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馴れ初め編/第二章 お酒と油断はデンジャラス

24.甘美な熱に誘われて(R-18)

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 白い霧がスッと晴れていく感覚。それは、普段の千優にとってこの上なく喜ばしい状況だ。
 その理由は、問題解決の糸口を見つけたり、思い出せなかった事柄を思い出したりと、十中八九自分にとってプラスとなる未来が待っているため。
 しかしこの時、彼女は初めて霧が晴れるのを拒んだ。


『今からさ……お前のこと抱いていい?』

 正気に戻った途端聞こえてきた言葉は、あまりにも衝撃的な内容だった。
 大きく見開いた瞳に、己とは違うそれがゆっくりと近づいてくる。

「一体、何を……ひゃっ」

「ん、ふ……もっと、感じて」

 困惑した千優が声を震わせる。しかし國枝の熱い舌が、容赦なく彼女の耳を責め立てていく。
 顔を背け逃れようにも、愛撫は止まらず、窄められた舌先がくちゅりと穴の中へ侵入し、新たな快感をもたらした。
 背中を駆け上がるような未知の快感が怖くて、首を何度も左右に動かし攻撃をかわそうと目論む。
 しかし、それは敵の前に自らを差し出すようなものだと、千優は気づいていない。
 右耳を隠せば今度は左耳を。左耳を隠せば右耳をと、絶え間なく熱くて甘い攻撃は続くばかり。

「ひ、ぁ……あっ……國枝さ……んんっ」

 止めて欲しいと訴えたいのに、思うように言葉が出ない。
 一際大きく聞こえる水音が、状況を把握できず混乱する脳内を余計に乱していく。
 時折、耳たぶを食むように甘く歯が突き立てられれば、新たな刺激に口から零れるは甘い吐息。
 砂糖菓子を溶かし込んだような甘ったるい声が、己の意思に反し次々と口から漏れていく。

(こんな……こんな声、知らないっ!)

 女として歓喜するそれを、千優は素直に受け入れられず、羞恥に身を焦がし続ける。
 身体の奥から湧き上がる熱が、全身を、とりわけ頬と胸元を熱くさせた。





 その後も、國枝の愛撫は止まらず、その激しさは加速するばかりだ。
 それと並行し、スカートやストッキング、下着類を次々と脱がされていく。
 気づけば千優は、一糸まとわぬ姿でベッドの上へ横たわっていた。
 休む間もなく与えられる未知の感覚に、抵抗出来ず、千優が出来ることと言えばただ喘ぐだけ。

 胸元へのびた手がやんわりと盛り上があった乳房を包み、揉みしだく。
 予測不能な力加減が、恐怖と共に身体の奥を熱くした。

「あ、あ……いっ、はぁ」

 そんな中、不意に胸元に痛みを感じた。
 何事かと目を見開く千優が見たのは、赤ん坊のように胸に吸いつく男の姿。
 片方の胸は、相変わらず揉みしだかれたままだ。
 再度國枝がしゃぶりついた方を確認すると、今度はぷっくりと膨らんだ突起を舌で弄んでいる。
 先程まで散々耳を攻撃していた舌先が、今度は赤く熟れた実を啄む。
 自分でも、必要な時以外触れたことの無い場所を、執拗に責め立てられ、千優の思考は、爆発一歩手前まで追いつめられた。

「やめ……くに、だ、しゃ」

「気持ちよく、ない?」

 耳に届いた問いに、思わず胸元の向こう側へ視線を落とす。膨らみ越しに二つの瞳がとらえるのは、愛撫を中断しちらを見つめる男の姿だ。

「……っ」

 熱を孕んだ目線にドクンと心臓が脈打つ。
 そして、視界の端に映りこむのは、國枝の手によって卑猥なものへ姿を変えた乳房。
 体内の血が熱くなるのを感じながら、千優は訳もわからぬまま、ただ必死に勢いよく首を横へふる。

「だったら、どうして……ここは、こんなに美味しそうになってるんだろうな?」

「っ、はぁ……やめ……ひゃ、あぁ!」

 必死の否定も虚しく、口元を歪め國枝は意地悪く笑う。そのまま、まるで見せつけるように、赤く染まった実に舌を這わせ、しゃぶり、吸いついてくる。
 これまでに感じたことのない強い快感が全身を駆けぬけ、千優は抗う術もなく一人絶頂を味わった。

「……はぁ……はぁ。……?」

 頭の中が真っ白になり、数秒意識が途切れる。
 ぼんやりと現実へ引き戻された意識の中、気づけば乱れた呼吸を整えようと両肩が自然と上下に動いていた。
 そんな状態で、不意にコツンと二人の額が重なる。國枝の顔が目と鼻の先まで迫りくる。

「本当に嫌なら、全力で逃げなさい」

 そう口を開く男の瞳に宿る小さな揺らぎの意味を知らず、千優はただ浅い呼吸をくり返すだけ。


 全身を這い、いたるところへ巻きつく甘美な快楽という名の蔦が向かうのは、彼女の奥底で閉ざされた扉。
 それをこじ開ければ、奥に人影が見える。
 手招きするような魅惑的な仕草を始め、それはゆっくりと動き出す。
 扉の外へ姿をあらわしたのは、もう一人の千優だった。
 しかし、そこにいるのは、普段の凛とした真っ直ぐな瞳を持つ彼女ではない。
 頬を林檎のように赤く染め、潤んだ瞳を不安げに漂わせる『女』が、手首に絡まる蔦を頼りに、外の世界へ歩みだそうとしていた。





 混乱と快楽が入り混じる脳内。その片隅でわずかに残った理性が、必死に逃げ道を探す。
 しかし、ちっぽけな思考など、血液のごとく全身を流れる快感の前には何の役にも立たない。

「はぁ……はぁ、あっ」

 蜜壺と化した秘部は、無骨な指を飲み込み、止めどなく愛液を溢れさせる。
 内股に感じるぬめり、抜き差しされるたび聞こえる卑猥な水音が、ただでさえ熱い身体を更に燃え上がらせ、見る見るうちに思考力を奪った。
 ドクドクと脈打つ心音を感じながら、乱れた呼吸を整える。
 そんな千優の瞳が映し出すのは、素肌を晒し、自分を見つめる男の姿。
 普段はおかしな口調でお道化どけている彼でも、女とは似ても似つかぬ体つきを目にすれば、改めて國枝が男なのだと見せつけられる。

『本当に嫌なら、全力で逃げなさい』

 先程聞いた言葉が脳裏を過る。
 あれから、もうどれ程時間が経ったのだろう。
 何度も逃げ出すチャンスはあったはずなのに、未だ自分は、ベッドの上で男を受け入れようとしている。
 その現実を直視しようにも「何故? どうして?」と疑問が頭の中に溢れるだけで、何も変わらない。
 出口の無い精神迷宮へ迷い込むのは、千優の悪い癖だ。自覚していても、なかなか直せない癖というのは、地味に辛いものである。

「……くに……だしゃ……」

「……ん?」

 疲労のせいか、体を動かすだけでなく、口を開くことさえも億劫になる。
 舌足らずな声を発すると、濡れそぼった場所を見つめていた瞳がこちらを向き、ゆっくりと近づいてくる。
 鼻先をすり合わせ、慈愛に満ちた笑みを浮かべる顔がそこにあった。
 まるで恋人同士がセックスをしているような甘い雰囲気が、千優を余計惑わせる。

(どうして、そんな顔……してるんだろ?)

 ささやかな抵抗とばかりに、千優は舌を軽く突き出し、すぐそばにある頬をチョンと突いた。
 すると、自分を見つめる瞳が驚愕の色に染まり見開かれていく様子を目の当たりにする。

「……っ、んん!」

 そんな彼の様子に、悪戯が成功したと喜んだのも束の間。わずかに隙間の開いた唇は、息つく暇もなく乱暴に塞がれてしまい、今度はこちらが驚かされる。
 抵抗しようにも、ナカで蠢く指が生み出す刺激のせいで、身体に上手く力が入らない。
 戸惑っている間に、散々体を弄りつくした國枝の熱い舌が、今度は口内で暴れ始めた。

「……は、くに……んん」

「はぁ、ん……ふ、は」

 今までの甘い刺激とは異なる激しく熱い快感が、何度も千優に襲い掛かる。
 訳の分からぬまま、彼女は必死に抗い続けた。
 しかし気がついた時にはもう、口内で縦横無尽に動き回る彼の熱を、徐々に受け入れる自分がいた。
 そんな口端から滴る唾液が、頬を伝い幾度となく流れ落ちていく。

「……っ、あぁ、もう! 無自覚にもほどがあるだろう。この馬鹿っ!」

「……っ!」

 しばらくして、ようやく互いの唇が離れた事に、ホッと息を漏らす。
 しかし次の瞬間、聞こえてきた荒々しい声と内容に、危うく呼吸することを忘れそうになった。





 國枝が苛立つ理由など知らぬまま、千優は己のナカに指とは比べ物にならない程太く熱い昂りを受け入れた。
 しかし、経験の無い強烈な痛みのせいで、瞳には薄っすらと涙が浮かぶ。

「っ、い、だ……んっ!」

「はぁ……う、ぁ……力、抜いてっ」

 耳元で聞こえる熱のこもった声に従おうにも、やり方がわからず戸惑いが増していく。
 未知の痛みは、次々と恐怖へ変り、彼女の全身にまとわりついた。
 困惑のあまり、千優は縋るように近くのぬくもりへ抱きついた。
 するとこめかみに、残った雫を舐め取るような口づけが降り注ぐ。
 妙にくすぐったい触れ合いに目を細めれば、耳元で小さな笑い声が聞こえた。

 ドクドクと重なり合う二つの鼓動、そして全身を包むぬくもり。
 それらを肌で感じ取れば、緊張で強張ったままだった身体から不思議と力が抜けていく。

「……ん」

「っ、ふ……ん」

 目元を攻撃していた唇が、唾液で濡れた場所へ向かう様子が目についた。
 どちらのともいえぬ雫を、まるで塗り込むように。それは幾度となく重なり合う。
 時に啄むような、甘く少しだけくすぐったい刺激に、千優の肩がピクリと揺れる。
 言いつけを守った子供を褒めるような行為は何度もくり返され、嫌悪も、抵抗する気力さえも感じることなく、彼女は甘い熱を受け入れた。


 思考力の低下した頭で理解出来るのは、己が男に抱かれているということだけ。
 そんな状況に至るまでの経緯も、理由も、考える気力は既に尽きている。

「はぁ、あ……痛かったら、しがみついていい、から。爪立てるなり、噛みつくなり、して……もう、俺の方が限界っ」

「あぁ、はっ……い、あ……んぁ!」

 言い終わるよりも先に、ナカを熱いモノで突き上げられ、千優は痛みと衝撃のあまり、目を見開きながら両腕を彼の背へ回し、國枝の身体にしがみつく。
 今まで与えらてきたどの愛撫よりも強く、激しく、熱い快感が体の奥から全身へ広がっていくのがわかった。

(熱い、痛い……あつ、あぁっ!)

 それらを素直に受け入れ、國枝から与えられるすべてに溺れられれば、どんなに良かったのだろう。
 しかし、千優の心はポツンと取り残されたままだ。
 今はただ、己の身体を熱で揺さぶる男に抱きつくことしか出来ない。

「千優、ち、ひろ……く、ぁ……はぁ……っ」

 避妊具越しに吐き出される欲。
 その熱を感じ、何度も自分の名を呼ぶ声を聞きながら、疲労と睡魔に襲われ、千優はそのまま意識を手放した。
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