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十二年の時を経て 編
上村家の歩み
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武田信玄のお墓にお参りし、駅前で美味しいお蕎麦と鶏もつ煮を食べたあと、私たちはまた二時間掛けて都内に戻った。
ケーキを買って吉祥寺の上村家に戻ったあと、みんなでおやつタイムをとり、それから父が撮った写真を見る事にした。
母は自分の部屋からアルバムを数冊出し、テーブルの上に置いた。
「これが最初のやつね」
私は赤い表紙のアルバムを受け取り、少し緊張してから捲った。
「わ……。若い」
最初にあったのはまだ私が生まれる前の、お付き合いしていた時の母だ。
「こうやって見たら、朱里に似てるな」
横から覗いた尊さんが呟き、私はくすぐったい気持ちになる。
私はどちらかというとつり目で澄ましている雰囲気の顔つきで、母は優しげな印象がある。
若い頃の父はスッとした目元の美男子で、私は父親似なんだろうなと思うんだけれど、母を見ても「似てるかも」と思う印象がある。
こうして見ると、改めて自分が二人の娘なんだと思った。
最初の数ページは若い二人がデートを重ねている写真や、青空に花、花を近くに母が笑っている写真などがある。
それから結婚式の写真が沢山挟まっていたけど、それはプロに撮ってもらった物だろう。
そして母は妊娠し、お腹を大きくさせて幸せそうに笑っている。
生まれたての〝赤ちゃん〟の自分を見た時は、何とも言えない気持ちになった。
「朱里はちょっと体が小さかったんだけど、よく食べる子で、問題なく大きくなっていったわ」
「その頃から食いしん坊だったのか……」
私は半笑いになり、手づかみでバナナを食べている自分を見る。
それから写真の中の私はスクスクと成長していった。
ハイハイしていたのが立つようになり、おむつで丸くなったお尻の後ろ姿は我ながらキュートだ。
公園でタンポポの綿毛を吹いている私と、笑っている母。
父は撮り役に徹しているようだけれど、私の誕生日や記念の時は、タイマー機能を使って家族三人で写るようにしていた。
幼稚園の運動会、卒園式、小学校の入学式、前歯が抜けてニカッと笑ってる私。
新しい真っ赤な自転車を買ってもらった時の事は覚えている。
嬉しくて、色んな所まで行ったっけ。
浴衣を着せてもらった私。家族で手持ち花火をしている光景。溶けたソフトクリームを舐めながら笑ってる私。
写真の中の私は、いつも笑顔だ。
「……お父さんから見た私、こういう感じだったんだね」
「当たり前の事だけど、澄哉さんは朱里を愛していたわ。本当に、目に入れても痛くないぐらい可愛がっていたの。朱里に『お父さんと結婚する』って言われた時は、デレデレしててねぇ……」
母はクスクス笑い、紅茶を飲む。
「今だから言っておくけど、朱里は何回もお父さんと喧嘩してたわよ。『お父さん嫌い』って言ったら、澄哉さんは『朱里ちゃん、許して~』って朱里をくすぐったり笑わせたりしてた。朱里もそれが分かっていて、本気じゃない『嫌い』を言っていたのよ。……だからね、澄哉さんは前日のあれを何とも思ってない。確信して言えるわ。朱里の『嫌い』は自分への甘えだと分かっているから、絶対にあの言葉が原因な訳ないの」
母に真剣な表情で言われ、幸せな記憶を思い出した私は小さく頷いた。
「……うん。信じる。……でも、冗談であっても、甘えありきであっても、人に『嫌い』って言うのは良くないね。……今は言わない」
そう言うと、母は微笑んで小さく頷いた。
アルバムは何冊にも渡って私たち親子を写し、とても優しい目線で空や草花、虫や鳥を撮っていた。
ただ木の葉を写しただけなのに、父の写真からは木々を揺らす風を感じ、ザワザワという葉擦れの音、揺れる木漏れ日まで伝わってきそうな作品だった。
「……優しい人だったんだね」
「そうよ。太陽のように明るくて、夏の風みたいに爽やかで、晴れ渡った空のように純粋な人だった。よく人に道を聞かれる人で、困ってそうな白杖の方がいたら自分から声を掛けて、目的地まで送っていったりとかね。ベビーカーを押した女性がいたら、ベビーカーを階段の上まで運んだり、とにかく人助けをする優しい人だった。私の誇りよ」
そんなにいい人が、ブラック企業にこき使われて自ら命を絶ってしまったなんて、悲しすぎる。
小学校の卒業式を迎えた私は、人気女性アイドルのようなショートブレザーにリボン、チェックのスカートを穿いてピースしていた。
その日の夜はご馳走だったみたいで、家族三人、ホールケーキを囲んで笑顔の写真があった。
さらに中学校の入学式、少し成長した私や、家に遊びに来るようになった恵との写真が混じるようになり、――――少ししてからアルバムの写真は途切れた。
ケーキを買って吉祥寺の上村家に戻ったあと、みんなでおやつタイムをとり、それから父が撮った写真を見る事にした。
母は自分の部屋からアルバムを数冊出し、テーブルの上に置いた。
「これが最初のやつね」
私は赤い表紙のアルバムを受け取り、少し緊張してから捲った。
「わ……。若い」
最初にあったのはまだ私が生まれる前の、お付き合いしていた時の母だ。
「こうやって見たら、朱里に似てるな」
横から覗いた尊さんが呟き、私はくすぐったい気持ちになる。
私はどちらかというとつり目で澄ましている雰囲気の顔つきで、母は優しげな印象がある。
若い頃の父はスッとした目元の美男子で、私は父親似なんだろうなと思うんだけれど、母を見ても「似てるかも」と思う印象がある。
こうして見ると、改めて自分が二人の娘なんだと思った。
最初の数ページは若い二人がデートを重ねている写真や、青空に花、花を近くに母が笑っている写真などがある。
それから結婚式の写真が沢山挟まっていたけど、それはプロに撮ってもらった物だろう。
そして母は妊娠し、お腹を大きくさせて幸せそうに笑っている。
生まれたての〝赤ちゃん〟の自分を見た時は、何とも言えない気持ちになった。
「朱里はちょっと体が小さかったんだけど、よく食べる子で、問題なく大きくなっていったわ」
「その頃から食いしん坊だったのか……」
私は半笑いになり、手づかみでバナナを食べている自分を見る。
それから写真の中の私はスクスクと成長していった。
ハイハイしていたのが立つようになり、おむつで丸くなったお尻の後ろ姿は我ながらキュートだ。
公園でタンポポの綿毛を吹いている私と、笑っている母。
父は撮り役に徹しているようだけれど、私の誕生日や記念の時は、タイマー機能を使って家族三人で写るようにしていた。
幼稚園の運動会、卒園式、小学校の入学式、前歯が抜けてニカッと笑ってる私。
新しい真っ赤な自転車を買ってもらった時の事は覚えている。
嬉しくて、色んな所まで行ったっけ。
浴衣を着せてもらった私。家族で手持ち花火をしている光景。溶けたソフトクリームを舐めながら笑ってる私。
写真の中の私は、いつも笑顔だ。
「……お父さんから見た私、こういう感じだったんだね」
「当たり前の事だけど、澄哉さんは朱里を愛していたわ。本当に、目に入れても痛くないぐらい可愛がっていたの。朱里に『お父さんと結婚する』って言われた時は、デレデレしててねぇ……」
母はクスクス笑い、紅茶を飲む。
「今だから言っておくけど、朱里は何回もお父さんと喧嘩してたわよ。『お父さん嫌い』って言ったら、澄哉さんは『朱里ちゃん、許して~』って朱里をくすぐったり笑わせたりしてた。朱里もそれが分かっていて、本気じゃない『嫌い』を言っていたのよ。……だからね、澄哉さんは前日のあれを何とも思ってない。確信して言えるわ。朱里の『嫌い』は自分への甘えだと分かっているから、絶対にあの言葉が原因な訳ないの」
母に真剣な表情で言われ、幸せな記憶を思い出した私は小さく頷いた。
「……うん。信じる。……でも、冗談であっても、甘えありきであっても、人に『嫌い』って言うのは良くないね。……今は言わない」
そう言うと、母は微笑んで小さく頷いた。
アルバムは何冊にも渡って私たち親子を写し、とても優しい目線で空や草花、虫や鳥を撮っていた。
ただ木の葉を写しただけなのに、父の写真からは木々を揺らす風を感じ、ザワザワという葉擦れの音、揺れる木漏れ日まで伝わってきそうな作品だった。
「……優しい人だったんだね」
「そうよ。太陽のように明るくて、夏の風みたいに爽やかで、晴れ渡った空のように純粋な人だった。よく人に道を聞かれる人で、困ってそうな白杖の方がいたら自分から声を掛けて、目的地まで送っていったりとかね。ベビーカーを押した女性がいたら、ベビーカーを階段の上まで運んだり、とにかく人助けをする優しい人だった。私の誇りよ」
そんなにいい人が、ブラック企業にこき使われて自ら命を絶ってしまったなんて、悲しすぎる。
小学校の卒業式を迎えた私は、人気女性アイドルのようなショートブレザーにリボン、チェックのスカートを穿いてピースしていた。
その日の夜はご馳走だったみたいで、家族三人、ホールケーキを囲んで笑顔の写真があった。
さらに中学校の入学式、少し成長した私や、家に遊びに来るようになった恵との写真が混じるようになり、――――少ししてからアルバムの写真は途切れた。
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