【R-18】魔王の生贄に選ばれましたが、思いのほか溺愛されました

臣桜

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私は悪い子でした

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 それを必死になって抑え、同じようにひどく震える手をギュッと握る。

「大丈夫です! 魔王なんて私が倒してきます! シスターはみんなを守って待っ……」

 私の言葉は、最後まで紡がれることができなかった。

 シスターサマンサに強く抱きしめられ、鼻孔には幼い頃からなじんだ彼女の匂いがする。

「ごめんね……。ごめんなさいね、アメリア。私たちを許して。シスタージェシカの時も、私はこうやって大事な子をさし出すことしかできなかった罪深い人間です。村人、子供たちの安全を考え、大勢と一人とを秤にかけて――大勢を選んでしまいました」

 苦悩に満ちた声は涙に震え、私を抱きしめる体もひどく震えていた。

 思わず私も涙ぐんでしまい、シスターサマンサを力の限り抱きしめ返した。

「私がこうなるのは……、きっと神のおぼしめしなんです。私は悪い子でした。悪戯もたくさんしましたし、シスターがご存知のように村の子たちとたくさんケンカをしてきました。両親がいて愛されているのに文句を言うあの子たちがうらやましくて、憎たらしくて、我慢ならなくて暴力を振るいました。何度お説教をされても、その嫉妬する醜い心は消すことができなかったんです。――だから、これはその報いなのかもしれません」

 それは、私が十八年間ひた隠しにしていた本音だった。

 孤児院の子とも村の子とも仲良くできていたけれど、両親がいるくせに不平を言う彼らを許せなかった。

 または、「親がうるさい」と言って、「お前らは親がいなくていいよな」と、こちらのことなど考えない発言をする彼らを、許せなかった。

 逆立ちしたって、それだけは許すことができなかったのだ。

「隣人を愛しなさい」、「罪を許しなさい」とシスターたちは言う。でも私は聖人でもなんでもない。神さまは信じていても、ただの人間。

 だから私は傷ついた心をずっと抱え、心ない言葉をいう彼らを許せないでいた。

 何度も何度もこっそり一人で懺悔しても、この心の闇だけは晴らすことはできなかった。

 だからきっと――、神様が罰をお下しになられたのだ。

「いいですか? アメリア。人はみな神の子です。迷える子羊なのです。あなたがそう迷ってしまうのも仕方がないことだと思っています。神さまは人に試練をお与えになられて、その試練をのり越えて人は成長してゆきます。……ですが、それと今回の魔王の生贄とは話が違います。あなたには何の非もありません。それだけはしっかり覚えていて」

 シスターサマンサは茶色い目でじっと私を見つめ、その言葉に私が頷くと、「祝福を」と額にキスをしてくれた。

「シスター! あぁ、いた。良かった。魔王の使いがアメリアを探しています!」

 そこに松明を持った村人が現れ、私たちに声をかける。

 しわが刻まれた奥の目に涙を溜めるシスターに、私はまた頷いて笑ってみせた。

「……行ってきます、シスターサマンサ。今まで私に惜しみない愛情を注いでくれて、どうもありがとうございました」

 うまく笑えたかな。

 今までたくさん迷惑をかけたのに、今さら心配事を増やしたくない。

 最後だから、強くそう思う。

 村人に付きそわれて広場のほうへ行くと、見たことのない真っ黒な馬車があり、その前に浅黒い肌に白い髪。頭に角を生やした赤い目の悪魔が立っていた。

 服装だけ見ればどこかの貴族の執事のようにも見える。

 けれど血のような赤い目がじっと私を見ているなかに何の感情もないのを見て、彼が人の血が通っていない悪魔なのだと思った。

 村人たちはその馬車と悪魔から距離を取って、私が来るのをずっと待っていたようだ。

「あぁ、アメリア……。ごめんなさいね」

 いつも野菜を分けてくれる奥さんが、エプロンで涙を拭った。

「孤児院のことは俺たちに任せてくれ。必ず守ってみせる」

 卵を分けてくれるおじさんも、目の端を光らせていた。

「ごめんな……。……ごめんな」

 私を守ると言ってくれていた男の子たちは、隅の方に固まっていた。

 いいよ。怖いんだものね。私も怖いもの。仕方がないわ。

 そう思って私は精一杯の笑顔を浮かべて彼らに頭を下げ、大きな声であいさつをした。

「今までどうもありがとうございました!」

 それを皮切りに女性たちがさめざめと泣き出し、男性たちは私から目をそらした。

 最後まで私の手を握っていたシスターの手をそっと振りほどき、私はできるだけ背筋をシャンとさせて悪魔に目を合わせる。

「生贄に選ばれたアメリアです。どうぞ、私を連れて行ってください」

「……承知いたしました。参りましょう」

 煮えたぎるマグマのような印象とは裏腹に、クールそうな声で悪魔は応えて馬車のドアを開けた。開かれた側の車輪の炎は消え、一歩近づいてみても熱さは感じない。

「お手を」

 馬車の踏み台に足をかけようとすると、悪魔がそう言って褐色の手を差し出してきた。

 爪が黒くなっているその手を一瞬「怖い」と思って見てから、私は震える手を重ねる。

 思ったよりも人の手そのもの……という感触に意外さを感じつつ、踏み台に乗って馬車のステップを上がると、背後の泣き声がいっそう大きくなった。
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