未亡人クローディアが夫を亡くした理由

臣桜

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旦那様は、毒を飲まされていました

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 湖に浸かった足は、鋭利な刃物に切られたように痛み、冷たいどころではない。

 すぐに足の感覚がなくなり、勝手に歯がガチガチと鳴ってしまう。

「ソル!」

 それでもクローディアは必死に両手で水を掻き、ソルを追った。
 立派な毛皮のマントがずぶ濡れになろうが構わず、彼女を助けなければという思いが体を動かした。

「お嬢! 戻っていろ! ソルは俺たちが引き上げる!」

 追いついたラギが、馬上からクローディアの胴を掴み引き上げる。

「っくそ、水を吸って……」

 いつもなら軽々とクローディアを担げるラギだが、たっぷりと水を吸った毛皮のマントの重みに悪態をつく。

 その間も他の騎士たちがソルに追いつき、彼女を馬上に引き上げようとした。

「離してください! 私など、死んでしまえばいいのです!」

 いつも冷静な彼女らしくなく、ソルは錯乱したと言ってもいいほどの勢いで、両手を振り回し騎士たちの助けを拒んだ。

「ソル!」

 彼女に何があったのかは、きちんと話を聞かなければ分からない。

 だが見ているだけで痛々しいソルを見て、クローディアも黙っていられなかった。

「ラギ、離して!」

 一度は馬上に引き上げられ掛けたが、クローディアは自ら湖に飛び込み、毛皮のマントを外してソルを迎えに行く。

 騎士に囲まれ暴れていたソルを、クローディアは後ろから抱き締めた。

「お離しください!」

 錯乱状態になったソルが手を振り回し、クローディアの額をしたたかに打った。

「ソル!」

 だが構わず、クローディアは力の限り彼女を抱き締めた。

 バフェット領に来て二年、ソルは母のように、または姑のように、厳しくも温かく接してくれた。
 彼女は第一にイグナットに忠誠を誓っていたが、その妻であるクローディアに敬意と愛情を持ってくれていた。

 二年の歳月で、クローディアもソルに深い愛情を抱いていた。

 第二の肉親と言っていい彼女が、自ら死を選ぶ場面を見て、胸が引き裂かれそうに痛む。

「お願い、ソル! 私を一人にしないで! イグナット様がいなくなったのに、あなたまで私を置き去りにするの!?」

 いつしか、クローディアは泣きながらソルに嘆願していた。

「イグナット様を喪って悲しいのは、あなただけじゃないのよ!」

 涙で崩れた声が、切れそうに冷たい冬の夜空に響く。

「あ……、あぁあああぁ……っ!」

 やがてソルは抵抗するのをやめ、その場に崩れ落ちて号泣し始めた。





 ずぶ濡れになったクローディアが城に帰り、侍女に叱られながら熱い風呂に入れられて乾いたドレスに袖を通したのは、深夜も過ぎた頃だった。

 いつもならすでに寝台に入っている時刻だが、今日ばかりはソルに事情を聞かなければならない。

 髪が半乾きでは風邪を引いてしまうので、早く乾くように髪を結わずにソルの元に向かった。

 ラギを連れてドアをノックし、彼女を見張っていた騎士の返事を聞いてから中に入る。

 ソルの部屋では暖炉に赤々と火が灯っている。クローディアと同じように風呂に入った彼女は、魂が抜けたような表情で椅子に座っていた。

 暖炉の前でオレンジ色の光に照らされてなお、ソルの顔色は青白く生気がない。
 ソルを風呂に入れた侍女も、困った顔でクローディアを見ていた。

「……ラギ以外、部屋を出てくれる? ソルを見ていてくれてありがとう」

 女城主として静かに命令すると、騎士と侍女は一礼をして退室していった。

 クローディアは暖炉の前に敷かれてある白い毛皮の上に座り、ソルの手を両手で握る。

「……ソル、何があったのか教えてくれる?」

 穏やかな声で尋ねると、ソルの瞳が微かに揺れた気がした。

 クローディアは彼女に言葉を重ねず、黙って待ち続けた。
 風呂に入ってもなお冷たいソルの手を、両手で包んでさすり、吐息を掛けて温める。

 いつまでそうしていたのか、ソルが口を開いた。

「……旦那様は、毒を飲まされていました」

「え……っ」

 だが毒という穏やかではない単語を聞き、暖炉を背にしているのにクローディアの体に寒気が走った。

「だ……っ、誰に!? どうしてソルは知っているの!?」

 彼女の顔を覗き込むと、表情が死んでいるソルの目から、ツゥ……と涙が零れ頬を濡らした。
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