【R-18】魔王の生贄に選ばれましたが、思いのほか溺愛されました

臣桜

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想像と現実が違います!

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「俺は魔王。アメリア、だな?」

 声だって低く艶のある声で、その声で名前を呼ばれるとなんだか変な気持ちになる。

 この人は怖い魔王のはずなのに、美しいこの人が私の名前を呼ぶだけで、どうしてか自分が特別な存在のように思えてしまう。

 怖い……よりは、いまの私は魔王の美しさに惹かれて胸を高鳴らせていた。

「…………」

「返事をしないか、アメリア」

「はイッ」

 たしなめられるような声をかけられ、私はハッとして大きな声をだす。

 むりやり喉の奥から引っ張り出した声は、引っくり返っていて顔から火が出そうだった。

 嘘……、嘘でしょ……。魔王がこんなに美形ってどういうことなの……。

 自分の想像力に惨敗した気分になり、私はゆるゆると首を振ってから、顔を手で覆い深い溜息をつく。それから、自分の力で起き上がった。

「演技をして倒れるほど嫌だったというのは分かった。俺の顔を見て悲鳴をもらすほどということもな。……それはさておいて、村からの移動で喉は渇いていないか?」

「え?」

 待って、頭が追いついていきません。

 生贄に選ばれて魔王に食べられると思っていたら、その魔王は美形で私を気遣ってくれるですって?

 まるで妖精に化かされたみたい。

「お前がくると思って、いい茶葉を用意しておいた。お前の好み……だと思う茶菓子も用意しておいた。疲れているのなら、ベッドの用意も風呂もある。どうする?」

 至れり尽くせりですね。

「……あの、少し待ってください。お話を整理させてください」

 頭は相変わらず混乱したままだけれど、あまりにも現実ばなれした現場にいあわせると、人は逆に冷静になるようだった。

「あなた、魔王さまですよね?」

「ああ、そうだ。望むなら角と羽を出すが」

「それは恐怖が増すので辞退いたします。魔王さまは、私を生贄に選ばれたのですよね?」

「その通りだな。イグニスに迎えに行かせた」

 よし、話の筋はここまで通っているわね。

「私が知っている限り、生贄という言葉は供物として生きた動物や人間を捧げるもの、と認識しています。そして供物というものは、食べられるためにあるのでは……?」

「ふむ」

 私の言葉に魔王は一つ頷き、革手袋を外して手をさし出した。

「まずは立て」
「あ……、ありがとうございます」

 この人の爪も黒いんだ。大きな手。村のおじさんたちの手とは違って、指の一本一本がスラッと長くて格好いい。

 その手に掴まって立ちあがると、やっぱり彼も普通の人間と同じような手の感触がした。

 二人とも立つ姿勢になり、そこで初めて私は魔王が黒い軍服に身を包んでいるのに気づいた。

「どうして軍服なんです? 漆黒のマントとか……呪いの鎧とかじゃないんですか?」

「お前はそういう物を身につけたいと思うか?」

「……いいえ」

「だろう。そういうことだ」

 そう言って魔王さまは先に歩きだし、私はチラリと入り口を振り向いてから彼のあとをついて歩きだした。背後の扉は閉まっていて、もう出られそうにない。

「俺も魔王という座については色々見解がある。それはあとで話すとして、執務をするのにマントや鎧があっては動きにくい。人間のあいだで魔王や悪魔がどういう認識で広がっているかは知らんが、あまり古典的なイメージをつけてくれるな」

「それは……そうですね……」

 確かに机で書類を書く時に甲冑姿は邪魔くさいかも。

 悪魔も魔王も、色々事情があるのね。

 魔王さまに連れられた私は、広間にある別の扉から出た。

 すぐ隣の部屋には綺麗にセットされたテーブルに、大勢でお茶会ができるほどのお茶菓子とお茶の用意がされてあった。

 すごい……!

 孤児院暮らしの私には、憧れていても食べることのできないケーキや焼き菓子、一口サイズのサンドウィッチにスコーン。ティーセットも見るからに高級そうだ。

「好きな席に座れ」

「……はい。では、失礼します」

 もしかして……、もしかしなくてもこの魔王さまは、結構話の通じる方なんじゃないかしら?

 だったら条件をつけて、ここから出してもらうことも可能なんじゃないの?

 少し迷ってから手近な席に座ると、魔王さまは優雅な手つきで私の目の前にあるティーカップに紅茶を注いでくれた。

 フワッと芳醇な香りがして、湯気をたてて揺れる琥珀色の液体はとてもおいしそうだ。

 と、村を出たのは夕食の途中だったのを思い出し、グウウ……と正直な私のお腹が鳴ってしまった。
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