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時空の果てで、幸せを掴む
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「ダルメア? あいつなら十年前に失脚しただろう。裏で色々汚い事をしていたから、父上が追い出した」
「父上……? レイリー陛下はご存命なのですか?」
シーラの言葉に、とうとうライオットとルドガーが顔を見合わせた。
「シーラ、どこか頭を打ったか? 勝手にルドの父君を殺すなよ? あの方はそうそう簡単に死ぬタマではないだろう」
「あ……っ」
別の世界で死ぬ気で解決しようとしていた運命の歪みが、すべて正されているのだ。
ここは誰も死なず、呪いなど発動していない平和な世界――。
「――――っ」
耐えきれずシーラの目から涙が零れ、華奢な肩が震える。
「どっ、どうした!?」
「シーラ、腹でも痛いか!?」
ギョッとして慌てる二人がシーラを覗き込み、代わる代わる彼女の頭や肩を撫でてきた。
「……っ、わ、私……っ、旅をしてきたのですっ」
しゃくりあげるシーラの言葉を、二人は不思議そうにしながらもちゃんと聞いてくれる。
「旅の道中ではっ、たくさん辛い事があって……っ、私はそれを何とかしようと必死でした……っ。でも、ライオットやルドガー、周りの人々が協力してくださって、解決できたのです……っ」
「うん、そうか」
「役に立てたのなら、何よりだ」
シーラを撫でる手は、労りと愛に満ちて優しい。
きっと二人はシーラが夢の内容を話していると思っているのだろうが、それでも変わらない二人の優しさが嬉しかった。
「今は……っ、全部夢みたいで……っ。でも、確かにそこにあった現実だったのですっ。目の前にはこうして平和な世界があるけれど、私はちゃんと別の世界を知っています……っ。けれど、そこでの苦労は無駄ではなかったのです……っ」
涙で濡れた顔で不器用に笑ってみせると、目の前には愛しい二人が微笑んでくれている。
「シーラがいつも頑張っているのは、俺たち知っているよ。君はいつも気高い王女であり、巫女であり、カリューシアの竜姫だ」
「君の冒険の中で私たちが助けていたように、これからも君の傍らに私たちを置いてくれ。君の盾となり、つるぎとなり、一生添い遂げ守ろう」
二人はシーラの手を取り、そっと手の甲に口づけた。
泣き濡れたシーラが「顔を隠せない」と文句を言っても、二人はクスクスと笑っていつまでもシーラを愛でていた。
**
聞けば、この世界では五年前からライオットとルドガーが、三人で結婚できるために駆け回っていたらしい。
それぞれの国の議会で、同じだけ愛する事ができるのなら三人の婚姻を認めるという法案を通すため、昼も夜も説得するために策を練っていたようだ。
シーラもまたカリューシアで同じ事をしていたそうなのだが、それはこの世界のシーラが歩んできた道だ。
彼女が覚えている、どちらつかずのままライオットと結婚する事に頷き、セプテアに攻め込まれて……という歴史はなくなってしまった。
一つの世界――歴史を『なかった事』にしてしまったのは恐ろしい。
しかしシーラが戻って来た世界では、誰一人として死んでいないのだ。
自分が恐ろしい事をしてしまったとしても、失われた命を取り戻し、平和な世界を取り戻せたのは嬉しい。
あれほど辛い思いをした経験は、無駄ではなかったのだ。
そして今、シーラは何もかもが自分の好みであるドレスに身を包んで、二人の夫が待つ祭壇に向かっていた。
場所はカリューシアの大聖堂。
花婿どちらかの国で結婚式を行えば不平等となるので、花嫁の故郷で式が行われる事となったのだ。
長いプラチナブロンドヘアは白い花を編み込み、一本の三つ編みになっている。
背中を大胆に出したドレスは、フリルなどあまりつかずシンプルだが、トレーンを長く引きずり上品だ。
手には白百合のブーケ。頭にはダイヤモンドが嵌まったティアラに、やはり長いヴェール。
参列者が思わずほうっと溜め息をつく美貌の花嫁が、父イグニスにエスコートされしずしずとヴァージンロードを進んでいた。
この場はもうあの惨劇の結婚式ではない。すべての望みが叶った、誰もが幸せになれる結婚式だ。
そう思うだけで、今からシーラは泣いてしまいそうだ。
「父上……? レイリー陛下はご存命なのですか?」
シーラの言葉に、とうとうライオットとルドガーが顔を見合わせた。
「シーラ、どこか頭を打ったか? 勝手にルドの父君を殺すなよ? あの方はそうそう簡単に死ぬタマではないだろう」
「あ……っ」
別の世界で死ぬ気で解決しようとしていた運命の歪みが、すべて正されているのだ。
ここは誰も死なず、呪いなど発動していない平和な世界――。
「――――っ」
耐えきれずシーラの目から涙が零れ、華奢な肩が震える。
「どっ、どうした!?」
「シーラ、腹でも痛いか!?」
ギョッとして慌てる二人がシーラを覗き込み、代わる代わる彼女の頭や肩を撫でてきた。
「……っ、わ、私……っ、旅をしてきたのですっ」
しゃくりあげるシーラの言葉を、二人は不思議そうにしながらもちゃんと聞いてくれる。
「旅の道中ではっ、たくさん辛い事があって……っ、私はそれを何とかしようと必死でした……っ。でも、ライオットやルドガー、周りの人々が協力してくださって、解決できたのです……っ」
「うん、そうか」
「役に立てたのなら、何よりだ」
シーラを撫でる手は、労りと愛に満ちて優しい。
きっと二人はシーラが夢の内容を話していると思っているのだろうが、それでも変わらない二人の優しさが嬉しかった。
「今は……っ、全部夢みたいで……っ。でも、確かにそこにあった現実だったのですっ。目の前にはこうして平和な世界があるけれど、私はちゃんと別の世界を知っています……っ。けれど、そこでの苦労は無駄ではなかったのです……っ」
涙で濡れた顔で不器用に笑ってみせると、目の前には愛しい二人が微笑んでくれている。
「シーラがいつも頑張っているのは、俺たち知っているよ。君はいつも気高い王女であり、巫女であり、カリューシアの竜姫だ」
「君の冒険の中で私たちが助けていたように、これからも君の傍らに私たちを置いてくれ。君の盾となり、つるぎとなり、一生添い遂げ守ろう」
二人はシーラの手を取り、そっと手の甲に口づけた。
泣き濡れたシーラが「顔を隠せない」と文句を言っても、二人はクスクスと笑っていつまでもシーラを愛でていた。
**
聞けば、この世界では五年前からライオットとルドガーが、三人で結婚できるために駆け回っていたらしい。
それぞれの国の議会で、同じだけ愛する事ができるのなら三人の婚姻を認めるという法案を通すため、昼も夜も説得するために策を練っていたようだ。
シーラもまたカリューシアで同じ事をしていたそうなのだが、それはこの世界のシーラが歩んできた道だ。
彼女が覚えている、どちらつかずのままライオットと結婚する事に頷き、セプテアに攻め込まれて……という歴史はなくなってしまった。
一つの世界――歴史を『なかった事』にしてしまったのは恐ろしい。
しかしシーラが戻って来た世界では、誰一人として死んでいないのだ。
自分が恐ろしい事をしてしまったとしても、失われた命を取り戻し、平和な世界を取り戻せたのは嬉しい。
あれほど辛い思いをした経験は、無駄ではなかったのだ。
そして今、シーラは何もかもが自分の好みであるドレスに身を包んで、二人の夫が待つ祭壇に向かっていた。
場所はカリューシアの大聖堂。
花婿どちらかの国で結婚式を行えば不平等となるので、花嫁の故郷で式が行われる事となったのだ。
長いプラチナブロンドヘアは白い花を編み込み、一本の三つ編みになっている。
背中を大胆に出したドレスは、フリルなどあまりつかずシンプルだが、トレーンを長く引きずり上品だ。
手には白百合のブーケ。頭にはダイヤモンドが嵌まったティアラに、やはり長いヴェール。
参列者が思わずほうっと溜め息をつく美貌の花嫁が、父イグニスにエスコートされしずしずとヴァージンロードを進んでいた。
この場はもうあの惨劇の結婚式ではない。すべての望みが叶った、誰もが幸せになれる結婚式だ。
そう思うだけで、今からシーラは泣いてしまいそうだ。
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