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ケリをつける 編
憤怒
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どうしてこうなったのか分からない。
私――、橘柚良は、周囲の人から視線を浴びながら出社した。
篠宮ホールディングスに入社して総務部に入り、昔は同期の槇原綾子と仲良く働き、一年遅れて入ってきた南郷亜美と三人組のような扱いで過ごしてきた。
お局の斎木さんは圧の強い人で、人間関係で何度か問題を起こしたみたいだけど、部長が『今までよく勤めてくれたし、手放すには惜しい人材』として目を瞑っていたみたいだった。
何度かきつく叱られて大人しく過ごしていたものの、斎木さんは人の噂話に弱い。
綾子が一人だけ憧れの商品開発部に異動になり、私は彼女に嫉妬心を抱いていた。
私も彼女も大して能力に差があると思えないし、綾子は移動先で速水部長を追いかけ回しているというから、枕営業をして異動を勝ち取ったのでは……と思っていた。
亜美とそんな話をしていたら、斎木さんが『なんの話してるの?』と割り込んできて、私たちの話を聞くと『それは間違いないわ~』と噂を広めていった。
『……私たちのせいじゃないもんね』
亜美と言い合い、私たちは綾子の話が広まっていくのを見て見ぬ振りをした。
それをきっかけに、斎木さんは何かと私たちに話しかけてくるようになった。
彼女はいつも下世話な噂話を好み、私たちは話半分にそれを聞いていた。
でも『どこの部署の誰と誰が不倫をしているようだ』とか『あの人は整形』とか、そういう話を聞いているとちょっと面白い。
火のない所に煙は立たないというし、噂が立つなら本当なんだろう。
そういう話をしても、どうせ噂だし、真に受けても私たちに責任はない。
私の意識はずっと牧原綾子にあった。
――やっていた事は私と対して変わりないのに、どうしてあいつだけ。
私も商品開発部への憧れを持っていて、いつか異動したいと望んでいた。
でも上司に掛け合ってもいい返事はもらえず、ずっと総務部で燻ったまま。
商品開発部に注目し、綾子が夢中だという速水部長を気にしている間に、彼の事が気になってならなくなった。
三十二歳という異例の若さで部長になった彼は、高身長で顔もいい。
綾子がミーハーに騒ぐのも分かる美形だし、聞く話では商品開発部でかなりの人望があるとの事だ。
いつしか、私は速水部長を綾子から寝取ってやりたいと思うようになった。
だから廊下で部長とすれ違った時は積極的に挨拶をし、無理矢理用事を作って話しかけるようにした。
間近で見ると彼は本当に美しく、男性なのに睫毛が長くて肌もツルツルだ。
近寄るといい匂いがするし、しっかり鍛えているようで、立ち姿に芯があるし、スーツ越しにも胸板の厚さが分かる。
――あぁ、いい男……。
速水部長はバレンタインが誕生日というから、チョコレートと一緒に贈り物をしたけれど、『あまり気を遣わないでほしい』と遠慮されてしまった。
でも禁止とは言われていないから、その翌年も翌々年もチョコレートと贈り物をあげた。
――ここまで貢いでいるんだから、絶対私の事を意識してるに決まってるでしょう。
こういうのを推し活というのか、推しがいると毎日出社するのが楽しくて堪らない。
その矢先――。
速水部長が実は篠宮社長の隠し子だという事が分かり、社内は騒然とした。
私も驚いたけれど、隠し子に驚いたというより、美形で仕事もできる彼が御曹司だという事実を知り、『やっぱり天は二物を与える!』という喜びだった。
そのあと、いっそう彼に熱を入れていくと思っていたけれど――。
『何これ。速水部長が篠宮の姓を名乗って副社長になるのはいいけど、……上村朱里? 元商品開発部? なんでこんな女が副社長秘書になるの?』
部長が副社長になるなら、今までずっと彼に愛情を注いできた私が秘書になるべきだ。
なのにおかしくない? なに、この上村朱里って。
初めて知った名前を見て商品開発部を気にしてみたら、澄ました顔の女が淡々と仕事をしているのを目にした。
顔は……、まぁ整ってるほうで、胸が下品なぐらいに大きい。
――あぁ、こいつも枕営業したんだ。
そう理解したあと、理不尽な事ばかり起こる現実への怒りが身を包んだ。
――どうして真面目に生きてる私が評価されないで、顔だけいい女が得をするの!?
――みんな私みたいにまじめにやってる人を無視して、いい子ぶりっこした外面のいい女だけ評価する!
だから――、彼女がトイレに入ったのを見た時、亜美と一緒にちょっと〝事実〟を言ってやっただけなのに。
主に噂を流したのは斎木さんだし、亜美だって加担したのに。
他にももっと話を聞いて広めていった人、いるでしょう!?
私は間違えてないのに、どうして子会社に行かなきゃならないの!?
あいつがチクったに決まってる! あのブス!
なのに、副社長の前であいつに謝らないとならないなんて……!
私はイライラしながらパソコンの電源を入れ、荒っぽく引き継ぎ資料をデスクに置いた。
**
私――、橘柚良は、周囲の人から視線を浴びながら出社した。
篠宮ホールディングスに入社して総務部に入り、昔は同期の槇原綾子と仲良く働き、一年遅れて入ってきた南郷亜美と三人組のような扱いで過ごしてきた。
お局の斎木さんは圧の強い人で、人間関係で何度か問題を起こしたみたいだけど、部長が『今までよく勤めてくれたし、手放すには惜しい人材』として目を瞑っていたみたいだった。
何度かきつく叱られて大人しく過ごしていたものの、斎木さんは人の噂話に弱い。
綾子が一人だけ憧れの商品開発部に異動になり、私は彼女に嫉妬心を抱いていた。
私も彼女も大して能力に差があると思えないし、綾子は移動先で速水部長を追いかけ回しているというから、枕営業をして異動を勝ち取ったのでは……と思っていた。
亜美とそんな話をしていたら、斎木さんが『なんの話してるの?』と割り込んできて、私たちの話を聞くと『それは間違いないわ~』と噂を広めていった。
『……私たちのせいじゃないもんね』
亜美と言い合い、私たちは綾子の話が広まっていくのを見て見ぬ振りをした。
それをきっかけに、斎木さんは何かと私たちに話しかけてくるようになった。
彼女はいつも下世話な噂話を好み、私たちは話半分にそれを聞いていた。
でも『どこの部署の誰と誰が不倫をしているようだ』とか『あの人は整形』とか、そういう話を聞いているとちょっと面白い。
火のない所に煙は立たないというし、噂が立つなら本当なんだろう。
そういう話をしても、どうせ噂だし、真に受けても私たちに責任はない。
私の意識はずっと牧原綾子にあった。
――やっていた事は私と対して変わりないのに、どうしてあいつだけ。
私も商品開発部への憧れを持っていて、いつか異動したいと望んでいた。
でも上司に掛け合ってもいい返事はもらえず、ずっと総務部で燻ったまま。
商品開発部に注目し、綾子が夢中だという速水部長を気にしている間に、彼の事が気になってならなくなった。
三十二歳という異例の若さで部長になった彼は、高身長で顔もいい。
綾子がミーハーに騒ぐのも分かる美形だし、聞く話では商品開発部でかなりの人望があるとの事だ。
いつしか、私は速水部長を綾子から寝取ってやりたいと思うようになった。
だから廊下で部長とすれ違った時は積極的に挨拶をし、無理矢理用事を作って話しかけるようにした。
間近で見ると彼は本当に美しく、男性なのに睫毛が長くて肌もツルツルだ。
近寄るといい匂いがするし、しっかり鍛えているようで、立ち姿に芯があるし、スーツ越しにも胸板の厚さが分かる。
――あぁ、いい男……。
速水部長はバレンタインが誕生日というから、チョコレートと一緒に贈り物をしたけれど、『あまり気を遣わないでほしい』と遠慮されてしまった。
でも禁止とは言われていないから、その翌年も翌々年もチョコレートと贈り物をあげた。
――ここまで貢いでいるんだから、絶対私の事を意識してるに決まってるでしょう。
こういうのを推し活というのか、推しがいると毎日出社するのが楽しくて堪らない。
その矢先――。
速水部長が実は篠宮社長の隠し子だという事が分かり、社内は騒然とした。
私も驚いたけれど、隠し子に驚いたというより、美形で仕事もできる彼が御曹司だという事実を知り、『やっぱり天は二物を与える!』という喜びだった。
そのあと、いっそう彼に熱を入れていくと思っていたけれど――。
『何これ。速水部長が篠宮の姓を名乗って副社長になるのはいいけど、……上村朱里? 元商品開発部? なんでこんな女が副社長秘書になるの?』
部長が副社長になるなら、今までずっと彼に愛情を注いできた私が秘書になるべきだ。
なのにおかしくない? なに、この上村朱里って。
初めて知った名前を見て商品開発部を気にしてみたら、澄ました顔の女が淡々と仕事をしているのを目にした。
顔は……、まぁ整ってるほうで、胸が下品なぐらいに大きい。
――あぁ、こいつも枕営業したんだ。
そう理解したあと、理不尽な事ばかり起こる現実への怒りが身を包んだ。
――どうして真面目に生きてる私が評価されないで、顔だけいい女が得をするの!?
――みんな私みたいにまじめにやってる人を無視して、いい子ぶりっこした外面のいい女だけ評価する!
だから――、彼女がトイレに入ったのを見た時、亜美と一緒にちょっと〝事実〟を言ってやっただけなのに。
主に噂を流したのは斎木さんだし、亜美だって加担したのに。
他にももっと話を聞いて広めていった人、いるでしょう!?
私は間違えてないのに、どうして子会社に行かなきゃならないの!?
あいつがチクったに決まってる! あのブス!
なのに、副社長の前であいつに謝らないとならないなんて……!
私はイライラしながらパソコンの電源を入れ、荒っぽく引き継ぎ資料をデスクに置いた。
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