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魔王の城へ到着しました
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……はぁ、どうしよう。また怖くなってきたわ。
けれど、思ったよりもこの馬車の御者をしている悪魔は大人しい人(?)だった。
悪魔っていうのは荒々しくて、見るものすべてを破壊するような存在なのだと思っていた。
だからもしかしたら魔王という存在も、私が想像している恐ろしい存在とは違う……かも、しれない。
「そうだったらいいな。……優しい魔王だなんていないだろうけれど、せめて話が通じる相手であることを祈るだけだわ」
憂鬱につぶやく私をよそに、馬車はゆるい弧をえがいて城に向かって下降していった。
**
「到着いたしました。どうぞ、お手を」
馬車が着地した場所は、空の高い場所に浮いている城の外側部分らしく、馬車から下りると強い風が吹いている。
「馬車の旅はご不便ありませんでしたか?」
なんの抑揚も見せない声でたずねてくる悪魔は、得体が知れなくてあいかわらず恐ろしい。けれど、彼のもの言いや態度は丁寧だと思う。
だから、私も相応の言葉を返すことにした。
「どうもありがとうございます。空を飛ぶのは……その、初めてだったのでとても興味深かったです。えぇと……悪魔さん」
「私の名前はイグニスと申します。火を司る悪魔であり、魔王さまの執事を勤めております」
「あ……、あぁ、イグニス……さん。ご、ご丁寧なご挨拶をありがとうございます」
悪魔にも名前があるんだ。と思ってポカンとしていると、イグニスさんは先を歩き出した。
「どうぞ、ついていらして下さい。魔王さまのもとへご案内いたします」
イグニスさんは角や、目や髪の色の問題さえなければ、三十代前半ぐらいの格好いい男の人に思える。
でもどう見ても、オールバックにした額のあたりから生えている黒い角は……悪魔よね。
ここで逃げようにも、空に浮いている城から飛び降りるわけにいかない。
それは、一番最後の手段にしないと。自殺は一番罪深いことだわ。
先を歩くイグニスさんの燕尾服のジャケットからは、ヒョロッと悪魔のしっぽが覗いていてなんだかふしぎ。
馬車が置いてある場所から少し歩くと扉があり、イグニスさんが近づくと扉は触れてもいないのに自動的に開いた。
「わぁ……」
その奥に広がっていた光景に、私は思わず吐息をもらしていた。
思っていたような、おどろおどろしい悪魔の城なんかじゃない。
温かいランプの光が等間隔にあって、奥まで延々と続いている廊下の左右には、大きな街の聖堂にあるような綺麗な絵画が飾られてあった。
風景のものだったり、人物――悪魔、天使、人間と多岐にわたる絵画は、絵心のない私にもすばらしいものだと分かる。
飾られているのは絵画だけではない。
ポイントになるように甲冑があったり、ローチェストの上に花瓶や調度品、磨き上げられた美しい鏡など、とにかくありとあらゆる美術品がある。
私が歩いている廊下もむき出しの床ではなく赤いじゅうたんが延々と続いていて、粗末な靴を履いた私が踏むのが申し訳なくなるぐらいフカフカだ。
けれど、それらに気を取られていたのも最初のうちだった。
「あの……イグニスさん。私やっぱり食べられてしまうのでしょうか?」
やはり一番に恐れているのはそのことだ。
私の問いにイグニスさんはチラリと振り向き、それからまた真っすぐ前を向いてしまう。
「あなたはどう思われていますか? 悪魔の頂点にいらっしゃる魔王という存在が、人間をどうするとお思いですか?」
「それは……やっぱり……」
「残酷な方法で食べてしまうのでしょう?」と言いかけて、悪魔であるこの人を前にそう言ってしまうのがとても失礼な気がし、私は黙ってしまった。
一歩一歩を進む脚は震えていて、私の手もブルブル震えている。冷や汗が止まらないし、何度も何度も生唾を飲みこんでいる。
こんなに怖いのは、待ち受けているものがとても怖いと思っているから。
だって悪魔は私が信じている神さまの敵で、その頂点に立つ存在だったらとっても悪いに決まってる。
醜い顔をしていて、角が生えていて悪魔の羽があって、しっぽがあって。
口から火を吐くかもしれないし、呼吸一つで人を殺してしまうかもしれない。もしかしたら、にらまれただけで気がおかしくなってしまうかもしれない。
グルグルと、そういう妄想が私を支配している。
けれどその言葉の数々を、私に対して礼節をわきまえた態度で接してくれるイグニスさんに言うのはまちがっていると思った。
けれど、思ったよりもこの馬車の御者をしている悪魔は大人しい人(?)だった。
悪魔っていうのは荒々しくて、見るものすべてを破壊するような存在なのだと思っていた。
だからもしかしたら魔王という存在も、私が想像している恐ろしい存在とは違う……かも、しれない。
「そうだったらいいな。……優しい魔王だなんていないだろうけれど、せめて話が通じる相手であることを祈るだけだわ」
憂鬱につぶやく私をよそに、馬車はゆるい弧をえがいて城に向かって下降していった。
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「到着いたしました。どうぞ、お手を」
馬車が着地した場所は、空の高い場所に浮いている城の外側部分らしく、馬車から下りると強い風が吹いている。
「馬車の旅はご不便ありませんでしたか?」
なんの抑揚も見せない声でたずねてくる悪魔は、得体が知れなくてあいかわらず恐ろしい。けれど、彼のもの言いや態度は丁寧だと思う。
だから、私も相応の言葉を返すことにした。
「どうもありがとうございます。空を飛ぶのは……その、初めてだったのでとても興味深かったです。えぇと……悪魔さん」
「私の名前はイグニスと申します。火を司る悪魔であり、魔王さまの執事を勤めております」
「あ……、あぁ、イグニス……さん。ご、ご丁寧なご挨拶をありがとうございます」
悪魔にも名前があるんだ。と思ってポカンとしていると、イグニスさんは先を歩き出した。
「どうぞ、ついていらして下さい。魔王さまのもとへご案内いたします」
イグニスさんは角や、目や髪の色の問題さえなければ、三十代前半ぐらいの格好いい男の人に思える。
でもどう見ても、オールバックにした額のあたりから生えている黒い角は……悪魔よね。
ここで逃げようにも、空に浮いている城から飛び降りるわけにいかない。
それは、一番最後の手段にしないと。自殺は一番罪深いことだわ。
先を歩くイグニスさんの燕尾服のジャケットからは、ヒョロッと悪魔のしっぽが覗いていてなんだかふしぎ。
馬車が置いてある場所から少し歩くと扉があり、イグニスさんが近づくと扉は触れてもいないのに自動的に開いた。
「わぁ……」
その奥に広がっていた光景に、私は思わず吐息をもらしていた。
思っていたような、おどろおどろしい悪魔の城なんかじゃない。
温かいランプの光が等間隔にあって、奥まで延々と続いている廊下の左右には、大きな街の聖堂にあるような綺麗な絵画が飾られてあった。
風景のものだったり、人物――悪魔、天使、人間と多岐にわたる絵画は、絵心のない私にもすばらしいものだと分かる。
飾られているのは絵画だけではない。
ポイントになるように甲冑があったり、ローチェストの上に花瓶や調度品、磨き上げられた美しい鏡など、とにかくありとあらゆる美術品がある。
私が歩いている廊下もむき出しの床ではなく赤いじゅうたんが延々と続いていて、粗末な靴を履いた私が踏むのが申し訳なくなるぐらいフカフカだ。
けれど、それらに気を取られていたのも最初のうちだった。
「あの……イグニスさん。私やっぱり食べられてしまうのでしょうか?」
やはり一番に恐れているのはそのことだ。
私の問いにイグニスさんはチラリと振り向き、それからまた真っすぐ前を向いてしまう。
「あなたはどう思われていますか? 悪魔の頂点にいらっしゃる魔王という存在が、人間をどうするとお思いですか?」
「それは……やっぱり……」
「残酷な方法で食べてしまうのでしょう?」と言いかけて、悪魔であるこの人を前にそう言ってしまうのがとても失礼な気がし、私は黙ってしまった。
一歩一歩を進む脚は震えていて、私の手もブルブル震えている。冷や汗が止まらないし、何度も何度も生唾を飲みこんでいる。
こんなに怖いのは、待ち受けているものがとても怖いと思っているから。
だって悪魔は私が信じている神さまの敵で、その頂点に立つ存在だったらとっても悪いに決まってる。
醜い顔をしていて、角が生えていて悪魔の羽があって、しっぽがあって。
口から火を吐くかもしれないし、呼吸一つで人を殺してしまうかもしれない。もしかしたら、にらまれただけで気がおかしくなってしまうかもしれない。
グルグルと、そういう妄想が私を支配している。
けれどその言葉の数々を、私に対して礼節をわきまえた態度で接してくれるイグニスさんに言うのはまちがっていると思った。
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