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私は時を超えてこの世界にやって来ました
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「どっ……、ど、どうしたんだっ?」
明らかにうろたえた様子のライオットは、オロオロと両手を空中に彷徨わせる。
気持ちとしては抱き締めたいのだが、普段のシーラの態度を思えば後で何を言われるか分からない。
やがてシーラの小さな嗚咽が聞こえ始め、ライオットもこれが真面目なシーンなのだと理解した。
「怖い夢でもみたのか?」
労る声がし、優しい手があやすようにポンポンと背中を撫でてくれる。
「そうですね……。とても悪い夢をみた……のだと思います」
ズッと洟を啜り、シーラは不器用に笑う。
女性を泣かせてしまったのが気まずかったのか、ライオットは自分とシーラの間に竜のぬいぐるみを挟んできた。
それはずっと前、二人が子供の頃に竜聖祭でライオットが射的で得た物だった。
シーラが気に入ったぬいぐるみを、ライオットは何度も挑戦してやっと手に入れてくれた。
シーラは思い出の品と、ずっと寝所で一緒に眠っていたのだ。
「本当に、生きているのですね」
「ああ、ピンピンしているよ?」
目に残っていた涙を拭い、シーラは再び確認する。
ライオットの言葉を確認し、彼女はこれから自分がなすべき事を考えた。
「……まずは着替えます。客間で待っていてくれますか?」
「ああ、分かった。君の侍女を呼んでくる」
いつも通り黒い装束を纏ったライオットは、スッと立ち上がり部屋の外に消えていった。
すぐにシーラの侍女が寝室に入り、主の具合を気にしてくる。
「姫様。行方不明になられたかと思えば、ライオット殿下が皇竜の神殿で見つけられたとの事。抱きかかえらて戻られたので、大変驚きました」
侍女の手を借りてネグリジェを脱ぎ、いつもの白い巫女服を着る。
シルクのシュミーズを着た上に麻の巫女服を被り、腰に細い革紐のベルトを巻くと気持ちがシャンとした。
いつもの革サンダルに足を通し、鏡台の椅子に座る。
「皇竜の神殿……。そうなのね」
自分が時を超えたという認識はあまりなく、ヴァウファールの背に乗り天空高く飛んだ記憶も今では夢のようだ。
ヴァウファールの背に乗り時空の門を越えたところまでは覚えているが、そこから先はどうなったのか覚えていなかった。
どうやら自分は山の高い場所にある皇竜の神殿に倒れていたようで、それを城の者と一緒に捜索していたライオットが見つけてくれたそうだ。
侍女はシーラの髪を丁寧に櫛で梳き、寝乱れた箇所をすっかり真っ直ぐにしてくれる。
「ありがとう」
続き間になっている客間にライオットがいるはずなので、シーラはそちらに急いだ。
時刻を確認すると、もう夕方が迫っている空色になっていた。
「お待たせしました」
「先に頂いているよ」
客間ではライオットがソファに座り、のんびりと紅茶を飲んでいた。
その向かいにシーラが座ると、侍女が彼女の分の紅茶を淹れ静かに下がってゆく。
「具合はいいのか?」
「ええ。ライオットが見つけてくれたようですね。ありがとうございます」
「どうしてあんな場所にいたんだ?」
ライオットが疑問に思うのも当たり前で、皇竜の神殿はカリューシアの城がある山の八合目ほどにある。
カリューシアの城自体が山にあり、斜面にある街並みと比べ標高は高い。
だが皇竜の神殿はそれよりも高い場所にあり、よほどの事がなければ登らない。
竜官と呼ばれる神殿の一部の神官のみが、毎日皇竜の神殿まで登って掃除をし、花や果物を捧げている。
王家の者であればいつ入ってもいい事になっているが、それでもまず普段は用がない。
「どうして……。ええ、そうですね。あなたにはちゃんとお話しする必要があると思います」
シーラは紅茶を一口飲み、居住まいを正す。
「ライオット。これから私が何を言っても、信じてくれますか?」
背筋を伸ばし、シーラは真っ直ぐに婚約者だった人を見つめる。
「シーラ、どうしたんだ? 俺は何があっても君の味方だ。皇竜に誓うよ」
いつもの調子で微笑むライオットは、シーラが体験した事を告げても同じように笑うかもしれない。
だが、この世界で味方を作り行動しなければ、ライオットもルドガーも救う事ができない。
「私は時を超えてこの世界にやって来ました」
意を決して告げれば、ライオットは予想通りポカンとした顔で固まってしまった。
「え……と、それは……」
やがて紡がれた言葉も、当惑しきったもの。
明らかにうろたえた様子のライオットは、オロオロと両手を空中に彷徨わせる。
気持ちとしては抱き締めたいのだが、普段のシーラの態度を思えば後で何を言われるか分からない。
やがてシーラの小さな嗚咽が聞こえ始め、ライオットもこれが真面目なシーンなのだと理解した。
「怖い夢でもみたのか?」
労る声がし、優しい手があやすようにポンポンと背中を撫でてくれる。
「そうですね……。とても悪い夢をみた……のだと思います」
ズッと洟を啜り、シーラは不器用に笑う。
女性を泣かせてしまったのが気まずかったのか、ライオットは自分とシーラの間に竜のぬいぐるみを挟んできた。
それはずっと前、二人が子供の頃に竜聖祭でライオットが射的で得た物だった。
シーラが気に入ったぬいぐるみを、ライオットは何度も挑戦してやっと手に入れてくれた。
シーラは思い出の品と、ずっと寝所で一緒に眠っていたのだ。
「本当に、生きているのですね」
「ああ、ピンピンしているよ?」
目に残っていた涙を拭い、シーラは再び確認する。
ライオットの言葉を確認し、彼女はこれから自分がなすべき事を考えた。
「……まずは着替えます。客間で待っていてくれますか?」
「ああ、分かった。君の侍女を呼んでくる」
いつも通り黒い装束を纏ったライオットは、スッと立ち上がり部屋の外に消えていった。
すぐにシーラの侍女が寝室に入り、主の具合を気にしてくる。
「姫様。行方不明になられたかと思えば、ライオット殿下が皇竜の神殿で見つけられたとの事。抱きかかえらて戻られたので、大変驚きました」
侍女の手を借りてネグリジェを脱ぎ、いつもの白い巫女服を着る。
シルクのシュミーズを着た上に麻の巫女服を被り、腰に細い革紐のベルトを巻くと気持ちがシャンとした。
いつもの革サンダルに足を通し、鏡台の椅子に座る。
「皇竜の神殿……。そうなのね」
自分が時を超えたという認識はあまりなく、ヴァウファールの背に乗り天空高く飛んだ記憶も今では夢のようだ。
ヴァウファールの背に乗り時空の門を越えたところまでは覚えているが、そこから先はどうなったのか覚えていなかった。
どうやら自分は山の高い場所にある皇竜の神殿に倒れていたようで、それを城の者と一緒に捜索していたライオットが見つけてくれたそうだ。
侍女はシーラの髪を丁寧に櫛で梳き、寝乱れた箇所をすっかり真っ直ぐにしてくれる。
「ありがとう」
続き間になっている客間にライオットがいるはずなので、シーラはそちらに急いだ。
時刻を確認すると、もう夕方が迫っている空色になっていた。
「お待たせしました」
「先に頂いているよ」
客間ではライオットがソファに座り、のんびりと紅茶を飲んでいた。
その向かいにシーラが座ると、侍女が彼女の分の紅茶を淹れ静かに下がってゆく。
「具合はいいのか?」
「ええ。ライオットが見つけてくれたようですね。ありがとうございます」
「どうしてあんな場所にいたんだ?」
ライオットが疑問に思うのも当たり前で、皇竜の神殿はカリューシアの城がある山の八合目ほどにある。
カリューシアの城自体が山にあり、斜面にある街並みと比べ標高は高い。
だが皇竜の神殿はそれよりも高い場所にあり、よほどの事がなければ登らない。
竜官と呼ばれる神殿の一部の神官のみが、毎日皇竜の神殿まで登って掃除をし、花や果物を捧げている。
王家の者であればいつ入ってもいい事になっているが、それでもまず普段は用がない。
「どうして……。ええ、そうですね。あなたにはちゃんとお話しする必要があると思います」
シーラは紅茶を一口飲み、居住まいを正す。
「ライオット。これから私が何を言っても、信じてくれますか?」
背筋を伸ばし、シーラは真っ直ぐに婚約者だった人を見つめる。
「シーラ、どうしたんだ? 俺は何があっても君の味方だ。皇竜に誓うよ」
いつもの調子で微笑むライオットは、シーラが体験した事を告げても同じように笑うかもしれない。
だが、この世界で味方を作り行動しなければ、ライオットもルドガーも救う事ができない。
「私は時を超えてこの世界にやって来ました」
意を決して告げれば、ライオットは予想通りポカンとした顔で固まってしまった。
「え……と、それは……」
やがて紡がれた言葉も、当惑しきったもの。
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