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馴れ初め編/第三章 不明瞭な心の距離
39.ハジメテをあなたへ その1
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繁華街に到着した千優達は、有料駐車場に車を停めた後、周囲の散策を始めた。
「とりあえず……近場のお店を色々見て回りましょうか。気になるお店があったら、どんどん入りましょ!」
そう口を開き、國枝はキョロキョロと近場の店へ視線を向け、はしゃいだ様子を見せる。
すぐ隣を歩く彼の反応は、二十代女性の休日を彷彿させ、普段一緒に出掛けることの多い面々と違う様子に、つい千優の口元が緩む。
年上な國枝に対し失礼と感じつつ、ほんの少し可愛いと思ったことは、自分だけの秘密だ。
「これなんてどうかしら? 柳ちゃんにピッタリ。よく似合ってるわよ」
「す、少し……派手、じゃないですか?」
「えー、そう? んー……さっきから見てる限り、柳ちゃんが手に取る服って寒色系とか、モノクロ系が多いものね。それを考えたら派手だけど……秋冬はただでさえ寒くなるから、ちょっと暖かみのある色を身につけるのもアリだと思うわ」
その後、数軒目となる洋服店へ立ち寄り、各々気になる服を見ていると、國枝はオレンジ色の女性用コートを手に近づいて来た。
これからの季節にどうだと、手に持ったそれを千優の胸元に宛がい、彼は一人満足げに頷く。
その様子に戸惑いながらも、千優はおずおずとコートを受け取り、全身が写る鏡の前へ移動する。そのまま、改めてコートを自分の胸元へ掲げた。
二人で一緒に様々な店のショーウィンドウや店先を眺め歩いていると、千優よりも國枝の方が圧倒的に立ち止まる機会が多かった。
そして、入りたいと主張する店はどれも外観、取り扱い商品共に素敵なものばかりで、改めて彼のセンスの良さを見せつけられる。
とりわけ、洋服やアクセサリーなどを販売する店に立ち寄ることが多く、一、二着くらいなら、何か新しいものを買ってもいいかと、千優は彼の後に続いた。
その後、他の客に混じり最初の数分は別行動を取る二人だったが、ふと気づいた時には、毎回國枝の姿がそばにある。
しかも、必ずと言って良いほど、彼は千優に似合うはずだと言って女性ものの服を手にしているのだ。
『私の服じゃなくて、國枝さんの着るものを選んでくださいよ!』
『ちゃんとアタシの服も見てるわよ? でも、ビビっとくるものが無くてね。そのかわりと言ってはなんだけど……柳ちゃんに似合いそうな服に対してのセンサーは絶好調なのよ!』
満面の笑顔かつ、自信満々の謎宣言をされてしまえば、反応に困るばかりで何も言い返すことが出来なかった。
仕方なく選んでいるのであれば、放っておいてくれと言いやすいが、当の本人が嬉々として選んでいる様子が目につき、止めてくれと言い出せずにいる。
千優に絶対似合うからと彼がすすめてくる服は、デザイン的な派手さは無く、どちらかと言えば好みとも言えるものばかりだった。
如何せん、その色合いが普段選ばない系統の明るいものばかりなため、大きな戸惑いを感じてしまう。
千優はどちらかと言えば、シンプル、突き詰めて言えば地味な服装を好む傾向がある。
彼女の中で洋服を選ぶ基準は、一に安さ、二にシンプル。そのため、基本服を買う時は、いつも値段の安い全国チェーン店のものを愛用している。
しかし、新しい服を購入すると言っても、多く見積もって年に数回。小さい頃から無意識のうちに刷り込まれた節約根性のせいで、手持ちの洋服は最小限だった。
『そう言えば……スカートは苦手なの?』
『苦手、かどうかは、正直よくわかりません。でも、いざ自分で服を選ぶってなると、ついつい動きやすさを優先してズボン系に手がのびちゃいます、ね』
『絶対にスカートを穿きたくないってわけじゃあないのね。そうなると……ほら、これなんかどう? パッと見スカートにも見えるワイドパンツ。これなら、ちょっと冒険してみるにはおすすめよ』
國枝は毎回おすすめだと言って様々なモノを千優へ見せた。
それらはすべて、普段の自分なら絶対手をのばさないものばかり。
しかし、それらを端っから拒絶したいとは思えず、少なからず心惹かれる部分が随所に散りばめられている。
彼は自分の選択に絶対的な自信があるらしく、いつも満面の笑みを浮かべ、「アタシなら柳ちゃんにこれを選ぶわ」と口にした。
とは言っても、それらを無理に押しつけるような言動は一度も無く、こちらの様子をうかがうように、彼はそっと商品を差し出してくるのだ。
「似合い、ますか?」
「うん。とてもよく似合ってる」
もう一度、鏡に映り込んだ自分の姿を見つめる。
そこには、暖かみのある落ち着いたオレンジ色のコートを胸元に宛がう女性が佇んでいた。
ほんのりと頬を染める彼女の姿を、すぐに自分と認識することが出来ず、千優はしばし呆然と鏡の中の自分と見つめ合う。
そんな彼女の意識を覚醒させてくれたのは、鏡の端に映り込んだ國枝の笑み。
ほんのわずかにそらした視線の先で、グッと親指を立て、彼は鏡越しに自分を見つめる。そんな気がした。
一度軽く瞳を伏せた千優は、手にしていたコートを片腕にかけ、その表面を優しく撫でながら後ろをふり返る。
「これ、買ってきますね」
普段購入する価格より幾分高めではあるが、元々何か買おうと思っていた千優は、そばに居る國枝を見上げ口を開く。
(ワイドパンツは、結局断っちゃったし……せっかくだし、ね)
秋冬用にコートを買うなど、一体いつぶりだろう。そんな事を考えれば、クスリと笑いが零れる。
せっかく彼が似合うと選んでくれたのだから、一つくらいは奮発しないと、なんて考えれば心がこそばゆくなる。
「ちょっと待って。柳ちゃん」
「……? はい?」
早速会計をするため、軽く店内を見回した千優は、レジカウンターの方へ向き直り、そのまま歩みだそうとした。
しかし自分を引き留める声に、彼女の身体は動きを止め、國枝の方をふり返る。
「せっかくだからそのコート、アタシに支払いさせてちょうだい」
千優の眼差しがとらえたのは、手持ちのバッグから自身の財布を取り出し小首を傾げる連れの笑顔。
思ってもみなかった彼の言動に、彼女は驚くばかりで、悲鳴じみた声をあげないよう堪えるだけで精一杯だった。
「とりあえず……近場のお店を色々見て回りましょうか。気になるお店があったら、どんどん入りましょ!」
そう口を開き、國枝はキョロキョロと近場の店へ視線を向け、はしゃいだ様子を見せる。
すぐ隣を歩く彼の反応は、二十代女性の休日を彷彿させ、普段一緒に出掛けることの多い面々と違う様子に、つい千優の口元が緩む。
年上な國枝に対し失礼と感じつつ、ほんの少し可愛いと思ったことは、自分だけの秘密だ。
「これなんてどうかしら? 柳ちゃんにピッタリ。よく似合ってるわよ」
「す、少し……派手、じゃないですか?」
「えー、そう? んー……さっきから見てる限り、柳ちゃんが手に取る服って寒色系とか、モノクロ系が多いものね。それを考えたら派手だけど……秋冬はただでさえ寒くなるから、ちょっと暖かみのある色を身につけるのもアリだと思うわ」
その後、数軒目となる洋服店へ立ち寄り、各々気になる服を見ていると、國枝はオレンジ色の女性用コートを手に近づいて来た。
これからの季節にどうだと、手に持ったそれを千優の胸元に宛がい、彼は一人満足げに頷く。
その様子に戸惑いながらも、千優はおずおずとコートを受け取り、全身が写る鏡の前へ移動する。そのまま、改めてコートを自分の胸元へ掲げた。
二人で一緒に様々な店のショーウィンドウや店先を眺め歩いていると、千優よりも國枝の方が圧倒的に立ち止まる機会が多かった。
そして、入りたいと主張する店はどれも外観、取り扱い商品共に素敵なものばかりで、改めて彼のセンスの良さを見せつけられる。
とりわけ、洋服やアクセサリーなどを販売する店に立ち寄ることが多く、一、二着くらいなら、何か新しいものを買ってもいいかと、千優は彼の後に続いた。
その後、他の客に混じり最初の数分は別行動を取る二人だったが、ふと気づいた時には、毎回國枝の姿がそばにある。
しかも、必ずと言って良いほど、彼は千優に似合うはずだと言って女性ものの服を手にしているのだ。
『私の服じゃなくて、國枝さんの着るものを選んでくださいよ!』
『ちゃんとアタシの服も見てるわよ? でも、ビビっとくるものが無くてね。そのかわりと言ってはなんだけど……柳ちゃんに似合いそうな服に対してのセンサーは絶好調なのよ!』
満面の笑顔かつ、自信満々の謎宣言をされてしまえば、反応に困るばかりで何も言い返すことが出来なかった。
仕方なく選んでいるのであれば、放っておいてくれと言いやすいが、当の本人が嬉々として選んでいる様子が目につき、止めてくれと言い出せずにいる。
千優に絶対似合うからと彼がすすめてくる服は、デザイン的な派手さは無く、どちらかと言えば好みとも言えるものばかりだった。
如何せん、その色合いが普段選ばない系統の明るいものばかりなため、大きな戸惑いを感じてしまう。
千優はどちらかと言えば、シンプル、突き詰めて言えば地味な服装を好む傾向がある。
彼女の中で洋服を選ぶ基準は、一に安さ、二にシンプル。そのため、基本服を買う時は、いつも値段の安い全国チェーン店のものを愛用している。
しかし、新しい服を購入すると言っても、多く見積もって年に数回。小さい頃から無意識のうちに刷り込まれた節約根性のせいで、手持ちの洋服は最小限だった。
『そう言えば……スカートは苦手なの?』
『苦手、かどうかは、正直よくわかりません。でも、いざ自分で服を選ぶってなると、ついつい動きやすさを優先してズボン系に手がのびちゃいます、ね』
『絶対にスカートを穿きたくないってわけじゃあないのね。そうなると……ほら、これなんかどう? パッと見スカートにも見えるワイドパンツ。これなら、ちょっと冒険してみるにはおすすめよ』
國枝は毎回おすすめだと言って様々なモノを千優へ見せた。
それらはすべて、普段の自分なら絶対手をのばさないものばかり。
しかし、それらを端っから拒絶したいとは思えず、少なからず心惹かれる部分が随所に散りばめられている。
彼は自分の選択に絶対的な自信があるらしく、いつも満面の笑みを浮かべ、「アタシなら柳ちゃんにこれを選ぶわ」と口にした。
とは言っても、それらを無理に押しつけるような言動は一度も無く、こちらの様子をうかがうように、彼はそっと商品を差し出してくるのだ。
「似合い、ますか?」
「うん。とてもよく似合ってる」
もう一度、鏡に映り込んだ自分の姿を見つめる。
そこには、暖かみのある落ち着いたオレンジ色のコートを胸元に宛がう女性が佇んでいた。
ほんのりと頬を染める彼女の姿を、すぐに自分と認識することが出来ず、千優はしばし呆然と鏡の中の自分と見つめ合う。
そんな彼女の意識を覚醒させてくれたのは、鏡の端に映り込んだ國枝の笑み。
ほんのわずかにそらした視線の先で、グッと親指を立て、彼は鏡越しに自分を見つめる。そんな気がした。
一度軽く瞳を伏せた千優は、手にしていたコートを片腕にかけ、その表面を優しく撫でながら後ろをふり返る。
「これ、買ってきますね」
普段購入する価格より幾分高めではあるが、元々何か買おうと思っていた千優は、そばに居る國枝を見上げ口を開く。
(ワイドパンツは、結局断っちゃったし……せっかくだし、ね)
秋冬用にコートを買うなど、一体いつぶりだろう。そんな事を考えれば、クスリと笑いが零れる。
せっかく彼が似合うと選んでくれたのだから、一つくらいは奮発しないと、なんて考えれば心がこそばゆくなる。
「ちょっと待って。柳ちゃん」
「……? はい?」
早速会計をするため、軽く店内を見回した千優は、レジカウンターの方へ向き直り、そのまま歩みだそうとした。
しかし自分を引き留める声に、彼女の身体は動きを止め、國枝の方をふり返る。
「せっかくだからそのコート、アタシに支払いさせてちょうだい」
千優の眼差しがとらえたのは、手持ちのバッグから自身の財布を取り出し小首を傾げる連れの笑顔。
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