ぼくらは運命の番ではない

高山奥地

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志摩視点

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志摩視点
 ぼくにとって三人は運命の番ではない。ぼくの目的は復讐であり、そのためならなんでもするつもりだった。ぼくの命はそのためのものでしかなかったから。
 ぼくの目的は髙橋三兄弟が殺し合うくらい各々を憎ませることだ。それこそが彼らへの復讐になる。
 オメガは三ヶ月に一度、ヒート(発情期)を迎える。ヒートの時のオメガのフェロモンはアルファの発情を促す作用がある。
 転校以降、髙橋三兄弟と個別で頻繁に会っていた。各々を一人暮らしの部屋に迎え入れ、そのうち彼らと「何か」が起こることを願っていた。まだ誰もぼくとそういうことをしようとは思っていないようだけれど。
 それは復讐のためのはずだった。はずだったのに……。
 今日は木曜日。放課後、史宇哉がぼくの部屋に遊びに来た。史宇哉は三兄弟の中で一番不器用に見える。真広さんのように自信を持ってこちらを引き出すことも出来ないけれど颯くんのように素直に直球で気持ちを伝えるのも苦手なようだ。
 こちらを見て何か言いたそうにしては視線を逸らしている。
 部屋にあるベッドをソファ代わりにして二人で並んで座っていた。
 ぼくは身体がじんわりと熱い。ヒートが始まると三十秒ほどでオメガのフェロモンの分泌量がアルファが感知できるレベルに到達するらしい。身体が熱くなってから十分ほど経過していた。
 ぼくの下半身はドロドロに濡れている。史宇哉の息も荒い。
「志摩……えっと、抑制剤あるか?」
「ごめ……ん、ない……」
 史宇哉はぼくに誠実で居たかったんだと思う。だから、その誠実さを裏切らせて、性欲を引き出してしまいたくなった。
「身体、熱い……お願い、抱いてほしい」
 三割演技、残りは本能だった。正気でいられないところまで自分も史宇哉も追い詰める必要があると思ったから。史宇哉は狼狽えて言う。
「でも……っ」
 それ以上聞く気になれず唇を付けた。史宇哉は抵抗せずぼくの舌を口に受け入れて、それからその舌を吸い上げた。史宇哉の本能がぼくを求めている。史宇哉の理性を陥落させたことにほの暗い悦びを感じた。ぼくは史宇哉の唇に翻弄されながら彼に強く抱きつく。今までキスでこんなに感じたことはない。甘い快感が溢れてくる。
 唇が離れ、ベッドに押し倒されて制服のスラックスと下着を脱がされた。史宇哉は焦れったそうに自分のスラックスも下着も急いで脱ぐと見上げるぼくの脚を持ち上げて、お尻の穴に性器を押し当てた。すんなり入ってくるそれに身体が震える。中に入れられるだけでイってしまう。欲しかったのだ、ずっと、これが。
 愛おしさが溢れてくる。この人こそ運命だと本能が訴えてくる。どうせ兄弟みんなに対してそうなるのに、今だけはこの人が唯一だと錯覚させられる。ぼくはイきながらも自分の直腸が史宇哉の性器を舐め回すように蠢くのに混乱した。もっともっとと史宇哉の性器を欲しがるみたいに直腸が蠕動する。腰の方も勝手に動くのが止められない。
「志摩……やばい……」
「ごめ、止まんな……ああっ」
 史宇哉も腰を動かす。イっているのにさらに深くイってしまうような快楽。中が痙攣するように動く。史宇哉が言った。
「ゴム、着けてな……い、っ、あ」
「あ、ああっ、大丈夫、へ、き、だか、あっ!」
「駄目、だ、こんな……ぐ……ぁ、っ!」
 史宇哉は腰を動かすのを止められない。それでも駄目だと思っている。ヒートのせいで意図せぬ妊娠をするオメガもいる。それを懸念しているのだろう。
「あっ! ん、卵巣、切除されてるから、妊娠、しないっからぁ!」
「なっ、え? っ! あっ! ……っ!」
 史宇哉がぼくの中で我慢しきれず射精する。アルファの精液は信じられないくらい多い。ヒート時であればほとんど確実に孕むだろう、卵子があるなら。
 射精するとアルファはオメガのヒートを一時的に抑制するフェロモンを出す。効果は十分から十五分ほど続く。
 正気とは言い難いがそこそこ落ち着いたぼくに史宇哉が聞いた。
「卵巣が切除されてるってどういうことなんだ」
 その声は震えている。史宇哉の顔を見るとその表情は怯えているようにすら見えた。
 ぼくはどこからどこまで話すかぼんやり考えながら話す。
「オメガが希少だったからいくつかの企業がオメガの抱え込みを行って、結婚相談所と称してオメガの人身売買をしていた時代があったのは知ってる?」
「父さんから、聞いたことがある」
「その企業の紹介で会って番の契りをしたけれど、色々な事情で契りを破られたオメガの引き取りも行っている企業があった。番契約の解消されたオメガが企業の中でオメガ研究の実験体にされたりしてた。そのオメガ研究所でぼくはオメガ同士から生まれたらしいんだ。本来オメガ同士で子どもを成すことってないんだけれど、オメガが雑居してた中で一人、妊娠したオメガがいたからとんでもない確率を潜り抜けて妊娠したんだろうと結論づけられた。オメガ研究所はぼくの戸籍登録をせず、ぼくの卵子を実験に使うために卵巣を切除した」
「え、えっと、え……?」
「ぼくは今はある人の養子になっている。戸籍の登録が出来るように色々手を尽くしてくれたり、ぼくがまともに勉強出来るような環境を作ってくれたいい人なんだ」
 史宇哉は呆然とぼくを見つめている。信じられない者を見るかのように。
「まあ、だから妊娠は気にしなくていいよ」
 史宇哉の手を取ると、驚いたように彼は手を引っ込めた。史宇哉が言う。
「頭が追い付かない。すまない……えっと、帰る、よ……」
「帰っちゃうの?」
「ごめん」
 史宇哉が帰ってしまう。ヒートは続くのに、こんなに愛しい人が帰ってしまう。
 ぼくは史宇哉を追いかけることが出来なかった。拒まれたと感じたら途端に手を伸ばすのが怖くなった。アルファへの復讐のつもりだった。それがこんなことになるとは思わなかった。
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