58 / 60
時空の果てで、幸せを掴む
しおりを挟む
「ダルメア? あいつなら十年前に失脚しただろう。裏で色々汚い事をしていたから、父上が追い出した」
「父上……? レイリー陛下はご存命なのですか?」
シーラの言葉に、とうとうライオットとルドガーが顔を見合わせた。
「シーラ、どこか頭を打ったか? 勝手にルドの父君を殺すなよ? あの方はそうそう簡単に死ぬタマではないだろう」
「あ……っ」
別の世界で死ぬ気で解決しようとしていた運命の歪みが、すべて正されているのだ。
ここは誰も死なず、呪いなど発動していない平和な世界――。
「――――っ」
耐えきれずシーラの目から涙が零れ、華奢な肩が震える。
「どっ、どうした!?」
「シーラ、腹でも痛いか!?」
ギョッとして慌てる二人がシーラを覗き込み、代わる代わる彼女の頭や肩を撫でてきた。
「……っ、わ、私……っ、旅をしてきたのですっ」
しゃくりあげるシーラの言葉を、二人は不思議そうにしながらもちゃんと聞いてくれる。
「旅の道中ではっ、たくさん辛い事があって……っ、私はそれを何とかしようと必死でした……っ。でも、ライオットやルドガー、周りの人々が協力してくださって、解決できたのです……っ」
「うん、そうか」
「役に立てたのなら、何よりだ」
シーラを撫でる手は、労りと愛に満ちて優しい。
きっと二人はシーラが夢の内容を話していると思っているのだろうが、それでも変わらない二人の優しさが嬉しかった。
「今は……っ、全部夢みたいで……っ。でも、確かにそこにあった現実だったのですっ。目の前にはこうして平和な世界があるけれど、私はちゃんと別の世界を知っています……っ。けれど、そこでの苦労は無駄ではなかったのです……っ」
涙で濡れた顔で不器用に笑ってみせると、目の前には愛しい二人が微笑んでくれている。
「シーラがいつも頑張っているのは、俺たち知っているよ。君はいつも気高い王女であり、巫女であり、カリューシアの竜姫だ」
「君の冒険の中で私たちが助けていたように、これからも君の傍らに私たちを置いてくれ。君の盾となり、つるぎとなり、一生添い遂げ守ろう」
二人はシーラの手を取り、そっと手の甲に口づけた。
泣き濡れたシーラが「顔を隠せない」と文句を言っても、二人はクスクスと笑っていつまでもシーラを愛でていた。
**
聞けば、この世界では五年前からライオットとルドガーが、三人で結婚できるために駆け回っていたらしい。
それぞれの国の議会で、同じだけ愛する事ができるのなら三人の婚姻を認めるという法案を通すため、昼も夜も説得するために策を練っていたようだ。
シーラもまたカリューシアで同じ事をしていたそうなのだが、それはこの世界のシーラが歩んできた道だ。
彼女が覚えている、どちらつかずのままライオットと結婚する事に頷き、セプテアに攻め込まれて……という歴史はなくなってしまった。
一つの世界――歴史を『なかった事』にしてしまったのは恐ろしい。
しかしシーラが戻って来た世界では、誰一人として死んでいないのだ。
自分が恐ろしい事をしてしまったとしても、失われた命を取り戻し、平和な世界を取り戻せたのは嬉しい。
あれほど辛い思いをした経験は、無駄ではなかったのだ。
そして今、シーラは何もかもが自分の好みであるドレスに身を包んで、二人の夫が待つ祭壇に向かっていた。
場所はカリューシアの大聖堂。
花婿どちらかの国で結婚式を行えば不平等となるので、花嫁の故郷で式が行われる事となったのだ。
長いプラチナブロンドヘアは白い花を編み込み、一本の三つ編みになっている。
背中を大胆に出したドレスは、フリルなどあまりつかずシンプルだが、トレーンを長く引きずり上品だ。
手には白百合のブーケ。頭にはダイヤモンドが嵌まったティアラに、やはり長いヴェール。
参列者が思わずほうっと溜め息をつく美貌の花嫁が、父イグニスにエスコートされしずしずとヴァージンロードを進んでいた。
この場はもうあの惨劇の結婚式ではない。すべての望みが叶った、誰もが幸せになれる結婚式だ。
そう思うだけで、今からシーラは泣いてしまいそうだ。
「父上……? レイリー陛下はご存命なのですか?」
シーラの言葉に、とうとうライオットとルドガーが顔を見合わせた。
「シーラ、どこか頭を打ったか? 勝手にルドの父君を殺すなよ? あの方はそうそう簡単に死ぬタマではないだろう」
「あ……っ」
別の世界で死ぬ気で解決しようとしていた運命の歪みが、すべて正されているのだ。
ここは誰も死なず、呪いなど発動していない平和な世界――。
「――――っ」
耐えきれずシーラの目から涙が零れ、華奢な肩が震える。
「どっ、どうした!?」
「シーラ、腹でも痛いか!?」
ギョッとして慌てる二人がシーラを覗き込み、代わる代わる彼女の頭や肩を撫でてきた。
「……っ、わ、私……っ、旅をしてきたのですっ」
しゃくりあげるシーラの言葉を、二人は不思議そうにしながらもちゃんと聞いてくれる。
「旅の道中ではっ、たくさん辛い事があって……っ、私はそれを何とかしようと必死でした……っ。でも、ライオットやルドガー、周りの人々が協力してくださって、解決できたのです……っ」
「うん、そうか」
「役に立てたのなら、何よりだ」
シーラを撫でる手は、労りと愛に満ちて優しい。
きっと二人はシーラが夢の内容を話していると思っているのだろうが、それでも変わらない二人の優しさが嬉しかった。
「今は……っ、全部夢みたいで……っ。でも、確かにそこにあった現実だったのですっ。目の前にはこうして平和な世界があるけれど、私はちゃんと別の世界を知っています……っ。けれど、そこでの苦労は無駄ではなかったのです……っ」
涙で濡れた顔で不器用に笑ってみせると、目の前には愛しい二人が微笑んでくれている。
「シーラがいつも頑張っているのは、俺たち知っているよ。君はいつも気高い王女であり、巫女であり、カリューシアの竜姫だ」
「君の冒険の中で私たちが助けていたように、これからも君の傍らに私たちを置いてくれ。君の盾となり、つるぎとなり、一生添い遂げ守ろう」
二人はシーラの手を取り、そっと手の甲に口づけた。
泣き濡れたシーラが「顔を隠せない」と文句を言っても、二人はクスクスと笑っていつまでもシーラを愛でていた。
**
聞けば、この世界では五年前からライオットとルドガーが、三人で結婚できるために駆け回っていたらしい。
それぞれの国の議会で、同じだけ愛する事ができるのなら三人の婚姻を認めるという法案を通すため、昼も夜も説得するために策を練っていたようだ。
シーラもまたカリューシアで同じ事をしていたそうなのだが、それはこの世界のシーラが歩んできた道だ。
彼女が覚えている、どちらつかずのままライオットと結婚する事に頷き、セプテアに攻め込まれて……という歴史はなくなってしまった。
一つの世界――歴史を『なかった事』にしてしまったのは恐ろしい。
しかしシーラが戻って来た世界では、誰一人として死んでいないのだ。
自分が恐ろしい事をしてしまったとしても、失われた命を取り戻し、平和な世界を取り戻せたのは嬉しい。
あれほど辛い思いをした経験は、無駄ではなかったのだ。
そして今、シーラは何もかもが自分の好みであるドレスに身を包んで、二人の夫が待つ祭壇に向かっていた。
場所はカリューシアの大聖堂。
花婿どちらかの国で結婚式を行えば不平等となるので、花嫁の故郷で式が行われる事となったのだ。
長いプラチナブロンドヘアは白い花を編み込み、一本の三つ編みになっている。
背中を大胆に出したドレスは、フリルなどあまりつかずシンプルだが、トレーンを長く引きずり上品だ。
手には白百合のブーケ。頭にはダイヤモンドが嵌まったティアラに、やはり長いヴェール。
参列者が思わずほうっと溜め息をつく美貌の花嫁が、父イグニスにエスコートされしずしずとヴァージンロードを進んでいた。
この場はもうあの惨劇の結婚式ではない。すべての望みが叶った、誰もが幸せになれる結婚式だ。
そう思うだけで、今からシーラは泣いてしまいそうだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
reva
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる