信じられない。あんな可愛い子を……。本当ならその宣告により、さっさと他国に嫁がせるものだがあんな可愛い子を見知らぬ土地に送るなんてとても出来ないよな。くそ、この国に近親婚を禁じる法律がなければ私が、私が……!」
リョウヤさんはカイくんのΩ性にやられているので時々おかしくなる。普段は合理的な性格をしている分カイくんのΩ性の魔性がとんでもなく作用していることがわかる。
「カイくんは十五歳の「成人の儀」では大変可愛い姿を見せてくれた。あの時初めてカイくんと会って、心動かされた。こんな気持ちになるのはカイくんと会っている時だけだ……」
カイくんの成人の儀は去年あった。実はリョウヤさん以外に父王も似たような状態になっていた。というか大体のαがおかしくなっていた気がする。カイくんがカナタを見付けて話しかけ、わたしの従者となっていることを知ったのもその時だった。
わたしはカナタを眺める。その表情は心なしか硬く見えた。
そこへ、ちょうどカイくんがお茶会に到着する。
「皆さん、こんにちは。カナタさんは今日もかっこいいね」
カイくんが出だしから豪速球だ。わたしはカナタの方を手で示しながらリョウヤさんに説明する。
「リョウヤさん、こちらがわたしの従者のカナタです」
カナタが内心はともかく、さっと一礼する。さすがにカナタは対αの場合は普通に対応できるなぁ。
カイくんがリョウヤさんにニコニコ言う。
「カナタさんはぼくのお気に入りなんです」
「へぇ……そうなのか」
リョウヤさんは努めて笑顔を貼り付けている。カナタの顔からも内心は読めない。
α性は対Ωでポンコツになりやすいが、αがもう一人いると互いに引き締まるものなのかもしれない。
この空気苦手だなぁ。出方の読み合いに巻き込まれている。そもそもカイくんの一方的な逢い引きにわたしも加担しているので下手を踏むとわたしもどうなるかわからない。
「カナタのどういうところが好きなんだ?」
リョウヤさんがカイくんに優しく聞く。カイくんは照れたように笑った。何が聞きたいんだ、リョウヤさんは……。カイくんが口を開く。
「えっと……、男らしくてかっこいいところ、ムキムキで強そうなところ、おにいさん気質なのに弟だってところ……とか」
カイくんはそう言うけれどその手のアピールポイントを叩き潰してめちゃくちゃにするのが好きってことでしょ? と、わたしは脳内で呟く。
「たくさん好きなところがあるんだな」
リョウヤさんがニコニコ言う。テーブルに置かれたリョウヤさんの手を見ると指を小刻みにトントンと動かしている。イライラしている時の仕草だ。音がしないので見なければ気付かなかった。と思いながら控えているカナタを見るとカナタもリョウヤさんの手元を見た後、こちらを見た。
立場としてカナタはこの会話に積極的に参加できない。話を振られたら答えられるが自分から話に入ることは礼儀として許されないことだ。
わたしがなんとかしないといけないのか? でも実際引き合わせるだけで二人は完全にプラトニックであり、何も悪いことはしていない。カイくんがこのお茶会を今後できなくするようなことを言うとも思えないしカイくんに任せよう。わたし自身はこのお茶会が開催されなくても何も不都合はないので。
わたしは細くながーく静かに息を吐きながらゆったりと座り直し椅子の背に身を預けた。カナタがわたしを凝視している。わたしが早くも白旗を挙げた、または戦線離脱を表明したことを悟ったようだ。
リョウヤさんが言う。
「二人で会ったりはするのか?」
あー、はいはい、リョウヤさんはカイくんとカナタが恋愛関係にあるか、もっと俗に言えば肉体関係があるかが気になるのか。
王族のΩは政略結婚の道具になりがちなのでそれまでその貞操は守りたいものだろう。そもそもリョウヤさんはカイくんを性的に見ている。
「二人で……?」
カイくんの笑みがスンと消える。リョウヤさんは目に見えておろおろしてしまった。カイくんが悲しそうに言う。
「二人っきりでは、会えないんだ」
ナイスプレー! この一連の挙動でカイくんの身の潔白は証明されました!!
心の中でわたしは叫んだ。
「そ……そうか……」
リョウヤさんの、嬉しさ半分、悲しい顔をさせた罪悪感半分、といった気持ちが完全に顔に出ている。カイくんはリョウヤさんを見つめて悲しそうに言う。
「それに……カナタさんはぼくのことあんまり好きじゃないみたいだし」
「そ、そうなのか?」
「いっぱい迷惑かけちゃったし……」
「そうなのか?」
「ぼくと話すの好きじゃなさそうだし……」
「え……そ、そうなのか……」
おおむね合っている。カイくんの可哀想ぶりにリョウヤさんの気持ちまで沈んでいくようだ。Ω性にαはポンコツになりやすい。それは本能なのだ。
リョウヤさんはカイくんの顔を見て辛そうに顔を歪めてからカナタの方を向いた。
「カナタぁ、愛してやれよぉ!!」
カナタ自身も何故かしょんぼりしている。そういえばΩ性にポンコツになりやすいαはリョウヤさんだけではない。カナタもΩ性の影響を受けやすい。いや、もしかしてカイくんのΩ性がαにとってとても強力に作用するのかもしれない。
というか、リョウヤさんからカイくんとカナタの関係について同意を得られたのは僥倖である。これもカイくんの手腕のおかげだ。
「さて、宴もたけなわ、お開きにしましょうか」
わたしがそう言ったところ、リョウヤさんは何かハッとした後帰りの挨拶をしてすごすごと帰っていった。カイくんも帰る。
「またね、皆さん。カナタさんもね」
カイくんの笑顔はどこか晴れ晴れとして見えた。
数日後、リョウヤさんからちょっとした言伝てが届いた。
「人の従者を怒鳴り散らすなどどうかしていた。謝罪する」
カナタに対しての謝罪文であった。カイくんとカナタがお茶会で顔を合わせることに言及がないところを見るに、本当にその点について目くじらを立てられずに済みそうである。
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