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十年ぶりの再会 編
自責の呪いから解き放たれる時
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「君が幸せだと分かって良かった。これで私は一つ荷物を下ろして、身を軽くして前に進める」
過酷な目に遭っても、なおも尊さんの幸せを願っていた宮本さんを前にして、私は思わず涙を流してしまった。
「おっと、……どうしたの? 大丈夫? 何か不快にさせてしまった?」
宮本さんは心配そうに私を見て、慌ててバッグからハンカチを出そうとする。
私は首を横に振ってそれを制し、自分のハンカチを出して目元を押さえると、彼女に向かって笑いかけた。
「私、宮本さんみたいな女性になりたいです。気高くて、名前の通り凜と咲く一輪の花みたいな、そんな人になりたい」
「あはは、そんな大した人間じゃないんだけど……。でも、そう言ってもらえて光栄だよ。ありがとう」
そんな宮本さんを見て、尊さんは微笑む。
「俺にとっても宮本は自慢の友人だ。……俺のせいで酷い目に遭わせてしまって、恨まれても仕方ないと思っていたが、お前は前を向き続けた。……どうしようもなく絶望し、打ちひしがれた時もあったと思うが、こうやって再会して幸せを報告し合えて、心から良かったと思えている」
「いつまでも〝自分のせいで〟って思うの、やめなよ。私は君を恨んでないし、君のせいじゃない。君のせいにするほど、私は落ちぶれてないんだ。何でも他人のせいにするのは良くないけど、少なくとも私たちの〝傷〟については、篠宮怜香が悪い。あの人にすべての責任を被せて、私たちは前を向くんだ。たまにはそういう事があってもいい」
キッパリと言われ、尊さんは頷いた。
「ああ、……そうする。…………『俺は悪くない』」
尊さんが噛み締めるように言った時、彼が長年その身を雁字搦めにしていた、見えない鎖から解き放たれたのが分かった気がした。
「それでいいよ。……私たちみたいな常識人は、何かがあったら『自分のせい』と思って自責してしまうけど、篠宮怜香みたいな人は、自分が不幸なのは他人のせいだと思ってる。そういう点はちょっと見習ってもいいと思うよ」
宮本さんの冗談めかした言葉を聞き、私たちは思わず笑った。
そのあと、彼女は近くにいるらしい旦那さんに連絡を入れ、お子さんと一緒に店に来てもらった。
国語の教師をしているという旦那さんは、文系……と思いきや、しっかり体を鍛えている人で、週末には家族で海遊びをするのが好きなんだとか。
二人のお子さんもやんちゃ盛りで、よく日に焼けていて元気な子たちだ。
私を見て「芸能人?」と言ってくれたので、ついお小遣いをあげたくなって宮本さんから止められてしまった。
全員でランチをとったあと、宮本さん……もとい、夏目さん一家の案内で平和記念公園や原爆ドームに向かう事にした。
平和記念公園は元安川と太田川によるデルタにある。
観光用の船が通るほど大きな橋だけれど、二本の川を突っ切るように平和大通り、平和大橋があって車が通行できるようになっている。
公園の入り口には祈りの泉があり、近くに資料館がある。
資料館には広島のジオラマがあり、それに映像を映す形で過去の街並みや、原爆の投下によってどれほどの被害が起こったのか分かるようになっていた。
原爆の爪痕を色濃く残す歴史を見たあと、今もなお献花され続けている慰霊碑や様々な平和に関するモニュメントがある公園を通る。
原爆ドームは三角州の先端の対岸にあり、周囲は柵や生け垣に囲まれて、敷地内に入れないようになっている。
当時の被害をそのままに残した建物の死骸を前にし、私は胸の奥をギュッと握られたような感覚になった。
「生って、常に死の隣にあると思うんだ。私も死のうと思った時期があるから、よく分かる。そのたびにここを思い出して『まだやれる』って自分に言い聞かせた。一瞬にして理不尽に命を奪われる残酷さを思えば、私はまだ選択できるもの」
原爆ドームを見上げながら宮本さんは言い、私の背中をトンと叩く。
「きっとこれから、楽しい事ばかりじゃなく、歳を重ねるごとにつらい出来事も増えると思う。……でも、絶望なら味わった。どん底を知ったと思えるから私は頑張れる」
「……そうですね。死んでしまったら終わりだから」
私は父と、この地で奪われた沢山の命を想い、グッと拳を握った。
見学しているうちに時刻は十五時半になり、敷地内に広島城がある、広島護国神社も案内したいと言われ、そちらに向かう事にした。
過酷な目に遭っても、なおも尊さんの幸せを願っていた宮本さんを前にして、私は思わず涙を流してしまった。
「おっと、……どうしたの? 大丈夫? 何か不快にさせてしまった?」
宮本さんは心配そうに私を見て、慌ててバッグからハンカチを出そうとする。
私は首を横に振ってそれを制し、自分のハンカチを出して目元を押さえると、彼女に向かって笑いかけた。
「私、宮本さんみたいな女性になりたいです。気高くて、名前の通り凜と咲く一輪の花みたいな、そんな人になりたい」
「あはは、そんな大した人間じゃないんだけど……。でも、そう言ってもらえて光栄だよ。ありがとう」
そんな宮本さんを見て、尊さんは微笑む。
「俺にとっても宮本は自慢の友人だ。……俺のせいで酷い目に遭わせてしまって、恨まれても仕方ないと思っていたが、お前は前を向き続けた。……どうしようもなく絶望し、打ちひしがれた時もあったと思うが、こうやって再会して幸せを報告し合えて、心から良かったと思えている」
「いつまでも〝自分のせいで〟って思うの、やめなよ。私は君を恨んでないし、君のせいじゃない。君のせいにするほど、私は落ちぶれてないんだ。何でも他人のせいにするのは良くないけど、少なくとも私たちの〝傷〟については、篠宮怜香が悪い。あの人にすべての責任を被せて、私たちは前を向くんだ。たまにはそういう事があってもいい」
キッパリと言われ、尊さんは頷いた。
「ああ、……そうする。…………『俺は悪くない』」
尊さんが噛み締めるように言った時、彼が長年その身を雁字搦めにしていた、見えない鎖から解き放たれたのが分かった気がした。
「それでいいよ。……私たちみたいな常識人は、何かがあったら『自分のせい』と思って自責してしまうけど、篠宮怜香みたいな人は、自分が不幸なのは他人のせいだと思ってる。そういう点はちょっと見習ってもいいと思うよ」
宮本さんの冗談めかした言葉を聞き、私たちは思わず笑った。
そのあと、彼女は近くにいるらしい旦那さんに連絡を入れ、お子さんと一緒に店に来てもらった。
国語の教師をしているという旦那さんは、文系……と思いきや、しっかり体を鍛えている人で、週末には家族で海遊びをするのが好きなんだとか。
二人のお子さんもやんちゃ盛りで、よく日に焼けていて元気な子たちだ。
私を見て「芸能人?」と言ってくれたので、ついお小遣いをあげたくなって宮本さんから止められてしまった。
全員でランチをとったあと、宮本さん……もとい、夏目さん一家の案内で平和記念公園や原爆ドームに向かう事にした。
平和記念公園は元安川と太田川によるデルタにある。
観光用の船が通るほど大きな橋だけれど、二本の川を突っ切るように平和大通り、平和大橋があって車が通行できるようになっている。
公園の入り口には祈りの泉があり、近くに資料館がある。
資料館には広島のジオラマがあり、それに映像を映す形で過去の街並みや、原爆の投下によってどれほどの被害が起こったのか分かるようになっていた。
原爆の爪痕を色濃く残す歴史を見たあと、今もなお献花され続けている慰霊碑や様々な平和に関するモニュメントがある公園を通る。
原爆ドームは三角州の先端の対岸にあり、周囲は柵や生け垣に囲まれて、敷地内に入れないようになっている。
当時の被害をそのままに残した建物の死骸を前にし、私は胸の奥をギュッと握られたような感覚になった。
「生って、常に死の隣にあると思うんだ。私も死のうと思った時期があるから、よく分かる。そのたびにここを思い出して『まだやれる』って自分に言い聞かせた。一瞬にして理不尽に命を奪われる残酷さを思えば、私はまだ選択できるもの」
原爆ドームを見上げながら宮本さんは言い、私の背中をトンと叩く。
「きっとこれから、楽しい事ばかりじゃなく、歳を重ねるごとにつらい出来事も増えると思う。……でも、絶望なら味わった。どん底を知ったと思えるから私は頑張れる」
「……そうですね。死んでしまったら終わりだから」
私は父と、この地で奪われた沢山の命を想い、グッと拳を握った。
見学しているうちに時刻は十五時半になり、敷地内に広島城がある、広島護国神社も案内したいと言われ、そちらに向かう事にした。
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