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夏樹と悠衣
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私は不気味な歌を歌う恋人を見て、不安げに表情を曇らせる。
二十八歳の恋人――金戸悠衣は白い頬に長い睫毛の影を落とし、ビスクドールのようにアンニュイな笑みを浮かべる。
そして生クリームとフルーツたっぷりのパンケーキにフォークを刺し、頬張った。
今日はクリスマスイブで、私と悠衣はロリータ服に身を包んでパンケーキデートをしている。
周りの人がチラッ、チラッと彼女を見ているが、悠衣はまったく意に介していない。
ついでに私にまで不審そうな目を向けられるから、居心地が悪いのだけれど。
悠衣は作家だ。
独特の感性で紡がれる言葉には魅力があり、コアなファンがいる。
可愛らしい外見をしていながら、彼女が得意とする作品はホラーやサスペンスだ。
特に人物の心理描写や凄惨な事件現場の表現には定評があり、新進気鋭のサイコホラー作家と呼ばれている。
彼女はいつもくたびれた服装でデスクに向かい、原稿を書いているけれど、こうして外出する時は、思いきり気合いを入れてメイクをし、着飾る。
多少周りから浮いた格好をしていても、自分が気に入っているなら気にしない。
私はフリルやレースのついたフェミニンな服、時々袖を通すロリータ服を、半ば意地になって着ている節がある。
けれど悠衣はいっさいそのような気負いがないので、私は内心彼女を「強いな」と思って尊敬し、眩しさを感じていた。
先日、悠衣はずっと難航していた大作が校了したらしく、気兼ねなく年末年始を過ごせると言っている。
出版業界に疎い私にはよく分からない事だが、どうやら原稿を何回か直し、もう直すところのない完成形まで仕上げ、あとは印刷するだけ……の状態を校了と言うらしい。
「お疲れ様、悠衣。でも、パンケーキ打ち上げで良かったの? クリスマスだし、もうちょっといいランチも良かったと思うけど」
「ありがと。いいんだ。お高い店は性に合わないし、甘い物食べて糖分をとれたら、それで十分。クリスマスらしい事がしたいなら、あとでチキンでも買って帰ろう」
「そうだね」
私たちの出会いは、四年前のクリスマス、新宿のバーでだった。
私は悠衣にナンパされたというか、やけに気に入られ、気がついたら恋人の関係になっていた。
当時の悠衣は垢抜けていなかったけれど、私が悠衣にメイクやお洒落を教え、今ではこんなに美しい女性となった。
花のついたボンネットを被った悠衣は、白いロリータ服が汚れないように気をつけ、パンケーキを食べ進めていく。
「夏樹、食べないの?」
悠衣に尋ねられ、私――御坂夏樹は「ああ、うん」と止めていた手を動かす。
(悠衣が変な事を口走るのはいつもの事なのに)
私は自分に言い聞かせ、ホイップクリームの上にメープルシロップをたっぷり垂らした。
買い物をしたあと、私たちは同棲している悠衣の家に帰った。
彼女の家は広い。
作家として成功しているからか、女性が一人で住むには広すぎるほどの家に暮らしている。
豪邸と言っていいレンガの一軒家は、昔遠い親戚が暮らしていたらしく、今は住む人がいなくなったのを、破格の家賃で借りているそうだ。
少し〝訳アリ〟らしいから、余計に家賃が安いらしい。
確かにこの家にいると、背筋がうすら寒くなる事が時々起こる。
ラップ音が聞こえたり、家には私と悠衣しかいないのに、他の人の気配を感じる事がある。
二十八歳の恋人――金戸悠衣は白い頬に長い睫毛の影を落とし、ビスクドールのようにアンニュイな笑みを浮かべる。
そして生クリームとフルーツたっぷりのパンケーキにフォークを刺し、頬張った。
今日はクリスマスイブで、私と悠衣はロリータ服に身を包んでパンケーキデートをしている。
周りの人がチラッ、チラッと彼女を見ているが、悠衣はまったく意に介していない。
ついでに私にまで不審そうな目を向けられるから、居心地が悪いのだけれど。
悠衣は作家だ。
独特の感性で紡がれる言葉には魅力があり、コアなファンがいる。
可愛らしい外見をしていながら、彼女が得意とする作品はホラーやサスペンスだ。
特に人物の心理描写や凄惨な事件現場の表現には定評があり、新進気鋭のサイコホラー作家と呼ばれている。
彼女はいつもくたびれた服装でデスクに向かい、原稿を書いているけれど、こうして外出する時は、思いきり気合いを入れてメイクをし、着飾る。
多少周りから浮いた格好をしていても、自分が気に入っているなら気にしない。
私はフリルやレースのついたフェミニンな服、時々袖を通すロリータ服を、半ば意地になって着ている節がある。
けれど悠衣はいっさいそのような気負いがないので、私は内心彼女を「強いな」と思って尊敬し、眩しさを感じていた。
先日、悠衣はずっと難航していた大作が校了したらしく、気兼ねなく年末年始を過ごせると言っている。
出版業界に疎い私にはよく分からない事だが、どうやら原稿を何回か直し、もう直すところのない完成形まで仕上げ、あとは印刷するだけ……の状態を校了と言うらしい。
「お疲れ様、悠衣。でも、パンケーキ打ち上げで良かったの? クリスマスだし、もうちょっといいランチも良かったと思うけど」
「ありがと。いいんだ。お高い店は性に合わないし、甘い物食べて糖分をとれたら、それで十分。クリスマスらしい事がしたいなら、あとでチキンでも買って帰ろう」
「そうだね」
私たちの出会いは、四年前のクリスマス、新宿のバーでだった。
私は悠衣にナンパされたというか、やけに気に入られ、気がついたら恋人の関係になっていた。
当時の悠衣は垢抜けていなかったけれど、私が悠衣にメイクやお洒落を教え、今ではこんなに美しい女性となった。
花のついたボンネットを被った悠衣は、白いロリータ服が汚れないように気をつけ、パンケーキを食べ進めていく。
「夏樹、食べないの?」
悠衣に尋ねられ、私――御坂夏樹は「ああ、うん」と止めていた手を動かす。
(悠衣が変な事を口走るのはいつもの事なのに)
私は自分に言い聞かせ、ホイップクリームの上にメープルシロップをたっぷり垂らした。
買い物をしたあと、私たちは同棲している悠衣の家に帰った。
彼女の家は広い。
作家として成功しているからか、女性が一人で住むには広すぎるほどの家に暮らしている。
豪邸と言っていいレンガの一軒家は、昔遠い親戚が暮らしていたらしく、今は住む人がいなくなったのを、破格の家賃で借りているそうだ。
少し〝訳アリ〟らしいから、余計に家賃が安いらしい。
確かにこの家にいると、背筋がうすら寒くなる事が時々起こる。
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