大和さんはなんでも

高山奥地

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 大和さんとは従兄弟同士。おれが大学受験の時に大和さんが家庭教師をしてくれたのがきっかけで仲良くなった。高校ではバスケばっかりやっていて頭が悪かったおれは、その時大和さんに褒められたくてほとんど初めて勉強を頑張ったのを覚えている。大和さんの教え方がよかったらしく結局おれは三段階ほど志望校のランクを上げて合格した。
 大和さんはその頃からおれのことを気に入ってくれておれも大和さんに懐きに懐いた。
 ふと、受験勉強中に、大和さんはセックスの時、どんな顔をするんだろう、と思った。そう思ってから、大和さんのことを考えてオナニーするようになるまでそんなに時間はかからなかった。その身体はどんな形をしていて、性器は、中は、どんな風になっているんだろう。
 大和さんの形をおれはまだ知らない。シュレディンガーの猫とかコペンハーゲン解釈とか言い方は好きに選べるが、観測しないうちは様々な在り方があるということだ。おれは観測したいと思っている、大和さんの形を。でも、ちゃんと大和さんに好きになってもらわないとそういうことをしたらいけないとも考えている。
「静くん、おうちデートしようか」
 大和さんと付き合うことができたおれは、休みの日に大和さんの部屋に行ったらそう言われた。おうちデートって何するといいんだろう。大和さんを眺めていると彼は言う。
「いつもとあんまり変わらないよ。サブスクで映画とか見るだけ」
 確かにいつも二人でいる時はそんな感じ……かもしれない。
 お互い大学の課題をやるか、ご飯を作るか、どちらかが見始めた動画をいつの間にか一緒に見ているか。
 今回新鮮なのは予め一緒に見ることを設定している点だけだ。
 大和さんのベッドに二人で座る。スマホで映画を探す大和さんを隣から眺めた。今までもこういう風に隣同士で何かをしたことはあったけれど、その特別さが急に増したように思う。
「何か見たいのはあるかな」
 大和さんの優しい声。こちらを意識しつつ、スマホを操作する横顔。薄めのその唇。
 大和さんがチラリとこちらを見て、それからスマホに視線を戻す。彼が指で画面をスワイプしながら口を開いた。
「……キスしたいのか?」
「へぁっっ!???」
 変な声が出た。大和さんがあんまりなこと言うから。
「唇見てたから、そうかと思った」
 大和さんがこちらを見る。画面を撫でていた手でおれのこめかみから側頭部にかけてを撫でられた。もう片方の手はベッドにスマホを置くのに動いて、それからおれの頬を触る。
「キスするか」
 大和さんが優しく言う。キスできるならしたい! でも、大和さんはおれのこと大きくて人懐こい犬かなんかだとしか思ってない。浮かれて暴走しておれがオオカミになっちゃって大和さんから「やっぱり無理だ」なんて言われたらきっと立ち直れない。
「自分からするのが恥ずかしいなら俺からするよ」
 大和さんが両頬をその両手で挟み込む。顔が近づいてくる。
 どうしよう。ちゅーしてしまう。
 思わず大和さんの口を自分の手で遮ってしまった。大和さんはゆっくりと顔を引く。
「嫌だったかな?」
 頬を挟んでいた両手も離れる。
 おれは大変な間違いをしてしまったのでは? という気持ちにもなる。おれだって大和さんとちゅーしたかったけど???
 でもこんなことでこちらに気のない大和さんの神経をすり減らすのは避けたかった。大和さんは年上としてリードする気があるみたいだけれどおれだって相応に場数は踏んでいるわけで。女の子だったらがっつくとすぐ逃げてしまう。大和さんは男の人だけれど、大和さんを絶対に逃がさないという気概がおれにはあるんだ。そのためには簡単にがっつくのは駄目なんだ。
「静くんは前より頭でっかちになったな」
 おれが断腸の思いでキスを拒んだことを読み取ってか、大和さんが笑って言う。おれは聞く。
「前の方がよかった?」
「前の静くんから変わったらがっかりするだろうなと思ってたけど、案外可愛いから今の静くんも結構気に入ってしまった」
 困ったような笑顔。大和さんに頭を撫でられる。
 大学受験の勉強で、大和さんが家庭教師をしてくれて以降、知ることや考えることが増えた。言葉をたくさん頭に詰めたら、元々あった勘が鈍ってしまった自覚がある。
「静くんこんな可愛くてどうするんだ?」
 大和さんがおれを撫でながら言う。そこそこ雑にわしゃわしゃと頭から頬にかけてを撫でられて嬉しくなってしまう。大和さんはたぶんおれのこと大きなわんこだと思っているし、おれも自分のこと犬みたいだと思うことがある。
「撫でられるの嬉しい?」
 大和さんに優しく聞かれて思わずにやけてしまう。大和さんに撫でてもらうのが嬉しい。撫でること自体は大学受験の時、勉強を頑張った時によくやってもらっていたことだ。
「映画見る気分じゃなくなったな」
 背中まで大きく撫でながら大和さんが言った。
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