攻め虐のΩ王子

高山奥地

文字の大きさ
4 / 5

攻め虐のΩ王子その4

しおりを挟む
 第一王子リョウヤさんはわたしより四歳年下、カイくんより三歳年上の十九歳。私生子のわたしと違い正妃との間の息子で、カイくんのことをとても大切に思っている。
 今日も今日とてお茶会である。カイくんより早く来たリョウヤさんは円卓になっているお茶会テーブルに着席した。後ろに控えるカナタのことをリョウヤさんがちらりと見る。わたしはリョウヤさんに声をかける。
「陛下ようこそ。カイくんもすぐに来ますよ」
 リョウヤさんは普段はわたしが陛下と呼ぼうがリョウヤさんと呼ぼうが気にしていない。それが気になるのはカイくんがいる時だけだ。カイくんがいる時はリョウヤさんと言われるのを好む。カイくんにも名前を呼んでほしいので、可能な者には、少なくともその時だけは、名前で呼んでほしいとのことだ。
「カイくんは可愛いよな」
 リョウヤさんはαである。こう言っては身も蓋もないが、彼はΩのカイくんのことを性的に見ている。
「いつも穏やかでいい(趣味の)子ですよ」
 わたしは当たり障りのない受け答えをした。リョウヤさんは頷いて言う。
「うん、いい子だ。可愛い。宮廷お抱えの占術師に初見で『凶相』だと言われたのが未だに信じられない。あんな可愛い子を……。本当ならその宣告により、さっさと他国に嫁がせるものだがあんな可愛い子を見知らぬ土地に送るなんてとても出来ないよな。くそ、この国に近親婚を禁じる法律がなければ私が、私が……!」
 リョウヤさんはカイくんのΩ性にやられているので時々おかしくなる。普段は合理的な性格をしている分カイくんのΩ性の魔性がとんでもなく作用していることがわかる。
「カイくんは十五歳の「成人の儀」では大変可愛い姿を見せてくれた。あの時初めてカイくんと会って、心動かされた。こんな気持ちになるのはカイくんと会っている時だけだ……」
 カイくんの成人の儀は去年あった。実はリョウヤさん以外に父王も似たような状態になっていた。というか大体のαがおかしくなっていた気がする。カイくんがカナタを見付けて話しかけ、わたしの従者となっていることを知ったのもその時だった。
 わたしはカナタを眺める。その表情は心なしか硬く見えた。
 そこへ、ちょうどカイくんがお茶会に到着する。
「皆さん、こんにちは。カナタさんは今日もかっこいいね」
 カイくんが出だしから豪速球だ。わたしはカナタの方を手で示しながらリョウヤさんに説明する。
「リョウヤさん、こちらがわたしの従者のカナタです」
 カナタが内心はともかく、さっと一礼する。さすがにカナタは対αの場合は普通に対応できるなぁ。
 カイくんがリョウヤさんにニコニコ言う。
「カナタさんはぼくのお気に入りなんです」
「へぇ……そうなのか」
 リョウヤさんは努めて笑顔を貼り付けている。カナタの顔からも内心は読めない。
 α性は対Ωでポンコツになりやすいが、αがもう一人いると互いに引き締まるものなのかもしれない。
 この空気苦手だなぁ。出方の読み合いに巻き込まれている。そもそもカイくんの一方的な逢い引きにわたしも加担しているので下手を踏むとわたしもどうなるかわからない。
「カナタのどういうところが好きなんだ?」
 リョウヤさんがカイくんに優しく聞く。カイくんは照れたように笑った。何が聞きたいんだ、リョウヤさんは……。カイくんが口を開く。
「えっと……、男らしくてかっこいいところ、ムキムキで強そうなところ、おにいさん気質なのに弟だってところ……とか」
 カイくんはそう言うけれどその手のアピールポイントを叩き潰してめちゃくちゃにするのが好きってことでしょ? と、わたしは脳内で呟く。
「たくさん好きなところがあるんだな」
 リョウヤさんがニコニコ言う。テーブルに置かれたリョウヤさんの手を見ると指を小刻みにトントンと動かしている。イライラしている時の仕草だ。音がしないので見なければ気付かなかった。と思いながら控えているカナタを見るとカナタもリョウヤさんの手元を見た後、こちらを見た。
 立場としてカナタはこの会話に積極的に参加できない。話を振られたら答えられるが自分から話に入ることは礼儀として許されないことだ。
 わたしがなんとかしないといけないのか? でも実際引き合わせるだけで二人は完全にプラトニックであり、何も悪いことはしていない。カイくんがこのお茶会を今後できなくするようなことを言うとも思えないしカイくんに任せよう。わたし自身はこのお茶会が開催されなくても何も不都合はないので。
 わたしは細くながーく静かに息を吐きながらゆったりと座り直し椅子の背に身を預けた。カナタがわたしを凝視している。わたしが早くも白旗を挙げた、または戦線離脱を表明したことを悟ったようだ。
 リョウヤさんが言う。
「二人で会ったりはするのか?」
 あー、はいはい、リョウヤさんはカイくんとカナタが恋愛関係にあるか、もっと俗に言えば肉体関係があるかが気になるのか。
 王族のΩは政略結婚の道具になりがちなのでそれまでその貞操は守りたいものだろう。そもそもリョウヤさんはカイくんを性的に見ている。
「二人で……?」
 カイくんの笑みがスンと消える。リョウヤさんは目に見えておろおろしてしまった。カイくんが悲しそうに言う。
「二人っきりでは、会えないんだ」
 ナイスプレー! この一連の挙動でカイくんの身の潔白は証明されました!!
 心の中でわたしは叫んだ。
「そ……そうか……」
 リョウヤさんの、嬉しさ半分、悲しい顔をさせた罪悪感半分、といった気持ちが完全に顔に出ている。カイくんはリョウヤさんを見つめて悲しそうに言う。
「それに……カナタさんはぼくのことあんまり好きじゃないみたいだし」
「そ、そうなのか?」
「いっぱい迷惑かけちゃったし……」
「そうなのか?」
「ぼくと話すの好きじゃなさそうだし……」
「え……そ、そうなのか……」
 おおむね合っている。カイくんの可哀想ぶりにリョウヤさんの気持ちまで沈んでいくようだ。Ω性にαはポンコツになりやすい。それは本能なのだ。
 リョウヤさんはカイくんの顔を見て辛そうに顔を歪めてからカナタの方を向いた。
「カナタぁ、愛してやれよぉ!!」
 カナタ自身も何故かしょんぼりしている。そういえばΩ性にポンコツになりやすいαはリョウヤさんだけではない。カナタもΩ性の影響を受けやすい。いや、もしかしてカイくんのΩ性がαにとってとても強力に作用するのかもしれない。
 というか、リョウヤさんからカイくんとカナタの関係について同意を得られたのは僥倖である。これもカイくんの手腕のおかげだ。
「さて、宴もたけなわ、お開きにしましょうか」
 わたしがそう言ったところ、リョウヤさんは何かハッとした後帰りの挨拶をしてすごすごと帰っていった。カイくんも帰る。
「またね、皆さん。カナタさんもね」
 カイくんの笑顔はどこか晴れ晴れとして見えた。
 数日後、リョウヤさんからちょっとした言伝てが届いた。
「人の従者を怒鳴り散らすなどどうかしていた。謝罪する」
 カナタに対しての謝罪文であった。カイくんとカナタがお茶会で顔を合わせることに言及がないところを見るに、本当にその点について目くじらを立てられずに済みそうである。
「カイくん……つよいなぁ……」
 とりあえずカナタに謝罪があったことを言っておこうと思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

あの部屋でまだ待ってる

名雪
BL
アパートの一室。 どんなに遅くなっても、帰りを待つ習慣だけが残っている。 始まりは、ほんの気まぐれ。 終わる理由もないまま、十年が過ぎた。 与え続けることも、受け取るだけでいることも、いつしか当たり前になっていく。 ――あの部屋で、まだ待ってる。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り

結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。 そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。 冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。 愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。 禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。

処理中です...